金の王への挑戦権 2

 竜の咆哮にある強制硬直はそこまで長くは続かない。眷属でも竜王でも、どれだけ長くても一秒程度だ。

 判定は咆哮を聞いた瞬間から一秒で、ゴルドニールが咆哮を上げている間には硬直が解ける。


「『スカーレットアーマメント』───『ミゼラブルダンス』!」


 血を大量に消費することになるが、自分の周囲に血の武器を十個生成した後で、『ミゼラブルダンス』を発動させて更に血武器を追加。

 先に生成した武器は『ミゼラブルダンス』の対象外で、この魔術の効果で生成された血武器だけが真っすぐゴルドニールに向かっていく。

 自分の周りに生成したものは背後に控えさせながら追従させて、背中に出したブリッツグライフェンの追加パーツをブーツに変形させて、地面を三回ほど強く蹴って少しだけエネルギーを溜めた後に消費して、制御度外視の速度でカッ飛んでいく。


「喰らえ、見様見真似ヘカテーちゃんの『ブレイドダンス』!」


 接近してから後ろに控えさせていた血の剣たちを一斉に操作して、縦横無尽に斬り付ける。ヨミ自身も両手斧形態ブリッツグライフェンを思い切り叩き付け、ダメージを入れつつ少しでもエネルギーのチャージを行う。

 本家と比べるとやはりその精度は劣るが、事前に使っていた『ミゼラブルダンス』と見様見真似『ブレイドダンス』を合わせることで、雑さをカバーする。


 激しく打ち付けられる血の武器たちによってゴルドニールにダメージは入っているが、一発当たるごとに数ドット程度しか減らない。

 これよりも強いロットヴルムですらもうちょっとダメージ入ったし、あの時よりもうんと強くなった今なら、もうやりたくないがソロで二時間近くなんてかからない程度で倒せると思う。

 武器もステータスも揃い、魔術も増えた。血魔術による強化幅も熟練度が上がったことでかなり上昇しているし、超大型レイドエネミーとはいえ時間はそうかからないはずだったのだ。


「なのになんでこんなに硬いんだよお前ぇ!?」


 血武器が一斉に耐久限界を迎えて砕け散り、張り付いているヨミをまるで羽虫を払うかのように前脚を振るい、瞬時に斧から盾に変形して防いで弾き飛ばされる。

 地面を靴底で削りながら停止してすぐに盾から大鎌に変形させて殴りかかろうとするが、ゴルドニールの尻尾の器官からまたエネルギーが噴き出ているのが確認できた。


「マーリン! 空間凍結は使える!?」


 余裕がなくなり、思わず呼び捨てのタメ口で聞いてしまったが、今くらいなら許されるだろう。


「まだもう少しかかる! あれは極大魔術だから連発できないんだ!」

「そりゃそうだ! 回避ー!?」


 影に潜って逃げて、マーリンも短距離転移で回避する。

 ふと思ったが、アーネストですら略式展開で使えるのは数度と言っていたのに、マーリンは既に三回は詠唱を無視して使用しており、MPは大丈夫なのか心配になる。


「やっと着いた! 加勢するよ!」

「ひえっ……。まだ戦い始めて数分でもうこんなになってんの?」

「あちこちでゴルドニールの情報集めてて強いの分かってたけど、マジでただの災害じゃん」

「アルマくんとアリアちゃんたちのためにも、絶対にここで倒しましょう!」


 シエルを除いた銀月の王座メンバーが集合した。

 離れた場所にいるマーリンに目で合図を送ると、こくりと頷いてヨミにかけたのと同じ強化魔術をかけてくれる。


「リオン! あんたは回避タンクで相手の注意を引き付けなさい! トーマスはどうにかして奴の逆鱗を見つける! アイザックは隠密しながら罠設置して、タイミングをを合わせて奇襲攻撃! シェリアはこの場にいる全員に指示を!」

「了解! シェリア、頼んだぞ!」


 亡霊の弾丸も合流して、クルルがすぐに指示を出す。

 トーマスはどこか離れた場所からスナイパーライフルでも構えているのかこの場にはおらず、戦闘員ではなくオペレーターのシェリアもこの場にいない。

 リオンは両足のレッグホルスターから大型リボルバーを二つ取り出して構え、アイザックもガンブレードを構え、クルルはインベントリから七砲身バルカンを取り出した。


「全員気を付けて! ボクのフルバーストの直撃を食らってもろくにダメージが入らなかった! 異常な硬さには何か種があるだろうから、まずはそれを探って!」

「は!? 君のあれを食らってあれだけしかダメージ入ってないってことか!?」

『準決勝で見たけど、あの高火力を受けてこの程度で済むのは確かに何かあるね』

「ひゃ!? ……え? 何このちっこい豆粒」

『超小型遠隔支援デバイスだよー。この場にいる全員分あるから、これを通して私が指示を出すね。私のドローンのエアモルデンで状況を常に上から俯瞰して把握しておくから、何か分かったらすぐに通達するから思い切りやっちゃって』

