蒼穹を駆ける金色の星に慈愛の怒りの贈り物を 10
メモ帳アプリに書き込んで保存してたはずの固有戦技付き武器一覧表がなぜか消滅して絶望しているの巻
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いつもよりも強く踏み込んだ。それでも自分で制御できる程度の速度だと思っていたのだが、想像以上の加速度を得て危うくゴルドフレイと正面衝突しそうになる。
持ち前の反射速度でどうにか回避しながら、曲芸染みた体捌きで体を空中で捻りながら防御の剥がれている金色の体に大鎌を叩きつける。
『貴様が、我が愚弟のアンボルトを殺し、我らが長兄である赫の兄者に実力を認められた吸血鬼か。小さき体をしておきながらよくやるものだな!』
「そういうお前は、随分とバーンロットに怯えているみたいじゃないか。昔においたして、折檻されたのがトラウマになってるのか? 随分と情けない空の王者様だなあ!? 腑抜けの王様の方がお似合いじゃないか!?」
『何をふざけたことを! 空の王の名は竜神様より賜ったものだ! それを貴様のような弱小で矮小なものが勝手に変えることなど許されぬぞ!』
「あぁ、そうかい! それじゃあ親離れできないマザコンの王様だな!」
『貴様ァアアアアアアアアアアアア!?』
激高したゴルドフレイがヨミを丸呑みしようと大きく口を上げてくるが、怨嗟ゲージが残り五割なのでブレスは使えないが、一発強烈なのをぶちかます程度はできるので口の中に雷をぶっこむ。
どれだけ体が硬くても、体の中まで硬いことはあり得ない。第一、体表が硬いと言うことはその内部は脆いと言っているようなものだ。
至近距離で雷撃を撃ち込まれて悲鳴を上げたゴルドフレイは顔を左右に振って痛みにもがき、背中のパーツを集めてブーツにして顔面を思い切り蹴り抜く。
顔が左に弾かれずずん、とたたらを踏んでじろりと睨みつけてくるが、反対側から高速接近してきた全身に雷をまとうノエルが怒りに任せたフルスイングを叩き込んで顔が右に弾けて再びたたらを踏む。
今までに見たことがないくらい怒った表情をしており、余程ゴルドフレイのことが許せないらしい。
「あなたの……あなたのせいで、ステラちゃんがどれだけ辛い思いをしたと思っているの!? そんな理不尽で自分勝手な理由で、幸せな生活を全て奪われて! どれだけ大変な思いをしたか! どれだけ辛くて悲しい思いをしたか!」
ゴルドフレイ戦のためにクロムに頼んで作ってもらった、アンボルトフル装備。頭装備から足装備まで、全身がグランド装備となっているノエルには、超短期決戦用の防具一式固有戦技がある。
少なすぎるMPではなくHPを消費することでただでさえ高い筋力を雷で強化し、全ての攻撃に強力な雷ダメージが追加される『雷禍の王鎧』。ノエルのHP量だと、通常時で一分程度しか使えない。
回復ポーションをがぶ飲みして回復し続けていても減る量の方が多いので、それでも一分半しか持たないが、ここにはフィールド全体を俯瞰してプレイヤーのHPやMPを管理しているシェリアがいる。
すさまじい速度でHPが減っていくノエルを見てすぐにヒーラーに指示を出したのか、体に雷をまとわせるノエルに回復エフェクトが発生する。
なおも消耗速度が勝っているのでヒーラーがやや混乱してそうだが、他のヒーラーも加わったのか減る量と回復量のつり合いが取れてプラマイゼロになる。
「ステラちゃんのお父さんが、どれだけ自分の娘の成長を見たかったか分かる!? ステラちゃんが幸せになっていく自分をどれだけお父さんに見せたかったか分かる!? ステラさんのお父さんが、どれだけ自分の国が豊かに、平和になっていくのか見たかったのか分かる!? あなたはそれを理不尽に奪った! 自分勝手な理由で、とても理解できない酷すぎる理由で、何もかもを奪った! 私は、それが絶対に許せない!」
『貴様のような矮小な人間なぞに許されなくてもよいわ! 私を許す許さないを決めるのは竜神様と赫の兄者のみ! 貴様ら人間は、我ら王によって裁かれる側なのだ!』
ノエルの怒りの声に、ゴルドフレイが怒りのブレスをもって返す。
ノエルはそれをもはや制御不能なレベルにまで到達しているSTRを全開にして横に跳んで回避し、制御度外視に直線的な動きで接近する。
あまりにも制御ができないからと、ヨミも手伝って思考加速系のスキルを習得しておりそれをノエルは併用しているはずなのだが、それでも追い付かないほどの速度を出しているようだ。
極太のレーザーのようなブレスの後に、機関銃のように連射してくるブレスを直線行動で回避し、時にはシュラークゼーゲンの『
そんな直線的な行動は読めているぞとカウンター攻撃をしようと前脚を大きく振り上げるが、ノエルは背後に回り込むような動きなどをせずただ真っすぐ直進するために、強く踏み込む。
