金の王への挑戦権 6

キリのいいところまでやりたかったのです

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 以前考察ギルドアーカーシャのギルドマスターのシンカーと会って、彼女と金竜王と金竜の能力は何なのか議論したことがある。

 その際に「そら」を「宙」とも書くため、宇宙から隕石を落としてくる攻撃もできるんじゃないかといったが、流石に飛躍しすぎだと否定された。

 流石に言ってからないだろと笑い話となって終わったことだったのだが、まさか現実だとは思わない。

 一応、宇宙からそのまま隕石を落としているのではなく超大質量の岩の塊を隕石のように落としてくるだけとも受け取れなくはないが、魔法陣から出てきているので宇宙にある隕石をこっちに召喚してきたとも受け取れる。


『全員最大火力で攻撃してください!』


 流石に焦った様子のシェリアが叫ぶように指示を出し、遠距離手段のある者がそれぞれで火力を出す。

 クルルは固有戦技を発動し、リオンは爆破弾エクスプロード強撃弾ブーストを組み合わせた爆撃弾ブラスターをひたすら連射し、トーマスも電磁加速弾と爆破弾を組み合わせた電磁加速炸裂弾レールブラストを、アイザックもシェリアも爆破弾を撃ちまくる。


 マーリンは並列詠唱という二つの魔術の呪文を組み合わせて一つの呪文にして、二つ同時に発動させると言う高等技術で炎と氷の極大魔術を放つ。


「こんなのがお披露目とか嫌だー!? 『ウェポンアウェイク・全放出フルバースト』───『雷禍レビン雷砲撃レールキャノン』!」


 持っている斬赫爪を地面に突き立て、ブーツと背中にある接続パーツを全て合わせて変形させて長い砲身の銃器を作り上げ、一発だけ間に合わせてもらった砲弾を装填してエネルギーを全消費して射出する。

 ヘカテーは自分の血液を全て使いきる勢いで血魔術を連発し、落ちてくる巨大質量の隕石を攻撃する。


 しかし、あまりにもデカすぎるため全体にひびが入り始めるが、砕けるよりも先に落下してしまう。

 マーリンとガウェインだけでも転移で逃げてもらわなければと振り向いたところで、彼らの後ろから誰かが走ってくるのが見えた。

 金髪でぱっと見が女性だったので、アーネストの妹のイリヤかと思ったがそれにしては小柄だし、体が細い。何よりイリヤは大盾持ちで、盾で攻撃するシールダー、あるいはシールドアタッカーだ。その特徴的な盾が見当たらない。


 では一体誰なのか。目を凝らしてよく見ると、ここに絶対にいちゃいけない人だった。


「皆さま!」

「ステラさん!? なんでここにいるの!?」


『ショートストーリークエスト:【金色より祖国を追われし小さな星と大きな愛】が更新されました』

『ショートサブストーリー:【恐怖に立ち向かう手折られた薔薇の姫】の閲覧が可能となりました』


 ヨミの疑問にステラではなくウィンドウが返答する。

 アルマの時と同じで、彼女がここに姿を見せることでストーリーが進行するようになっていたようだが、ストーリーが進行しなくてもいいからここにいないほうが彼女のためだし、酷い言い方をすれば戦いの邪魔になってしまう。

 『血濡れの殺人姫』を発動させられるようにと詠唱を唱えながらステラの方に向かって走り出すと、乱れた呼吸のまま腰に下げた剣を引き抜き、震える切っ先をゴルドニールに向ける。


「私は……私は……! エヴァンデール王国第一王女、ステラ・リーベ・エヴァンデール! 守られてばかりで何が王族か! 守ってもらってばかりで、何が薔薇の姫騎士か! 人に良くしてもらったのなら、命を賭してでも恩返しをするのが礼儀です! 『ウェポンアウェイク』!」


