温泉ぱらだいす

「んー! 温泉さいこー!」

「ゲームの中とは言え、こうして寒い地域で温かい温泉に浸かれるなんて、格別ですねぇ……」

「雪景色も楽しめるし、ありがとうねエマちゃん」

「喜んでくれたようで何より。私もこの温泉が気に入っていてな、ほぼ毎日通っているくらいだ」

「フレイヤ様、あちらにサウナもございましたよ」

「本当ですか!? これは後でいかなければ」


 美琴、フレイヤ、リタ、ノエルの飛びぬけてスタイルのいい四人娘が一か所に固まり、その一か所に立派な双丘が四つもある。

 ノエルに連れてかれたエマは、その四人の立派な胸を羨まし気にじっと見つめており、逃げようとしたがノエルに捕獲されて連行されたヨミは顔を真っ赤にして俯いている。


 ヨミは女の子だ。体はどうしようもない程、誰がどう見ても太ももとお尻がやけに肉付きのいい女の子だ。

 しかし中身は男。最近ノエルと頻繁に一緒にお風呂に入っているので彼女のはちょっと見慣れてきたが、ノエルとは別種の美少女の一糸まとわぬお湯に濡れた姿というのは猛毒すぎる。

 健康的な白い柔肌なお湯に濡れ、温泉に浸かり体温が上がって上気しており、お湯の熱でちょっと汗ばみお湯で濡れた顔に髪の毛が張り付くその様は、性欲の発散方法を知らない身としては劇物だ。


 十八歳になれば自分の設定で色々いじれるようになるが基本は全年齢であるため、体にバスタオルを巻いていなくとも大事な部分というのは見えないようになっている。

 十八禁の設定で倫理解除コードを設定し、同じように他のプレイヤーも見えるように設定していれば、フィルターが解除されて大事な部分が見えるようになる。

 そんなところまで気合入れてやらなくてもいいだろと言いたいが、今はとにかく楽園と地獄が入り混じっているこの場から逃げたくて仕方がない。


「こうして見ると、ヨミちゃんって本当に綺麗なんだねー」

「ひゃえ!? にゃ、何ですか!?」

「髪の毛もさらさらで艶もあるし。今度リアルであった時に触ってみたいかも」

「ヨミちゃんのお肌もすべすべぷにぷにですっごくいいですよ。ねー?」

「でしたら今度、オフ会でもしませんか? 直接お会いできれば、髪質や肌質に合ったシャンプーやソープを紹介できるかもしれません」

「あ、それいいかも。リタさんのそういう審美眼って確かだし、すごく参考になるのよねー。背も高いしスタイルいいからモデルさんにもなれそうなのに」

「リアルの姿はあまり目立たせたくないので、お断りさせていただきますね」

「は、ひぇ……」


 脳みそが沸騰しそうになる。

 後ろからノエルがぎゅっと抱き着いて温泉の匂いと一緒に彼女のいい匂いがするし、極上に柔らかいものが当たっているし、どこに目を向けても肌色100%な無防備な美少女しかいないし、ほとんどがスタイル抜群で目のやり場に困る。

 エマはノエルたちと比較すれば小さいが、ヨミよりちょっと大きく形がいい。よって視線の避難先にできない。

 ならばヘカテーの方かと言われれば、彼女は女子小学生で自分は中身男子な女子高生。小学生の裸体を視線の避難場所にすることはしちゃいけないので、八方ふさがりだ。


 頭の中でぶすぶすと何かが焦げ付くような音が聞こえてくる。

 逃げようにも装備は全部脱いでいて、ノエルにしっかり捕獲されているしリタと美琴が近くに来て肌や髪の毛に触れているし、ここで下手に逃げようとしたら触れてしまいそうだからどうにもできない。


「やっぱり温泉はいいものですね。美琴、ゴールデンウィークくらいに温泉旅行に行きましょうよ」

「行くなら稲荷寿司や揚げが美味しい旅館がいいのう」


 そこにさらに、カナタとサクラの二人が追加される。全方位立派なもので埋まり、くらくらしてくる。

 これ以上は本当に目の毒だし、健全な思春期なのだから性欲だってある。しかし女の子の体の慰め方なんて、未だに調べておらず知識もないので、リアルに戻った後はひたすら無駄に高まった性欲に悶えることになる。

 なので最終手段として目を閉じる。


「わお、サクラの尻尾って濡れるとそんな風になるんだ。始めて見たかも」

「このゲーム内で温泉どころか風呂に入るのはこれが初めてじゃからな。妾もこうなるとは思わなんだ。水を吸って重いこと重いこと」

「上がった後に乾かしがいがありそうですね」

「あ、ならそれ私も参加していいですか? サクラさんの尻尾とか超気になってたんです」

「別に構わぬが……お手柔らかに頼むぞ? この尻尾にだって感覚は通っておるんじゃ。変に触られるとこそばゆくて仕方ない」

「……えいっ」

「んひゃあ!? み、美琴急に尻尾に抱き着くでない!?」


 目を閉じてしまった分、彼女たちの会話にちゃぷちゃぷと聞こえる水音、息遣いが鮮明に聞こえて余計に毒だ。

 そう思い目を開けると、サクラの尻尾に抱き着く美琴に尻尾を触られて体を震わせ頬を赤くするサクラ。


「や、やっぱ無理~!?」

「あ、ヨミちゃん!」


 何もかもが目に毒すぎる。やっぱり中身男にとって、美少女だらけの温泉は楽園に相違ないが色々と持たない。

 顔を真っ赤にしてノエルから抜け出し、ばしゃばしゃとその場から逃げる。

 さっさと上がったほうが自分のためだが、一度温泉に浸かると中々抜け出せない呪縛にでもかかっているのか、温泉から上がると言う選択肢がなくなっており人気のない岩陰まで避難する。


