第8話 ギルドのマスターになったものの、経営は難しい
「治癒ギルドは改革するにあたって、まず治療費を見直すことから始めた。今まで、ぼったくり料金だったからな」
「素晴らしい行いだと思います」
「しかしそれに伴い、財政的に厳しくなっている。どうすればこれから、ギルドの財政的に潤うのか、カルラにも考えてもらいたい」
必要以上に稼ぐ必要はない。
だが、治癒ギルドに雇われ、生活の柱としている者も多くいる。
彼・彼女らを養うため、お金は必要だ。
「うーん……」
テストのつもりで聞いてみたが、今日雇われたばっかりのカルラにとっては厳しい質問だったか?
そう思ったが、意外にもカルラはすぐに提案を口にした。
「だったら、ギルド内の不要なものを売り払うのは、いかがでしょうか?」
「ほお?」
「資産として残しておくのにも場所を食いますし、税金がかかります。まずは必要なものと不要なものを分ける……これがすべきことだと思うんです」
なるほど。その手があったか。
マリウスは贅の限りを尽くしてきた、悪徳治癒ギルドのマスターだ。
もしかしたら無駄に高い絵画や壺を買って、自分の力を誇示するために使っていたのかもしれない。
「いい考えだ。早速、ギルド内のものを整理しよう。エルザ、ゲスオ」
「持ってくるわ」
「お任せください!」
二人の名を呼ぶと、エルザとゲスオはギルドの奥に消えていった。
掘り出しものが見つかるといいんだがな……。
──しかし、俺の考えは水泡に帰すことになったのだった。
「ろくなもんがねえ……」
現在、俺の前には大量のゴミ……いや、アイテムが並べられている。
だがぱっと見、高そうなものはなかった。
どうやらこのマリウス、金は酒や女、ギャンブルに使うばっかりで資産として残していけるものは購入しなかったらしい。
宵越しの金は持たねえってことなのか……ある意味では男らしいかもしれないが、今は元々の彼の性格を恨む。
「濁った玉、無色の羽根、灰色の錆びた剣、星の砂、糸解れのタペストリー、……そうですね。それも売っても、二束三文にしかならなそうです」
最初はカルラが言い出したことだ。
彼女はお役に立てないことに罪悪感を抱いているのか、見るからに肩を落としていた。
「そう簡単にはいかないってことね」
エルザも溜め息を吐く。
先ほどの様子では、カルラを責めるかと思ったが……さすがに彼女が気の毒なのだろうか。そんな真似はしなかった。
「とはいえ、持っててもしょうがない。場所を食うだけだし、どこかに売り払う──」
と言葉を続けようとした時だった。
ゲーム内の知識が、頭に思い起こされる。
「カルラ、もう一度ここに並べられているアイテムを順番に口にしてもらえるか?」
「は、はい? えーっと、濁った玉、無色の羽根に、灰色の錆びた剣。あとは『星の砂』……」
「それだ!」
俺は指を鳴らす。
「カルラ、お手柄だ。君に言われなければ、こんな
「え? え?」
カルラはどうして自分が褒められているのか分からないのか、頻りに首をひねっていた。
そうと分かれば、話が早い。
俺は小袋に入った『星の砂』をかかげ、
「これが治癒ギルドを救うアイテムとなる。これを使って、一儲けしよう」
そう言って、ニヤッと笑うのであった。
『星の砂』
ゲーム序盤の道具屋で買える、安価なアイテムだ。
星の光をたっぷり吸収した砂で、マニアたちは皆こぞって購入する……というようなことが、ゲームのフレーバーテキストに書かれていた。
普通に使っても、なんの効果も現れない。売ろうにも、買い値の半分で買い叩かれる。
プレイヤーたちは当初、星の砂はコレクションアイテムのようなもので、大した意味がないんだろうと思っていた。
しかし一人のプレイヤーが、星の砂の有効活用を発見した。
なんとこの星の砂、治癒魔法をかけることによって回復アイテムに化けるのである。
元々星の砂自体も安価だったため、ポーションなどの回復アイテムの値段を下回った。その結果、安く回復アイテムを大量にストックすることが出来た。
ゲーム終盤になり回復量が追いつかなくなるまで、この通称『星の砂錬金術』はプレイヤーたちに重宝された。
そんな大事なことを星の砂を目にするまで、忘れているなんて……俺もまだまだだな。
「おお……っ! 傷が治っていきます!」
治癒魔法をかけ星の砂を回復アイテムに変え、たまたま擦り傷を負っていたギルド職員に使ってみた。
すると俺の目論見通り、星の砂がかけられると見る見るうちに傷口が塞がっていった。
「目論見通りだな」
内心、ガッツポーズを作る。
同じ傷を治すなら、最初から治癒魔法をかければいいじゃないか……とも言われそうだが、話はそう単純ではない。
まず一つ、星の砂を作る際に使う
そして大事な二つ目、回復アイテムとして持ち運ぶことが出来るため、俺や他の治癒士がいなくても、傷を癒すことが出来る。
こういった付加価値があるため、回復アイテムは重宝されるのだ。
「さすがです! マリウスさんっ!」
カルラが飛び跳ねて、喜びを表現する。
「まさか、星の砂にこんな利用方法があったなんて! わたしでは思いつきませんでした」
「なに、俺もカルラから不用品を売却しようという話が出なければ、気付けなかった。早速、ギルドに貢献してくれたな」
……と頭を撫でようと手を出したが、すぐに引っ込めた。
恋人でもない女性の頭を撫でたら、嫌がられると思ったからだ。
「エルザもどう思う?」
「……そうね。この星の砂は、業界に革命をもたらすわ。カルラも意外と役に立つ女じゃない」
そう言って、エルザはすぐに顔を背けてしまった。
むむむ?
分かりにくいが、これってエルザなりにカルラを褒めてるってことだよな?
人を素直に褒めることに慣れていないのか。
「まあともかく、あとはこれを人々に周知していくことだが……」
ゲーム内では回復アイテムになった星の砂を売っても、元の値段にしかならなかった。
しかしこここは現実世界。
こんな回復アイテムが安く売られていれば、人々はこぞって購入するだろう。
だが、同時に問題がある。
カルラたちの反応を見るに、やはり『星の砂錬金術』は、この世界で知られていない。
果たして、「これは回復アイテムなんです!」と言って星の砂を売ろうとしても、人々は信頼してくれるだろうか?
ただでさえ治癒ギルドの評判は最低だ。
詐欺だと思われ、手に取ってくれないだろう。
「一気に評判が広がるようなことがあればいいんですが……」
カルラも困り顔だった。
じわじわと口コミが広がっていくのを待つしかない?
だが、そんな悠長な時間があるのか?
そう思った時だった。
「ここが治癒ギルドだな!?」
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