金色の王との謁見に向けて

 金竜との戦いを終えて、亡霊の弾丸一部メンバーとシエルを除いた銀月の王座が挑戦権を得た次の日。

 ヨミが再び竜王に挑むための権利を手に入れたとしてSNSやネット掲示板は大盛り上がりらしいが、頑なに掲示板などは見ようとはしない。絶対に変態がいると分かっているから。


「ほんと、詩乃って話題に事欠かないよね。いつも何か大きな話題の中心にいるじゃん」

「望んでその話題の中心の飛び込んでるわけじゃないけどね」

「あんた配信者なんだし、そのくらいでいいんじゃないの?」


 今日は朝起きるのが遅くなってしまい、お弁当を作る余裕がなかったので食堂で昼食を食べている。

 もちろんのえるも一緒に来ていて、先に食券を購入できて料理を手に入れた詩乃と美月が、三人で座れる場所を見つけておいた。ボックス席のようになっているので、三人で座るにはちょっと広すぎるがゆったりできる。


「ていうかさ、詩乃の持ってる……ブリッツなんちゃらっての、あれ一体いくつ形態変化すんのさ。遂にレールガンになったからって、コメント欄大盛り上がりして壊れてたけど」

「ブリッツグライフェンね。最初は五個くらいだったんだけど、アンボルトの素材がまだまだ集まるからちまちま増設して、今いくつあるんだろう。既存の武器種全部はあるのは確かだけど」

