発見
それは本当に唐突だった。
やっぱりエマがいないとダメだと言うことで、ちまちま交流するために集落を訪れていたアーネストとイリヤにブランが頼み込んで、集落の吸血鬼全員をアンブロジアズ王国のどこかに住まわせることができないかとマーリンと交渉し、元から人に友好的だったが魔族だからと差別しないフリーデン付近はどうだろうと言う話になった。
アルベルトも若干の不安を見せていたが、エマがきちんと言っておけば人に対して不信感こそ出すだろうが危害は加えないと説得することで、フリーデンの近くにある赫き腐敗の森から離れている森の中に集落を作って住むことを許してくれた。
すぐには実行できないのでまだもう少し先の話になるが、唐突に訪れたのはそれではない。
寝耳に水な情報を持ち込んで来たのは、過去にゴルドフレイに遭遇して戦い、そして敗れた亡霊の弾丸ギルドマスタークルルだ。
お茶とお茶菓子を出した後の発言は、冗談を言っている様子もなく真剣そのものだが、確認のために聞き返す。
「クルルさん、今なんて言いました?」
「前にあなたが言っていた、摩天の頂という場所が分かったのよ。正確にはどこの国にあるのか、ということだけど」
クルルは一言一句違わず、全く同じ言葉を紡ぐ。
「あんまりにも急ですね。まだこっちのSSクエストはあまり進んでいないのに」
ステラは大分ふっくらとお肉が付いてきて健康的な体つきになり、ガウェインやアーネスト、美琴らと鍛錬をしているのでただお肉が付くのではなくシュッとスリムでありながらも出るところは出る感じだ。
そしてステラの状態が回復に向かえばその分だけSSクエストが更新され、日に日にステラの金竜王討伐作戦に参加するという意気込みが強くなっている。
最近ではアーネストがアスカロンの使い方を教えている。なんでも、固有戦技の攻撃方法が自分と似ているから自分の使い方を参考にできるかもしれないから、だそうだ。
「それで、どこにあったんですか?」
「聞いて驚きなさい。元魔王国ナイトレイドの領土内よ。考察ギルドアーカーシャと一緒に色々探し回って、摩天と呼ぶんだからどこよりもデカい場所っていう曖昧な条件でFDOを総出で探し回っていたの。そしたら発見したのよ」
「どんな感じだったのか、教えてもらってもいいですか?」
余りに余っているアンボルトの鱗を、情報料代わりに二枚差し出す。
「まず、七十メートルを超える巨体のドラゴンとの決戦場ってことだからか、山頂だった場所だと思われる場所は平らになっているわね。私たちが先遣として見てみたけど、自然に平らになったんじゃなくて抉られたり何か大きなものが衝突してできたものだった。魔族がまだ元領土内に細々と生活していたから、魔族系のアーカーシャに頼んで情報を集めてもらったら、ナイトレイドが滅んだ後にエベレストを超える摩天の山、ウラスネクロ大霊峰は金竜王の寝床となり、伝承によれば数日間昼夜問わず何かが砕けるような音が鳴り響いて、その山頂は削り落とされたそうよ」
「やってることの規模がえぐすぎる件」
「これでもバーンロットとかに比べりゃましよ。南の方に行くと、そいつに滅ぼされた国を見ることができるけど、常に腐敗の瘴気が漂っているから腐敗耐性は必須だし、植物も何もかもが常に赤く腐敗しているから回復アイテムの現地調達は不可能。そこに辛うじて適応したエネミーは化け物みたいに強いし、まさに最強の竜王が滅ぼした国だった場所なだけはあるわよ」
ますます、何でフリーデンの近くにいてあそこだけを腐敗させ続けているのかが分からなくなる。
あるいは人そのものが邪魔で仕方がないと当初は思ったが、フリーデンがかなり長いことあることを考えると、人に興味があまりないのかもしれない。
しかしそれだと次々と国を滅ぼした理由が分からなくなる。
「ついでに一つ面白い情報を手に入れたんだけど、あんた確かFDO始めた日にバーンロットと戦ったのよね?」
「そうですね。まだ一月ちょっとなのに随分と懐かしい気が」
