甘えてくる吸血鬼はちょっと危ない気配がする
リトルナイトに訪れしばらくそこで集落を見て回っていると、美琴とフレイヤがログインしたのでアーネストが迎えを寄こした。
美琴も見た目は人間だが種族は魔族に分類されるので大丈夫かと思ったが、見た目が人間と変わらないからか普通に接するらしい。やはり見た目で判断されるのかと、ちょっと尖っている自分の耳に触れた。
「へー、ここが吸血鬼の集落なんだ。煉瓦造りのお家がたくさんあって結構好きかも」
「家の中がちらりと見えましたが、魔道具でのストーブがメインとなりつつあるこの世界で、しっかりとファンタジーらしく薪の暖炉でした」
「ほんと? 薪の暖炉っていいよねー。なんか、ずっとそこに居座りたくなっちゃう」
上に着る厚手のコートもしっかりと軍服っぽくしているフレイヤと、流石に寒いからかちゃんと厚着をしてきた美琴が楽しそうに集落を見て回る。
フレイヤは人間族なので吸血鬼からはあまりよく思われていないが、美琴は逆に吸血鬼から頭を下げられていた。
何故なんだと聞いてみたところ、アーネストと同じ理由で自分の種族を明かしてくれた。
魔族系の固有種族で、物理に弱いと言う特性があるが代わりに戦闘能力が軒並み高い傾向にある、魔族最上位種である魔神という種族らしい。
神と名が付いているため魔術が一切使えないが、権能という魔神特有の能力が使え、美琴は雷に特化した魔神だそうだ。
美琴の種族を知ったことで必然的にリタも魔神であることが確定し、フレイヤの後ろで控えているメイドさんを見たら、妖艶で妖しい笑みを浮かべながら口元に人差し指を立てて秘密にするようにと無言で頼まれた。
フレイヤと同い年でヨミの一個上なのだが、どうして笑み一つであんなにも大人の色香のようなものを撒き散らせるのか、ちょっと不思議だ。
「ところで、ヨミちゃんの右腕にずっとくっついてる子は?」
「リトルナイトの族長で、魔王国ナイトレイド最後の国王の娘さん。同じ真祖だから、実際どうなのかは知らないけど血のつながりはあるっぽい?」
「エマ・ナイトレイドだ。よろしく頼むぞ、魔神様」
「美琴でいいわよ。で、右腕に抱き着いている理由は?」
「お姉様に甘えたいから」
「お、お姉様?」
「美琴さんたちが来る前に実力を測るためって決闘して、ボクが勝ってからなんか急にそう呼び始めたんです……」
「お姉様が私のハジメテを奪ったと言うのに……酷い……」
「エマぁ!?」
びっくりしてエマの顔を見ると、弱弱しい声とは裏腹ににやにやとしてやったりといった風に笑みを浮かべていた。
エマが自分と似てちょっとメスガキ風なのは分かっていたはずなのにそれに乗ってしまい、今まで自分がやってきた数々のメスガキムーブを思い出して自滅しそうになる。
それはそうとエマの誤解されかねない発言に美琴とフレイヤが頬を引きつらせているのが見えたので、きちんと説明する。
話の過程でエマがヨミと全く同じ魔術が使えることを話して驚かれたが、決着の付け方を話したらちょっと呆れられた。
「ヨミちゃん、多分だけど……」
「やっぱそうですよね……。押し倒したのがよくなかったのかなぁ……」
「私が決闘で負けることも、ああやって押し倒されることも初めてだったんだ。あんな真剣な顔で押し倒されたら、男だろうが女だろうが惚れると言うものだ。私もあの瞬間、腹の中がうずいたぞ」
「女の子がそんなこと言っちゃいけません」
「全てはお姉様が悪いんだぞ? あの瞬間から私の心はお姉様に射抜かれてしまった。もう片時も離れたくもないくらい、愛してしまったんだ。責任は取ってもらうぞ?」
「……具体的に言えば?」
「この集落のことはブランに任せて、お姉様について行こうと思っている」
「そんな簡単に決めていいことなのそれぇ……」
エマに付き従っているブランが「嘘ですよね!?」と声を上げるが、どうにもマジそうだ。
ずっと熱っぽい視線を向けてくるしすりすりと頬ずりしてくるし、時々匂いを嗅いでくるし、なんか色々と危ない気配がする。見た目がヨミと同じくらい小柄でちょっと幼さがあることもあって、中身を知っていれば犯罪臭がするだろう。
