お兄ちゃんとまーくん
18 お兄ちゃんの夢
まーくんたちが
「まさか、『よだかの星』って名前のキャンプ場があるなんてね」
「まったく何であんな遠くに。パンダもパンダだよ。止めるどころか、いっしょになってあんな所まで。結局全員で
さっきまで張り
まーくんの無事が分かって、
「今日は何が何でも、全員でまーくんを
電話越しにまーくんの声を聞き、まーくんの手紙を見たお父さんは、『よだかの星』に家族みんなで泊まる事にしたのです。
「お父さんはいつもまーくんにばっかり甘いんだから」
「お母さんと同じ事を言わないでよ。お父さんは、お兄ちゃんだって大切だよ」
まーくんからの手紙を見たお父さんは、お兄ちゃんとまーくんの間に何があったのかを聞こうとはしませんでした。
いつも通りにふるまうお父さんから、お兄ちゃんはふいっと目をそらします。
「結局パンダも
「パンダくんのお母さんから許可が出たから、子供は子供三人で、お父さんとお母さんは二人用のグランピングドームに泊まるつもりだよ」
「俺は子供じゃないし」
「だったらお父さんとお母さんと同じドームに泊まるかい。でもそっちの方がもっと嫌でしょ」
お兄ちゃんは無言でうなずきました。
「お兄ちゃんだって
「気晴らしなんて余裕は無い。お父さんと同じ中学を受けるには、
お兄ちゃんはお父さんの言う通り、頭がパンパンを通り越してパツンパツンになっているみたいです。
「それはお母さんの受け売りでしょ。小学校の頃から、自分を追い込んで結果を出す人だからね。お父さんはのんびりしているくせに
「お母さんって小学校の頃からあんな感じだったの」
「うん。生徒会長で卒業式
「
お兄ちゃんがおもわずぼそりとつぶやくと、お父さんは苦笑いをしました。
「お母さん自身も何とか変わりたいと思っている。小さい頃の自分自身とお兄ちゃんやまーくんを比べてしまう自分を、おっとりしたまーくんにきつく当たってしまう自分を、お母さんはとても
それでも、長年しみついた行動や考え方を変えるのは苦しそうだと、お父さんはため息をつきました。
「お母さんは
お父さんは、まーくんに良く似たまあるいお鼻を左手で軽くこすりました。
「だからと言って、お母さんの顔色をうかがって、自分を押し殺してはいけない。顔色をうかがうくせをつけると、他人に合わせる生き方に慣れると、いつの間にか他人の世界に飲み込まれる。子分になる。他人の人生を生きて死ぬ
うちの
「それで、お兄ちゃん自身は大きくなったら何になりたいのかな」
「お父さんのお父さんもお母さんのお父さんも、お父さんもお母さんも医者だから、医者以外に思い浮ぶわけが無い。俺は長男だし、まーくんはあんな感じだし」
「お父さんは、お兄ちゃんにもまーくんにも
ハンドルを右に切ったお父さんは、しばらく無言で車を走らせます。
「お医者さん以外なら何になってみたい。お兄ちゃんの夢は」
夢を問われたお兄ちゃんは、しらけ顔でお父さんの横顔をちらりと見ました。
夢なんて、子供部屋を
夢を見ることが許されるのは、子供時代だけなのですから。
お兄ちゃんは、子供の自分にさよならをして今ここにいるのですから。
「世界を飛び回るのは
「ちょっと待った。嫌なことじゃなくて、夢を聞いているの」
「とりあえずお父さんの出身中学に受かる」
「そうじゃなくて。聞き方を変えよう。お兄ちゃんの好きなものは」
「別に」
お父さんは、困ったねと言いながら耳の後ろをぼりぼりとかきました。
そのしぐさがまーくんにあまりにそっくりだったので、お兄ちゃんは思わずふふっと笑います。
「受験するって決めたのは俺だから、たくさん勉強してちゃんと
「受験までには後一年以上あるからそんなに必死にならなくても。大丈夫。お兄ちゃんはとても頭が良い子だよ」
「そんなことは無い。俺はお父さんやお母さんみたいに頭が良くないから、いっぱい勉強しないと落ちこぼれる」
それまでどこか
「そうかな。お兄ちゃんは頭が良くて器用で、アイデアマンじゃないか。お兄ちゃんの工作や夏休みの自由研究の内容は、お父さんにはどうやっても思いつかないよ」
「で、受験すれば良いの、止めたほうが良いの。どっち」
「お父さんが言いたいのはそこじゃなくて、えっと。言葉って難しいな」
お父さんがうっすらお肉の付いたあごをさすってため息をつくと、お兄ちゃんは車の行列に目を向けました。
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