第17話 借金を全額一括で返済してみた
「す、すみません! 本来なら、まだ公表しない予定のダンジョンが依頼表の中に紛れ込んでしまったようで……いくら謝っても謝りきれません。この度は本当に申し訳ございませんでした!」
冒険者ギルドに帰ると、ギルドのお偉いさんが出てきて、俺たちに何度もペコペコと頭を下げてきた。
どうやら、F級だと思っていたダンジョンは、本来ならランク未定。それが手違いによって、依頼表として提出されてしまったらしい。
おかしいと思ったんだよな……だって雑魚のモブ魔物とはいえ、推奨レベル30のジャイアントワームが出てくるんだぜ?
ギルドを出発する前、エルザが言った懸念は、図らずとも当たっていたわけだ。
「気をつけなさい。私たちじゃなかったら、もっと大変なことになってたわ。死者が出ていたのかもしれないのよ?」
「返す言葉もなく……っ! すみません!」
ギルドのお偉いさんは、しきりに謝罪の言葉を口にしていた。
うんうん、分かるよ。エルザに睨まれてるんだもんな。
美しい顔も相まって、彼女に睨まれると体が強張るんだよ。俺も転生した最初は、ビビリっぱなしだった。
ちょっと、目の前の男に同情してしまった。
「……なにかしら、マリウス。さっきから、私の顔をじーっと見てるけど。文句ある?」
「い、いえいえ、滅相もございませんっ!」
なんにせよ、冒険者ギルドのミスだったとはいえ、借金返済の大きな前進になりそうなのだ。
冒険者ギルドに借りを作れたことも考えれば、そこまで損をしてないのではないだろうか。
「まあ、そんなことより……ジャイアントワームから取れた宝玉を、さっさと換金してくれ」
「まさか、治癒ギルドのマスター様がジャイアントワームを倒すとは! 今すぐに鑑定してきます!」
エルザの視線から逃げるように、ギルドのお偉いさんが奥に引っ込んでいく。
「高い値が付くといいな」
「そうね」
そもそも、マリウスが借金を作らなければ、こんな真似をしなくてもよかったものを……。
しかしこれも考えようかもしれない。
いずれ来る、主人公(アラン)との対峙のために、俺は強くならなければならない。
いくら治癒ループで魔力量を増やそうが、戦いの経験がなければアランに遅れを取るからだ。
今回のジャイアントワーム戦だって、反省点がいくつかあった。
借金を返し終えても定期的にダンジョンに潜り、身体を鍛えるのも有りかもしれないな。
「お、お待たせしました!」
そんなことを考えていると、ギルドのお偉いさんが一枚の紙切れを持って、戻ってきた。
「金額が多くなりましたので、小切手で用意しました。小切手は、街の銀行でいつでも現物に変えられます。金額をご確認くださいませ」
「どれどれ……」
小切手に書かれている金額に目を通す。
一、十、百、千、万……。
ん?
ちょっと待て。このゼロの数はなんだ。ちょっと多すぎやしないか……。
「──って、こんな莫大な金額になるのか!?」
「ジャイアントワームは本来なら、B級ダンジョンに棲息する魔物です。その中でも、マリウス様が持ってきた宝玉は希少性が高く、必ず取れるものでもありませんでした。さらに今回は私どもの不手際でしたので、迷惑料も金額に含めています。ご、ご不満がおありでしょうか?」
震えた声で、問いかけてくる。
「い、いや……間違ってなかったらいいんだ。気にしないでくれ」
「寛大なお心、感謝致します」
小切手に記されていた金額は、借金を全額返しても、まだ余裕があるくらいだった。
これから二週間かけて、じっくり稼いでいくつもりだったのに……幸運にも、一発でケリがつきそうだ。
「よかったわね」
エルザもどこか嬉しそうだ。
「よし……! すぐに金を返しにいくぞ! こうしている間にも、利子がつく!」
そう踵を返し、俺たちは急いで冒険者ギルドを後にした。
……無事に借金を一括で返済し終わり、俺は一息吐く。
「ふう……よかった。一時はどうなることやらと思っていた」
金貸しの連中も、「まさかちゃんと返ってくると思わなかったぞ?」「せっかく、あの建物が手に入ると思っていたのに……」と驚愕していた。
「気持ちよかったわね。多分彼ら、治癒ギルドの本部建物が狙いだったのよ。そのアテが外れて、残念そうだったわ」
「まあ、元はと言えばマリウス──俺が全部悪かったんだがな」
ここまでろくに借金返済の催促がなかったのも、あわよくば期限までに返済されないことをヤツらは期待していたんだろう。
しかし残念だったな。
幸運の女神は俺に微笑んだようだ。
だが、気になることが一つある──。
「ゲーム中では主人公アランが来た時も、まだ治癒ギルドの建物は残ってたんだよな……」
ゲーム中のマリウスが律儀に自分の借金を返済したとは、到底思えない。
今回の冒険者ギルドの手違いだってそうだ。
本来なら有り得ないミスが起こった。
しかしそのミスのおかげで、俺はこうして借金を返済することが出来ている。
──本来の
俺がさっき、冒険者ギルドのお偉いさんを責める気がしなかったのも、それに由来する。
なにか大きな運命の唸りを感じるが、今の俺には判断がつかない。
「どうしたの? さっきから、ぶつぶつ呟いてるけど」
「なんでもない」
首を傾げるエルザに、俺はそう答えを返した。
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