全員合流

 女の子の日がやってきて憂鬱な日々を過ごした詩乃。二日目から酷いことが多いから覚悟しろと言われて怯えていたら、本当に二日目は初日以上に辛くなって流石に学校を休んだ。

 初日の時点で体調が悪そうにしているのを全員に察せられて心配されており、ちょっと話すようになってきた男子諸君も妙に優しく接するか、どう接すればいいのか分からないからか話しかけてこなかった。

 やっぱり見た目のせいで病弱だと思われていて、それを払拭しきる前に本当に体調不良になってしまったものだから勘違いは加速してしまった。


 生理は四日間続き、毎月女の子はこんなに辛い思いをしているのかといつも何事もないかのように振舞っているのえると詩月に尊敬の念すら覚えた。

 やっと体調不良も痛みもなくなり、絶好調になった詩乃は土曜日で何も予定も入っていないため、早速FDOにログインした。


「四日間ろくにプレイできてなかったし、森でちょっとリハビリでもしようかな」


 目を覚ましたベッドの上でぐーっと伸びをしながら予定を組む。

 メンタル的に復活するだけでここまで楽になるのかと解放されたことに喜びを感じ、ちょっとテンションが上がっているのかロットヴルムにソロで挑もうかと考え始める。


「いや、流石にあれを一人でやるのは無謀すぎる。できないこともないけど、やりたくないし」


 やっぱりレイドボスにはソロで挑むわけにいかないので、諦めて赫き腐敗の森の強い敵たちを練習相手にする。

 そうと決まれば早速行こうとギルドハウスから出ると、ギルドハウス前の広場でクロムと軍服風の衣装を着た金髪の少女が、お互いの武器を見せないながら盛り上がっていた。


「あれ、フレイヤさんじゃん。もう着いたんだ」

「あ、ヨミさん!」


 声をかけるとぎゅるん! とこちらを向いてダッシュしてくる。

 急になんだとびくりと体を震わせると、ガッと肩を掴まれる。


「どうして……どうして早く教えてくださらなかったのですか!? あなたが使うブリッツグライフェンがドロップではなく、オーダーメイドウェポンだったってこと! そしてそれを作った方がフリーデンにいることを!」

「ど、どうしてって言われても……。ボクフレイヤさんがどんなものが好みなのか分からないし、教えたところで協力するってことをそっちが表明するまで連れてくる気なかったし……」

「そうでしたねっ。あぁ、過去の私を消し飛ばしてやりたい……!」


 どうやらクロムという最高位鍛冶師マスタースミスの作った武器は、フレイヤの好みにぶっ刺さったらしい。

 両腕に抱いている金色の武器を、うっとりとした表情で見つめている。

 ちなみに彼女が胸に抱いている金色の武器は、ヨミが手に入れたゴルドニールの素材を使って作ったもので、ちょっと大きめなランスだ。

 しかもただのランスではなく、心臓となる核も手に入れていたのでそれを内部にセットすることで、常にエネルギーが供給されてランスそのものをスラスターとして強烈なチャージランスができるようになっているし、これにも変形機構を付けてあるので変形させてガンランスに変えて、内部のエネルギーを砲撃としてぶっ放すことも可能だ。


「嬢ちゃん、この金髪の嬢ちゃんも中々すげえな。ワシじゃ思いつかんようなことをやっとるぞ」

「……フレイヤさん、クロムさんが持ってるあの武器って何?」

「あれも変形武器で、斧と大剣と片手剣と盾に変形するものです」

「もしかしなくてもさ、フレイヤさんの変形武器好きってあの狩猟ゲームから来てる?」

「あれもきっかけの一つです」

「あ、そう……」


 形状的にそうじゃないかと思ったら本当にそうだった。

 フレイヤが配信内で使いまわしている武器にいくつか、絶対にあのゲームを参考しているだろって思うのがあったので、聞いてみたら案の定だった。

 呆れそうになるが、ブリッツグライフェンの主な変形機能や能力はクロムだが武器デザインはヨミも口を出していて、その際あの狩猟ゲームのものを参考しているので何も言えない。


「あ、そう言えばここに居るってことは、魔導兵装の開発は済んだってことだよね?」

「その通りです! 竜王に挑むとあって気合を入れて作ってきましたとも! もちろん、ヨミさんの分もありますよ?」

「ありがたく頂戴するけど、これ以上武器増えても使いきれないよぉ……」


 今持っている武器は何があるだろうかろ振り返ってみる。

 初心者装備の鉄のナイフは除外するとして、紅鱗刃、亜竜鱗のナイフ、ユニーク装備の夜空の星剣と暁の煌剣、ブリッツグライフェン、今フレイヤが抱えているゴルドニールの変形ランス、斬赫爪、PKをキルしたことで手に入れた品質が良くない武器諸々。