 声を枯らすように叫んだステラが剣を両手で持って上段に構え、宣言する。

 柄の辺りにはめ込まれている宝石が輝くと、そこから強烈な銀色の大奔流が吹き荒れる。

 みるみるステラの顔色が悪くなっていくのを見て止めに行こうとするが、聖属性も混じっているようで近付こうとした瞬間ダメージが入る。

 どうすればいいのかと二の足を踏んでいると、続けて彼女は彼女の持つ剣の名を宣告する。


「───『祝福されし聖人の剣アスカロン』!」


 名の宣告と共に振り下ろされ、銀色の大奔流が斬撃となって昇る。

 巨大な銀の斬撃は真っすぐゴルドニールの隕石に向かっていき、衝突する。

 一秒、二秒と拮抗したのちにアスカロンが隕石を破壊し、かなり威力が減衰したがそれでもなお昇り、その先にいるゴルドニールに衝突した。


 アスカロンは現実世界でも、聖人が持っていたこともあり聖剣代表ともいえるエクスカリバー以上に明確に聖剣として扱われている。

 そしてこの剣の一番有名な点は、もっとも有名な竜殺しの剣であることだ。

 この世界ではヨミが倒すまで一体たりとも竜王はそれに連なる眷属を倒されたことはないが、それらを倒す目的で竜特効の付いた武具がたくさんある。

 アスカロンはまさにそれで、伝承で最も有名な竜殺しの聖剣だ。現実の知名度が関係しているかどうかは分からないが、少なくともアーネストの持つアロンダイトよりはダメージが通るだろう。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


 銀の斬撃を受けたゴルドニールは悲鳴を上げ、錐もみしながら地面に落下してくる。

 やはり強力な竜特効があったようで、ラスト一本に突入したばかりでほぼ満タンだった最後の一本が、二割も削れている。


 地面に落ちた奴はぐぐっと起き上がり、尻尾からエネルギーを噴射して竜特効の攻撃を入れたステラに殺意の籠った目を向け、踏ん張ったのちに音の壁を通り抜けてくる。


「させるわけ……ないだろ!」


 すかさずマーリンが空間凍結して動きを止め、トーマスが狙撃して逆鱗に直撃させる。

 ガラスが砕けるような音が鳴り、大ダメージと共に一時的に防御が張れなくなる。


「『血濡れの殺人姫ブラッディマーダー』!」


 雷王怨嗟を解除し、『ブランドイグナイト』と『ブラッディアーマー』、『月下血鬼ブラッドナイト』を連続発動し、ブリッツグライフェンを分解してブーツにして残りは背中に集め、斬赫爪が刺さっている場所まで戻って引き抜いてから、詠唱を終えていた奥の手を開放する。

 全身が赤く染まり、蒸発した血の霧が上がる。効果時間は通常の半分だが、ストックはこの戦いで一つも消費していないので、五分間効果を継続させられる。


 地面を踏み砕きながら接近し、胴体に蹴りを一発入れる。エネルギーが溜まっていないのでただの蹴りだが、今の一撃で少し溜まったので左足を軸にして回転してもう一発入れる。

 黄竜王の素材でできたブーツで蹴られて、すさまじい衝撃が体に襲い掛かり苦悶するように目を細めるゴルドニール。

 空間凍結が解除されると同時に口からブレスを吐き出そうと金色のエネルギーを漏らすが、それを認識した瞬間顔まで跳躍して、斬赫爪を振るって右の眼球に突き刺し、捻ってから抉り出す。