「助かります!」


 いつの間にか耳元に黒い豆粒みたいなものが浮かんでおり、そこからシェリアの声が聞こえてくる。

 こんなものまであるのかと、こういう複数パーティー混合のレイド戦ではかなり重宝できる代物だ。


「ヨミ! あんたは今から配信しなさい! シェリアだけじゃなくて他のリスナーにも見てもらって、そのリスナーたちが気付いたことを書き込んでくれるかもしれないわ!」

「わ、分かりました!」


 配信をその用途で使うことは考えたことはなかった。

 一旦離脱してリオンとジンに頑張ってもらい、その間に素早く設定する。タイトルなんて考えてる暇はなかったので、適当に『ゴルドニールに襲撃されたから、気付いたことがあったら教えて』と書き込んで、配信開始ボタンを押した。

 何の告知もなしに始めたので同接は少なかったが、通知を入れているヘビーリスナーたちがぽつぽつと配信を開いてくれているようで、少しずつ増えていく。

 挨拶もしている場合じゃないのでウィンドウを非表示にして、シェリアにキチンを配信されているかを確認。できていると教えてもらい、消費した血を補給しつつ吸血バフを入れて戦線復帰する。


「ヨミさん! 他にこいつの情報はある!?」

「ジェット機の羽みたいな翼はちゃんと動くから、不意打ちの可能性を常に頭に入れて! デカい尻尾にある噴出孔みたいな器官から金色のエネルギーを噴射し始めたら、正面に立たないで絶対に回避! 二秒くらい踏ん張る動作をしてから、初速で音速を突破して突進してくる!」

「ゴルドフレイと同じでバケモンじゃねえか!?」

『尻尾からエネルギー噴射確認! 回避!』

「大丈夫! 僕の空間凍結魔術が使える!」


 シェリアがどこかに隠しているエアモルデンで、俯瞰して確認してくれているためいち早く初動を察知。すぐに回避指示を出すが、マーリンの極大魔術の使用が可能となる。


領域スパティウム凍結封印プロイベーレ!」


 ゴウゥッ! という音を立てて初速から音の壁をぶち破ってきたが、ほぼ同時にマーリンの空間凍結が発動。ぴたりと体が停止してしまう。


「十秒程度しか持たないから今のうちに殴りまくれ!」


 マーリンの指示に全員が一斉に動き、攻撃を四方八方から仕掛ける。

 ガウェインが長剣を叩き付け、リオンが三重に重ね掛けした強撃弾を自動装填を発動させながら連射し、アイザックが鱗と鱗の隙間を狙う。

 トーマスが眼球を狙ったのか真っすぐ目に向かって弾丸が飛んで行き、クルルが側面からフレンドリーファイアしないように引き金を引いて、弾丸の嵐を浴びせる。


 ヨミは地面を踏み砕くような勢いでブーツ形態のエネルギー消費技を使って強烈な突進力を得て、大鎌を首に叩き付け、ノエルは純度100%の筋力で似たような速度で突っ込んでいき、出し惜しみなしだと固有戦技の『雷霆の鉄槌ミョルニル』を叩き込む。

 ジンはヨミの近くまで『クイックドライブ』で瞬間移動して来てから、ここ最近彼に教えていた戦技連結で次々と戦技を繰り出していく。

 ヘカテーは血の鎖を飛ばして立体的な機動をして、加速力と遠心力からを得た力を自分の攻撃に上乗せして脳天に斧を叩きこむ。


 マーリンも両手で杖を構えてぶつぶつと呪文を唱え、すさまじい魔力を放出して風の極大魔術を発動。荒れ狂う風を一か所に集めて暴風の死神を作り上げ、射線の邪魔にならないように道を作るとそれに沿って死神が接近し、風の大鎌を振るう。

