14 カワセミ色のバスに乗って
ここはにったか駅。
初めてのにったか市行きの電車に乗って、興奮冷めやらぬままのパンダくん。
小さな駅の小さなベンチにちょこんと腰を掛けるまーくんを見るなり、大きく手を振りました。
「まーくーんっ。やっと追いついた」
「
数時間ぶりにパンダくんの声を聞いたまーくんは、にったか市の観光パンフレットを片手に立ち上がります。
「うん、おがみじま駅に行く前の
パンダくんは首をすくめます。
「そもそもパンダくんはスピードを出し過ぎだよ。ぼくはすぐに追いつけなくなって大変だった。そのうち自転車がパンクしてブレーキがパンッてなってはじけ飛んで。だからぼくの自転車は手術中だよ。ぼくだってこけてすりむいちゃった」
「そうだったの。大丈夫? ぼく、まーくんがついて来ていないだなんて、ちっとも気が付かなかったよ」
「やっぱりね。ぼくが何回もパンダくんを呼んだのに振り返らなかったもの。それで、ぼくが転んだら後ろにトラックが来て急ブレーキをかけたんだ。プロレスラーみたいなおじさんが降りてきて。怖かったよ」
「まさか、はねられたの」
「そんなバカな。はねられていたら、ぼくはここにいないでしょ」
まーくんはもちもちほっぺをふくらませます。
「そのプロレスラーみたいなおじさんが自転車屋さんに連絡をしてくれて、自転車屋さんのおばさんがぼくを
「えーずるい。ぼくなんて、いっぱい自転車で走り回ったおかげで、足とお尻がぷるぷるして大変だよ」
おじさんみたいなため息をついてベンチに座ろうとしたパンダ君に、まーくんは観光パンフレットを差し出します。
「『よだかの星』に行くバスがもうすぐ出るよ。パンダくん、急いで」
二人は、小さな駅から広々としたロータリーにあるバス停へと向かいます。
お目当てのバスは、すぐに見つかりました。
「『にったかぐるり周遊バス』。これだ」
まーくんは観光パンフレットと目の前のバスを見比べます。
カワセミのように鮮やかな青色のバスには、にったか市の子供たちが描いた野の花があしらわれていました。
「まーくん、ここに『ピッ』てするんだよ」
「うん、覚えたよ」
パンダくんが交通系カードをタッチするのを真似して、まーくんも交通系カードをタッチします。
カワセミのお腹のようなレンガ色のシートに並んで座ると、どちらからともなく大あくび。
「お尻がぷるぷるする」
おがみじま駅まで遠回りの上に大急ぎで走ったパンダくんは、レンガ色のシートの背中に頭をもたせさせるようにじたばたと動いています。
それはそうです。
二人の家からおがみじま駅まで自転車で向かうだなんて、大人ですら大変な道のりです。
しかも今は八月上旬なのですから。
エンジンを掛けたバスが揺れ始めたと同時に、中学生ぐらいのジャージ姿のお兄さんたちが、大荷物やサッカーボールの入った袋を抱えてバスに乗り込んできました。
「『
まーくんはそれだけ告げると、パンダくんの肩にもたれて眠ってしまいました。パンダくんもまた、すぐに寝入ってしまいました。
【次は『青少年記念センター』。『よだかの星』へお越しのお客様はこちらでお降りください】
『よだかの星』の一言に目を覚ましたまーくんは、よだれを
「まーくん、ここからどっちに向かうの」
「青少年記念センターのとなりの細い道を、まっすぐ進むんだって。だから、
おそろいのジャージ姿でカワセミ色のバスを降りるお兄さんに続いて、まーくんとパンダくんもバスを降りました。
青少年記念センターと書かれた建物に入っていくお兄さんたちと別れると、『よだかの星』のロゴが入った色とりどりのビラを頼りに、二人は細道を歩いていきます。
『うどん作り親子教室』『ブルーベリー狩り』『
『よだかの星』のロゴが入ったビラは、どれもこれも、まーくんが大好きな『よだかの星』のお話とはまるで関係がなさそうです。
そんな事も全く気が付かないまま、ひたすら細道を歩くまーくん。
その目の前がぱっと開けました。
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