「言い換えると既存じゃない、詩乃専用の武装もあるっていう風にも聞こえますけども」

「腰と足に着けるスラスターとかまさにそうだよ。思ったより制御難しいからあまり使いたくないけど」

「そのあまり使いたくないもので、FDO最強の剣士と空中戦繰り広げたのはどこの誰でしょうか」


 詩乃である。

 しかしあの時はすぐに地面に降りたので、あまり空中戦が不得意だと言う風に捉えられることはなかっただろう。


「お待たせー」


 じとーっと美月にジト目を向けられていると、のえるが料理を持ってやってくる。

 やっと来たかと目を向けると、何故か一緒に並んで歩く黒髪の美少女に思わずちゅるちゅると啜っていた醤油ラーメンを吹き出しそうになった。

 その後ろには鴉の濡れ羽の髪の少女と亜麻色の髪の少女もおり、見覚えがある。ありすぎるくらいに。


「やっほー、詩乃ちゃん」

「なんで美琴さんが一緒に?」

「私も今日寝坊しちゃってね。列に並んでたら偶然のえるちゃんと会ったの。せっかくだし、みんなで一緒にって思って」

「ボクは構いませんけど……」


 ちらりと対面に座る美月に目線を送ると、別に大丈夫だと目で返してきた。


「じゃあ、みんなで一緒に」

「やった。あ、お隣失礼するわね、宝田さん」

「どうぞ」


 美月の隣の席に着いた美琴。持っていた料理は親子丼だった。

 のえるはすぐに詩乃の右隣りに陣取り、鶏肉の照り焼き定食を持った黒髪の少女は美琴の隣に、きつねうどんを持った亜麻色の髪の少女は空いていた詩乃の左の席に座った。


「……本当に、そのままなんですね」

「それはこっちのセリフでもありますけどね、カナタさん」

「美桜はゲームとリアルで顔ちょっと変えてるけど、その髪色が特徴的だから案外バレるのよね」

「別に、バレたくないから顔をちょっと変えているわけじゃないから」

「あ、サクラさんってこっちじゃ普通の口調なんだ」

「ゲーム内ではロールプレイしているだけ。現実でもあの口調でいたら流石に、ね」

「とは言いつつも、中学までは私たちの前じゃあの口調だったけどね」

「そ、それは掘り返さないでくれない?」


 詩乃の隣に座った少女サクラ改め十六夜美桜は、あまり触れてほしくないらしい過去を後輩の前でバラされて、頬を赤くする。


「……こほん。私は十六夜美桜。生徒会書記を務めてる。よろしく。美桜って呼んでほしいかな」

「私は刀崎華奈樹です。生徒会の副会長をしています。よろしくお願いしますね。私も、華奈樹と呼んでください」


 美桜は頬を赤くしたまま咳払いをしてから自己紹介し、華奈樹はふわりと柔和な笑みを浮かべながら自己紹介する。

 華奈樹は年齢関係なく敬語を使うタイプのようで、艶やかな長い黒髪の大和撫子であることもあってすさまじいお嬢様感がある。


「知ってると思うけど、二人とも私の幼馴染なの。あと、高校の三年間は私の家に居候してるから、うちに来れば私服姿の二人が見れるわよ」

「東雲さんと夜見川さんを招く時は先に一言言ってくださいね? だらしないところを見られたくないです」

「華奈樹は普段からきっちりしてるから問題ないでしょ。美桜は……夏場はちょっとあれかもね」

「別に女の子なら見られてもなんとも」

「女の子だけだからってあんなだらしない格好はするものじゃありませんからね、もう」


 ちょっとだらしない美桜に、しっかり者の華奈樹。そのやり取りはまるで姉妹のようで、なんだか微笑ましい。


「夜見川詩乃です。詩乃って呼んでください」

「東雲のえるです。私の方がお姉ちゃんで、空が弟です。苗字だと被っちゃうので名前で呼んでください」

「宝田美月です。まあ、私も名前でお願いします」


 詩乃たちも順番に自己紹介する。


「それより、昨日は大丈夫だった? 私がアーネストと張り合ってあんなこと言わなかったら、駆け付けることで来たのに……」

「お、お気になさらず。色々あって倒せたので」


 美琴もアーネストと同じで、自力で見つけ出すから手助け不要と言っていた。それが昨日裏目に出てしまい、一時間以上かけて戦うことになった。

 最終的に逆鱗を攻撃すれば防御が壊れて、一時的にダメージが通りやすくなると言うギミックを解明したので、かなり苦戦はしたが倒すことができたので結果オーライだ。


「そう言えば、美琴さんはゴルドニールをソロで倒したんですよね? どうやって倒したんですか?」


 あのアホほど固い金ぴかドラゴンをソロで倒したという情報は、リスナーから仕入れている。

 詩乃も空も眷属ソロ討伐を成し遂げているので、美琴ほどの強さのプレイヤーならやっててもおかしくないと思っていたが、あれと戦ってからはどうやって倒したが先に来るようになった。


「ドラゴン系エネミーって逆鱗が弱点だから、とにかく喉元を集中的に攻撃してたら逆鱗に当たって、何かめちゃくちゃ硬かったけど逆鱗を攻撃したらダメージ通るようになったから、そこからゴリ押した」

