ゴールデンウィーク温泉旅行記 1

 時間になったのでホームまで行き、新幹線に乗り込んで京都まで向かう。

 今のご時世リニアの方が一般だが、せっかく昔の風景がそのまま残っている京都に行くんだし、新幹線で行って楽しもうと言うことで選んだ。


「やっぱあれだね、リニアと比べると遅いね」

「あれと比較しちゃダメだろ。確かにあっちの方が速いけど、ボクは結構こっちの方が好きだよ」

「なんだかんだでレトロ好きだもんね」

「新幹線って別にレトロって程じゃないだろ」


 窓側の席に座った詩月が、近くは流れるような速さで、遠くはゆっくりと流れていく景色を見つめながら呟いた。

 やはりリニアの方が圧倒的に速いのは詩乃も感じているが、新幹線ならではの楽しみ方というのもある。


「リニアは速く目的地に着くけど、こっちだと移動にじっくり時間がかかるから、移動中も楽しめるのが魅力よね。というわけで、旅行道中の醍醐味のカードゲームとかでもしない? U〇Oとかあるけど」

「また随分懐かしいものをお持ちで……」

「お父さんに聞いたら持ってたのよ。ARトランプもあるよ」


 とんとん、と首につけているデバイスを指先で軽く叩きながら言う美琴。


「じゃあまずはトランプでババ抜きしません? あ、でもあれって最大八人まででしたっけ?」

「カードの数的にそうだねー」


 旅行参加者は、夜見川姉妹、東雲姉弟、美琴、華奈樹、美桜、灯里、ルナ、レオンハート兄妹、フレイヤ、シルヴィアの十三人。五人余ってしまう。


「それなら、残った人数でポーカーでもやっておきます」

「賭け事はいけないですよ」

「安心してください華奈樹さん。賭けるのは手持ちのお菓子です」


 フレイヤが鞄の中を漁り、その中からお菓子が詰め込まれた袋を取り出す。

 一個取り出して見せてくれたが、金貨のように作られたアルミ包装のチョコやちょっとお高めなチョコが入っていた。


「じゃあ私はフレイヤさんたちとポーカーやるね。お姉ちゃんはババ抜きガンバ」

「あのチョコが欲しいだけだろお前」

「普段滅多に食べられないちょっとお高めのがあると知って引き下がれないでしょ。そういうお姉ちゃんだって、甘いもの大好きなのにこっち来ないんだ」

「ポーカーのルール知らん」

「ずっとMMORPGとかFPSばっかだったもんね。今度みっちり教えてあげようか?」

「高い『授業料』を取られそうだからいい」


 さっさとポーカーの方に行けと追い払う。

 ちょっとむすっとした詩月が、詩乃の頬をつんつんと数回突っついてから座席を交換して、フレイヤたちとポーカーを始める。


「さっきはフレイヤに後れを取ったが、ポーカーで巻き返してやる」

「ふふん、やってごらんなさいアーネスト。私はシルヴィ相手にも勝てるんですよ」

「フレイヤはポーカー上手いからねえ。意外と誘導されるのよ」

「兄さん、今度こそこの手のゲームで勝ってやるんだから」

「むっふっふ……。甘いお菓子を前にした私は強いですよ?」


 早速あちらはゲームが開始され、全員真剣な表情になる。特に詩月が、今までにないくらいマジな顔をしている。そんなにあのチョコが欲しいのかと、自分の妹らしい極度の甘党っぷりにくすりと笑う。

 詩乃たちも早速始めようとデバイスを起動し、ババ抜きを始める。

 ちゃんと本物のカードも用意してあるが、揃ったカードを捨てるための台がないので仕方なくこっちでやる形だ。

 旅館に着けばテーブルもあるだろうし、そこでならちゃんとカードを使える。


「そうだ。せっかくだし、負けた人には何か罰ゲームでも付けない?」

「いいじゃない、面白そう。私は華奈樹の恋バナとか是非聞きたい」


 美琴が罰ゲームを付けようと提案すると、すぐに美桜が意地悪な笑みを浮かべながら華奈樹を狙い撃ちする。


「なんで私なんですか!? 浮ついた話なんで一つもないのに!?」


 狙い撃たれた華奈樹が顔を真っ赤にして食いかかる。


「初恋くらいはあるでしょ。あんたからその話聞いたことないし、気になるのよねー」

「み、美桜がそんなことを言うなら、私だって美桜の初恋の話が聞きたいですっ」

「ふふん、望むところ。あ、もちろん美琴が負けたら美琴の初恋だから」

「美桜って意外とそういう恋バナ大好物よね。昌と一緒じゃない」

「恋バナ妖怪の昌と一緒にしないで」


 知らない名前が出てきたが、きっと美琴のクラスメイトか他クラスの友人だろう。

 しかし、初恋話となると非常にまずい。ないわけではないが、人に聞かれたくない内容だ。

 これは絶対に負けられない戦いだと、詩乃はぐっと両手を握って意気込んだ。



「あの流れで俺が負けることってある?」


 長きにわたる激戦の末、最後は詩乃と空の一騎打ちとなり、詩乃の見事な視線誘導によって騙された空がババを抜いてしまい、ギリギリで詩乃が勝利。空がビリとなり、罰ゲームが決定した。