「これはあれだね。エマちゃんがここまでヨミちゃんにべったりなのを配信に映したら、ヨミちゃんのリスナーさんたちが大歓喜しそうだね」
「ただでさえノエルさんとちょっと甘い雰囲気になるだけで暴走していますからね。ここまで好意をストレートに表現する子が増えると、変な妄想をする輩が出てくるでしょうね」
「わたしとフレイヤ様のやり取りを見たリスナーが、もっと見せてくれと懇願するようなものですね」
「り、リタは流石にやりすぎですっ。前にそれでアーカイブが収益化できなくなったことがありましたし、何なら危うく私のチャンネルの収益化も剥奪されかけるところだったんですから」
「そ、そんなことより陛下を説得してください!? 私に集落の長を務めるなんて無理ですよぅ!?」
泣きそうな顔をしながら懇願するブラン。
背がすらりと高くてスタイルのいい美人さんが涙目になっているのは、正直ぞくりと体が震えて内側から何かがこみあげてくるものがあるが、いきなり重大な役目を全力投球されて可哀そうなので助け舟を出す。
「エマ、ボクについてくるってことはあまりしないほうがいいんじゃないの? 君は現状唯一の王族なわけだし、国を復興することができた時にいないと困ると思うんだけど」
「確かに私は真祖、魔族の王族だし陛下と呼ばれているが別に女王になりたいわけじゃない。むしろ政はしたくない。お父様はいつもいつも、権力を振りかざして私腹を肥やしせせこましく財を築き上げようとするアホな貴族共に辟易としていたし、私が真祖だからとへこへこ頭を下げて媚びを売ってくる貴族共を気持ち悪いと思っていたんだ。女王になればまた同じようになるどころか余計に酷くなるだろうし、血を絶やしてはいけないからと望まぬ婚約だってさせられる。そんな楽しみも何もない生活を送るより、心から惚れて愛しているお姉様と一緒にいたほうが幸せだ。お姉様になら、本当の意味で私の初めてを───」
「わあああああああああああああああ!? 分かった!? 分かったからそれ以上はストップ!?」
やっぱりあの時押し倒したりせずに、喉元に剣を突きつける程度にしておけばよかったと後悔するが後の祭りだ。
こうして甘えてくる妹的なものに憧れがなかったわけではないが、これは度が過ぎる。というか、王族として生活していたころに嫌なことがありすぎて歪んでしまったのではないだろうか。
ずっと唯一の王族の生き残りとしてリトルナイトを切り盛りして来て、王族だからと族長に祭り上げられて陛下と呼ばれ、集落内の吸血鬼と鍛錬のための決闘をしても素のスペックが高いのと忖度で負けることがなかった。
そんな生活を送り続けて来た中でヨミが訪れて、決闘をして負けた。それが衝撃的で歪み切ったものが余計に歪んで、ヨミのことをお姉様と呼びがちの恋情を向けるようになったのかもしれない。
「と、ところでゴルドフレイについては色々知れたのかな!?」
美琴もこれ以上は危ういと感じ、話題を逸らしてくれる。
「そ、そうですね。エマのおかげで色々知ることができました。今共有しましょうか?」
「んー、今はまだいいかな。あとでまとめて共有してくれる?」
「私も同じようにお願いします」
「分かりました。それじゃあこのまま引き続き、リトルナイト観光としましょう」
「あぁ、それならいい場所があるぞ。ここから少し進んだ場所に温泉が湧いていてな。この集落の女衆からも好評だ。行ってみるか?」
「温泉ですか。それは是非とも行ってみたいですね」
「私も! ヨミちゃんも一緒に行こ?」
「へっ!? い、一緒に!?」
これは流石にまずいと逃げようとするが、エマが逃がさんと抱き着く力を強め、そのまま連行される。
このまま連れてかれて、美人な先輩と一緒にお風呂に入ったとノエルに知られたら後で何されるか分かったものじゃないので、大慌てでメッセージを送ってノエルを召喚。ついでにヘカテー、ゼーレ、シズも付いてきて、結局女の子の肌色成分マシマシな結果になってしまうことになった。
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