蒼穹を駆ける金色の星に慈愛の怒りの贈り物を 12

 ゴルドフレイにキルされたプレイヤーたちが戻って来るまでに、少人数でも頑張ってHPを減らしておこうと猛攻を仕掛ける。

 特にDPSチェックは突破しておかないと確実に死ぬので、逆鱗攻撃は必須だ。

 まだ確定したわけではないが逆鱗を砕いておけば、鱗で弱点なのだからその下にある守られている部分も当然弱点。それを直接狙いに行けるようになるので、やっておいて損はない、はずだ。


 ヨミたちが全力で顔の周りをうろつきながら誰か一人が必ずヘイトを買い、その間に他が大火力を叩き込む。

 それを何度も繰り返してステラから意識が外れたところで、エマに抱えられて高速影潜り移動を繰り返しているステラに、アスカロンをぶっぱしてもらって着実にHPを削っていく。

 ステラは今MPの消費を気にせずに済んでいるので、ひたすら最大火力を連発している。それも手伝って、キルされたプレイヤーたちが山を登ってくるまでの一時間弱の間に、ゴルドフレイのHPバーは残り五本程度にまで減らせている。


「よっしゃ戻って来たぞー!」

「ヨミちゃん王女様見てて! 今からこいつをぶちのめしてやるから!」

「あ、お前抜け駆けすんなよ!? 俺だってヨミちゃんと王女様に褒められたいんだよ!」

「超絶頑張ったご褒美に何かしてほしいなあー!?」

「ちっちゃ可愛いヨミちゃんをギューってしたい!」

「ヨミちゃん、あとで膝枕してほしいな?」

「どさくさに紛れて何言ってんのさノエル」


 戻って来たプレイヤーたちが、ゴルドフレイの残りHPを見て決着が大分近いと悟って、やる気が急激に上昇していくのが分かる。

 男性プレイヤーはヨミやステラ、ノエルに褒めてもらいたいだのよしよしと頭を撫でてほしいだの欲を隠そうとすらしておらず、一部女性プレイヤーもヨミを抱きしめたいとのたまっており、ノエルもどさくさに紛れて要求してくる。


 男性プレイヤーや女性プレイヤーの要求は無視するとして、ノエルはなんでこんな状況でそんなことを言っているのだろうか。まずはノエルから、増血魔術を併用しながら満足するまでエンドレス吸血をするつもりであることを忘れているのだろうか。

 しかしまあ、吸血行為は相手に負担がかかるので終わった後でならしてやってもいいかと、自分の太い太ももに触れながらノエルへのご褒美を考える。


 プレイヤーたちが戻ってきたのでまた役割を分担しつつ、ヨミ、美琴、フレイヤ、リタ、アーネスト、クルル、リオンの火力組メインアタッカーが逆鱗を狙うため、他のプレイヤーたちは防御が剥がれている胴体や尻尾、足を狙って攻撃をする。


『たかが……たかが数百程度の羽虫如きに、何故この私がここまで……!?』

「ボク等のことを手に取るに値しない雑魚だって、見下し続けて油断してくれたおかげだね! ありがとうね、金ぴかトカゲくん!」


 斬赫爪に背中のパーツを全て接続して、無理やり巨大ハンマー形態に変えてからフルスイングで顔面を狙う。

 ガゴォンッ! という鈍い音を立てて殴りつけるが、硬い鱗に防がれてしまう。なのでエネルギーを消費して接地面から強烈な雷を叩き込んで、リタに奪われた左目に雷撃が当たり悲鳴を上げて後ろに下がって逃げようとする。


「ちぇすとおおおおおおおおおおおおおお!!」

『ぬおぉ!?』


 『雷禍の王鎧』を使って超速突進してきたノエルがヨミと入れ替わり、ヨミが殴りつけた場所と寸分たがわぬところに『雷霆の鉄槌ミョルニル』を叩き込んで、顔面の左側の鱗を破壊する。


「『ウェポンアウェイク』───『雷轟殲弾エヒトラーク』!」


 シエルがグランドウェポンボルテロイドの固有戦技を発動し、MPのほとんどを消費して防御を無視する雷の凶弾を鱗の砕けた顔にぶち込む。

 防御が張られていない、砕けて脆くなっている弱点部位に防御無視の一撃を入れたため、大ダメージを受けてHPが大きく減少。あともう少しで残り四本というところで、また牽制するように隕石を落としてきてそれが地面に残り、金剛隕星雨唯一の回避方法であるそれを破壊されないようにと、少なくなりつつあるMPを振り絞ってヨミたちが火力で攻める。


