ゴールデンウィーク温泉旅行記 6
ひたすら京都観光を楽しみ、置物などのお土産を先に購入して食べ物系は帰る時に買うことにして、詩乃たち一同は旅館に戻った。
男子がトイレに行って、詩乃と美琴の二人が外で待っている時間と言うもの一度発生し、その際にナンパされかけたが美琴の知り合いだと言うひょうたんを片手に持った着物をちょっと着崩した色っぽい女性に助けられた。
その女性は酔音と名乗り、昼間からひょうたんに入った酒を呷っていた。
ひょうたんで酒とかいつの時代だよと呆れつつも、美琴や詩乃が話し始めるとぐびぐびお酒を飲んでいたにもかかわらず、全く酔っている感じはしなかった。
「あの人信じられないくらい酒豪だから、昔から酔っぱらってるところってあまり見てないのよね。あるいは常に酔っぱらってるかのどっちかなんだけど」
全員がお手洗いから出てきたのでちょっとふらふらしながら立ち去っていく酔音を見送った美琴が、やれやれと腰に手を当てため息を吐きながら言っていた。
ちなみに、酔音と同じくらいの大酒飲みの荊奈という女性もおり、実は揃って霊華の旅館で働いていると言う。
ただどっちもお客の前に出せるような態度ではないため、基本は裏方に徹しているか、旅館の隅の方に小さな居酒屋があるのでそこでお酒と美味しい焼き鳥などを提供しているそうだ。
きちんとお礼を言えていなかったので、戻ったら助けてくれてありがとうとお礼を言っておかないとなと決めていた。
「まさかここで会うなんて思わないじゃないですか」
「ははは! これもなんかの縁やな」
同じ旅館にいると言うのでその内会えるか、会えなくとも霊華に頼めば会えると思っていたが、夕食を取り終えてみんなで露店風呂に向かったらデカい樽を持ち込んで清酒をぐい呑みで飲んでいる酔音がいた。
とりあえずちゃんと髪の毛と体を洗い清潔にしてから、ちょっと温度が高めのちょっととろみのあるお湯に体を沈める。
一日歩き続けてたまった疲れが、お湯に溶けだしていく感じがする。
「昼に会うた時も思たけど、えらい美人はんやな? 北欧の血でも混じっとる?」
「ボクの両親も日本人ですけど、ルーツはルーマニアの方にあるそうです。ボクだけ隔世遺伝でこうなっちゃって」
「先祖返りね。それだけ白いと、色々苦労するんとちがう?」
「陽の光にちょっと弱いくらいで、特に。真夏とかは考えたくもないですけどね……」
もう既にやられそうなほどなのだ。今やすっかり、早く陽が落ちてくれと憎たらしい程晴れた青空を睨むことが増えた。
「そう言えば、昼間はありがとうございます。ちゃんとお礼を言えてなくて」
「ええでええで、気にせんと。困ってるのを見かけたら助けたなる性分なんよ」
「それでも、ありがとうございます。ボク体が小さいから、多分あそこで何言っても簡単にいなされたと思うので」
「美琴がおったやん? あの子やったら対処に慣れてる思うで」
「私もそこまでナンパなんかされたことありませんー。モデルをやれて楽しいけど、背が高いと意外とそういうの少ないみたい」
念入りに体を綺麗にしてきた美琴が、長い髪の毛をタオルでまとめ上げながらやってくる。
日頃から体形維持のために運動をして栄養管理もしっかりしているのか、ウェストは見事にくびれており余計なお肉が付いておらず、美体という表現がぴったりな体がさらけ出されている。
以前リトルナイトで温泉に入った時は、未成年であるためにフィルターがかかって立派な双丘の頂点までは見えなかったが、ここは現実。ちゃんと薄桃色の頂点が見えてしまっている。
咄嗟に視線を下ろしながら顔を逸らしたが、間違って酔音の方を向いてしまいこちらもこちらですさまじいダイナマイトボディの持ち主であるため、頭がくらっとする。
「というか、霊華さんから酔音さんの話はよく聞いたけど、昔はそれはそれはやんちゃをしたんだってね? 喧嘩上等で霊華さんに叩きのめされるまで喧嘩三昧だったって聞くけど」