「空くんの初恋とか地味に気になるかも」

「美琴先輩、俺にそんな話があると思います?」

「そんなこと言って。小学生の時にちょっとお熱だった女の子いたじゃん」

「……なんでそれを覚えてる」


 じろりと空がのえるを睨みつける。


「ゲーム以外に割と無関心気味だったあの頃の空にしては珍しく、女の子と仲良くしてたから?」

「あー、あの子か。確か、四年生の時に同じクラスになってもうすぐ進級って頃に引っ越しちゃったんだっけ」

「そうそう! あの時泣きはしなかったけど、空ってば結構寂しがってたわよねー」

「ほほーう、それはそれは。世界大会を制したプロゲーマーくんの初恋、実に気になりますねぇ」

「美琴もなんだかんだで恋バナが大好物じゃん」

「人の初恋話を聞くの、楽しいのよねー。甘酸っぱくて胸がときめくの。それでそれで、どんな子だったのかな?」


 にこーっと満面な笑みで話すように促す美琴。

 空はちょっと話すのを渋っていたが、ババ抜きに参加した女子全員から注目されて居心地が悪くなったのか、長く息を吐いてから口を開く。


「別に、好きって程じゃありませんでしたよ。ただまあ……姉さんの言う通り、ゲームばかりで成績を落とさない程度に勉強ばかりだった時期があって、周りにあまり関心を持てなかったんです。まあ原因は全部詩乃なんですけど」

「なんで!?」

「だって、お前が強すぎるせいであの頃はお前と戦っても面白くねーんだもん。お前のことをいつか絶対に負かすって決めて、上手くなるためにゲーム漬けになったんだから」

「そういや昔そんなこと言ってたっけ」

「そのおかげでプロゲーマーになれて、まだまだ負け越してるけどお前に勝てるようになったし、まあ感謝はしてるよ」


 詩乃は東雲姉弟よりちょっと早めにゲームデビューをしていたこともあり、その分アドバンテージがあった。

 最初のゲームがあの毒沼大好きな死にゲーだったこともあって、相手の動きをよく観察して、先を予測するを早い段階で知ったのでそれも起因するだろう。


「いいライバル関係ねー。それで、続きをどうぞ」

「意地でも最後まで聞く気じゃないですか……。まあ、あまりにも俺に構ってくるもんだから話し始めたら、その子も実は結構なゲーム好きで、こいつに勝つためにやり込んでたゲームの息抜きにちまちまやってたRPGをやってたのもあって、それで少し仲よくなって、その子が自分の友達も巻き込んで俺に話しかけてくるようになって、あまり一つに固執しすぎちゃいけないんだなってわからせてくれて。好意、とまでは行きませんけど、視野を広くしてくれたことに感謝はしています」

「いい話ねー。どこに引っ越したのかは分かるの?」

「その子の父親が外資系に努めてて、アメリカに転勤することになってそのまま一緒に。ゲーム上手かったし、プロゲーマーになりたいって言ってたからもしかしたら今回の大会にいるんじゃないかって期待はしましたけど、結局いませんでしたね」

「外資系かー。転勤多いっていうもんね」

「今までは日本国内の転勤で、その子の父親だけが単身赴任みたいな形で済んでましたけど、流石にアメリカ行きはそうはいかなかったようで。……というわけで俺の話はおしまい。何の面白みもなかったでしょう?」

「どう感じるかは聞き手次第よ。少なくとも私は楽しめたわ」

「さいで」


 空が一時期躍起になって詩乃が当時一番やり込んでいたゲームにのめり込んでいたのを知っているし、急に大人しくなってそれまでより勝ちに固執することもなくなった。

 何が原因だったのだろうと思っていたが、そのようなことがあったのかとちょっとニマニマしてしまう。

 そう言えば、転校してしまったその女子生徒、クラスの中では特に空に話しかけていた。


「あんだよ」

「別にぃ」

「その顔は別にの顔じゃない。強制ホラー映画鑑賞会されたくなければキリキリ吐け」

「のえるヘルプ!」

「空、詩乃ちゃんはホラーよわよわなんだから、そういう意地悪しないの」


 のえるに助けを求めると、すぐに援護してくれる。そんな彼女の目もホラーを見てガチビビりしている詩乃が見たいと物語っているが、最近エンドレス吸血という手痛い反撃を受けているためか大人しくしている。


「やっぱり姉さんは詩乃に甘すぎる」

「可愛い幼馴染は甘やかしたいの」

「甘すぎるのはよくないぞ」

「ん? そっち終わった?」

「あぁ、終わった……シズちゃん、君一人勝ちした?」

「ぶい」


 もぐもぐとチョコを食べているシズを見て、空がちょっと呆れる。

 詩乃もなんで一人勝ちしてんだこいつと思いながらフレイヤたちを見ると、負けたのが悔しいのかあるいは負けると思っていなかったのか、意気消沈していた。

 なんか隣が賑やかだとは思っていたが、こんなことになっていたのかと苦笑いする。


 チョコはまだあるので、メンバーを変えて詩乃、美琴、のえる、美桜が入れ替わり、フレイヤは引き続きポーカーに残った。


「今度こそは勝ちます。あ、詩乃さんはルールを知らないんですよね。軽く説明しておきますね」

「お願いします」


 ルールを知らないのでフレイヤから軽く説明を受けてからゲームを始める。

 初めてのポーカーなので、説明を受けてもどうすればいいのか分からずにおろおろしたが、ビギナーズラックなのか最後の最後でひっくり返してぼろ勝ちして、再びフレイヤを意気消沈させてしまった。

 なんだか申し訳なかったので、商品として受け取ったチョコを一つ、フレイヤに「あーん」して食べさせてあげた。

 その後でのえるもそれをしてほしいと言ってきたのは、言うまでもないだろう。


===

野郎の恋バナなんかじゃなくて、TS化したことで百合になった詩乃ちゃんの話しを聞かせて書かせてくれよぉ!?

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