「それでその時、バーンロットがあなたに理解できる言語で話した。そしてそれはFDOで初の出来事だった。でも最強ギルドに数えられるグローリア・ブレイズと夢想の雷霆は、毎回竜王が一番強くなる残りHP三本まで削ることができている。それなのに人語を発していなかった。でもでも、アンボルトはアーネストたちと同じ条件で残り僅かまで削って人語を発した。ずっとそれが疑問だったのよね」
言われてみればそうだ。掲示板で情報を集める時、バーンロットが人語を発したのが非常に話題になっており、よく目を通すと全ての竜王は今まで一言も言葉を発していなかったそうだ。
なのでてっきり、人の言葉自体は理解できるが操れないタイプだとばかり思われていたが、バーンロットがその考察を見事に裏切り、人形態だったからではという考察もアンボルトの件で裏切られた。
ヨミもよくよく思えば、自分よりもうんと強いアーネストや美琴が何度も戦っているのに人語なしだったのはなぜなのだろうと思っていたので、クルルが何かを引っ提げてきたようなので言葉を待つ。
「まず、挑戦権なしでいきなりあんたは奴の領域内に踏み入れた。向こうからすれば、自分のテリトリーに余所者が入り込んだから排除しようってくらいだったんだろうけど、戦ってみたら思いのほか強かった。腕を落とされ鱗も傷付けられ、強者だと認めて人体の自分の腕を差し出し人の言葉で賞賛した。シンカーはあんたの初配信アーカイブを死ぬほど繰り返し見ていて、ダメージを受けつつも一定時間生き残り続ける、かつ貧弱なステータスであることが関係しているんじゃないかって思ってるそうよ」
「へー。じゃあアンボルトは?」
「竜王には竜王のネットワークのようなものがある、って言うのがシンカーの仮説。一番下の竜王が
「なんですかその地獄」
ただでさえ一体でもきついのに、竜王が三体。しかもアンボルトは首が三つあって天候支配からの落雷や、雷を圧縮して地面に落とし爆散させる雷王の崩雫と三つの首から同時に放つ超特大ブレスがある。
あれで最弱格だと知ってたまげたが、ゴルドニールと戦って確かに下から二番目の最弱格だと納得できてしまった。
「竜王の間にネットワークのようなものがあって、一体が見聞きし経験したことを他の竜王に伝えることができる。まさかと思ってあなたのアンボルト討伐配信を見返したら、シンカーの考察を裏付けるような発言をしていたし、多分情報共有がされているのは決定。バーンロットに実力を認められた強者として他の王に伝わっていて、だからあの時アンボルトも言葉を発した。こう考えているわ」
「なるほど……。え、じゃあもしかして、例えばボクが次々と竜王討伐に関わったら、最悪の場合最後までバーンロットが残っていたらそいつにとにかくヘイトを向けられる可能性があるってことですよね?」
「竜王どころか、多分竜神も把握できるでしょうから、自分の子を倒した部隊に必ず同じ奴がいたら、竜神すらあんたを警戒するでしょうね」
やっぱり地獄だった。
「とりあえずこれが分かったことよ。ナイトレイドは元は魔族の国で、敵性魔族系NPCが結構いるから気を付けること。ミノタウロスとかもいるけど、あんたなら一人で回避タンクしながらアタッカーしてそうだから平気そうね」
「アンブロジアズ王国内の最前線より強いエネミーがいる赫き腐敗の森で結構いけるし、確かに行けるかも」
「私なら一歩も動かずに済むけどね!」
「固定砲台さんが何を言いますか」
とはいえ、最近は腐敗の森でエネミー狩りをしており、よく一人でトリガーハッピーしているのが見える。
弾幕力がすさまじいので、よっぽど体が硬い敵が来なければ動かずに決着がつく。ボスエネミーレベルだと、流石にヘイトを買うタンクが必要になるそうだが。
「ウラスネクロ大霊峰ってどこまで行けばいいんですか?」
「ん? あの大霊峰なら私たちのあの集落がある場所からみて南端、ナイトレイド領土のほぼ端の方にあるぞ。領土はかなり広いからな、あの飛空艇を使えばあっという間だろうが、ゴルドニールやゴルドフレイに撃墜される可能性があるから歩いて行ったほうがいいし、そうなると一日かかると思うぞ」
