蒼穹を駆ける金色の星に慈愛の怒りの贈り物を 1
さらに二週間ほどが過ぎた頃。アーカーシャと亡霊の弾丸の調査の末ゴルドフレイの行動パターンを把握。
ゴルドフレイは三日に一度にウラスネクロ大霊峰のえぐれて平らになった山頂に戻り、数時間の休息を取ったのちに再び飛んでいくのが確認された。
できれば最新の情報が欲しいからとクルルが亡霊の弾丸斥候隊に指示を出して戦わせ、本気の装備ではなかったため奥の手の使用までは行かなかったが、ステラとエマ、そして過去にクルルたち主力隊が得た情報を変わらないことが判明し、それを元に銀月の王座、夢想の雷霆、グローリア・ブレイズ、剣の乙女、亡霊の弾丸の五つのギルドで作戦会議を行った。
火力が高いプレイヤーが揃っているグローリア・ブレイズが正面からヘイトを買いながらアタッカーをし、剣の乙女が後方から魔導兵装でバフデバフの支援、火力支援を行い、前衛はグローリア・ブレイズと共に行う。
夢想の雷霆は術師系が結構多いので役割は剣の乙女とほぼ同じで、美琴、サクラ、カナタの三名は前衛。
亡霊の弾丸は全員がガンナーなので中距離から遠距離での銃撃・狙撃がメインで、可能なら序盤で逆鱗の位置を把握する。状況に応じて狙撃手のトーマスがヘイトを買うように攻撃し、アタッカーがやりやすくする。
銀月の王座はジンは剣の乙女のタンクと共に前衛でタンクをこなしつつ、フレイヤから貸し出される魔導兵装で適時火力を出す。タンクスキルのクイックドライブで、危険域にいるプレイヤーの場所に駆けつけて守護するのが主な役割だ。
ヨミ、ノエル、ヘカテー、シエルの四名はアタッカーとして前に出て、ヨミは序盤から夜空の星剣の固有戦技を使い、範囲内にいるプレイヤーに竜特効を付与。シエルも最初からアオステルベンの固有戦技を使い、少しでもダメージを稼ぐ。
ノエルはMPが少ないがシュラークゼーゲンの火力が高いので、フレイヤから消費MPを肩代わりしてくれる魔力蓄積装置を借りることで火力不足を補い、ヘカテーも血魔術をとにかく連発するために増血装置を借りる。
ステラも戦場に来ることになっているが戦いには参加できない。だが来たるべき時には、FDO内で一番倍率の高い竜特効のアスカロンでの攻撃をお願いする。
マーリンも戦場に来たがっていたが、現役の国王がそんな場所に来るのは流石にまずいからという建前で拒否。彼自身も、フレイヤに空間凍結魔術を教えた辺りから自分がいなくてもいいと思っていたようだったので、結構あっさりと引いた。
こうして金竜王を倒すための作戦が練り上げられ、他にも参加したいと表明した一般プレイヤーたちを集めて彼らにも役割を与え、布陣を組む。
集まったプレイヤー数は500人。アーネストもここまでの人数が一つのレイドに集まるのは初めてだと笑っていた。
全員に正式な挑戦権を獲得してもらうために、人海戦術でゴルドニールを見つけ出し、美琴を除いたまだ獲得していない無双の雷霆主力と剣の乙女、グローリア・ブレイスを筆頭に参加表明した全員で眷属をぶちのめしてもらった。
流石に強化されていても、500人も集まっていればその強化を捻じ伏せることもできるようだ。
実行は次の土曜日。参加者全員のスケジュールを聞いて、その日一日は自由であることは確認済みだ。
FDOが始まって以来最大のレイドバトルが、もうじき始まろうとしていた。
♢
「ジークリーベ! 今日も配信に来てくれてありがとう! ギルド
土曜の昼過ぎ。常にウラスネクロ大霊峰を見張ってくれているシンカーからはまだ連絡がないので、まだゴルドフレイは来ていない時間だ。
しかしいつ来るのか分からないので、のんびり向かうわけにも行かずまたアーネストに飛空艇を貸し出してもらい、三つの飛空艇で元魔王国ナイトレイド領内の南端にあるウラスネクロ大霊峰に向かっている。
再び行われる大決戦ということでヨミは配信を始め、美琴もフレイヤもアーネストも、クルルまでもが配信を始めている。
他にも一般参加のプレイヤーの中にも配信者がいるのか、ゴルドフレイ討伐戦のタイトルが書かれた配信がアワーチューブ上にいくつも上がっている。
”ほんまにこの銀髪ロリはすごいことばっかやってるな”
”二か月目くらいだっけ? それで三体目の竜王に挑むとかマジっすか”
”最初:貧乳むちむち太ももな美少女だこれは推さねば
現在:貧乳むちむち太ももな美少女でつよつよ吸血鬼のヨミちゃんだ、一生推していこう”
”色んな配信者がグランドクエストの配信し始めてて大草原”
”滅多なことで関われないからなあ。そしてこれがメインコンテンツという事実”
”美琴ちゃんもフレイヤちゃんもクルルさんもアーネストも配信始めててわろち。でも一番同接が多いのはヨミちゃん”
”やっぱFDO初のグランド討伐の実績が強すぎる”