「あぁ、雪景色が綺麗だ……」


 やっと気を休めることができて、しかし体温が上がりすぎているため少し冷ますために手ごろな岩に腰を掛ける。

 ひやりと冷たい空気が体を撫でていくが、火照った体に丁度いい。


「全く、ボクがこういう場所苦手だって知ってるくせに何で強制連行するんだか」


 男子浴場に行ったシエルを除けば、ノエルとシズだけがヨミのことを知っている。

 その上で一人でのんびり温泉に浸からせるでもなく、女性の園に連れてこられて、どこを見ても裸の美少女だらけでいっぱいいっぱいになった。

 もちろん理由はなんとなく察している。まだ先の話だが林間学校があり、そこでヨミも女子と一緒にお風呂に入ることになる。その慣らしのためだと言うのは分かっているのだが、それにしたって急すぎる。


「まあ、ノエルとシズのは見慣れて来ちゃってるから、ある意味荒療治でいいのかもしれないけど」

「あ、ヨミさん」


 体が一気に冷えてきたので岩から腰を上げてお湯に体を沈めると、ヘカテーがひょこっと岩陰から顔を覗かせる。

 長い髪の毛をお団子にしてまとめていて、ちょっと恥ずかしいのかタオルで体の前を隠している。小学生ということもあり、相変わらず目のやり場には困るがあっちの女子高生組よりは比較的マシだ。


「ヘカテーちゃん、こっちにいたんだ」

「はい。その、なんかあっちだといづらそうで」

「分かるー。なんか圧倒される感じするよね」

「美琴さんもカナタさんもサクラさんもノエルお姉ちゃんも、みんなスタイルいいですから。どうしたらああなるのか気になります」

「美琴さんたちがどうかは知らないけど、ノエルは豆乳とか結構好んで飲んでたかな。健康にもいいからって」

「豆乳……。結構発育にいいって聞きますけど、本当なんですかね」

「さあ? ボクはあまりそう言うの飲まないから」


 味は別に嫌いというわけじゃないが、毎日飲もうとは思わない。牛乳か豆乳どっちかを毎日飲めと言われたら、牛乳の方を選ぶかもしれないくらいだ。


「他にも睡眠の質としっかりとした栄養管理課も大事だって言ってたよ」

「へー。……いつの間にこっちに来た、シズ」

「ほんの十秒くらい前。ノエルお姉ちゃんたちグラマラス組に囲まれて顔真っ赤だったね」

「ノエルはともかく、そこまで深くかかわりがない人たちの裸なんて見るの恥ずかしいに決まってるでしょ。揃いも揃ってすごいし」

「私もお姉ちゃんよりはスタイルいいけど?」


 そう言ってシズは腕を上げてセクシーポーズを取るが、何も感じない。


「はいはいそうですね」

「反応が違いすぎる」

「実の妹に何かそういう劣情を感じるわけないでしょ」

「言い換えるとノエルお姉ちゃんたちにはそういう感情があるってことになるけど?」

「……ノーコメント」

「ほほーう?」


 ノエルにそういう感情がないと言えば嘘になる。というか、吸血衝動を抱えるようになってからことあるごとに目で追うようになったし、リアルで一緒にいる時は白くて細い首筋に噛み付きたい、血を吸われて少し苦しそうにしている声が聞きたいと言う欲求があるくらいだ。

 抱き着いて匂いを嗅ぐことも、体温を感じることも、育っている胸の柔らかさを感じることも、今のヨミは全部吸血衝動のせいにできてしまう。

 抱え始めて数日は、そんな下品なことを考えてひっそりと自己嫌悪に陥ったりもしたが、今はこれが自分なのだと開き直りつつある。


「ところでお姉ちゃん、さっきエマちゃんと戦った時に血濡れの殺人姫使って血液空っぽでしょ?」

「そうだね。まだ補給してないし、お風呂あがったら血液パックで、」

「ここは一つ、私の血はいかが? 今ならなんと、火照った妹を抱きしめるというサービス付き」

「だからなんでそんな楽しそうなの? 姉妹でそんな感情になることもないし、こんな場所でできるわけないでしょーが」

「じゃあ私の血はどう?」

「うわぁ!? の、ノエル!?」


 いつの間にかノエルがやってきていて、後ろにいたのかぎゅっと抱き着いてくる。

 背中に柔らかいのが当たり、思わずごくりと喉を鳴らしてしまう。


 正直言えば、すぐにでもノエルの首に噛み付きたい。脱衣所で彼女の裸を見てからずっとその衝動が胸の中で渦巻いており、ノエルとお姉さんな女子高生組を見るたびにその衝動がじわじわと強くなっていた。

