15 よだかの星になりに来た

【自然体験型アウトドアパーク『よだかの星』 オートキャンプ場は三十台収容しゅうよう可能。グランピングエリアも新登場】

 駅の看板かんばんのような大きな看板に、だだっぴろい駐車場。眼下がんかには、すっかり雲が散って、夏の日差しにあぶられるにったか市街が広がっています。

 そろそろ夕ごはんが恋しくなる時間だと言うのに、太陽の勢いはちっともおとろえていません。


「ぼくは『よだかの星』になりに来たのに。思っていたのとちがうよ」

 大好きな『よだかの星』からは想像もつかない光景に、まーくんはへなへなと座り込んでしまいました。

「つかれたああ」

 パンダ君もまーくんの真似をして、車止めの上に座り込みます。

 すると――。

「おーい、君たちどいてくれ」

 クラクションが鳴ると同時に運転席から顔をだしたおじさんは、みっちゃんそば入り口のタヌキの置物にそっくりです。

 まーくんとパンダくんは立ち上がってお尻の土ぼこりを払うと、『よだかの星』のステッカーが大きく貼られたワゴン車に場所をゆずりました。


「見かけない顔だな。もしかしてうちのお客さんかい。お父さんやお母さんはどこ」

「ぼくたちは、みっちゃんそばのおじさんから場所を教わってここに来たの。母ちゃんがパートから戻る前には家に帰るから、お客さんじゃない」

 パンダくんの一言に、おじさんは大きなどんぐりまなこをさらに大きくします。

「みっちゃんそばってあの『みっちゃん印のおそばとたまご』のみっちゃんの事かい」

 見知らぬおじさんに人見知りするまーくんの代わりに、パンダくんが大きくうなずきます。

「ちょっとみっちゃんに連絡するわ」

「ぼくは『よだかの星』になるためにここに来たから、絶対に連絡しないで。お願いします」

 まーくんはあわてておじさんを止めました。


「まーくんは本当に『よだかの星』になるつもりだったの。そんなのできっこないよ。本当は、鳥は星にはなれないし、まーくんだって星にはなれないよ。ちゃんと『よだかの星』に来たから、もう帰るよ。母ちゃんがパートから戻る前には、家に帰っておかないと。ぼくだって怒られちゃうよ」

 二人が甲高かんだかい声で話すそばで、たぬきみたいなおじさんはみっちゃんそばのおじさんに連絡を入れました。



 みっちゃんそばのおじさんとまーくんのお父さんとの会話を終えた、たぬきみたいなおじさん。

 実は『よだかの星』のオーナーであるおじさんは、あらためて二人を見回しました。

「おうちの人が午後七時ぐらいに来て一泊するそうだから、それまで遊びながら待ってくれな。ぼくのお母さんにもお泊まりの許可をもらうって」

「やったあああ」

 パンダくんはくるくる回りながらはしゃぎます。

「ぼくのお父さんたちがここに来るの」

 一方で、まーくんはねむそうな目をしばたかせます。

 またお母さんに怒られる――。 

 まーくんの苦悩くのうも知らず、おじさんは二人を管理棟かんりとうへと案内しました。


 管理棟かんりとうのロビーに入ると、絵本に出てくるような丸太のベンチや、色とりどりのハンモックがまーくんたちを迎えます。

 壁には近くで撮影さつえいされたカワセミの写真。カウンターには、ブルーベリージャムやくり甘露煮かんろに、それに茶色い自家製手打ちうどんがずらり。

 無垢板むくいたで出来たカウンターは、触り心地が良さそうです。

 まーくんの思い描いた『よだかの星』とはまるで別世界が、そこには広がっていました。


「おチビちゃんが二人でご苦労なこったねえ」

 カウンターの奥から、白髪を一つにまとめたおばあちゃんが顔を出しました。

「栗のケーキを食べるか。何でも食べて大丈夫か」

「大丈夫。食べる」

 パンダくんが、大きな声で返事をします。

「お兄ちゃんはどうだ」

 おばあちゃんはまーくんに聞きました。

「ぼくが小四でこの子が小三だよ。ぼくの方がお兄ちゃんだよ」

「あんれまあ。ぼくは大きいねえ。ぼくも何でも食べて大丈夫か」

 静かにまーくんがうなずくと、おばあちゃんは栗のケーキとブルーベリーのジュースを運んで二人の向かいに座りました。

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