「えらい懐かしおして恥ずかしい話を持ってくるなぁ。もう昔の話なんやさかい、掘り返さんとおくれやす?」
少し恥ずかしそうにする酔音。あまりその話は掘り返されたくはないらしい。
昔はどうやらヤンキーか何かだったようで、今の姿からは全く想像もつかない。第一印象なんて、昼から酒を飲んでる妙に色っぽいお姉さんだ。
「あの頃の霊華も、えらい尖っとった時期やったさかい。ほんまに手加減されへんでぶちのめされて反省したんやわぁ。もう痛いのんはこりごり」
「とか言いつつ、よくお酒を昼間から飲んではお仕置きされてるじゃん」
「うちからお酒を取ったらなぁんも残らへんし、お仕置き程度でお酒はやめられへんで。最近は最近は霊華も諦めとるよ」
「全くもう……」
正面に立っていた美琴が、詩乃の左隣に腰を下ろす。
なんで自分を挟むようにして座るんだと、左右にナイスボディなお姉さんに挟まれてしまい、一瞬でのぼせそうになってしまう。
「んー? どこに行くん? もうちょいお話しよや」
「そうそう。私詩乃ちゃんのことまだそこまで知らないから、もっと教えてほしいな」
立って逃げようとした瞬間、酔音が太ももに手を置き、美琴は逃がさないと言わんばかりにそっと抱き着いてくる。
のえるのものとは違う女の子の肌と柔らかさに、視界がぐらぐらと揺れて心臓が跳ねる。
「あらぁ、えらい真っ赤になって、可愛いなあ」
「ちょっと訳ありみたいで、こういうのには慣れてないみたい。今後もこういう裸の付き合いも増えてくるだろうし、そういう意味でも残って一緒にお話しましょ?」
「あ、ああああああああのっ!?」
左右どっちを見ても、立派な柔らかい肌色の丘。大和撫子を絵に描いたような美人さんで、お湯に体を浸からせてほんのりと赤く上気している。
ただでさえお湯に濡れた美人というのは数割増しで色っぽくなるのに、それが超至近距離でとなると元男で女性耐性がほとんどない詩乃からすれば、数割増しどころか十割増しだ。
「はいはい、あまり詩乃ちゃんをからかわないでください。真っ赤になりすぎて倒れちゃいそうですよ」
ぶすぶすと脳みそが焼けつくような音が聞こえてきそうな頃、やっとのえるが助け舟を出してくれる。
タオルで体の前を隠しているが、お湯でそれが体に張り付き余計に艶めかしくなっているが、この中で一番見慣れているため安心できてしまう。
ぱっと太ももの上に置かれていた酔音の手が離れると、すぐにのえるの方に逃げていき背後に隠れる。
「……そういう反応されると、ちっちゃいのもあって小動物みたい」
「だ、誰が小動物ですかっ」
「言い得て妙やな。こう、ぎゅーってしてわしゃわしゃ撫ぜまわしたいわぁ」
「は、にゃ!?」
「ダメですよー。ぎゅーしてよしよしするのは、今は私の特権です」
「のえる!?」
お前の特権でもないだろとツッコミを入れたかったが、思い返せばぎゅーされてよしよしされてばかりなので反論の余地もない。
現に今も、のえるがくるりと詩乃の方を向いて、そっと抱き寄せている。頭は、タオルを巻いているので撫でてこない。
一瞬だけ助かったと思ったが状況的にはよくなるどころかむしろ悪化していることに気付き、放せとちょっと抵抗してからすり抜けてちょっと離れたところに落ち着く。
「それにしても詩乃は変わっとるなあ」
樽の中にぐい呑みを突っ込んで清酒を並々すくい上げ、それを一気に呷った酔音が、なぜかちょっと熱っぽい視線を向けて来ながら言う。
「か、変わってる?」
もしやエマと同類じゃあるまいなと、両腕を胸の前で交差させて警戒する。
「なんとのうだけど、どっかうちに似てるように感じるんよね」
「……………………どこが?」
似ていると言われても、全くぴんと来ない。
身長は酔音の方が高いし、スタイルも酔音のほうがいい。
大和撫子とは違うしお酒をがばがば飲んでいるので清楚というわけでもないが、お酒とセットになっていてもそれがよく似合っている人だ。
詩乃はお酒に弱い、ということはないだろう。未成年なので口にすることはないが、何年か前にお正月の時に間違って飲んでしまったことがあったが、それだけで酔うなんてことはなかった。
でもあの時飲んでしまったのは一口だけだし、それでお酒に強いとも言えないのでそれも似ているとは言えない。
「んふふ、分からへんならそれでええよ」
酔音は妖しい笑みを浮かべてそう言い、また並々とすくい上げて一滴も零さずにぐいっと飲み干す。
今更だが、何故この人は温泉に酒樽を持ち込んでいるのだろうか。
ほぼ貸し切り状態とはいえ、詩乃たちも宿泊客。美琴から酔音はここで働いていると聞かされているので、従業員が勤務中にそんなお酒を飲んでいいのだろうか。
「何? お酒飲みたいん?」
「いや、ボク未成年ですけど!?」
「んふふ、冗談やわぁ。さて、もう結構長いこと浸かってるし、そろそろ上がるなぁ。旅館の中におるさかい、またばったり会うかもな」
酔音はそれだけ言うと蓋をした酒樽を軽々と持ち上げて、すたすたと歩いていく。
昼間見たようにちょっとふらついてはいるが、彼女も何か武術をやっているのだろう。体幹がしっかりしているので、恐らく転ぶことはないだろう。
「なんか……激しい人じゃないけど嵐みたいな人ですね」
「昔っから変わらないなあ。やっぱここに来てよかったかも」
酔音が温泉から出ていき、なんだか妙な疲れを感じる詩乃。
とりあえず美琴の隣にのえるを座らせてから、詩乃はのえるの隣に座ることで挟まれることを回避する。
ほんのりととろみのあるお湯に肩まで浸かり、極楽だとじっくりと温泉を堪能する。
「美琴さん、昼間に言ってた荊奈さんってどんな人なんですか?」
ふと気になったので、質問する。
「荊奈さんはねえ……変わり者ね」
「変わり者」
「同じく大酒飲みは言ったと思うけど、口調がね」
「荊奈さんって確かに癖がありますよね」
華奈樹と美桜が並んでやってくる。
二人とも髪が長いのでタオルでまとめ上げており、眼福だが目のやりどころに困る。
「癖があるって、どんな風に?」
「んー……のえるちゃんは、廓言葉って名前だけは聞いたことある?」
「廓言葉……いいえ、聞いたことありません。詩乃ちゃんは?」
「聞けば分かるかも」
「……じゃあ私がちょっと真似てみるね。恥ずかしいけど……わっちは美琴。お店に来てくれてありがとうござりんす」
恥ずかしそうにしながら荊奈という女性の口調を真似る美琴。
一瞬パッと出てこず美琴がちょっと涙目になったが、すぐに行商人の青年と狼の獣人の娘の旅アニメで、狼の獣人の娘が使っていたのを思い出す。
「聞いたことある」
「よ、よかったぁ……。これで分からないとか言われたら、結構ショックだったよ」
「なんか、すみません」
「いいよ、気にしないで。で、今の口調を荊奈さんは普段から使ってるの。美桜があの口調をリアルでやってるようなものよ」
「わ、私はゲームでのロールプレイだけだから」
美桜の方に飛び火して、ほんのりと頬を赤らめつつ反論する。
「まああの人もこの旅館のどっかにいるし、見かけたら話しかけてみれば? 初見じゃ絶対にびっくりするから」
「そうしてみますね。……お? あ、あっちにサウナある」
このままのんびりしようとしたら、サウナを発見する。
思い返せば、今まで生きてきた中でサウナに入ったことは少ない。そう思うと興味が湧いてきたので、もう少しのんびりしていくと言ったのえるたちを置いて、一人でサウナに向かった。
一人になれるし、中にフレイヤたちが入ってこない限りは目のやりどころに困ることはないので丁度いいと長居しようとして、見事にのぼせかけて温泉から出たらのえるにお説教されたのは言うまでもないだろう。
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