”何日か前のアーネスト筆頭のゴルドニールボコ配信は流石に笑ったなあ”
二度目のグランドクエスト配信ということで、すさまじい数の同接となる。その数はヨミの配信で50万。美琴の配信に43万、フレイヤの配信に38万、アーネストの配信に25万、クルルの配信に22万だ。
合計で178万の同接があり、どれだけの人がこれに注目をしているのかが分かる。
「いやー、流石にボクもここまで早くグランド三戦目するとは思わなかった。というかもうちょっと先になるはずだったんだけど、ステラさんの回復が思ったより早かったのと、有志のみんなの情報収集能力がすごかったおかげで、ちょっと前倒しになった。準備期間はちょっと短かったけど、まあ間に合ったし。とりあえず先に、情報提供ありがとう」
ぺこりとリスナーに頭を下げて感謝する。
ゴルドニールを倒した後、ステラとの会話で来月以降になりそうだと言った。その時点では早くても五月の終わりごろくらいだと思っていたが、前倒しになってゴールデンウィーク開始直後になった。
下旬ごろだったら中間試験があるので、試験勉強もしなきゃなので先延ばしにしていたが、前倒しになるのなら問題はない。少しギリギリではあるが。
「今回もできれば初見討伐で行きたいけど……あいては四色最強。アンボルトであんなに大変だったんだから、もしかしたら全滅する可能性もある。ステラさんにはフレイヤさんお手製の転移魔導兵装があるから、ボクたちが全滅したらすぐに自動でフリーデンに戻れるようになってるけど、やっぱり不安は残るなあ。ステラさん親衛隊みたいなのを作ってそのメンバーの募集でもしておけばよかったかも」
「や、やめてくださいね?」
親衛隊を作られるのは恥ずかしいのか、頬を赤く染めながらヨミの服の裾をつん、と引っ張る。
”か、可愛い……!”
”すっかり元通りの健康的なお姿になったようで何よりです姫殿下ぁ!”
”がりがりに痩せててもあの美貌だったんだ。ちゃんとお肉が付いたら、目が潰れるくらいの美少女なのは分かってたけどこれはすごい”
”ドレスがちょっとヨミちゃんのに似てるのがいい”
”なんで親衛隊員募集をしなかったんですかヨミちゃん!?”
”募集かかってたら速攻で応募してたのに”
”くそぅ……! 合法的にお姫様を近くで眺めることができたかもしれないのに……!”
”地獄のような戦場での護衛になるんだからそんな余裕ないだろうに、楽観視しすぎてる奴らがいますねぇ”
なんでうちのリスナーはこうも、変態が多いのだろうかと頬が引き攣る。しかも結構頻繁に、ヨミのむちむちな太ももに対して言及することが多いし、最近は初心なステラをからかうようなコメントがよく投げられる。
「前にも通達したけど、ゴルドフレイがいる場所は元魔王国ナイトレイド領内の南端にある、ウラスネクロ大霊峰の頂上。かなり大きな山で、その頂上はナイトレイド滅亡後にゴルドフレイが自分で削って平たくした。一回ボク自身の目で見て来たけど、あのクソデカい山の頂上を削るような相手だから、アンボルトなんか比じゃない強さをしてるだろうね」
そもそもがアンボルトがあれで下から二番目という信じられないことになっているのだ。なら四色最強となればどうなるのか。想像もできない。
「前回はNPC200人を引き連れての戦いだったけど、今回はNPCはステラさん一人だけで、他は全員プレイヤー。その数は約500人。アーネストが何度も挑んでいるウォータイス戦でも行って300人だったし、過去最大のレイドになる。人数が人数だから、ちゃんと役割分担はしているけど前回以上に立ち回りが大切になりそうだね」
「流石に私一人で500人に指示を出すことはできないけど、うちのギルドには優秀なオペレーターがたくさんいるから、細かい指示は私たちに任せてね」
亡霊の弾丸サブマスターのリオンと婚約しているシェリアが、後ろからヨミを抱き寄せながら言う。
なぜ、知り合いのお姉様方はみんなこうして、ヨミに抱き着くのだろうか。しかも決まってみんなスタイルがいいので、抱き着かれると柔らかい感触を味わってしまい、毎度顔を真っ赤にしてしまう。
「クルルがめちゃくちゃ張り切ってたな。これで奴をぶちのめせるって、ブレッヒェンを手入れしてたぞ」
「あの人一番悔しがってたもんねー。でも、確かにこれだけ集まっていれば、勝てそうだね」
「最強ギルド揃い踏みだもんな。ヨミさんからの提供もたくさんあったし」
この戦いで一番重要になるのは、竜に対する有効打を入れやすい竜特効だ。検証した結果、プレイヤーが持っている中で最高倍率のヨミ、ノエル、シエル、最近完成したヘカテーとゼーレのグランドウェポン。それに次ぐアーネストのアロンダイトとほぼ同等のシエルのアオステルベン。NPCを含めれば、ヨミたちの物以上の倍率となっているステラのアスカロン。これらが討伐の鍵となる。