 地面に深々と裂傷を刻みつける鋭い一撃がゴルドニールに叩きこまれるが、十秒間のボーナスタイムで全員が一斉攻撃したにもかかわらず、一本目を半分も削れなかった。


「マジで硬いなこいつ!?」

「ゴルドフレイも似たようなもんだったでしょ!」

「あれよりはダメージ通るからまだましだな」

「トーマス! 逆鱗の場所はまだわからないわけ!?」

『そんなすぐに見つからないですよリーダー! そろそろ十秒経つから回避してください!』


 亡霊の弾丸メンバーが、あまりにも硬すぎる鱗に不満を漏らす。

 ロットヴルムよりも格下のゴルドニールが、ここまで硬い理由は何なのだろうか。

 空間凍結が解除されて自由となったゴルドニールは、先ほどのように制御をミスって地面に突っ込まず、先の経験を反映して若干ふらつきながらもすぐに上に飛んでいく。


 急上昇した奴は上空を超音速で旋回し、誰かに狙いを定めようとしている。

 この場合一番真っ先に狙われるのは、


『マーリン陛下! 私の合図に合わせて転移で回避してください!』


 やはりマーリンだろう。

 彼はこの場において唯一。ゴルドニールの突進を停止させることができる。なら一番最初に排除すべきだと狙われるのは当然だ。

 しかし、こちらには一分先を予測しきる反則級のオペレーターがいる。

 マーリンに退避するように指示を出してすぐに、次々と線上にいる全員に矢継ぎ早に指示を出していき、自分は準決勝でこんなのがバックに付いてるリオンと戦っていたのかと身震いする。

 敵でいる時は厄介極まりなかったが、味方となれば頼もしいことこの上ない。


 シェリアからの合図を受けてマーリンは転移魔術で回避し、地面に直撃したゴルドニール。

 すぐさまヨミは影に潜り、ヘカテーは血の鎖を伸ばして巻き取りながら高速機動。

 起き上がってまた尻尾からエネルギーを噴射して飛び出そうとしたところを、ヨミが暗影魔術『ブラックムーン』をMP消費最大で発動して、強烈な重力でその場に押しとどめる。

 それでもなおまだ起き上がろうとしているのだから、流石はレイドエネミーだと舌打ちをする。


 両手に持つ大型リボルバーの固有戦技を発動させているのか、挙動そのものが加速しているリオンが超速でゴルドニールの周りを走り、等間隔に弾丸を地面に打ち込んで回る。


重力弾グラビティ!」


 最後の一発を地面に打ち込んですぐに弾丸魔術を発動させ、重力魔術を起動。ヨミの黒い月によって与えられている強烈な重力による押し付けに、リオンの重力魔術も加わる。

 更にヘカテーと共にゴルドニールに向かって駆けていき、揃って拘束魔術を使いつつ体に血と影の鎖を巻き付けていき、自由を奪っていく。


氷結フリズド座標コーディネイト指定ディジグネーション拘束リストレイント強化エンハンス増幅アンプリファイ!」


 マーリンがゴルドニールの四肢と尻尾の噴出口、そして巻き付いている鎖ごと巻き込んで凍結させる。

 これで身動きはろくに取れないだろうと思ったが、シェリアはあまり余裕が佐奈そうな声音でクルルに指示を出していた。


「全員離れなさい! 『ウェポンアウェイク』───『固有解放ブートオリジン破滅術式フェアデルベン』!」


 クルルが七砲身バルカンのユニーク武器ブレッヒェンの固有戦技を発動させて、暴虐の嵐が降臨する。

 ヴォッ!! という独特な銃声が鳴り響き、推定秒間千発の弾丸が放たれてゴルドニールに降り注ぐ。

 所持している弾丸魔術が常にランダムで切り替わりまくり、爆発し、凍り付き、炸裂し、抉り、殴りつける。それでもゴルドニールのHPの減りは微々たるものだ。


 確実に何かが原因でダメージが入っていない。一体その原因は何だと探ろうとすると、シェリアから動かないほうがいいと言われる。

 なぜ、と問うよりも先に答えが飛んでくる。

 巨大な燃え盛る隕石が、すさまじい速度でゴルドニールに落下して着弾し、大爆発を起こす。

 ほぼ同時にマーリンが結界をゴルドニールの周辺に狭く展開して爆発の衝撃と威力を密封し、大ダメージを期待する。

 だが、返って来たのは期待ではなく超速のブレスだった。


「陛下の御身は私がお守りする!」


 マーリンが自分で展開した結界とは別に、ガウェインがその隣で彼の持つ剣の固有戦技『聖剣浄域サンクチュアリ』でブレスを防ぎきる。


「これだけやってまだ一本削れないって、これ本当に竜王じゃないんだよね……?」


 結界を破壊し、体にまとわりついていた鎖も引き千切り、黒い月とリオンが設置した重力弾をブレスで破壊し自由になったゴルドニールが、異様な翼を広げて煙を吹き飛ばす。

 クルルの暴虐の弾丸の嵐に、トーマスの狙撃による弾丸魔術『大炎隕石弾フラマメテオラ』を受けても、半分にも届かない。

 竜王の前座であるはずの金竜のそのあまりのタフさにヨミは、本当はこれが竜王なのではないかという錯覚に陥ってしまった。

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