「『ウェポンアウェイク・全放出フルバースト』───『雷霆ケラウノス脚撃ヴォーダン』!」


 地面に残る隕石に当たらないように立ち回りながら、機関銃のように放ってくるブレスを全速力で前に進みながら回避して、ヨミ以上の速度で機械の翼を使い飛翔していったフレイヤが下顎にガンランスを押し付けて、自壊するほどの威力の爆撃をかまして顔を上にかち上げる。

 そこにヨミが影の鎖を伸ばして太い首に巻き付け、巻き取りながら高速移動してその勢いをたっぷりと乗せた脚撃を叩き込み、特大のダメージを入れる。

 十五本目のHPバーが消滅し、十六本目も六割が一気に削れ、ビシッと逆鱗に亀裂が入る。


 もう一発、純粋な自分の筋力で蹴ってやろうとしたが、影の鎖を噛みちぎられて下に落ち、ゴルドフレイはエネルギーを噴射して空に飛んで行ってしまう。

 巨大な魔法陣が出現し、無数の隕石が落下してくる。

 この攻撃はエマにとってはトラウマそのものだろう。大丈夫かと探すと、やや離れた場所にある隕石の後ろに隠れていた。

 ステラに抱き着き体を震わせているので、やはりこの攻撃は彼女のトラウマを大きく刺激しているようだが、これがあると分かっていながらもここに来てくれたことに感謝しないといけない。


 全身に響く衝撃と聴覚が一時的に機能しなくなるほどの轟音が長く続く。いつまで続くのだろうかと毎回心の中で文句を零し、やっと解放される。

 キーン……、という耳鳴りがして体が少し痺れているような感じがするが、もう何度も経験すればなれたものだ。

 安否確認を任せて素早くエマとステラのところに移動して、二人の状態を確認する。


「二人とも、大丈夫?」

「私は平気です。ですが、エマ様が……」


 ステラにきつく抱き着いているエマは、体を激しく振るわせている。よく聞けば呼吸もかなり乱れて過呼吸気味になっており、とてもまともには見えない。

 身を守る隕石の壁はなくなっているので、このままではまとめて死んでしまうと判断し、二人を担ぎ上げて後方まで移動する。


「は、はは……、な、情けない、な……。じ、じぶ、自分、からここ、に、出て来たくせに……、い、いざまた、あ、あの、あの隕石の雨を見る、と……、体が……」


 ゆっくりと顔を上げたエマは、歯をがちがちと打ち鳴らしながら途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

 故郷が滅ぼされ家族を失った瞬間がフラッシュバックしているのか、瞳は恐怖に染まり切っており、涙がぼろぼろと零れている。

 来てくれたのは非常に助かったが、タイミングがあまりにも酷かった。もしステラがゴルドフレイに攻撃するのがもう少し後、金剛隕星雨の後であればエマは至近距離で、自分の体であの隕石の雨を轟音と衝撃を感じることもなかったかもしれない。


 過ぎたことは仕方がないし、あんなことを聞かされて怒らないほうが無理があるので責めることもなく、エマを胸に抱き寄せて頭を撫でて慰める。

 胸に抱き寄せられたエマは幼子が甘えるように抱き着き返してきて、気持ちを落ち着かせるために深く呼吸を繰り返す。


「……平時であれば、体が火照り汗の滲んだお姉様の匂いを堪能しただろうが、そんな余裕もないな」

「平時でもそんなことはしてほしくないけどね」


 こつん、と軽く握った拳を軽く頭に落とす。

 シェリア含めオペレーター役を務めてくれている亡霊の弾丸のオペレーターたちが指示を出しているのか、ゴルドフレイがこちらに来るのをプレイヤーたちが防いでくれている。

 中にはほんのちょっとだけでもと、振り返ってエマがヨミに甘えるように抱き着いているのを目に収めようとしているプレイヤーもいるが、鋭い叱責でも飛んでくるのかすぐに前を向く。

 忘れかけていた配信の方のコメント欄を見ると、戦いに集中しなければいけないプレイヤーと違い、自分たちは存分に堪能できるという旨のコメントがいくつもあり、こんな状況でも相変わらずだなと苦笑する。


「ほんと、男ってバカだよね」


 かつてはそのバカな男サイドにいたために、気持ちが理解できてしまうのが悔しい。

 数分間エマを宥めていると、大分落ち着いたのか震えがなくなって来た。


「ありがとう、お姉様。大分落ち着いた」

「それはよかった。トラウマがあるのに来てくれたから、ご褒美とかあげないとね」

「ならお姉様の膝枕を所望するぞ」

「エマまでぇ……?」


 そんなに自分の太ももがいいのかと、左手で自分の太もものお肉をちょっと摘まむ。

 リアルでも、ノエルと一緒にお風呂に入っている時にいきなり触られたりすることがあるし、クラスの男子に限らず学校の男子から結構な頻度で視線を頂戴しているが、ヨミ当人からすれば太ももだけ太いのはちょっとコンプレックスだ。

