金の王への挑戦権 4
ヨミに向かって突進してきたゴルドニールを影に潜って回避し、木の幹に落ちている影から飛び出して斧を叩き付ける。
相変わらず非常に硬い感触が返ってくるので、めんどくせぇ! と心の中で叫びながら夜空の星剣を取り出す。
「『ウェポンアウェイク』───『
固有戦技を発動。小さな満月がフィールド上に形成されて、全てのプレイヤー及び味方NPCにバフがかかり、全ての攻撃に竜特効効果が付与される。
固有戦技発動後すぐに、背中に出した鞘の中に収めて、ブリッツグライフェンを穿いているブーツ形態のものをそのまま残し、左手で持っている斧形態のものは分解して背中の接続パーツのところに集める。
すぐさまウィンドウを操作して斬赫爪を取り出すと、ゴルドニールが怯えたような咆哮を上げて真っすぐヨミに向かってきた。
「どいつもこいつも、バーンロットにどんなトラウマ植え付けられてんだよ!?」
ロットヴルムはトラウマというより、自分を作り出した主の腕をヨミが持っていることにキレていた感じだったが、アンボルトもジンを加入させた後のボルトリントも、斬赫爪を出したら途端に怯えだした。
こいつもバーンロットにただならぬ恐怖を感じているようで、斬赫爪を出した途端に他の者を一切無視して襲い掛かって来た。
やってやろうじゃないかと初速音速突破突進を先読み回避して、来るであろう場所に刃を置いて自分から突っ込ませる。
食い込んだのはいいが、そのまま連れてかれた。
「に゛ゃーーーーーーーーー!?」
猫みたいな悲鳴を上げて一緒に音速で飛んで行ってしまったヨミ。今ここで手を放したら死ぬと斬赫爪を掴んでいる手に影の鎖を巻き付けることで無理やりしがみつくが、強烈なGで地味にダメージを受けてしまう。
しかし、斬赫爪が突き刺さり継続的に数ドットずつダメージが入っており、ダメージが入ると言うことはこの武器の最大の特性である腐敗の蓄積も行われると言うことだ。
こいつが腐敗状態になって継続的なスリップダメージを受けるまでは慣れてたまるものかとぐっと力を込め、何もしないわけにはいかないので残り少ないMPを消費して『ジェノサイドピアッサー』を超至近距離でぶち当ててみるが、竜特効が付与される月の揺り籠のエリアから外れてしまったためろくにダメージが入らなかった。
『ヨミちゃん! ゴルドニールが地面に向かって急加速してるよ!』
「ボクを地面にたたきつけてぺしゃんこにするつもりか!? 残念でしたぁ、ボクには影に潜ると言う最強の回避手段がおぶぇ!?」
シェリアからの警告が飛んできたので、斬赫爪を一度インベントリにしまって地面に落下しながら影に潜ろうかと企んだが、どう考えてもこいつはやっぱり人の言葉を理解しているだろと言わんばかりに、張り付いているヨミを右の前脚で突き立てられている斬赫爪ごと引き抜いて振りかぶる。
握りしめる力が強くてそれだけでダメージが入るが、問題はそれではなくて身動きが取れなくなってしまった方だ。
命のストックはまだ最大数だ。なのでここでぷちっと行かれても何の問題もないのだが、できるならラストスパートで『血濡れの殺人姫』ラッシュで消費してしまいたいので、消耗したくないのだ。
「一か八かの『シャドウダイブ』ぅ!?」
影があればどこにでも潜れるとあるので、接触しているがそこには影があるはずなのでそこに向かって落ちやしないかと魔術を発動し、成功する。
やっぱりこの魔術、影がある場所であれば場所関係なしに潜れるのは反則過ぎるなと、危機を脱したヨミは思った。
五秒後に影から弾き出されるように追い出される。地面にある影はなく結構高い木のてっぺん付近に落ちている影から出たものだから、枝に思い切り引っかかってしまったのは予想外だ。
これじゃあ身動きが取れないのでもう一度影に潜って地面に降り、叩き付けるはずだったヨミがいなくなり自分だけが地面に衝突したゴルドニールは、苛立たしげに咆哮を上げる。
斬赫爪が刺さっていた場所からは赤い腐敗が見えていないので、まだ腐敗ゲージは蓄積され切っていないようだ。
時間帯は昼間なので月などはなく、火力上げに貢献してくれる『月下血鬼』と星月の耳飾りの『月下美人』も使えない。
『月下血鬼』は夜空の星剣の固有戦技を使ったことで、本物の満月よりは遅いがじわじわとゲージが溜まりつつある。
あとは戦いの中で剣舞か何かを上手いこと織り交ぜることができれば、強力なバフデバフが使える月魔術が使用可能となる『月下美人』状態に移行できる。
「ヨミちゃん大丈夫!?」
「無問題! 竜特効が付与されてる今のうちにガンガン攻めて!」
ノエルが心配して駆け寄ろうとしてきたがそれを手で制して、固有戦技が発動中の今が一番ダメージを入れられるチャンだと声を上げる。
真っ先にクルルがブレッヒェンをトリガーハッピーして弾幕を張り、リオンが超速で駆けまわりながら的確な射撃で眼球を狙った。
