第13話 お金がないので稼ぐことにした
「マリウスの野郎、なにしてくれやがんだああああああああ!」
治癒着ギルドの改革も、軌道に乗ってきた頃。
俺はギルドマスターの一室で、
今、俺の目の前にあるのは大量の紙束。
そこには俺が転生する前、マリウスが勝手に作った借金について記載されていた。
所謂、借用書である。
「こいつ……庶民から治療費をふんだくるだけじゃなく、こんなに大量の借金を作ってるとは……」
偽物の借用書である可能性も考えたが、わざわざマリウスがそれを作り、保管しているわけがない。
借用書に書かれている金額を合計すると、とてもじゃないが、すぐに返せる額ではなかった。
星の砂を売った利益を全て突っ込んでも、到底足りないだろう。
マリウス……ってか、元は俺がやったこととはいえ、彼の軽率な行動に頭を抱えた。
「どうしたの、マリウス? 叫び声が聞こえてきたけど……」
唖然としていると、エルザが部屋に入ってきた。
「あら、借用書じゃない。もしかして、まだ返してなかったの?」
「エルザは知ってたのか?」
「もちろん。あなたの浪費癖は有名だからね。最近はそれもなくなったし自分の借金のことを口にしないから、とっくに返してると思ってたわ」
一ミリも驚かず、エルザは溜め息を吐きながら答えた。
「なにに使ったか、知ってるか?」
「はあ? 自分のことなのに分からないの? どうせ酒とか女、ギャンブルでしょ」
大体察しはついていたが、予想通りの答えが返ってきて、俺は肩を落とす。
「これも、いい機会よ。さっさと返済しなさい。星の砂を売った額……だけでは足りないけど、一部は補填出来るでしょ?」
「うーん……ギルドのお金を使うのはな……」
この借金が治癒ギルドのために使われたのなら、それも有りだだろう。
しかしエルザの話を聞くに、この借金はマリウスは私利私欲のために作ったものである。
なのに、治癒ギルドの儲けをマリウスの借金に充てるのは、ナンセンスだ。
「でも、そろそろ返済期限もきてるんじゃない?」
「そうなんだよな……」
……具体的にいうと、返済期限は一ヶ月後に迫っている。
これを過ぎれば、強制執行となり担保を金貸業に渡さなければならない。
その担保とは……ここ治癒ギルドの本部建物。
マリウスの野郎、散々治癒ギルドを私物化していたみたいだな。分かっていたことだが、とことんクズだ。
「だが、治癒ギルドの金を使うのは最終手段だ。なんとかして、借金を返すための金を作る」
「だったら、ダンジョンに潜ってみるのはどうかしら?」
おお?
エルザの口から出た言葉に、思わず身を乗り出してしまう。
「ダンジョンは一攫千金を狙える場所だわ。冒険者ギルドを通せば、報酬金も手に入れられるかもしれない。短時間でそれだけの金額を手にするなら、これしかないと思うけど? 星の砂だって、もう在庫がないんだし」
「それだ!」
指を鳴らす。
転生してから治癒ギルドの経営にばかり頭を使っていたが、アルクエは王道RPG。
当然、魔物との戦闘もある。
主人公アランも冒険者となり、クエストをこなしながら旅を続けたんだったな。
「そうと分かれば、話が早い。ダンジョンに潜ろう。エルザ、悪いが付いてきてくれるか?」
「もちろんよ。ダンジョンなんて危険な場所、あなた一人にさせてられないわ」
おお……心の友よ!
即答してくれたエルザに感謝する。
いくら俺にゲームの知識があるとはいえ、この世界──つまり現実での戦いは初めて。
ゲーム中でも、優れたアタッカーとしてパーティーに貢献した彼女の同伴は必須である。
「となると……なにか持っていくか」
椅子から立ち上がる。
えーっと、なにか装備品装備品……まともなものがないな。しかしゲーム中のマリウスの戦闘シーンを思い出したら……。
「あった──」
ゲーム中でもマリウスが使っていた装備品。
メイスを手に取り、被っていた埃を軽く払う。
「もしかして、あなたも戦うつもりなの?」
「そのつもりだ」
「……失礼な質問かもしれないけど、戦いの経験は?」
「ない」
嘘を言ってもしょうがないので、正直に答える。
するとエルザは一際大きい溜め息を吐いた。
「呆れた……でも、当然かもしれないわね。あなたは治癒ギルドのマスター。治癒魔法は一流かもしれないけど、戦いに関しては素人なんだからね」
「それは否めない。しかし俺に考えがあるんだ。戦いに関しては、少なくとも君の足を引っ張らないと思う」
「どうだか」
半信半疑の目をして、エルザが答えた。
治癒ループや、星の砂の回復アイテム化から分かる通り、この世界は現実でありながらゲームシステムに即している部分がある。
ならば、ゲーム中で『治癒士が最強アタッカーに成り上がった』
俺はエルザと連れ立って、冒険者ギルドに向かった。
◆ ◆
「手頃なダンジョン……手頃なダンジョン……おっ」
冒険者の登録もさっと済ませ、依頼表に目を通していると、よさそうな依頼(クエスト)が見つかった。
『・新発見のダンジョンの攻略
ランク:F級
奥に潜むダンジョンボスを倒す。なお、ダンジョン内で見つけた素材については、全て冒険者のものとする』
「これなんかどうだ? 新発見のダンジョンだし、掘り出し物が見つかるかもしれない。しかもランクはF級。初のダンジョン攻略にしては、手頃だと思うが」
依頼表を手に取り、俺はエルザにそう尋ねる。
ちなみに……大まかな設定はゲーム通りなのだが、細部に至ってはそうでもない。
ゲームだと予算があるし、細かすぎるところまで作るわけにはいかないからな。そういた細部については、矛盾が起こらない程度で補完してくれている。
この新発見のダンジョンというのも、ゲームでは聞いたことがなかった気がする。ゆえに予想外のことが起こる危険があった。
とはいえ、ここ──セレスヴィルはゲーム序盤の街。安全ばかり取っても、借金を返せるだけの額は稼げないし、
だから一発逆転を狙い、かつ安全度の高いダンジョンを選んだつもりだ。
「いいと思うわ。でも……」
賛成はしてくれたものの、エルザの表情は浮かない。
「気になるわね……新発見のダンジョンといったら、内部の詳細も不明なところが多いわ。最奥にいるとされるダンジョンボスだって、もしかしたら強いかもしれない」
「まあ、そうかもな」
「だからF級っていうのは、少し不自然に感じる。果たして、なにが起こるか分からない新発見のダンジョンなのに、F級に指定されていることなんてあるのかしら?」
ここまでの事情はゲームでは説明されていなかった。
だが、エルザの言った理屈は、間違っていないように感じた。
「だったら、どうする? やめておくか?」
「……いえ、新発見のダンジョンが一攫千金を狙う者にとって、
悩むな……。
しかしちまちまやっていても、返済期限である二週間後までに、借金全額返せるとも思えない。
最初から、俺には選択肢がさほどなかったのだ。
「よし、やっぱりここにしよう。エルザにも期待してるぞ」
「ええ、任せて。あなたの判断に従う。私があなたを守ってあげるわ」
そう口にするエルザは、いつもより頼もしく見えた。
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