金色の王への対処

 エマとの決闘後、彼女の自宅に戻ったヨミたちは客間に案内されて丁重にもてなされる。

 最初はヨミとヘカテー、シエル以外を雑に扱おうとしていたがエマからの一喝で同じようにしてもらった。

 出された紅茶は味がよく、茶菓子も甘さが控えめで素晴らしい。ヨミには消耗した分の血液を補充させるために、前にここに攻め込んで来たプレイヤーから奪ったと言う血液を貰った。

 男のものだと聞かされた時はちょっと嫌だったが、かといって他人の血液量を増やす手段を持っていないのでノエルに頼むわけにも行かず、我慢してそれを飲んで回復した。


「さて、では早速奴についての話をしよう。私もあれに故郷を滅ぼされて憤っているからな。少しでも倒せる確率は上げておきたい」

「それはいいんだけど……エマはなんでボクの膝の上に?」

「座り心地は最高だぞ、お姉様」

「だからなんで……」


 なぜか妙に懐かれてちょっと熱っぽい視線を向けられて、引くりと頬が引き攣る。やっぱりさっきの決闘の時に危ない扉を開いてしまったのか、あるいは元々彼女はこういう子だったのか。

 真相はエマのみぞ知るし聞いても答えてくれないので、考えるのを止める。


「まずゴルドフレイについて、どこまで知っている?」

「ここにいる全員あれと戦ったわけじゃないから、前に戦ったことのある人から聞いたことにはなるけど、飛行速度は超音速か極超音速以上。外殻は半端なく硬くてまともにダメージは通らなくて、その硬さを利用して自らを砲弾として行動する。かなりの頻度で空に飛んで行って、重力による落下速度と自らの極超音速以上の加速で、速度と特大質量による落下攻撃で着弾地点から数十から百メートルほどを抉り飛ばす、くらいまでは」

「ふむ、基本的なことは分かっているか。いくつか訂正させてもらうが、極超音速は音速の五倍以上を示す言葉だったな? 正確には、最低でも音速の七から九倍、最高速度は音速の十五倍以上だ。目視してからの回避は、基本間に合わん」


 ただでさえゴルドニールで先に回避行動をしないといけないくらいだったのに、竜王はそれ以上だそうだ。

 亡霊の弾丸から金竜王の最高速度は極超音速以上だと聞かされて、最低でもマッハ5だと推測していたのに、それよりももっと早いと知って愕然とする。


「あれに挑むために眷属を倒したか?」

「もちろん。アーネストたちはまだ倒せてないけど、ボクたち銀月の王座と仲間の亡霊の弾丸っていうギルドの主要メンバーは、ゴルドニールを倒して挑戦権を獲得してるよ」

「なら、眷属の最大の攻撃が何だったのかは知っているな」


 空を音を置き去りにする速度での飛行、硬い外殻を利用し自らを砲弾とし空中戦では無類の強さを誇り、だからこそ空を支配しているのだと思っていた。

 だが実際は、「そら」を「宙」と読むことで解釈を広げ宇宙にあるものをこの世界に呼び込むのか自分で作ったのか、巨大な隕石落下攻撃をみてそれが空の支配者たる所以なのだと分からされた。

 眷属の時点であのデカさなのだ。なら眷属以上の力を持つ王となればどうなるか? 答えは言うまでもない。


「竜王にはそれぞれに、一撃必殺ともいえる強力な技がある。アンボルトの雷王の崩雫ほうだ、赫竜王の炎腐業敗えんぶごうはい、緑竜王の樹海地壊じゅかいちかい、蒼竜王の絶対零度などな。金竜王の持つ一撃必殺は、特大の隕石をいくつも降らす金剛隕星雨こんごういんせいうだ。破壊など考えないほうがいいぞ。名前の通り金剛石のように強靭で、私の父が本気を出しても、砕くことすらできなかったからな」

