蒼穹を駆ける金色の星に慈愛の怒りの贈り物を 9
アンボルトの力をまとった斬赫爪はかなりの重量となり、筋力がかなり高いヨミでも少し武器に振り回されてしまうほどだ。
重量武器はそれだけでもロマンだし、お決まりで怪獣のような巨大生物には有効だからとやってみたが、確かにこの重量武器は有効だ。
また防御が張られてしまっておりダメージの通りが著しく悪くなっているが、それでも重量級なのも相まって比較的いいダメージを出している。
ヨミに傷を付けられたことが気に食わないのか斬赫爪を持って接近して攻撃しても、最初の時のように怯えてしまうと言うことがなくなっている。
竜王がバカみたいに怯えている様というのは見ていて面白かったので、もっとそういうのを見たかったので少し残念だ。
「なんか随分とデカい武器になっているなあ!? どうしてそれを私との戦いで使ってくれなかった!?」
「こんなデカくて重くて振りが遅くなる奴で、お前みたいな奴との一騎打ちで使えるかバカ!?」
「それもそうだな! だが今度バトレイドでそれで私と戦え!」
「だが断る!」
こんな時にまで何を言っているんだとアーネストに呆れた目を向けると、向こうも何を言っているんだと言っているような目を向けて来た。
「なんだよその目」
「私と同類なのに戦いたくないのか」
「こんな時にまで自分の欲を出すなっつってんの。それどころじゃないんだから、ちょっとは自分の欲を隠せよ」
「ふっ、無理な相談だな」
「決め顔で何言ってんの」
なんでこんなで女性人気が高いのだろうか、やはり顔なのかとちょっぴり嫉妬を覚える。
もはやヨミは女性ではなく男性から好意を向けられる側になったので、どれだけアーネストのイケメンフェイスに嫉妬してもどうしようもないが、それでもやっぱり男だった頃は背が高くて筋肉質なイケメンになりたかった。
自分も戦場で何を考えているんだと余計なノイズを頭の中から追い出して、エネルギー噴射で飛んできたゴルドフレイをギリギリで回避しながら、カウンターで大鎌で撫でつけておく。
あの巨体が自ら進む強烈な力と、大鎌の強い引き裂く力を合わせて腹の部分の鱗を引き裂こうとしたが、引っかかって連れて行かれそうになったので即座に接続パーツを分解して事なきを得る。
すぐに斬赫爪にまとい直してから踵を返し、シエルがフレイヤから離れて行動している大盾を持った男性フォルムの人形『
地面に墜落してもんどりうたないようにと減速したところに、フレイヤが光をまとって滅竜魔弾が着弾したところに向かってすさまじい速度で飛んできて巨大ランスを突き刺し、何かギミックを作動させたのか砲撃のような爆音が響き、王を地面に叩きつける。
盾と剣の変形する武器とか斧と剣の変形する武器とか、明らかに名作狩猟ゲームの影響を受けているなと、彼女の使ったガンランスを見て苦笑する。
「首の後ろの鱗を砕きました! ノエルさんお願いします!」
「まっかせてー!」
地面に降りたフレイヤが大きな十字架の形の魔導兵装を突き刺して、空間凍結を起動。ゴルドフレイを空間ごとその場に縫い留めて、数秒間の隙を生み出す。
脳筋女騎士ノエルが全力で走っていき、そんな彼女を追い抜くように一発の電磁加速された弾丸が軌道を変えながら飛翔していき、逆鱗を攻撃して防御を引き剥がそうとして当たり所が悪かったのか、亀裂が入るような音が鳴るだけで剥がせなかった。
これではノエルの攻撃が有効打にならないと影に潜って高速移動し、ゴルドフレイの巨大な影から飛び出て太い首に鎖を巻き付け、巻き取りながら接近して大鎌形態のブリッツグライフェンと斬赫爪の固有戦技を同時に起動する。
「『ウェポンアウェイク・
ブリッツグライフェン大鎌形態のフルバースト、エネルギーを使うことで雷版暗影魔術の極大魔術『イクリプスデスサイズ』を発動し、その上に赫い腐敗をまとわせる。
極大魔術と同じで単発の攻撃で、王の力を使っていることもあり非常に強力だ。
それを逆鱗に叩き込むと、ガラスが砕けるような音が響かせながら大ダメージを受け、大火力であることもありHPバーが一気に減って残り九本に突入して、それも二割削れる。
防御が剥がれると同時にノエルの特大雷メイスが叩き込まれて更に減少。自分の周りにまとわりつく小さな人影たちを振り払おうとするが、アーネストがアロンダイトで光の斬撃を放って注意をヨミたちから剥がす。
美琴が背中に六つの一つ巴紋を出しながら、強烈な落雷攻撃を仕掛けて時間を稼ぎ、フレイヤが複数の魔導兵装を連結させることで巨大な固定砲台を形成。バチバチとエネルギーをチャージしてから地面にアンカーを射出して固定し、
秒速二キロ、マッハ七ほどの弾速で叩き込まれた砲弾はゴルドフレイの鱗を砕き、その下の肉を露出させる。
「ようやく顔を見せてくれたな!」
鱗が砕かれ堅固な防御が剥がれた箇所に、護国の王に地面に降ろしてもらったシエルが滅竜魔弾を撃ち込み、大ダメージを入れる。
動きを封じられ、逆鱗を攻撃されて防御が剥がれ、体の鱗をマッハ七の電磁加速弾で砕かれて、強力な竜特効の弾丸をピンポイントで打ち込まれる。
一度ハマればDPSがとんでもないことになり、十一本目のHPも残り三割まで減少する。
とにもかくにも、ゴルドフレイにダメージを入れるには動きを止める必要がある。
そのために取得条件を満たしている魔術師プレイヤーに空間凍結魔術を覚えてもらい、フレイヤには空間凍結魔術の籠った魔導兵装を作ってもらうことで、彼女自身が自由に行動できるようにして火力を補った。
行動パターンが大きく変化して、知らない動きに翻弄されて半壊させられたが、もうそろそろ死に戻りしたプレイヤーたちがここまで戻ってくる頃だ。
また500人の数の暴力で叩きのめしてやると腰を深く落とし構えたところで、大音量の咆哮を上げられて体が硬直する。
『貴様ら、本気で王である私を殺すつもりか!』
硬直時間は長くはないが、一瞬の隙すら戦場では命とり。咆哮対策のために防音の魔術を持っていても、いつ咆哮をしてくるのかが分からないので耳栓系アイテム必須だと思い、すぐに『シャドウダイブ』を使えるようにしていると、金竜王が人語を発する。
あまりにも早すぎる。アンボルトは残り二本と半分になったところでやっと人語を発したのに、ゴルドフレイはまだ九本残ったままだ。
バーンロットは人体の形をしており、その状態で格下も格下だったヨミがあがきまくったことで認めさせて人語を発したが、今回はわけが違う。
『この世全ては我らが創造主、黒と白の竜神様のもの! この世全ての空は、竜神様から賜った私のものだ! いかなる理由があろうとも、貴様ら弱者が私の許しなく空を見上げることも、空を駆けることも許さぬ!』
声からは激しい怒りが滲んでいる。いかにも、前時代的な権力を持った人間の王と似たような発言だが、引っかかるものがあった。
「まさかとは思うけど、五年前にお前が滅ぼしたエヴァンデール王国は、空を飛ぶ技術を大きく発展させたから滅ぼしたってのか?」
ステラの故郷は、飛空艇の製造技術に優れていた。
ノーザンフロスト王国も、アンブロジアズ魔導王国も、後追いし学ぶという形で飛空艇を完成させており、今もなおエヴァンデール王国の飛空艇製造技術には及ばない。
現実の世界でも、制空権を制した側が大きく有利になる。かつて第二次世界大戦中、日本が誇った零戦も、「零戦を見たら逃げろ」と言われるほどだったという話があるほどだ。
それほどまでに空を制すると言うことは大きな意味を持つ。それ故にゴルドフレイは、かなりのフィジカル系でありつつも四色最強の座にいると考えられる。
だがもし、それを人間が取って代わることができたらどうなるか。金色の竜は失墜し、人が空の支配者となり人が竜を殺す時代の幕開けとなる可能性があった。
『五年前……あぁ、あの最も愚かな国のことか。あの国の連中は、私が竜神様より賜った空を、私から奪うつもりだった。奴らが何と言っていたか知っているか? 「いずれ空は金竜王のものから人のものになるだろう」と、度し難いことを口にしていたのだ。夢を見るだけならまだいい。空は美しく素晴らしい場所だ。憧憬し羨望することだけなら許そう。だが私の許しなく勝手に見上げ、あまつさえ空を奪おうとするのであれば話は別だ。だから滅ぼしたのだ。一切合切、大人も子供も、健人も病人も、生まれたばかりの赤子から今際の際の死にぞこないも、全てを殺した。この王である私自ら手を下したのだ、むしろ光栄に思ってほしいくらいだ』
───あぁ、そうか。こいつらは、根本的に考えそのものが違うのだ。
あまりにも自分勝手な理由に、ヨミの中から怒り以外の感情の全てが抜け落ちる。
ヨミだけじゃない。アーネストも、美琴も、フレイヤ、カナタ、サクラ、クルル、シェリア、トーマス、アイザック、リオン、ノエル、ヘカテー、ジン、シエル、ゼーレ、イリヤ、ダビデ、イーグル、シーグ、参加している総勢500人のプレイヤー全員が、ゴルドフレイに怒りと殺意を向ける。
これはゲームだ。あまりにもリアルすぎてそのことが抜け落ちそうになることもあるが、これはゲームなのだ。本気で取り組み、人間と変わらないNPCたちと仲良くなって、自分だけの生活ができる素晴らしい電脳世界にある空想世界。
バカみたいに本気で取り組むと少しからかわれるような世の中ではあるが、それだとしてもこれはあまりにも酷い。
空が竜神から与えられたものだから、人がいてはいけない?
エヴァンデール王国がそれを奪おうと画策していると思われる発言をしたから滅ぼした?
人間の方が竜神よりも前にこの世界に根付いて生活していたのに、後からぽっと出て来ただけの人ですらない化け物から与えられたものを、さも最初から自分のものだと言い張っている怪物に吐き気すら覚える。
『貴様らも私から空を奪うと言うのであれば、私は容赦はしない。この空は竜神様のものであり、竜神様から送られた私の、』
「黙れよ」
自分でも驚くほど低く底冷えする声が出た。頭と腹の中で何かがぐつぐつと煮え滾るような不快感と、体を焦がすような怒りが支配する。
「いつまでもお前らのような化け物が、支配していい世界じゃないんだ。いい加減腐り散らかしてそうな王座から引きずり下ろされてろよ、ゴルドフレイ」
ドンッ! と強く斬赫爪を地面に叩きつける。
「あまり人間舐めんな!!!!!!!!!」
あらん限りの怒声を上げて斬赫爪を構え、地面を踏み砕きながらゴルドフレイに向かって突進する。
【プレイヤーネーム『ヨミ』が■■■を■■。■■率:2%】
視界の端に何かが映り込んだ気がするが、そんなもの知るかとゴルドフレイ以外の情報の一切を遮断し、怒りに任せて接近する。
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