20 地球にて

 星空の下、き火に照らされるグランピングドーム。

 まるで地球では無くて、本当によだかの星に来たようです。

 でも、まーくんは確かに地球にいます。お兄ちゃんの右手がまーくんを地球につなぎとめているからです。

「マッシュルームみたいだな」

 まーくんの左手を握ったまま、お兄ちゃんがつぶやきます。

「近ごろのアウトドアは便利だな。これなら準備いらずで良いね」

「どちらも同じ大きさに見えるけど」

 お父さんは、二つ並んだグランピングドームをスマホで撮影しています。

 お母さんはお父さんのとなりで、目をらしながらドームを見比べています。

「こちらが三名様用です。どうぞ中へ」

 オーナーのおじさんが、まるで絵本に出てくるような木のとびらを開けました。


「いっちばーん」

 真っ先にベッドに飛び乗ったパンダくんは、ベッドの上で何度も飛びはねます。

「こらこらパンダくん。そんなにあばれたらベッドがかわいそうだよ」

 お父さんがパンダくんに苦笑いをしながら、まーくんの背中をそっと押します。

「肉まんの中ってこんな感じかな」

 おそるおそるグランピングドームに入ったまーくんは、思わず口を開けたまま天井を見上げます。

小籠包しょうろんぽうの中もこんな感じだろうな」

「だったらぼくタケノコ」

 パンダくんがベッドの上でまたまた飛びはねました。

「俺ショウガ」

「じゃあ、ぼくはネギ」

 まーくんとパンダくんとお兄ちゃんは、一つのベッドの上でくつくつと笑い合います。

 その様子を、お父さんは目を細め、お母さんはあきれたように笑いながら見ていました。


「まーくん、お父さんたちはとなりのドームに行っているからね。お風呂とトイレはドームとつながっているから安心だね」

「まーくん、寝る前は必ずおしっこに行くのよ。こんなにふかふかのきれいなベッドでおねしょなんてしたら大変よ」

「お母さん、どうしておじさんとパンダくんの前でおねしょのことを話すの。ひどいよ」

 パンダくんとオーナーのおじさんの前でおねしょの注意をされたまーくんは、思わずベッドに顔をうずめました。

「だって心配だもの。気をつけなくっちゃ」

「お母さん。その気持ちは分かるけど、まーくんに恥をかかせちゃいけないよ」

「確かにそうね。まーくん、お母さんが悪かった。ごめんね」

 お母さんはめずらしくまーくんに謝ると、二人用のグランピングドームへと向かいました。



「ねえねえ、久しぶりに『うんこしりとり』をしようよ」

 子供三人になった所で、パンダくんが目をかがやかせます。

「ぼくからね。『うんこ』。はい、まーくん」

「『ころころうんこ』。はい、お兄ちゃん」

「『こいくち』。はい、パンダ」

「『血まじり』。はい、まーくん」

「『りす』。はい、お兄ちゃん」

「『すっぱい』。はい、パンダ」

「ちょっと待って。これは『うんこしりとり』だよ。『こいくち』とか『すっぱい』とか、言葉の選び方がおかしいよ」

「細かい事は良いんだよ。ほら、パンダ。三秒以内に答えないと『うんこパンダ』って呼ぶぞ」

「『いっぽん!』。あっ、今のなしっ。『いっぽんうんこ』」

「パンダくんの負けーっ」

 まーくんがげらげら笑いながらパンダくんを指さします。

「全然負けてないし。まーくんの番だよ。『いっぽんうんこ』の『こ』からね」

「ずるいぞ。『いっぽん』って言ったからパンダの負けだ」


「バーベキューの準備じゅんびが出来たよ。さあおいで」

 三人で『うんこ』『うんこ』とはしゃいでいると、お父さんがまーくんたちを呼びに来ました。



「火のそばは危ないから、こっちのテーブルで食べなさい」

 お母さんは、まーくんとパンダくんをき火からすこし離れた椅子いすに座らせます。

「うおおおおおっ。おもちがギュイーンってなってる」

 パンダ君はおもちが大きくふくらむのに大興奮だいこうふんです。

 おばあちゃん自慢じまんの肉汁うどんは、き火の上のり鍋でことこと煮えています。

 その隣では、長いくしを打たれたヤマメが、ふっくらと焼きあがっていきます。


「ぼく、ドラム缶のお風呂に入りたい。ドラム缶のお風呂はどこですか」

 おもちとトウモロコシに、シャモ肉がたっぷり入った肉汁うどんを取ってもらったパンダくんは、オーナーのおじさんにたずねました。

 パンダくんは、みっちゃんそばのおじさんから聞いたドラム缶風呂に入りたくてたまらないのです。

「ドラム缶のお風呂はオートキャンプ場限定だよ。しかも身長制限があるから大人になってからね。それにグランピングドームには、ドラム缶のお風呂よりずっときれいなお風呂があるよ」

 小四心しょうよんごころを分かっていないと、パンダくんは口をとがらせます。


き火は午後十時に係の者が消しに来ます。その際にバーベキューの片付けもしますので、使用済みの皿等はそのままにしておいてください」

 オーナーのおじさんは、タヌキのようなお腹をらしながら、他のお客さんの所へ見回りに行きました。



「それにしても家から一時間もかからない場所で、こんなに星がはっきり見えるとはね」

 お父さんが、お醤油しょうゆとバターがしみ込んだ焼きトウモロコシをかじりながら空を見上げます。

「まーくん、夏の大三角形を見つけられるかな」

 お父さんの問いかけに、肉汁うどんにふうふうと息を掛けていたまーくんも空を見上げます。

「あれ。デネブとベガと」

「アルタイルな」

 まーくんに助けを求められたお兄ちゃんはぶっきらぼうに答えると、ぱりぱりの皮が香ばしいヤマメの塩焼きにかぶりつきました。

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