「最後はトーチさんを襲おうとしていたエネミーごと、美琴の諸願七雷で両断したそうですね」

「まとめて倒したほうが一石二鳥だから。丁度蓄積も終わってたし」

「……ボク、対抗戦の決勝終盤でアーネストに美琴さんを倒してもらってよかったかも」


 逆鱗攻撃でダメージが入るようになっても、めちゃくちゃ硬いことに変わりはない。それを追い詰めた後だったとはいえ両断している。

 彼女の最大火力の諸願七雷・七鳴神の最強の一撃を使わせずにあの場で退場させることができたのは、本当に運がよかった。

 もしアーネストがあそこで美琴を退場させることができていなかったら、逆転負けも余裕であった。それくらい美琴の最大火力は危険なのだ。


 それはそうと、美琴も詩乃たちと同じで逆鱗攻撃からの防御破壊で攻めたらしい。それを一人でやってのけたことが一番おかしいのだが、それには触れないでおく。


「ゴルドニールか。私はまだ会ったこともないんだけど」

「あればかりはランダムエンカウントだし、仕方がないよ。リアルラックがすごく高い華奈樹でも遭遇できてないんだし」

「すっごく遠くを飛んでいるのは見かけたんですけどね」

「ボク、すごく遠くを飛んでいるのを見上げたら襲われたんすけど」

「えぇ……? あれってそんなに好戦的だったかな……」


 美琴はレベリング中に森の中で鉢合わせて自分から勝負を吹っかけたそうだが、戦いは常に音速飛行して距離を取りつつ突進攻撃がメインだったらしい。

 美琴が攻撃するチャンスは地面にいる短い間だけで、それ以外は回避に専念したのだと言う。

 それだけ聞くと戦闘に消極的だと感じるが、金竜王ゴルドフレイは亡霊の弾丸曰く、向こうから奇襲を仕掛けて来たそうでめちゃくちゃ好戦的だったそうだ。

 眷属と王がそこまで性格に差が出るとは思えない。バーンロットは分からないが、ボルトリントとアンボルトは攻撃的で好戦的だったし、共通点はあるはずなのだ。


「これからはどうするの? 金竜素材は手に入ったから、それで何か装備を整える感じ?」

「そうですかね。防具はアンボルト素材のものでめちゃくちゃ性能いいのでこのままですけど、サブウェポンとか色々作るかもですね」

「特別なエネミーだから、ゴルドニール一体分の素材があの場にいた全員に均等に分配されて渡ったしね。素材はかなり余るよね」

「正直ボクもうこれ以上武器増やしでも、多すぎて困るんだけどね。せっかくユニーク武器あるのに、メインがグランドウェポンになりつつあるし。というかもうなってるし」


 攻撃力も性能も非常に高いのに、ユニークのお披露目がアンボルト戦でその一回でクリアしてしまったものだから、その後ろくな活躍をしていない。

 使うにしても夜空の星剣の固有戦技デバフをばら撒くだけで攻撃には使わなかったり、武器ではなくバフ装備みたくなってしまっている。

 原因は全て、既存の武器種全てに変形できるブリッツグライフェンだ。攻撃性能も耐久値も何もかもがユニークの上位互換で、これでないとやられていたような場面がいくつもある。


 クロムが空が使っているユニーク武器の魔銃アオステルベンの制作者だと知った時は、非常に驚いた。けど、あの非常に高い鍛冶技術の謎が分かり、腑に落ちて納得することもあった。

 ユニーク武器すら作り出せる鍛冶師NPCだ。素材さえ揃えばそれ以上のものを作り上げることだって可能だ。その証拠にヨミのブリッツグライフェン、ノエルのシュラークゼーゲン、シエルのボルテロイドのグランドウェポンだ。


「アーネストたちは今頃悔しがってるだろうなあ。意地張って自力で見つけるって言わずにいたら、あれと戦えただろうに」

「それは美琴も同じですよ。全く、だから私は張り合わずに素直に案内してもらおうって言ったんですよ?」

「うっ……。ごめんなさい……」

「詩乃さん、今日お時間がありましたらフリーデンに案内してもらえませんか? ゴルドニールが倒されてゴルドフレイが危険視して、再度生み出した眷属をけしかけないとは限らないので」

「そうですね。いいですよ、案内します。美桜さんもいいですか?」

「私も華奈樹と同じで、張り合ってないでさっさと案内してもらおう派だったから」

「あ、じゃあ美琴さんの独断……」

「そうですぅー。自力で探し当てるって言ったのは私の独断ですよーだ」


 つん、とそっぽを向いてしまった美琴。

 背が高くてスタイルもよく大人っぽい印象を受けるが、そういうところは年齢相応に可愛らしいのだなと、くすりと笑う。

 笑われた美琴はちょっと不満気に頬をぷくっと膨らませるが、座っている場所が詩乃からちょっと遠く腕が届かないのでゆるゆると息を吐き出した。


 食事を楽しみながらあれこれFDO内ですることを話し合った後、放課後に美琴たちは今日は生徒会の仕事もないのでちょっと寄り道しようと言う話になり、近くに美味しいクレープを販売するキッチンカーが今日来るそうなので、全員でそこに寄ることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る