「ギャアアアアアアアアアアア!?」


 目を潰されその痛みで暴れるが、影の鎖を首に巻き付けて振り落とされないように張り付きながら、右手で持った斬赫爪をぐっと後ろに引いて構える。


「お前はボクが大好きなこの町を、ステラさんが大好きなこの町を、めちゃくちゃにしようとしたんだ。その報いは受けてもらうよ! 『ディキャピテーション 』!」


 首に向かって斬赫爪を振るい、叩き付ける。異常な防御がないため刃が半分ほど刺さるが、それだけだ。

 体が少し硬直し、すぐに解除される。

 右手を新しく作った影の鎖で斬赫爪に縛り付けてから、首に巻いている鎖を巻き取りながら首に切り傷を入れる。


 首の上まで来たところで振り抜いて大鎌が抜け、時間がすぎて全てのバフが解除される。


「『ソウルサクリファイス』!」


 すぐに持っている命を犠牲に、再び血の魔王が降臨する。

 空中で体を捻り回転を加えて勢いをつけ、全力で斬赫爪を叩きつけて突き立てる。


「『ウェポンアウェイク』───『雷霆の鉄槌ミョルニル』!」


 大暴れするゴルドニールの間をすり抜けてやってきたノエルが跳躍し、大きく振りかぶった両手メイスに雷をまとってそれをメイスの形にして、雷と物理両方で殴りつける。


「『ブラッドランサー』!」


 鎖を巻き付け高速機動で接近して来たヘカテーは、左の顔に張り付いて左手をかざし、ゼロ距離で血の槍を大量の放つ。

 両方の眼球を潰され視界を奪われた金竜は悲鳴を上げて地面に倒れもんどりを打つ。

 尻尾からエネルギーを出して飛んで逃げようとしたので、ジェット機の翼のような背中の翼を切り落とし、傷口に『ジェットファランクス』を撃ち込んでダメージを入れる。


 再び、銀色の塔が立ち上る。

 今にも倒れそうなほど顔色が悪いステラは、激しい怒りと憎悪を瞳に宿して金竜を睨み付け、震える足で地面に立ちアスカロンを上段に構えている。

 気配でそれを察知したのか逃げようとするが、首に斬赫爪を突き立てて頭を地面に抑え込み、ヘカテーと共に鎖で縛り上げながら拘束魔術と『ブラックムーン』で重力を底上げしてその場に抑え込む。


「今だ、倒せええええええええええええええええ!!!」


 聖属性攻撃を受けて即死した場合、ストックごと消滅してしまう。リスクしかないが、これを倒すのは自分ではなく彼女でなければいけないと思ったから、動かない。


「『祝福されしアス……聖人の剣カロン』!」


 さっきより弱い声で名を叫び、振り下ろす。

 巨大な銀の斬撃が地面を抉りながらゴルドニールに向かう。狙う場所は、ヨミが大鎌で入れた首の傷。


「お前は今、ボクと道連れだと思ってるだろ? 残念、死ぬのはお前だけなんだよ! 『シャドウダイブ』!」


 じりじりと迫り来る銀の斬撃に混ざる聖属性で肌を焼かれ、ダメージを受け始めるヨミ。

 このままだと直撃即死でギルドハウスで復活することになるが、生憎ステラにプレイヤーとはいえ人を殺させはしない。

 なので斬赫爪を引き抜きながら影の中に潜り込んで回避する。


「───────」


 アスカロンの一撃が首の傷にクリーンヒットし、しばしの拮抗の後に切り傷を抉りながら拡張していって首の半ばまで言ったところで斬撃が止まって消える。

 見れば、ステラは剣を地面に突き立てて地面に座り込み、肩で激しく呼吸している。

 病人のように真っ青な顔を上げると、ステラは一瞬惚けた表情をしたのちに、歓喜に満ちた顔になる。


『GREAT ENEMY DEFEATED』

『PARTY ANNOUNCEMENT:ランダムエンカウントボス【蒼穹の王の眷属:金竜ゴルドニール】を討伐しました』

『PARTY ANNOUNCEMENT:プレイヤー名「ゼーレ」「クルル」「リオン」「アイザック」「シェリア」「トーマス」が称号【竜殺しドラゴンスレイヤー】を獲得しました』

『ラストアタックプレイヤー:ヨミ(NPC:ステラ・リーベ・エヴァンデールと共同)』

『ショートストーリークエスト:【金色より祖国を追われし小さな星と大きな愛】が更新されました』

『グランドキークエスト:【金の王への挑戦権】をクリアしました。王への挑戦権を獲得しました』

『グランドクエスト:【蒼穹を駆ける金色の星に慈愛の怒りの贈り物を】が開始されました』

『金色の王は摩天の頂にて挑戦者を待つ』


 次々とウィンドウが開きこれで正式に金竜王への挑戦権を獲得できたのが確認できたが、今はそれどころじゃない。

 確認は後だとウィンドウを恥じの方に押し退けてステラにもう一度目を向けると、地面に立てられたアスカロンの隣で倒れて意識を失っていた。


「ステラさん!」


 『血濡れの殺人姫』の効果が切れて全てのステータスが軒並み1まで下がってしまい、着ている装備がめちゃくちゃ重く感じたので未だに残してあった初期装備に素早く着替えてから、ステラに駆け寄る。

 抱き上げると顔は青白くなっており、体が痙攣するように震えて冷たい。まさかこのまま死んでしまうのではないかと恐怖し、同じく駆け寄って来たマーリンに頼んでギルドハウスまで転移してもらった。


===

作者が勝手にやってる『勝手にQ&Aコーナー』


Q.ゴルドニールの隕石攻撃ってどんだけヤバいの?


A.エクリ〇スメテオくらい。



ちなみに初討伐アナウンスが流れないのは、前に美琴ちゃんに倒されているからです

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