 太ももが太いと必然的にお尻も大きく、小柄なこの体にはちょっとアンバランスな感じがある。女の子になった当初は、大きなお尻と太い太ももに密かにちょっと興奮したりしたが、今となってはせめて胸ももう少し大きくあってほしいと思っている。


「行けそう?」

「まだ、怖いが、何とか」

「そっか。……ボクは誰かを失うって経験はないから上手くは言えないけど、復讐したい相手がそこにいても身をそれで焦がすんじゃなくて、気軽に復讐したほうがいいかななんて思ってる」

「……ぷっ。なんだそれは」

「ボクも何言ってるのかよく分かんないや。でも、復讐一つに全部取りつかれちゃうより、もっと気楽に構えていた方が多分楽になるかもよって話。……やっぱり何言ってるのか分かんないや」


 上手く言葉が出てこないが、仇だからとか復讐の相手だとか強く考えすぎるのはいけないと言うことだ。

 だからと気軽に考えすぎるのもよくないので、ほどほどに怒りや復讐心を持っていた方がいいと言う、昔何かの漫画で読んだ内容の受け売りみたいなものだ。


「ははは! 気軽に復讐、か。……うん、そうだな。お父様も、私が復讐に強く囚われすぎるのをよく思わないだろう。これはステラにも当てはまりそうだな?」

「そうですね。エマほどすんなりと受け入れられそうにはありませんけど」

「言うな? ここ最近のお前のお姉様へのジェラシー具合をここで暴露してやろうか?」

「こ、こんなところでなんてことを言うんですか!? それを言うなら、あなたが夜な夜なヨミ様の名前を───」

「わああああああああああああああああ!? 悪かった、私が悪かったからそれは言うな!?」


 分かりたくはなかったが、エマが何をしているのかを察してしまい顔が猛烈に熱くなる。

 いわゆる「そういう目」で見られていてかなり驚いたが、普段のあのべったり具合を考えればそういうことをしていてもおかしくはない。

 しかし流石に「お供」にされていると知って恥ずかしさが尋常じゃないので、そっとエマから離れる。


「ま、待って! 待ってくれお姉様! 弁解を! 弁解させてくれ!」

「それは後で! いつまでも他の人たちにあれを任せっきりにするわけにはいかないでしょ! ほら行くよ」

「ぐぅうううううううううう!? お、覚えてろよステラ!?」


 顔を真っ赤に染め、目をぐるぐるとさせて涙をたっぷりと目尻にたたえたエマが、ビシッと指をさしながらそんな捨てセリフと共にヨミの後を追いかけてくる。

 頭の中にステラが大暴露してしまったことがずっと反芻しているが、余計なノイズだと頭の中から締め出して、エマには武器がないので斬赫爪からブリッツグライフェンの接続パーツを外して、斬赫爪を貸す。


「バーンロットの左腕からできた武器だよ! 多分本体じゃないからグランドウェポンの成りそこないみたいなものだけど、耐久値と性能は保証する! 固有戦技は『緋色の敗爪スカーロット』だ! 使いすぎると自分も腐敗状態になるから気を付けてね!」

「承知した! ……改めて、お姉様って本当にすごいんだな」

「バーンロットに関してはほぼ成り行きだったけどね。死に戻りしたくないからあがいたら生き残っちゃった」

「十分誇れることだぞ。本体じゃなくとも、王相手に生還できているんだ。それだけっで掛け値なしの賞賛ものだ」

「それじゃあ、今度エマが盛大に褒めてよ」

「いいぞ。とろっとろになるまで甘やかして進ぜよう」

「……さっきの暴露のせいで違う意味に聞こえちゃうのはボクのせいじゃないと思う」

「忘れてくれっ。年上のお姉さんとして年下を甘やかしてやると言う意味だっ」


 自分から掘り返してしまい、揃って赤面する。

 こんな二人に、ゴルドフレイから空気を読んで場所を考えろと言わんばかりのブレスが飛んできたので、エマは影に潜って逃げてヨミはブリッツグライフェンを盾にして、後方にいるステラと魔術師組を守るように構える。

 タンクスキルなどないので、エネルギー全消費で防御力を底上げしてから無理やり防ぎきり、削れたHPは自然回復に任せて大鎌に切り替えてから、少し離れた場所にいるエマとアイコンタクトを取り、こくりと頷いてから各々で行動を開始する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る