しかし一部のプレイヤーしか持っていないとダメージの入り方も偏ってしまう。なので、本当に使い道がなくただ増え続けるだけのアンボルトの素材を亡霊と雷霆、乙女と剣聖一派に提供することで、せめて主力の五つのギルドで火力を出せるようにした。
ヨミも、あれからアンボルトの黄竜王の心核を全て入手し、ギルメンが全員いらないと言ったので全部取り込み、雷王怨嗟がかなりパワーアップした。
ブレスの威力が最初の頃よりもとんでもないことになってきて、流石にこれはオーバーパワーかと思ったが、きっちりデメリットもきつくなっているのでバランスが取れていると思うようにしている。
「本当によかったの? 黄竜王はヨミちゃんたちが苦労して倒したのに」
優しい手付きで頭を撫でながら指で髪を梳いているシェリアが問う。
「いいんです。メンバーともきちんと話しましたし。全員あまり武器がありすぎても困るって言ってましたし、ボクなんか武器ありすぎて困っているくらいだったし、防具もみんなグランドのものに一新したので本当に使い道なかったんです」
「あの巨体だもんなあ。でももうそろそろなくなることじゃないか?」
「大分減りましたね。残りはマーリンに頼んで宝物庫にでも突っ込んでおいてもらいます。必要になったら取り出せますし」
「王様の宝物庫を自分の倉庫代わりにしちゃだめだよー」
”えぇ……”
”ヨミちゃん王様相手にタメ口の呼び捨てだし、大物すぎる”
”貴族NPCとか王座魔の近衛騎士NPCが、毎回キレそうになってそう”
”お城の宝物庫を自分の倉庫代わりにする吸血鬼ちゃん”
”い、一応ヨミちゃんも魔族で言えば王族だから(震え声)”
”やってることがめちゃくちゃなんだよなぁ”
リスナーも困惑している。
ヨミも流石にダメだと分かっているが、今回マーリンからかなり協力してもらったのでその報酬として渡した、という形だ。自分で使うことはないと言い切られているし、マーリンから欲しい時の取りに来ればいいと言われたので、その言葉に甘えているだけだ。
「しっかし、王の素材を使って強化するととんでもないな、これ。竜特効倍率おかしいだろ」
「強化でそれだもんね。一からその素材で作ると、現実の神話や伝説に登場する竜殺しの武器よりも倍率高くなるもんね」
「アーネストのアロンダイトどころか、ステラさんのアスカロンを超える倍率なの知ってびっくりしましたよ。素材を考えれば不思議じゃないんですけどね」
「だが火力なら、私のアロンダイトの方が上だぞ」
諸々の挨拶などを終えたらしいアーネストが、ふふんと得意げな顔をしながら近付いてくる。
確かに対抗戦決勝でアロンダイトの固有戦技と、ブリッツグライフェンのフルバーストのぶつかり合いで押し負けているが、向こうは形状が変化せず常に同じ攻撃なのに対してこっちは高速で変形する変形武器で、形状ごとに攻撃が変わるのだ。
そもそも対人戦であそこまで過剰な威力の攻撃は必要ないのだし、何よりヨミにはアーネストを黙らせる手札がある。
「あの時、最後の最後で、ステータスオール1のボクに初心者装備の鉄のナイフで首斬られた奴が何を言う」
「ぐぅ……!?」
そう、アーネストは最後の最後で装備条件が一切ない鉄のナイフで首を斬られてクリティカルで倒されている。それも、血濡れの殺人姫解除後の弱体化を受けている状態でだ。
流石のアーネストもそれに反論はできないようで、かなり渋い顔をする。
煽り散らかしてやりたいという欲求が出てくるが、それをいち早く察知したらしいノエルが、にこーっと笑顔を浮かべて圧をかけてきたので欲求を引っ込める。
「仲いいわねー。こういうのをライバルって言うのかな」
「ライバルって言っていいのか分からんやり取りだけどな」
ふわふわと笑みを浮かべるシェリアに、苦笑するリオン。
これから大戦争のような戦いが始まると言うのに、なんとも緩い空気だ。
目的地に到着するまでまだ時間がかかるので、適当に雑談をしつつ参加者に意気込みを聞くために飛空艇内を歩き回った。
初のグランド戦に参加するため緊張している者、楽しみにしている者。
ヨミのファンだと言うプレイヤーで一緒に戦えて嬉しいと言う者、ツーショットをお願いしてくる者、罵ってほしい、踏んでほしいと変態願望を隠そうともしないので素直にキモいと言って嫌な顔を向けたら喜んでしまった者。
十人十色の反応があって、精神が地味に削れる変態がいたがそれなりに楽しめた。
そうして次々と聞いて回っている間に飛空艇が目的地付近に到着し、着陸。
安全のために山から少し離れた場所に降り、そこからは徒歩で向かうことになった。
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