アリアを肩車しながらギルドハウス内を歩き回っていたメイド服姿のエマが、教えてくれる。ちなみにアリアも、フリルたっぷりの可愛らしいメイド服を着ている。実に可愛い。
「めちゃくちゃ遠いじゃん」
「まあな。しかし、あそこが金竜王の寝床になっていたのか。よく大霊峰に向かって飛んでいくのが見えていたが、そういうことだったのか」
「知らなかったの?」
「敗走した後はとにかく、奴から逃げることに必死だったからな。あの辺りが奴の寝床になっていた、なんて情報を手に入れる余裕もなかったし、ぶっちゃけると親を殺されたトラウマで戻れなかったこともあって、奴の現在の情報はあまりない。だから私が話したのは、全てかつての戦いでの奴の攻撃方法だけだっただろう?」
言われてみれば確かにそうだ。それだけエマにとって、あの金竜王は許せない最大の怨敵で、癒えない傷をつけた怪物なのだ。
「そう思うと、トラウマを抱えつつもあれを必死に追い続けたステラのその心は、私なんかよりもずっと強いな」
「ですが、心だけ強くても体が付いてきていなければ……」
なぜかエマとほぼ同じデザインのメイド服を着て、ギルドハウス内の清掃をしていたステラが、力がなくてはどうしようもないと目を少し伏せる。
「心が強ければ前に進める。体も鍛えられる。戦い方も技術も、学ぶことができる。そしてそれらを持って挑むことができる。だが私はすっかりあれに挑む心意気がなくなっていて、力もあるのに挑めなくなった。情けない話だ」
自虐するように己を卑下し、困ったように口元に歪な弧を描く。
二人ともかつてあった国の王族で、お姫様だった。種族が違えど、同じように国を同じ敵に滅ぼされ、同じように親を失って生き延びた。
似た者同士かと思ったが、エマは表面上は強くあって凛々しくあろうとしているが内面はかなり歪で、ヨミに対する変わった愛情表現もその歪みが原因だ。
対するステラは、表面上はぼろぼろであったし酷く衰弱していたし、何ならエマ同様にトラウマを抱えているが、自らゴルドフレイの討伐戦に行きたいと申し出てくるくらいには心が強い。
原動力が王への復讐心なので心配なところはあるが、復讐心でこうして行動に移せるお姫様と、復讐心はあれど恐怖に負けているお姫様と、似ているようで違う。
ステラが鍛錬している理由を知った時も、小さな声で「私よりもうんと強いな」と零していたし、今のエマにはあれに挑むだけの心の持ちようがない。
ヨミ的には、死んだらそこまでのNPCなので戦いに来ないほうが非常に楽なので、酷い言い方になるが今のエマの状態が一番いい。
「こほん。話を戻すけど、奴の居所が分かったから、今度は私の方から情報を共有するわ。結局奴の今の航路は割り出せなかったけど、場所が分かったから張り込みして周期を割り出す。挑む時期が確定したら、参加希望者全員を連れてウラスネクロ大霊峰に向かい、そこで決着を着ける。それに向けて、私たちも綿密な打ち合わせが必要になってくるわね」
「じゃあ、まとまった時間を確保するために土曜日のお昼過ぎ辺りに集まりますか?」
「そうね。そうして頂戴。私も参加するギルメンに伝えておくわ」
それだけ言って、紅茶をぐっと飲みほしたクルルが席から立つ。
「お茶とお茶菓子御馳走様。美味しかったわ、今度私の方から何か持ってくるわ」
椅子の背もたれにかけてあったコートに袖を通し、ふっと微笑みを浮かべてからギルドハウスを出て行った。
途中まで見送ると、真っすぐ赫き腐敗の森の方向に行っていたので今からレベリングするようだ。
ヨミもゴルドフレイに挑むためにまだまだ準備することがあるので、アリアを肩から下ろしてちょっと気分が沈んでいるエマを抱きしめて復活させてから、空間凍結魔術を習得するために、お土産を持って王都マギアのあるお城に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます