ゴールデンウィーク温泉旅行記 5

 金閣寺に到着し、ついさっき昼を食べたばかりなのに詩乃を含めた女子全員で和菓子を堪能した。甘味は別腹なのだ。

 小豆の甘さと抹茶のまろやかな甘みをじっくりと、金閣寺を眺めながら堪能した後はあちこちを散策する。

 京都と言えばな清水寺、言うほど銀じゃない銀閣寺、伏見稲荷大社、竹林の道、千本鳥居などなど、定番の京都観光スポットを歩き回りながら、甘味を食べる。


「スイーツめっちゃ食うじゃん」


 そういう空もまた、スイーツを楽しんでいる。


「せっかくの京都なんだから和菓子を堪能しないとね」

「のえるお姉ちゃん、この生八つ橋も美味しいですよ」

「ほんと? 一個いい?」

「どうぞ」


 柚子が買ったチョコ味八つ橋を分けてもらい、美味しそうに食べるのえる。詩乃は柔らかい生八つ橋ではなく、硬い方の八ツ橋を買って硬い触感を味わう。

 フレイヤたちも緑茶や抹茶をとにかく楽しんでおり、イリヤは梅昆布茶に挑戦して、想像していたよりおいしかったのか数パック購入していた。


「今のところ回っている場所って、修学旅行とかで回るような場所ばかりだけど、一度来ていて覚えてても楽しめるものだねー」

「だね。あと修学旅行と言えば、必ず木刀買う奴いるよね」

「あー、いたな。それで先生に見つかって怒られて返品するまでがオチの奴」

「でも五組にいた奴が脇差の木刀を買って鞄に忍ばせて、持ち帰りに成功したって自慢してた」

「持って帰っちゃえばこっちのもんだしね。詩乃ちゃんも何か、剣の形をした、」

「触れないで」


 中学生男子と言えばな、どの観光スポットにもある剣にドラゴンが巻き付いているストラップ。詩乃ももちろんそれを買っており、しばらくしてから恥ずかしくなって机の引き出しの奥の方に封印してある。

 それ以外にも、金と銀の日本刀の形をしたペーパーナイフも買ったが、今時それを使う機会というのはほとんどないので、これもストラップ同様に封印してある。

 ちなみに、アーネストは高身長で筋肉質なイケメンで大人っぽく見えるが、ちゃんと高校生男子で外国人らしく日本刀が好きなようで、休憩のために立ち寄っている茶屋までの道中に、銀の日本刀ペーパーナイフを買ってイリヤに呆れられていた。

 その際の言い訳として、人種こそ違うが自分も健全な男子高校生で、男であれば日本刀にロマンを感じるのは仕方がないと言っていた。


「国が違っても、結局男ってアホなところあるんだね」

「まあまあ。刀は美術品としても非常に価値がありますし、惹かれるのは当然と言うべきでしょう。美桜だって、収集癖はありませんけど刀は好きでしょう?」

「まあね。華奈樹もそうでしょ」

「私の名前の由来が、夢の彼方まで行ってほしいと言うのと、刀のアナグラムですからね」


 刀好きには性別も関係ないらしい。

 そもそも美桜も華奈樹も実家が剣術道場をやっていたり、神社の祭事などで真剣に触れる機会が多く人よりも多く見ているからこそ、日本刀の魅力をよく知っているのだろう。


「華奈樹さんと美桜さんって、本物持ってたりするんですか?」


 気になったので聞いてみる。


「ありますよ。多分、名前だけなら絶対に聞いたことがあるようなものを一つ」

「私のはご先祖様が自分で作った奴だから、絶対に名前は知らないものを、打ち刀と脇差で」

「どっちもすごく気になります」

「私が持っているのは、兼定です」

「兼定!? 和泉守兼定ですよね!?」

「よ、よくご存じで……」

「もしかして、なかごに九字が入ってる九字兼定だったり……?」

「本当によくご存じですね? えぇ、入っていますよ。お父さんがどこかからか調達してきた、正真正銘の和泉守兼定です」


 数百年物の古刀を華奈樹が持っていると知り、超見たいという気持ちが湧いてくる。

 美術館などに行けば必ず日本刀展示コーナーに行くくらいには日本刀が好きだし、いつかは本物に直接触れてみたいと言う気持ちもある。

 何なら持ってみたいが、手続き云々以前に刀が高すぎるし別に剣術や居合をやっているわけじゃないので、持っていても飾るだけになってしまう。刀が好きなのであればそれだけでもいいのだが。