「隕石の雨を降らすって、どう対処すればいいの……?」


 何度も言われているし、ヨミも何度も思ったことだが、運営はグランドクエストをクリアさせる気が毛頭ないと感じてしまう。


「それだけじゃないぞ? もちろん、己の巨体と音速を遥かに超える飛行速度での墜落攻撃に突進攻撃、普通に飛ばなくても体が硬くて攻撃が通らないから回避せずに肉弾戦もしてくるし、ブレス一つで山が消し飛ぶ威力だ。果てには、空を旋回しながらブレスを機関銃のように撃って金色の流星群とも思える攻撃もしてくる。お姉様ならストックを保持しているから問題ないだろうが、他は直撃すれば瀕死になるか即死するだろうな」

「ひえ……」


 分かってはいたことだが、化け物過ぎる。なんで運営はこんなバカ強いエネミーを作って、開発責任者はこれにGOサインを出したのだろうか。

 ゲームというのはプレイヤーと敵とのバランスが取れていて、ちゃんと対策したりすれば倒すようにできているものだ。

 ヨミが今でも好きなモンスター狩猟ゲームにも理不尽に強い敵は出てくるが、ちゃんと対策すれば即死効果を無効化できるしきちんと倒せる。


 だがこのゲームはどうだ。恐らくゴルドフレイもゴルドニール同様逆鱗を攻撃すれば、異常に硬い防御を一時的に破壊できるようになっているだろうが、判明している対策がそれ一つしかないし、巨体すぎるがゆえに逆鱗が小さくてどこにあるのか見つけづらいはずだ。

 その上で音速以上の速度での飛行をして、そのまま突進攻撃や墜落攻撃やらをしてくる。

 システムで、プログラミングで作られた理不尽なので必ず対処する方法はあるのだが、それにしたって酷すぎる。


「確認だけど、ゴルドフレイの外殻がバカみたいに硬いのは、逆鱗を攻撃すればダメージが通るくらいにはなるんだよね?」

「なるぞ。逆鱗は全ての竜種の弱点だ。奴らが使う能力も、逆鱗を攻撃すれば一時的に制御を失う。まあ、中には制御を乱されたところで制御しなくてもいいレベルの攻撃を行う奴もいるが」


 エマの言う制御しなくてもいいレベルの攻撃を行う奴とは、きっとアンボルトのことだろう。

 逆鱗を攻撃され大ダメージを何度も与えたが、普通に雷を使って来ていた。あまりの雷の量に狙っていると思っていたが、ブレス以外はよくよく思い返せば密度がすさまじいだけで狙って攻撃していなかった。


「ともかく、分かっているのはここまでだ。そちらの助けになるかどうかは分からんがな」

「十分だよ、エマ。特に奴の一番の攻撃を知れたのが大きい。ありがとう」

「ふふん! もっと褒めたたえてくれたっていいのだぞ?」


 どやぁ! と胸を張りながら言うその様が可愛かったので、ほっこりとなって頭を撫でる。

 身長がそう変わらないし見た目が結構似ているので姉妹のようだと親近感がわき始め、しかし彼女の方が年上なのでどこか姉っぽく感じていたのだが、急に妹感が出て来た。

 なんかこっちをじーっと見つめ続けているシズがちょっと怖いが、ヨミではなくエマを見ているのだと思うことにする。


「あとは対策だな。奴の攻撃を防ぐ手段はあるのか?」


 アーネストが挙手しながら質問する。これは確かに非常に気になることだ。

 もう大分人の心とクリアさせる気ないだろって言いたくなるような調整具合ではあるが、アンボルトの最大の攻撃をどうにかして掻い潜ることができたのだ。逃げ道くらいはできているだろう。


「防ぐ手段……あるにはあるが、条件が分からん」

「条件?」

「うむ。記憶の限りでは三度使ってきたのだが、二度は防御する方法などなく金剛隕星雨に潰されたが、二度目だけ大打撃こそ受けたがどうにか死なずに済んだことがある。確かあの時は……逆鱗に何度か攻撃を当てることができて、牽制するようにいくつか隕石を振らせた後それがその場に残っていてその裏に隠れていた。あの大質量隕石の雨を凌げるほどの硬さがあったから助かったが、それができたのは二度目だけで三度目の隕石の雨で軍は壊滅。私たちは敗走する羽目になった」