ノエルの鍛錬に付き合ったのでよく知っているが、固有戦技『雷禍の王鎧』発動中一定以上の強さで踏み込みを行うと、前方に向かって電磁加速用のレールが敷かれてノエル自身を砲弾として射出すると言う機能が付いている。
なんでそんなもんを付けたんだとクロムに聞くと、ノエルの筋力の高さに音速以上の突進が合わさればすさまじい火力を叩き出すロマン砲になるからと返された。
タイミングがずれれば大したダメージも出ないそれだが、幸いノエルは思考加速スキルを有しているため辛うじて反応できるようになっており、音を置き去りにして飛び出したノエルのシュラークゼーゲンがゴルドフレイの首元に命中し、大きく仰け反らせる。
今彼女は逆鱗の近くにおりノエルもそこが見えているので、雷霆の鉄槌を発動させて攻撃を仕掛けようとするが、ゴルドフレイは逃れようと尻尾からエネルギーを噴射し始める。
少しでもダメージを入れなければまた時間稼ぎをされてしまう。そう思い影に潜って接近しようとするが、とんでもない火力の光の奔流が流れていき、尻尾を攻撃してエネルギー噴射を強制的に止めさせる。
ぱっと見ると、アーネストが真顔でアロンダイトを振り抜いた体勢で立っており、彼も当然奴を許すつもりがないらしい。
噴射を止めたせいでノエルの攻撃が間に合い、逆鱗に強烈な物理と雷のダブルパンチが叩き込まれる。
HPバーがゴリゴリと削れ、十一本目がなくなり十二本目を四割ほど削る。
たまらず再びエネルギーを噴射して、牽制するように隕石を落としてくるが全員それをかろうじて回避し、魔術師組が空間凍結魔術でゴルドフレイに飛ばれる前に縛り付ける。
「諸願七雷・四紋───御雷一閃!」
背中に展開していた五つの一つ巴紋のうち四つを合わせて四つ金輪巴紋にした美琴が、槍ではなく雷を圧縮して作る彼女のスキルで作成した陰打で抜刀術を放ち、フィールドに特大の裂傷を刻み込む。
美琴の持つ火力技で大ダメージを入れることができるが、エネルギーによる防御がなくても鱗が非常に硬いためか、大きな切り傷を入れるだけに留まった。
『ヨミちゃん、左に避けて!』
「え、っ!?」
美琴の入れた傷に追撃を入れようとした瞬間、シェリアから鋭い指示が入ったので反射的にそれに応じて左に跳ぶ。
直後にすさまじい威力の銀光の斬撃が通過していき、晒されている傷に直撃する。
アーネストのアロンダイトは白い光の奔流なので違う。他に知っている、光の斬撃を放つ武器と言えば、何でも自作してしまうフレイヤを除けば一人しか知らない。
『そうか、あの時の何もできずに泣き喚いていただけの小娘か』
「全員、ステラさんを死守しろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
ヨミたちのグランドウェポンを除けば最高倍率の竜特効を持つ、アスカロンによる一撃。それを放てるのは、アスカロンの所有者であるステラだけだ。
身をもってアスカロンの威力を知ったゴルドフレイは、じろりとステラの方を向いてエネルギーを翼の付け根と尻尾の噴射孔から噴射し、彼女の方に向かおうとする。
それに気付いたヨミが怒鳴るような指示を出すよりも早く、ほとんどのプレイヤーがステラを守ろうと集合し始める。
タンクは防御の要。『クイックドライブ』で移動できるタンクは真っ先にステラの周辺に集まり、その前に少しでも王の突進の速度を削げるようにとプレイヤーが集まっていき、剣を、弓を、鈍器を、銃器を、杖を構えて迎撃態勢を取る。
アタッカーもタンクもヒーラーも全部兼業できるフレイヤが、持ちうる最高の性能であろう防御特化魔導兵装をいくつも展開して、ほとんどを破壊されながらもギリギリのところで止める。
しかし結界で止められながらもなおエネルギーを噴射したまま、ブレスを放って最後の防御を破壊してフレイヤの右半身を抉ってしまう。
クリティカルにはならずに済んだが行動ができなくなり、地面に倒れて抜かされる。
アーネストが全力でアロンダイトを使って迎撃しようとするが、ダメージを受けつつそのまま突破され、美琴もカナタもサクラもどうしようもできずに蹴散らされる。
術師組が魔術を使い、ダビデが空間凍結を使って数秒間の足止めをするが、逆鱗に攻撃を入れても見向きもせずに凍結解除されたらステラに向かい続ける。
数百名ものプレイヤーによる妨害も空しく、ほとんど勢いを殺せぬままにタンクたちと衝突する。
遅れてヨミが追い付いて少しでも軌道を上にずらそうと少ないエネルギーを全消費して、『
まずいと焦りが生じ始め、突然片方の翼の根元のエネルギーの噴射を止めて高速回転攻撃をされたことに反応できず、直撃して即死してしまう。
ステラは絶対に死なせるわけにはいかないんだと手を伸ばすが、システムという絶対によって数秒間死が与えられてしまうため、届かない。
必死にゴルドフレイの攻撃を堪えていたタンクたちの防御も亀裂が入り、いよいよ限界だと一人が振り返って逃がそうとするが遅く、完全に破壊されてしまう。
アンボルト戦でNPCが数十人も死んでしまい、辛い思いをした。でもほとんど知らない人たちだったから、辛いけどそこまで深刻なことにはならなかった。
だがステラは、長いこと一緒に過ごした。ただの女の子らしい一面をたくさん見せてくれて、自分にも心を開いてくれて、それが嬉しくてより親密になろうと努力した。
今ではエマほどではないがヨミに懐いてくれている。そんな、アルマとアリアと並ぶほど好きになったステラが、理不尽に殺されそうになっている。
「ステラあああああああああああああああああああ!?」
ストックを消費して復活し、急いで起き上がり叫びながら走るが、金色の王はステラがいる場所を通過していってしまった。
目の前で、大切な友達を死なせてしまった。そのショックがあまりにも大きくて膝から崩れ落ちてしまい、じわりと両目に涙が浮かぶ。
「こんなことなら……無理にでも置いて来れば……」
あの時の選択を間違えた。正しい選択をしていれば、彼女は生き残れたはずなのにとうつむいてしまう。
『ショートストーリークエスト:【金色より祖国を追われし小さな星と大きな愛】が更新されました』
『ショートストーリークエスト:【心折れた夜の姫は、愛を胸に立ち上がる】が発生しました』
『ショートストーリークエスト:【心折れた夜の姫は、愛を胸に立ち上がる】が更新されました』
立て続けに正面にウィンドウが表示される。何をいまさらと流そうとしたが、一番最初に表示されたウィンドウに書かれたクエスト名は、ステラが関連しているものだ。
「あの強いお姉様らしくないな。そういう弱い姿も中々にそそるものがあるが」
聞き慣れた声がした。ここにいるはずのない、自分のことをお姉様と呼び慕っている女の子の声が。
ぱっと顔を上げると、背中から大きなコウモリの翼を生やし、ステラを横抱きにしたエマがそこにいた。
「エマ!」
「おっと、何故ここに、なんて聞かないでくれたまえ。ギリギリのギリギリまで金色の王に怯え、恐怖して動けなくて泣いていたような泣き虫な小娘なんだ。大層な理由なんてないし、未だ心折れたままだが……愛しのお姉様が理不尽に立ち向かっているんだ。なら、姉妹の契りを交わし妹となった私が立ち上がらずしてどうすると思ってな」
別にそんな姉妹の契りなんて交わした記憶もないのだが、今はそれはどうでもいい。
ステラが無事である。それが一番大事なことだ。
「わっ」
「お、お姉様、こんな場所で……」
ステラが地面に降ろされるとほぼ同時に二人に抱き着く。
ステラは一瞬驚いたように小さく声を上げてからそっと抱き返してくれて、エマは顔を赤くして何か変なことを想像したのか体をくねらせる。
「よかった……よかった……!」
「ヨミ様、ごめんなさい。私があんな行動を取らなければ、いらぬ心配をかけずに済んだのに……」
「全くだぞ、ステラ。私が間に合ったからどうにかなったが、私が間に合わなかったらどうするつもりだったのだ。お前が死んだら、お姉様が悲しむに決まっているだろう」
「そうですね。のちにいかなる処罰も受けます。ですので、どうかこの戦いにほんの少しだけでも、助力させてください」
「……ダメって言っても、やるんでしょ、どうせ」
二人から離れて、目尻に溜まった涙をぬぐいながら言う。ステラもちょっと困ったような笑みを浮かべながら、こくりと頷く。
「タンクたちからは絶対に離れないで。攻撃のタイミングはこっちで指示する。フレイヤさんが魔力を肩代わりする魔導兵装を持っているから、それを受け取って最大火力でアスカロンを使って」
「わ、分かりました」
「エマはまずはタンクが来るまでステラさんを守って。タンク衆が集まってきたら彼らに預けてから、ボクと一緒に来て。命のストックはいくつある?」
「ざっと十五と言ったところか」
「十五!? ボクの最大数よりも五個も多い……」
「生き続けた年月の差だな。そのうちお姉様も増えると思うぞ」
本当にそうなのだろうかと思うが、今はそんなことを気にしている余裕はないので一旦頭の隅に追いやり、エマに頼んでステラを預ける。
驚くことに、エマはステラを抱えたまま影の中に潜って退避していき、何か秘密があるのだろうかと今度色々と確かめてみることにする。
かかっていた諸々のバフが全て切れているので全部かけ直し、十秒チャージ血液パックを飲んで吸血バフを受け取り、戻って来たゴルドフレイに向かって相棒の斬赫爪を持って走り出す。
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ゴルドフレイ編が終わったら週に三回更新(土日と水曜)に変わります。
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