第3話 猫耳美少女ちゃんを救おう
シャングリラ。
それがゲスオの言っていた、
表向きには女の子と楽しく喋ってお酒を飲むだけの場所とうたっているが……実態は別。
所謂、えっちなサービスを提供する店だ。
それだけじゃ、「街にもこういう場所が必要だよね」という話で終わりそうだが、問題は店の職場環境が劣悪ということ。
さらに治癒ギルドと裏で繋がっており、よくこちらから借金のカタとして女の子を紹介していた。
主人公アランと共に、従業員の女の子たちが謀反を起こすイベントにも繋がるし、治癒ギルドとは切ってもきれない関係である。
「ふっへっへ、マリウス様。ご機嫌よろしいようで」
エルザと共にシャングリラを訪れると、これまた悪そうな顔をした店長が出てきた。
「お前は誰だ?」
「はい? 私はこの店の店長ですよ。変なことを言いますね。まあそれよりも……今日はどのようなご用でしょうか?」
なんとなくだが、どこかで見た雰囲気と同じな気がする。きっと、ゲスオだろう。
「この店に猫耳の美少女がいるはずだ。そいつはどこにいる?」
俺が店長に質問すると、ヤツは醜悪な笑いを零して。
「ふっへっへ、あの獣人族の女ですね?」
「多分そうだ」
「多分? その女なら今頃、
研修……! まずい!
こいつの言う研修だ。なにも、基本的な接客マナーや仕事内容を教えるわけじゃないんだろう。
「どこだ!」
「奥の部屋です。もしかして、マリウス様直々に研修を行う──」
店長が全てを言い終わらないうちに、俺は駆け出していた。
「どうするつもりなの?」
走りながら、エルザが問う。
「猫耳美少女ちゃんを救うって言っただろ? 言葉の通りだ」
「そう。やっぱり……少しは改心したかと思ったら、そういうことだったのね」
「は?」
「救いだと称して、女の子にえっちな研修を施すつもりなのね。ほんとに、これだから男は……」
「なにをバカなこと言ってるんだ!? 俺は今すぐ、バカげた研修をやめさせるだけだ!」
どうやらエルザも勘違いしているようだった。
ほんとマリウス、みんなからの信頼がどん底だな……。
しかしこの男──ってか俺の今までの所業を振り返れば、そう思われても仕方がない。
評価が最低なら、今から上げていけばいい。
「ここか!」
店長に示された一番奥の部屋に入ると、そこには一組の男女がいた。
男の方は特に言うこともない。ゲスオはこの店の店長と同じく、性根が腐ったような顔をしている。
一方、女の子は別だ。
小柄な体格に、おどおどとした態度。頭からは立派な猫耳が生えており、猫耳美少女ちゃんの名に恥じない外見をしていた。
「マ、マリウス様!? どうされたんですか!」
「それはこっちの台詞だ。今から研修をするつもりだったらしいな」
「その通りですが──ははあん。そういうことですか。マリウス様直々に研修をやりたいんですね。いいでしょう。役得だと思っていましたが、マリウス様にお譲り……」
「バカかあああああああああ!」
どうして、揃いも揃って同じことを言いやがる!?
俺は猫耳美少女ちゃんの手を取って、踵を返す。部屋を出ていく時、「どこに連れていくんですか!?」と男の声が飛んだが、無視した。
「マリウス様? 研修はどうしたんですか?」
先ほどのエントランスまで戻ると、店長が目を丸くして、そう問いかけてきた。
「悪いが、こいつは俺が預かる。この店で働かせるっていうのもなしだ」
「なっ……! いくらマリウス様でも勝手なことをされては、困りますよ! どうしていきなりそんなことを!?」
「なんだ?」
俺は一歩前に出て、すごむ。
「文句があるのか? いい度胸だ。俺に逆らうというのは、どういうことを意味するのか教えてやろうか?」
「い、いや……それは……」
「分かったら、黙ってろ。この埋め合わせは、また考える」
言い放つと、店長は反論しなくなった。
……マリウスの悪役っぽい顔が役に立ったな。
店長もこんな店を経営しているくらいだ。今まで修羅場を乗り越えてきたかと思うが、マリウス──俺の前ではビビるか。
自分の悪役顔に感謝しながら店を出て、俺は猫耳美少女ちゃんに話しかける。
「大丈夫か?」
「は、はい……まだなにもされていなかったので」
「よかった。間一髪のところだったんだな」
「あ、あの……わたし、これからどこに連れていかれるんでしょう?」
おどおどとしながら、彼女は訊ねる。
「わたしは、この通りの小さな体です。肉体労働には向かないと思いますが……」
「色々戸惑うことも多いだろう。だが、君はもうやりたくもない仕事をやる必要はないんだ」
「え……?」
猫耳美少女ちゃんが目を丸くする。
「でも……マリウス様は知っていると思いますが、わたしには病気の母がいて……母を治癒するためにはいっぱい働いて、治療費を稼がなければいけません。短期間で稼ぐにはこれしかなく……」
「そういう理由だったんだな」
借金のカタとはゲスオから聞いていたが、そのような理由があるとは知らなかったんだ。
全く、病気の母親を人質に取って、彼女をシャングリラで働かせようとするなんて酷い男だぜ。
……いや、元はといえば悪いのは俺だが。
「これから、どうするの?」
黙ってことの成り行きを見守っていたエルザが口を開く。
「こんなことをしても、その子を救ったことにはならないわ。病気のお母さんが元気にならない限り、その子は苦しみ続けることになる」
「…………」
「救うってのは、口から出まかせなのよね? そりゃそうよね。あなたがそんな簡単に変わるはずが──」
「なにを言ってるんだ」
「……ん?」
エルザが目を丸くする。
そんな彼女の顔を見て、俺はこう告げる。
「だったら、俺がその病気の母親っての治せばいいだけの話だろ?」
俺は治癒ギルドのマスターである前に、一人の治癒士だ。
ゲーム序盤でも彼は、敵としてアランの前に立ち塞がり、バトルする。
何度も自分と取り巻き連中に治癒魔法をかけ、戦闘を長引かせるマリウスに、プレイヤーはヘイトを溜めたものだ。
ならば……今の俺にだって、治癒魔法が使えるはず。
「俺がこの子の母親を治せば、万事解決だ」
「そんなこと、あなたに出来るの……? あなたが治癒魔法使うところ、見たことないけど」
そ、そうなのか!?
ちょっと心配になってきた……。
しかしゲーム中で使っていたんだから、きっと使えるはず。そうじゃないと困る。
「で、でも、お金が……」
一方、猫耳美少女ちゃんがおどおどしながら尋ねてきた。
「あー……そのことなら一旦気にしなくてもいい。あとで法外な料金を請求したりしないから、安心してくれ」
ここでそんなもん要求してしまえば、今までと同じだ。
破滅ルート回避どころか、破滅に一歩近づいてしまう。
「そういえば、君の名前を聞くのを忘れていたな。なんというんだ?」
「カ、カルラです」
カルラ……NPCだと思っていたが、そうでもないのか? アルクエでは聞いたことのない名前だが、俺もやり込んでるわけじゃないからな。名前の法則性がまだ分からない。
「よし、カルラ。君のお母さんのところに案内してくれ」
こうして俺は次に、猫耳美少女ちゃん──ことカルラの母親の病気を治すことになった。
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