19 再会

「さあ、いよいよ着いたぞ。思ったよりずっと大きいな」

 まーくんたちとは別ルートで『よだかの星』の最寄もより駅に降り立ったお母さんを乗せた車が、すみれ色に包まれた『よだかの星』駐車場に停まりました。


「こっちから来た方がずっと早いのに、どうしてあんなに大回りをしたのかしら。まったくおかしな子ね。お兄ちゃん、ヒルやマダニがいるかもしれないから長袖ながそでに着替えなさい。まれたら大変よ」

 お母さんはスニーカーのひもをしっかりと締めなおすと、長袖シャツで首元から手首までおおいます。

「暑い」

 お母さんが差し出した長袖パーカーを受け取らずにぶっきらぼうに答えると、お兄ちゃんはお父さんが差し出したタオルを首に巻きます。


 車から降りると、真夏の夜特有のもわっとした湿気しっけが三人を取り巻きました。

 駐車場から管理棟かんりとうまでの細道は、見る間にすみれ色から濃い紺色こんいろに変わっていきます。

「星が良く見えるなあ」

 のんきに空を見上げるお父さんを小突こつくと、お母さんはきびきびした足取りで管理棟かんりとうへと入っていきました。



「まーくん、むかえに来たよ。まーくんの気持ちを分かってあげられなくてごめんね。辛かったね」

 お父さんは、ロビーで絵本を読むまーくんの背中に向かって声を掛けます。

「こらっ、まーくん。勝手に出かけちゃダメっていつも言っているでしょ。ごめんなさいは。どれだけ心配したと思っているの。どれだけたくさんの人に迷惑めいわくをかけたと思っているの」

 お母さんはロビーで絵本を読むまーくんにけ寄ると、痛いぐらいにまーくんを抱きしめます。

 からをつつかれたハマグリのように、まーくんは反射的に首をすくめて身を固くします。


「うちの子がご迷惑めいわくをおかけして、本当に申し訳ございません」

(ぼくのしたことは、そんなにいけないことなの)。

 オーナーのおじさんに向かって何度も頭を下げるお母さんの姿に、まーくんはとてもつらい気持ちになりました。

迷惑めいわくだなんてとんでもない。無事で何よりでした」

「このぐらいの年の男の子が、一度は通る道だあねえ」

 オーナーのおじさんとおばあちゃんが、まーくんとお母さんの心をほぐすように笑います。

「本当に色々とありがとうございます。助かりました」

 お父さんも深々と頭を下げるそばで、お兄ちゃんもぎこちなく頭を下げました。


「パンダくん、まーくんに付き合ってくれてありがとう。ここまで来るのは大変だったでしょう」

 まーくんを抱きしめたまま涙とお小言こごとの止まらないお母さんの背中をさすると、お父さんはパンダくんに話しかけました。

「お母さんはパンダくんの落としたスマホを引き取りに行くから、今夜はまーくんとここでまるようにだって」

「ぼくはスマホを家にいて来たはずだけど」

 スマホを家に忘れてきたとばかり思っていたパンダくんは、お父さんに向かって身を乗り出します。

鶴巻つるまき市の植え込みの上に落ちていたのに、通行人つうこうにんの方が気づいたそうだよ」

「スマホのうらにぼくの名前と母ちゃんの電話番号が貼ってあるのが恥ずかしかったんだけど、役に立ったんだ」

 パンダくんはあごに手を当ててふむふむとうなずきました。


 一方で、よだかの星になる事を願ってここにやって来たまーくん。

 お父さんお母さんお兄ちゃんと二度と会わないと覚悟かくごしていたので、どうしたら良いのか分からずにうつむくままでした。

「さあ、そろそろグランピングドームに行こう。バーベキューも楽しみだね」

「まーくん、トウモロコシはちゃんと持った」

 パンダくんが、トウモロコシを手にたずねます。

「うん、持ったよ」

 お気に入りのバスタオルで、こわれたペットボトルの貯金箱と麦わら帽子にお金の入った弁当袋を包んだまーくん。左手に荷物を、右手にはトウモロコシを持ってとぼとぼと歩き始めます。

「それ貸せ」

 お兄ちゃんはまーくんが左手に持った荷物を取り上げると、まーくんの空いた左手をしっかりとにぎりしめました。

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