 華奈樹が持っているものが九字兼定だと知って目を輝かせていると、くすりと笑われてしまう。


「な、なんで笑うんですか」

「ふふっ。いいえ、ごめんなさい。ただ、こんなに綺麗な女の子なのにちょっと男の子っぽいなって思っただけです」

「それ私も思った。ふとした時に口調がすごい男の子の時ある」

「そお? 私は特にそうは思わなかったけど。あ、でもちょっと言動だけボーイッシュかな? って感じることはあったかも」


 男の子っぽいと言われてどきりと心臓が跳ねる。ぽいというか元男なので、どうしても素が出てきてしまうことは多々ある。

 特に戦いなどで気分が高揚している時や余裕がない時に、口調や仕草が男に戻るのは自覚している。

 バレたらどうしようとバレないように頬を引きつらせながら「そうなんですね。自分じゃ気付かないこともあるものですね」と言って誤魔化し、のえるに助けの視線を向ける。

 のえるもその件に触れられるのはまずいと分かっているので、必死に言葉を探してくれている。


「あ、あの、美琴さんたちってリアルでも剣術とかをやっているんですよね? その、誰が一番強いとかってあります?」


 ちょっと焦ってしまったのか、なんか変なことを聞いてしまうのえる。何を聞いているんだお前はと目で訴えると、ごめんと返される。


「基本はゲームの中と変わらないかな。華奈樹が一番強くて、美桜が二番目、私が三番目かな。私は剣術よりも薙刀の方が得意だから、どうしても剣術に限れば劣っちゃうのよね」

「薙刀を使わせると、私よりも強いんだよね。ゲーム内だとスキルとかありにすれば、私も華奈樹も敵わないけど」

「あくまで純粋な剣技のみですからね。刀にはいまだに戦技がありませんし」

「ぶっちゃけると、私からすればないほうがやりやすいんですけどね」


 そう言えばこの人たちは、戦技なしの己の純粋な技術のみで戦技ありのアーネスト相手に剣術勝負で勝っているんだったと思い出す。

 戦技ではないのでシステムによる硬直もなく、タイミングが割とシビアな戦技連結に失敗して硬直するかもしれないというリスクもなしに、殺意の高い攻撃を次々と繰り出してくる。想像するだけでゾッとする。


「なんで刀には戦技が最初から付いてないんでしょうね。華奈樹さんが戦技を使えるようになれば、絶対に映えると思うのに」

「で、でも華奈樹さんはないほうがいいって言ってるし、本人もそれでここまで強いから」

「それでも他の武器にはあるのに、刀にだけ初期戦技がないのはちょっと違うと思うの。出血武器と出血属性付きだから、それが強すぎるから何か条件を満たさないとないのかもだけど」


 柚子が言ったように、刀はデフォルトで出血させることができる出血武器だ。

 出血武器と出血属性は別物で、出血武器は斬った時点で徐々に出血してゆっくりとHPが減っていく。

 出血属性は腐敗などと同じで属性蓄積値が切るごとに溜まっていき、最大まで溜まると一気に大量の血が失われて大ダメージが入る。

 刀はデフォルトで出血させられるが、強化などを重ねるか作成する際に素材が十分にあれば、そこに出血属性も付け加えることができる。


 武器として初めからかなり強力であるため、最初から戦技を使えてしまうとみんなそればかりになってしまうことを危惧して、運営は刀戦技を最初から使えるようにするのではなく、何か条件を満たして初めて習得できるようにしたのではないか、という説がプレイヤーの間では一般的だ。


「眉唾だが、掲示板でヒノイズル皇国の霊峰不尽御嶽ふじみたけの麓に侍がいて、それが刀戦技を使っていたという書き込みがあったな。誰もそれを信じてはいなかったが」


 みたらし団子を食べていたアーネストも話に入り込んでくる。

 ヒノイズル皇国は日本をモデルにしており、あちらに住むNPCは全員和服を着ており、衛兵も直剣ではなく刀や薙刀、さすまたなどを持っていると言う。

 刀という武器自体も、FDOの設定上ではヒノイズル皇国から輸出されてきたものとあるので、詩乃の主な活動拠点であるアンブロジアズ魔導王国ではなく本元の皇国に条件があってもおかしくない。

 ただそれだと、一年もやっている美琴たちが刀戦技を取得していないのにちょっと違和感があるが、ゲームとは思えないマップの広さをしているため探索しきれていない場所があり、そこにいるのかもしれないと笑っていた。


 しばらくはグランド関連のクエストは進ませるつもりはないので、活動範囲を広めて美琴たちの拠点であるヒノイズル皇国に行ってもいいかもしれない。というか行きたい。

 美琴曰く、建物全部が純和風で景色も最高で、何より日本と同じく海に面しているだけあって海産物が豊富で、お刺身やお寿司が絶品なのだと言う。

 お刺身もお寿司も大好物な詩乃がそんなのを聞かされたら、もう行くしかないだろうと、今夜から早速ヒノイズル皇国を目指すことにした。


 でも今は、素晴らしき歴史ある街、京都観光が最優先だと八つ橋と一緒に注文した豆大福を齧り、もちもちの触感とほんのりと塩味を感じる小豆の甘さに舌鼓を打った。

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