おねしょマン 旅に出る
7 Go West―西へ―
家の前の道を突きあたって左に曲がると、西へとまっすぐ続く
『右ヨシ、左ヨシ、ブレーキ
並木道に合流する場所で、電車の
『変身! パンダピュアブラーック!
まっすぐに続く
「パンダくん、待って。待ってってば!」
まーくんは全力で十八インチの自転車をこぎますが、二十インチの自転車にはどうやったって追いつけません。
パンダ号は余りの暑さに人っ子一人いない
「ぼくーはーかぜえええっ、ぼくーはーイカズチいいいいいっ、ぼくーはー」
大好きな戦隊ヒーローになり切って、真っ黒な自転車にまたがりおがみじま駅へと向かうパンダくん。
うす灰色の空を切り
「ぼくを止められはーしなーいいいい♪ パンダピュアブラーック!」
そしてついにパンダ号は、車の多い通りへとその方向を変えました。
「ぼくはあああ、かぜええええっ」
「こらーっ、そこの小さいの。止まれっ。そこのパンダのヘルメット。スピード
クラクションの音とおばさんの
「ぼくのおおおお、父ちゃんはああああ、海のーおーとーこー。ぼーくーはー、かーぜーのおーとーこおおおお」
恐れ知らずのスピードを
『パンダピュアブラックモード
パンダ号は、おがみじま駅行き最大の
「ぼくは今、
首をかしげるパンダくんの目の前で、車の波がとぎれました。
『信号は青に変身っ。進路は西。今行くぜ。待ってろおがみじま』
再び『パンダピュアブラック』モードになったパンダくんは、青信号の向こう側へと急ぎます。
それが悪の
※※※
一方こちらはまーくん。
「おがみじま駅はこの
パンダくんに追いつくのをあきらめたまーくんは、ゆっくりとペダルをこぎはじめました。
うす灰色の雲がとぎれるたびに大きな木々が影を作る
それでも、八月初めのお昼すぎ。
雲向こうの太陽が、アスファルトから立ち上るカゲロウが、セミの大合唱が、まーくんの体力をじわじわと
そして――。
「うわああああっ」
六つ目の橋が見えてきた所で、まーくんは地面にたたきつけられました。
「おい坊主。大丈夫か」
転んだまーくんの後ろから、急ブレーキの音が聞こえます。
プロレスラーのように大きなおじさんが軽トラックから降りて、まーくんに声を掛けました。
「こりゃ
まーくんはおどろきすぎて返事も出来ず、道にへたり込んでいます。
まーくんの自転車を道のわきに寄せて手早く確認をすると、おじさんは細い目をさらに細くしました。
「俺の軽トラで修理に連れて行ってやりてえが、自転車を置く場所がねえ。きゅうりとなすを配り終えたら
きゅうりとなすの入った箱が
「この通りを真っすぐ行って、大通りの一本前に小さな橋がある。
「
軽トラックを見送ると、まーくんは自転車を押しつつ歩き続けます。
「絶対に十分以上が経ったよ」
自転車の押し歩きに疲れたまーくんは、全身にまとわりつくセミの声を聞きながら、つつじの植え込み脇の
プロレスラーのように大きな男の人にとっての歩いて十分は、小三のまーくんにとっては何時間にも感じられます。
「パンダくんが待っている。早くおがみじま駅に行かなくちゃ」
それでもまーくんは力を振りしぼって立ち上がると、ふたたび自転車を押し始めます。
自転車のサドルは黒光りして、ふかしたての肉まんのように熱くなっていました。
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