第8話 召集令状
「ところで騎士セイラ・フラヴィアと言う名の女はこの家に居るか?」
この男ウィリアム・エイムズはローリエを無機質な目で見下しながらそう言った。
この雰囲気と威圧感、それにこいつらの言う『ノダルケア中央魔法騎士団』とは一体何なのか。
セイラやジャイルズの
そして明らかにここで「はい、この家にセイラは居ます」と言ってはいけない。
「分からない」と言っても同じ結果になるだろう。
「どうした? もう一度言うがセイラ・フラヴィアはこの家に居るか?」
ウィリアム・エイムズはそう言って玄関に足を踏み入れ、ローリエに詰め寄った。
回答に困った。どうすれば………
早くしないとセイラがこっちに来てしまう。
「兄さんこの子困ってるよ」
俺がどうやらこうやら考えていると、ウィリアム・エイムズの後ろにいた男はそう言った。
その男も同じく長身で、ウィリアム・エイムズより少し痩せた体型をしている。
服装はシルクハットを被っており、二人揃って白のTシャツの上からスーツベストを着こなしている。
「まー見たところ10、11歳のガキだしな―――よし、それじゃあそこの銀髪の娘、俺の名前はウィリアム・エイムズ。後ろにいるのが弟のジョナサンだ」
ウィリアム・エイムズはそう言った後、ポケットから取り出したものを見せた。
取り出したものは赤い紋章。セイラ達のものと似ている。
「それで俺はこの通りノダルケア中央魔法騎士団と言う組織に所属している中級魔法使い。まあ警察と思ってくれ」
ウィリアムは紋章を一旦ポケットに戻して話し続ける。
「それで今日はこの家にその一環として来たのだが、お前の家にセイラ・フラヴィアと言う名の女はいるか?」
ウィリアムは口角を吊り上げて、笑顔を作りでそう言った。
…もう、嘘を付くしかなかった。
「えっと、あのごめんなさい。その女の人は俺の家にいな―――」
ガチャン!
ローリエがそう言い切ろうとした瞬間、金属物のような何かが落下する音が、奥の部屋である陶磁器部屋の方から3人の下へ瞬く間に鳴り響いた。
「……ふーん、じゃあ、部屋を隅々見させてもらうかァ」
そう言ったウィリアムは、二人で土の土足で部屋に押し入った。
音がなった場所の通り道ある木綿のクッションは踏み込まれ、はっきりとした靴の輪郭がそれに刻まれる。
---
ガチャン
セイラが両手に持っていたバケツは手から離れ、音をたてて床に落下した。
バケツに入った水が溢れ床一面が広がっていく。
なんで、あいつらがここに……
ノダルケア中央魔法騎士団、あいつらは
私のことを捨て駒としか、思っていないんじゃないの?
それに、なんで…よりにもよってローリエがここにきて半年の今日なんだ。
セイラはそう思いながら自屋に置いた二人分のプレゼントを気にした。
忘れていた久しい恐怖に怯えて足を震わせ、胸の鼓動が早くなる。
そして、足の震えに合わせ息も荒くなっていたのだ。
その時、今セイラがいるこの部屋にウィリアムとジョナサンが到着した。
二人と目が合ったセイラは咄嗟に顔を下に逸らす。
「んー? おいおいそこの女」
ウィリアムはそう言いながら大股でセイラに詰め寄った。
そしてセイラの毛を革手袋の手で鷲掴みで引っ張りながら顔を無理やり上げる。
「っ……き、君は誰? 早く離して」
セイラはそう言って、爪先立ちになりながらも髪を掴むウィリアムの腕を両手で握り引き離そうとした。
しかしウィリアムの手は離れない。
「お前フラヴィアだな?」
「…違う」
「いいや、お前は似顔絵の通りセイラ・フラヴィア本人だ。さて聞くが公爵閣下からの召集状はどうした?」
ウィリアムは更に髪を引っ張りセイラの顔を近づけて睨みつける。
「………それは、怪我がまだ治ってないからって返書を送ったはず」
「たかだかそんなこと、公爵閣下には関係ないだろぉう? 特別に王都で務める義務がある
「……」
「はぁほら、そう黙るなよ。公爵閣下は寛大だ。きっとお許しになられる。さあ悠長せず今すぐに上に行くぞ」
ウィリアムはそう言ってもう片方の手にもつ杖で催促した。
一方のセイラの杖は水を運ぶために立てかけてるので手元にない。
「君はあいつをなにも分かってない」
「ふーんあっそう、それならば―――」
そうこう二人がしている間に、ローリエは二人を追って部屋に到着した。
「セイラ!」
ローリエはそう言って部屋の中に入ろうとする。
しかしジョナサンがローリエの行く手を塞ぎそれを突き飛ばした。
そしてジョナサンは尻餅をついてこけてしまったローリエを見下ろした。
「今は取込み中だから子供は来たら駄目だよ」
駄目だ。俺のこの体じゃ屈強な大人の図体1ミリだって動かすことはできない。
―――しくじった。俺の部屋にある杖を持って来ていれば、もしかしたら脅しの道具になったかもしれない。
怖い。なんだこの、忘れていたような感覚…
だがローリエがどう頑張ったところで今この男に敵うはずがない。
そしてこれが暴力に対する女性の本能的なものか、前世のトラウマによるな強い恐怖なのか、ローリエは分からなかった。
ローリエがそう思っているさなか、ウィリアムは続けて口を開いた。
「それならば、あの銀髪の娘を殺しちゃおうかァ やれ弟よ」
「分かったよ、兄さん」
ジョナサンがそう応じると、ローリエに向かってその手に持っていた杖の先端の舵を切り下ろした。
「な!? いや違……あの子は、ローリエは関係ない!!」
セイラはそう言いながら片方の手を伸ばして止めようとするが、ウィリアムに抑え込まれる。
そうしている間にもジョナサンの杖は尻餅をついて倒れたローリエに杖の標準を向けていた。
しかしローリエの足は体が凍りついたように動かない。
なんで、地下街のときは縦横無尽に動かせたっていうのに……!
俺は杖の先端を見上げたままビクリとも体を動かせない。
「え、あ、ちょっとまっ―――」
ローリエは硬直する中、口だけ動かしたが意味はなかった。
「
ジョナサンがそう呪文を唱え始めると、無常にも杖の先端の装飾物は白光を纏い始めた。
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