バルカン砲の弾幕は全ての竜特効が付いたとはいえ、それでも異常に硬いゴルドニールの防御を貫くまでには至らず、爆撃のような銃声を響かせて放たれたリオンの弾丸も、顔をすっと動かすだけで目の下の鱗に当たって弾かれる。
「『ヴァーミリオンバタリングラム』!」
「『ブリードハンマー』!」
血を大量の消費して作り上げたヘカテーの血の破城槌が上から叩きつけられ、ヨミがその破城槌の後ろの方を血の巨槌で殴りつけてビッグサイズパイルバンカーをするが、少しだけHPを減らすだけだった。
「『ウェポンアウェイク』───『
本日二度目の固有戦技を開放したノエルが自分で強化魔術をかけて、そこにマーリンからの支援で殴りつける瞬間だけ攻撃力が爆発的に増加する魔術をかけてもらい、全身を使ったフルスイングで胴体を殴りつける。
筋力値にひたすら振りまくっているノエルの一撃で地面を三メートルほど滑るが、それだけで終わってしまう。
苦虫を嚙み潰したような顔をしてノエルが離脱するが、逃がさないと口元から金色のエネルギーを漏らしてブレスを準備するゴルドニール。
ジンがタンクスキル『クイックドライブ』でノエルの正面まで移動し、盾をどしりと構える。
「『センチネル』、『フォートレスウォーリア』、『ギガントフォートレスシールド』、『シールドオヴアイアス』、『シールドエンハンス』!」
立て続けに盾戦技とタンクスキルを連発して防御性能を底上げし、本気ブレスを真っ向から受け止める。
「
マーリンがジンの前方に張られたエネルギーシールドに魔術をかけて、更に防御性能を上げる。
ブレスチャージが終わり、金色の奔流が放たれてジンの防御とぶつかる。
ジンが今使っている盾は、グランドクエストクリア時にマーリンから貰った銀色の大盾「聖盾ヴィタニウス」だ。
属性防御能力はクロム作の雷竜の鱗盾の方が上だし、今作ってもらっている最中だと言うグランドシールドができれば、そっちをメインに使うとも言っていた。
しかし属性がない防御に関してはこちらの方が上で、こと物理カット率に関してはノエルはヨミ、アーネストクラスでないとダメージすら入らないレベルになっている。
更に面白いことに、これについている固有戦技はほぼパッシブのようなものになっており、持ち主である自分以外のプレイヤーかNPCが背後にいると、防御性能が数に応じて増加するようになっている。
とはいえ、グランド関連のエネミーのブレスを長時間防ぎ続けるのは無茶がある。
ブレスがこっちに向いていない今のうちに駆け寄って顎の下から殴り付けてやろうと地面を蹴ると、それを待っていたと言わんばかりに急にヨミにブレスが向かってくる。
「なんでだよ!?」
あまりにも急な方向転換に咄嗟に影に潜って回避する。
やはり斬赫爪を持っているから狙われるのだろうかと思いつつ影の中を移動して、ゴルドニールの背中にできている影から飛び出て、くるくると体を回転させながら勢いをつけて、ブーツ形態でエネルギーを消費して脚力を強化。
複数のバフが重なっているヨミの蹴りの一発と同時に、一定以上の威力で繰り出された攻撃に合わせて衝撃が発生し、強制的に口を閉じさせる。
「『パイルインパクト』!」
ブレスが止んですぐにノエルが飛び出していき、顎の下にシュラークゼーゲンを殴りつけて、戦技で殴りつけた以上の威力の追撃を発生させて、顔を上にかち上げる。
ヘカテーが鎖を飛ばして高速立体機動でやってきて、かち上げられた顎に鎖を四本巻き付けながら通過して、四本の太木に巻き付けて固定する。
この程度の鎖などすぐに引き千切れるぞと尻尾からエネルギーを噴射し始めるが、一条の雷の槍が真っすぐ喉元に突き立てられる。
ガラスのような硬質な何かが砕ける音が鳴りびくりと体が大きく跳ねると、HPがガリっと大きく削れて一本目が消し飛び、二本目も半分ほどが削り取られる。
喉元を狙撃され大ダメージを受けたゴルドニールは、地面に倒れてのたうち回る。
今までちまちま小さなダメージを入れるしかなかったというのに、その頑張りが嘘だったかのように特大ダメージが入った。
ギミックが解けたのか、と考えたプレイヤーはいないだろう。ではなぜか? 答えは明白だ。
「逆鱗……!」
「トーマス! シェリア!」
『トーマスくんに
ようやく逆鱗を見つけた。
亡霊の弾丸とは別パーティーなので、トーマスの付けた印は見ることはできないが、そこはシェリアの正確な指示でカバーしてもらう。
一時間近くも苦労したのだ。ここからラストまでさほど苦労せずに倒せたっていいだろうと、こいつに貯められていたフラストレーションを全員が爆発させた。
「一時間以内にこいつをぶちのめすぞおおおおおおおおおおおお!」
ヨミのこの音頭に、バトルフィールドにいる全員が雄叫びを上げて一斉に襲いかかり攻撃を仕掛けた。
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