 目を背けたり顔を真っ赤にしていたのはシンプルに目のやり場に困るからだが、この滲み出てくるような衝動も理由の一つだ。


「あ、そうだ。シズちゃんから聞いたよ? 先週シズちゃんにご馳走・・・してもらったんだってね? 私のじゃなきゃヤダって言ってたくせに」

「へぁ!? の、ノエル、ここでその言い方はちょっと……!?」


 事情を知らないヘカテーがいるのだ。言葉を濁しているので本当の意味を知ることはないが、ノエルの表情で別の意味で捕らえてしまうかもしれない。

 何しろ、かつてゼル相手に桃源落としをした日にノエルに色々いじられて、その時に『大人の情事』と言っていたことからちょっとおませさんなのは確定だ。


「……その、なんか、お邪魔しちゃってるみたいなので……。えっと、サウナ行ってきますっ」


 案の定ヘカテーは誤解してくれて、顔を真っ赤にして慌てながら温泉から上がってサウナに向かって行った。


「あとで誤解解くの手伝ってよね……」

「顔真っ赤っかになって可愛かったねー」

「小学生にはちょっと刺激の強い会話だったかな」

「最近のシズが変な暴走の仕方してて怖い」

「で、どうするの? 私かシズちゃんの血、どっちがいい?」

「………………ノエル」

「んっふふー。いいよ、はい」


 するっと抱き着いていた背中から離れるノエル。彼女の方を向くと、ちょっぴり恥ずかしそうに頬を赤く染めて、おいでと両腕を前に伸ばしている。

 こいつ絶対分かっててやってるだろと思いつつ、向こうから誘ってきているんだからと乗っかり、正面から抱き着く。

 ここはゲーム。リアルと違って体に直接負担がかかるわけではないので、首を舐めずにそのまま牙を突き立てる。


「んっ……」


 ぴくりと体を震わせ、抱く力を少し強めるノエル。ただそれだけで、自分の衝動が一気に強くなってしまい夢中になって血を吸う。

 ゲームの中なのに、リアルで感じるノエルの感触と変わらない肌の柔らかさと温かさ。しかしリアルの方が圧倒的に甘美で天上の蜜の如き美味で、FDOの中ではちょっと物足りなさを感じる血をゆっくりと味わうように嚥下する。

 血を啜るたびにノエルが甘く熱い吐息と、抑えきれていない声が漏れる。それがますます衝動を強くし、逃がさないと抱き着く力を強くする。


「ていっ」

「むぎゅっ」


 もっと欲しい、もっと吸いたいと噛み付く力を強くしたところで、ずっと隣で見つめていたシズがヨミの脳天にチョップを落としてきたので、吸血行為を中断する。


「それ以上はお姉ちゃんがPKになっちゃうよ」

「……あ、ご、ごめん」


 言われて、ノエルのHPがレッドゾーンに突入していることに気付く。

 今の衝動が現実の自分がこのままこっちに引き継いできたものなのか、あるいはこの中でのアバターの衝動なのかは分からないが、始めて現実で血を吸った時のように意識が吞まれていた。


「大丈夫……。ちょっとくらっとしてるくらいだから。あとでポーション飲めば回復するし」

「ゲームだと便利だねー。お? お姉ちゃんどうしたの?」

「いや……」


 温泉に浸かっていて、濡れていて上気し息を乱しているノエルを見て、もっと血が吸いたいと思ったなんて言えるわけがない。

 口元に手の甲を当てて顔を背けると、シズはすぐに気付いたのかにやーっと笑みを浮かべた。じろりと睨んで、余計なことは言うなとアイコンタクトをする。

 ノエルは姉妹の言葉のないやり取りに首をかしげていたが、何か思いついたような顔をしてから顔を近付けてくる。


「な、何っ!?」


 リアルにある立派なお山の頂点にある桜色のものはこの体にはないが、前かがみになって近付いてくるものだからできた谷間に目が強烈に吸い寄せられる。

 ちゃんとこういう男としての性欲が残っていることに安堵するが、急に顔を近付けてきたので動揺し、鼓動が速くなる。


「最後にシズちゃんから血を吸ってから一週間経ってるし、後で私の血をあげに行くね?」


 ぽそりと耳元で囁かれ、その瞬間歓喜が胸に満ちていくのが分かった。

 結構ノエルの首に吸い付いたり、ちょっと牙を立てて血をほんのちょっとだけ舐めたりしていたが、負担をかけまいと先週はシズで我慢したこともあり、ノエルからのその申し出は抗えない魔力を帯びていた。

 顔を赤くしてこくりと頷くと、満足そうな笑みを浮かべてぎゅっと抱きしめられる。

 顔からノエルの胸に飛び込んでしまい羞恥で脳みそが沸騰しそうになるが、それと同じかそれ以上にまたノエルの血をたくさん味わえる、ということで頭がいっぱいだった。

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