 こうして見ると種類こそ少ないが、ブリッツグライフェン一本で全部解決できてしまうので、やっぱり多いかもしれない。

 そこにフレイヤの超火力魔導兵装が加わるのだから、いよいよインベントリの肥やしになるものが増えてくる。もう既に紅鱗刃と亜竜鱗のナイフ、白黒夫婦剣の片割れの暁の煌剣は肥やしになってしまっているが。


 そもそも武器が一つあれば十分どころか、何だったら武器を作ってもらわなくても自前の『シャドウアーマメント』や暗影魔術レイヴンアーク熟練度30で覚えていた『レイヴンウェポン』でどうにかできるのだ。

 だがブリッツグライフェンが想像以上に使い勝手がよく性能が高いおかげで、影魔術と暗影魔術の影武器生成魔術の出番はすっかりなくなってしまった。

 それらは強い敵、それこそグランド関連のエネミーとかだけに使うようにして、それ以外でのPvPや普通のレイドボスで使えばいいのだが、耐久値と攻撃力がバチクソ高い武器で一気に削ったほうが爽快感があるのだ。

 でもやっぱりそれだと使わないものが出てきてしまうので、今後は普通のMOBエネミーやグランド関連以外のレイドボス、アーネストや美琴、フレイヤのような最上位層以外のプレイヤーとのPvPでは、影武器を使うことにする。


 それはそうと、ゴルドニールランスを早く試したいので、これはすぐにでも使う。


「……そうだ、フレイヤさん。ボクはこの変形ランスの性能を試したいし、フレイヤさんも自分で作った魔導兵装の性能を試したいだろうからさ、連携の訓練のためにもロットヴルムに挑んでみる?」

「是非ともそうしましょう。丁度美琴とアーネストもいるみたいですし、亡霊の皆さんも呼んでレイド行きましょう」


 すぐにフレイヤは胸に抱えている金ぴかランスをヨミに渡し、チャットを打ち込み始める。

 ヨミも三大ギルド全員揃っているならと、ギルメンに招集をかけて亡霊の弾丸も呼んでみた。

 十分もしないうちに声をかけた全員が集まってきて、全部で20人のレイドパーティーとなった。

 三十分後、みんな仲良くフリーデンに死に戻った。


「何なんですかあれ!?」

「ぶっちゃけ今まで戦ってきたグランドを除いたエネミーの中でぶっちぎりで強いんだけど」

「ヨミ、君はあれを二時間で倒したそうじゃないか。どうやった」

「ボクもマジでどうやったのか気になって仕方ない」


 一人の時とレイドをちゃんと組んだ時とでHPや火力が変わるモンスター狩猟ゲームよろしく、明らかにソロで挑んでいる時よりも火力が上がっているような気がした。

 フレイヤは腐敗ブレスを真っ向から盾で防ぎ、しかし一気に耐久値が削れて腐食してしまった盾を涙目になって抱え、美琴は体が腐敗して倒されたことがトラウマになったっぽいトーチを抱きしめながら慰め、アーネストがにっこりと笑顔を向けて来た。

 雷王怨嗟を取得したばかりの時もノエルと一緒にあれに挑んで、あの時も返り討ちにされたが、あれは二人だけだからだと思っていた。だが全然そんなことはなく、どう考えてもロットヴルムが強化されている気がしてならない。

 せっかくならあの時配信なりすることで証拠映像を残しておけばよかったと後悔するが、後の祭りだ。


「ねえ、眷属ってさ、プレイヤーに倒されたらリポップした時に強化されてるとかないよね?」

「分からない。私はウォータイスの眷属である蒼竜グレイシアニルを一回しか倒してないからな。美琴は何か分かるか?」

「私も同じよ。緑竜グリンヘッグは一回切り。でもさ、ヨミちゃんはアンボルトに挑む時にボルトリントを倒したんでしょ? で、過去にシエルくんがソロであれを倒した。もしリスポーンした際に強化されてるなら、そこで何か分かるんじゃないの?」

