第12話 カルラの独白(カルラ視点)
【side カルラ】
『フハハ! これはなかなかの上玉だ! た〜っぷりと、働いて稼いでもらおうか!』
その言葉を皮切りに、わたし──カルラの破滅は始まった。
お母さんを治療するため街の治癒ギルドを訪れると、莫大な金額を要求された。
一般庶民の家で生まれたわたしには、そんな金額を払えるはずもない。
そう言うと、
その悪魔の名前はマリウス・ハーランド。
治癒ギルドのマスターではあるが、思っていたより若い。わたしと一緒くらいだろうか?
端正な顔立ちで歪んだ笑顔を浮かべているのを見ると、わたしには彼が悪魔にしか見えなかった。
彼が言うシャングリラという店が、どういうサービスを提供しているのか知っている。
男性経験がないわたしにとって、抵抗があるお店だった。
だが、お母さんを救うためには悪魔の言うことに頷くしかなく、わたしはシャングリラで働く決意をした。
──そして研修と称して、男性の嫌らしい魔の手が伸びた瞬間。
悪魔は再び、わたしの前に姿を現した。
『色々戸惑うことも多いだろう。だが、君はもうやりたくもない仕事をやる必要はないんだ』
なにを言っているんだ……? と最初は思った。
しかし
もしかして、わたしをハメようとしている……?
そう疑ったが、なんと悪魔は言葉通り、わたしのお母さんの病気を治してくれたのだ。
しかもなんの対価も望まず。
『それは有り難いんですが……無料っていうのは、申し訳ないですよ。わたし、どれだけ時間がかかっても、絶対にお支払いしますから!』
『そうか。だったら、気が向いた時にでも治癒ギルドを訪れろ。雇ってやる。こき使ってやるよ』
この時、破滅の悪魔は、わたしの王子様になった。
お母さんの容態も落ち着いて、わたしは治癒ギルドの門を叩いた。
無論、王子様に恩を返すためである。
『お願いします! わたしをここで働かせてください!』
元々、会計士を目指していたということもあり、意外とあっさり採用が決まった。
なんとか頑張らないと……と思い、不用品の売却を提案してみたが、ゴミの山から
やっぱり、わたしの王子様はすごすぎる!
マリウスさんはわたしを褒めてくれたけど、彼の力があってのことだ。
わたしはますます、マリウスさんのことを見直した。
そしてしばらく経って、治癒ギルドの仕事にも慣れてきた頃、わたしのための歓迎会が開かれた。
わたしなんかのために……と恐縮しっぱなしだったが、彼はそんなわたしを気遣うような台詞を言ってくれた。
今後もマリウスさんのお役に立てるように、頑張らないと。
再びそう気を引き締めていたが、この歓迎会でわたしはとんだ失態を犯してしまう。
『ふえぇ……マリウスさあん、今日は本当にはりあとうございまふ。い、ひぇ、今日だけやあ、ありましぇん。あの時、わたしを救ってもらってから、あたしは……』
……お酒を飲み慣れていないこともあって、しこたま酔っ払ってしまった。
マリウスさんもかっこいいし、エルザさんも美しくて優しい。
そんな二人に囲まれていると、楽しくなって……わたしは舌が回っていないことを言って、マリウスさんを困らせた。
あとから正気に戻り、今日やったことを思い出した時は顔が青ざめたものだ。
だけど、ここでも優しいマリウスさんは。
『俺は俺のやるべきことを、やっていだけだ。カルラの方こそ、よく頑張ってる。俺は頑張り屋さんな子が好きだ』
わたしにそんなことを言ってくれたのだ。
す、好き!?
わたしもマリウスさんのことが大好きになってたけど……彼は雲の上の存在で……男女の仲になれるとは、一ミリも思っていなかった。
今思えば、マリウスさんの『好き』はどう考えても、一従業員としてのもの。
あんなところで告白するわけがない、と簡単に分かるはずだった。
しかしお酒のせいで舌も頭も回っていないわたしは、焦ってこう口を動かす。
『そ、ほんなほうねつへひなことをううなんて……ああひのほうほお、マリウスひゃんが、ぬひ……』
──そんな情熱的なことを言うなんて……わたしの方こそ、マリウスさんのことが好き。
言っちゃった!?
お酒の勢いとはいえ、これは大胆すぎないか!?
しかし幸か不幸か、マリウスさんはわたしの言っていることを聞き取れなかったらしい。
告白の返事はもらえなかった。
──こんなに幸せでいいんだろうか。
わたしが歓迎会の最中、ずっと考えていたのはそのようなことだった。
一回、破滅させられたと思った。
だけど悪魔は王子様となって、わたしを救いにきてくれた。
お母さんも元気になったし、これからわたしは
『やっぱり酔ってたみたいだな。寝たか』
心地いい感覚。
意識があやふやになっていく中でも、一つだけは分かった。
──この頭に感じる温かさは。
きっと、一生の宝物になるって。
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どうやら、カルラもマリウスに惚れ……?
フラグが立ちました。
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