 それを聞いて、プレイヤー陣はほぼ全員頭を抱える。

 話を聞く限りでは、助かる方法はただ一つ。恐らく定期的に一撃必殺技を繰り出してくるので、音速で飛行する相手に逆鱗を狙ってダメージを入れ続けて硬い材質の隕石を振らせるしかない。

 要するにDPSチェックという悪しきものだ。


「アンボルトにもあったなぁ、DPSチェック……!」

「DPS……一人でも火力を出せなければ……うっ、頭が……」

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……」


 ヨミは勘弁してくれとエマを抱きしめて現実逃避しようとして、シエルは何かを思い出したのか頭を抱え、ノエルは虚ろな目でぶつぶつと嫌だと繰り返す。

 ヘカテーも顔を青くして震えており、ジンも白くなってしまっている。それだけDPSチェックというのは厳しいのだ。


「どうした、そんなに震えて。時間内に火力を出せばいいだけの話じゃないか」

「それができれば苦労しないんだよ……!」


 アーネストはきょとんとしているが、彼だってウォータイス戦で何度もDPSチェックをしているのだからその辛さを知っているだろうに、ゴルドフレイにもあると知ってから楽しそうな笑みを浮かべている。どこまでも戦闘狂だ。


「第一、ゴルドフレイは奴の能力でめちゃくちゃ硬くなっているから、逆鱗は絶対に狙わないといけないんだ。エマが何度か逆鱗に攻撃を当てたと言ってたけど、数回当ててやっとDPSチェックを突破できるくらいのタフネス。それでいて音速の壁ぶち抜いて飛んでるからそう簡単には狙えない。っていう話をしてるのになんでお前はそんな楽しそうなの!?」

「理不尽な敵に挑む時ほど燃えないか?」

「確かにそうだけどこれは理不尽すぎるだろうがぁ!?」


 ヨミとて戦闘狂だ。アーネストの言い分も分かるが、彼は少し度が過ぎる。


「要はあれが止まってくれればいいんだろ? なら、マーリンの魔術があるじゃないか」

「流石に連れて行けないでしょ」

「いや、そうではなく。魔術としてこの世界にあるのなら、システム上はこの世界にもある。なら彼に協力を頼んで魔術を使えるプレイヤーに、彼の空間凍結魔術を教えてもらえばいいじゃないか」

「……その手があったか!」


 全く思いつきもしなかった。確かにそうだ。

 ヨミと全く同じ魔術をNPCが使えると言うことは、NPCが使う魔術をプレイヤーも使えると言うこと。

 習得条件は聞かなければ分からないが、もしマーリンのあの空間凍結を覚えることができるのなら、ゴルドフレイの動き出した瞬間か目視できるほど減速した時に使えばその場に止めることができて、総攻撃で逆鱗の位置を割り出すことができる。


「ナイスアイデアだアーネスト! お前、ただの戦闘狂じゃないんだな!」

「どういう意味だい君。遠回しに戦闘以外能のないバカだと言われている気がするんだが」

「ソンナコトナイヨ。アーネストノ頭ガイイノハナントナク分カッテタヨ」

「よし、後でバトレイドにこい。全力で相手してやろう」

「兄さん落ち着いて」

「いいよ、その喧嘩買ってやる。もっかいぶちのめしてやるよ剣聖」

「なんでそんな喧嘩腰なの!?」


 にっこーと笑みを浮かべつつ額に青筋を浮かべたアーネストが、ちょっとドスの聞いた声で言ってきた。すかさずイリヤが止めに入るが、ヨミももう一度アーネストとタイマンしたかったので喧嘩を買う。

 なんでこうなるんだとイリヤは「あぁ……」と頭を抱えてテーブルに突っ伏し、グローリア・ブレイズと銀月の王座のマスターがあまりにも戦闘狂すぎるためか、家の中にいるほかの吸血鬼からちょっと同情の目を向けられていた。

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