「そう言えば、ジンがいない頃にあれに挑んだ時、あまりの攻撃密度にどうやってこれ倒したんだって叫んだっけ」


 シエルでもソロで行けたんだからパーティーを組んでれば余裕だと思っていたのに、想像以上の火力と殺意の高さにボコボコにされた懐かしい記憶が蘇る。

 どうなんだとシエルに向けると、FDOで初めて黄竜を倒した時の記憶を思い返しているのか、顎に手を当てて黙りこくるシエル。

 誤魔化そうとしても無駄だぞと全員からの圧力があるからか、少し居心地が悪そうだ。


「……多分、強化はされてる……と思う。証拠になる映像がないから何とも言えないけど、少なくともあそこまで密度が高い雷撃はしてこなかったと思う」

「ジンさんをギルドに入れた後に挑戦権獲得のためにもう一回挑んだけど、あれもなんか強化されてなかった? ジンさんひいひい言ってたし」

「めちゃくちゃ疲れて真っ白になってましたね」

「まさかの強化されてる決定? 運営は何を考えてんの?」

「いや、ゲームではなくこの世界を本物だと考えれば妥当だろう。これくらいでいいだろうと思って作った眷属が負けた。なら次は負けないように強くする。当然のことだ」

「私も、魔導兵装で耐久値が不足して壊れた時は、同じものを作る際は強度を上げてついでに火力も上げますから、負けたから強くして作り直すと言うのにはしっくりきますね」

「マジかぁ……」


 ジンを入れた後のボルトリントは、彼がタンクとなってヘイトを買い続けてくれたこともありヨミたちは前回よりも比較的楽に倒せていたのだが、あの時点で装備の差はあれど竜王の攻撃も防げるタンクをあそこまで疲弊させていたのだから、強化されていたのは間違いなさそうだ。


「……ってことはさ、この間のゴルドニールがめちゃくちゃ強かったのって、美琴さんがトーチちゃんを助ける時に倒したからってことにならない?」

「え? もしかして私のせい?」

「今のが当たっていればな。情報から見るに当たってそうだけど」

「じゃあ何? グランドクエストへの正式な挑戦権を獲得できる眷属討伐は回数をひたすらこなすんじゃなくて、ある程度人数を集めた上で回数を抑えなきゃいけないってこと?」

「そう、なるのでしょうね。クロムさんがヨミさんに作ったあのランスを見るに、素材としてはかなり優秀だから周回して素材を集めようと思っていたのですが……」

「しかも、アンボルトは下から二番目の最弱格で、ゴルドフレイは上から四番目で四色最強。眷属のボルトリントを複数回少ない人数で倒せたのは、その強さの差があったからなんだろうなあ」


 思わぬところでとんでもない事実が判明し、どうしようと頭を抱える。

 三大ギルドの夢想の雷霆、剣の乙女、グローリア・ブレイズのグランドクエスト参加メンバーに挑戦権を獲得させておきたいが、眷属相手ならそこまで数は必要ないだろうし何回かに分けてやろうと考えていた。

 しかしここにきて負けてリポップすればするだけ強化されることが判明し、この戦い方はできなくなってしまった。

 まだ分からないこともあり、一回負けたから前回の個体より強くなるのか、その時挑んで倒した人数を参照してその分だけ強くなるのか。どっちなのかが分からない。


 前の個体が負けたからただそれよりも強くなるだけであれば、全くよくはないがまだいい。だがその時挑んできたレイドの人数を参照してその分だけ強くなるのだとしたら、最悪なことになる。

 グランドクエストをクリアさせる気がないだろと言われるくらい難易度が高いが、流石に運営もそこまで鬼畜じゃないだろうからヨミ的には前者だと思っている。

 もし後者なのだとしたら、剣の乙女、夢想の雷霆、グローリア・ブレイズ全員がまだ挑まないといけないので、既に十人以上でゴルドニールを倒してしまっているので恐ろしく強化されてしまうことになる。


「今ゴルドニールがどこにいるのか分からないし、有志の協力してくれてるプレイヤーやアーカーシャの方々から情報が来る、あるいはボクたちで見つけるまでは大人しくしておこう」

「そうだね」


 とりあえずはグランを関連を見かけてもむやみに手を出さないという方針となり、ノエルがヘカテーを後ろからぎゅっとしながら同意する。


「当分はそんなに進まさなそうだし、俺的には助かるな」

「お前が戻って来るまでにクリアしてやりたかったよ」

「それやったらマジでふざけんな案件だからな?」

「ま、シエルの狙撃がないと始まらない部分てのもあるし、アオステルベンの固有戦技がめちゃくちゃ竜王に有効だし、どの道グランドに挑む日にちはシエルが開いている日になりそうだけど」

「それなら許す」


 シエルは来月の初めにある大きなゲームイベントに参加することになっているので、グランド関連はその後になることだろう。

 金竜王はアンブロジアズ魔導王国内にいることは分かっているがそれだけでかなり捜索は難航しているし、四月中に解決することはないだろう。


 そうと決まれば、ヨミは久々にPvP祭りだとバトレイドに向かうことにして、アーネストと美琴がなぜかついてきた。

 一緒にバトレイドに来て到着するなり、早速二人から挑戦を申し込まれ、面白いだろうとその挑戦を受ける。

 ならば決勝戦の最初の方のことを再現しようとフレイヤも呼び、四つ巴のPvPを行うこととなった。

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