目的を共にする仲間

 PKerにまで落ちぶれて情けないのがより情けなくなってしまったアマデウスを、超特大雷ブレス(ヨミ比)で消し飛ばして、落とした全てのアイテムを回収し、いらないものは一度クインディアまでとんぼ返りしてから売却してお金にした。

 楽に手に入れてしまったお金は雑に使うのが一番。ということでまだ配信を始めて一時間も経っていないが、クインディアでクレープ屋さんを見つけたのでいちごとブルーベリーのミックスを購入した。


”あの、ゲーム内クソ明るいし何なら早朝だけど、リアルは夜なのでそんなに美味しそうに食べないでくれます?”

”美少女とスイーツは最強の組み合わせだって古事記にも乗っている”

”ほんまに美味しそうに食べるなあこの子。父性を感じさせながらも、こういう女の子とお付き合いしたいって思わせられる”

”口元に付いてるクリームを指で取ってあげたい”

”いつも雰囲気とか、清楚でちょっと落ち着いた感じなのにこういう時だけ一気に幼くなるの反則過ぎる”

”これでバトル大好きな戦闘狂なのがギャップすごすぎて風邪引く”


 ベンチに腰を掛けて、ほんのりと温かいクレープの生地にかぶりついて、左の頬に少し白いクリームを付けながら幸せそうな表情でもぐもぐと咀嚼するヨミ。

 それを見たリスナーたちが、この時間になんてものを見せつけてくれるんだとコメントを投げつけてくるが、ヨミだってこの時間にリアルでスイーツを食べるなんてことはしない。スイーツを食べているのは、いくら食べても太らず、ただ本気で開発された味覚エンジンでリアルと同じように再現された味覚があるFDOだから食べているのだ。

 いっちょ煽ってやろうかと思ったが、このリスナーたちにとってそれはご褒美でしかないし、ノエルがすさまじい速度で真っすぐヨミに向かって走ってくるのが見えたのでやめた。


「ヨミちゃーん!」

「ほぐぇ!?」


 直前で回避行動してやろうといつでも『シャドウダイブ』ができるようにしていたのに、瞬間移動みたいな速度で急加速してきたノエルのタックルに反応できず、捕獲される。

 なんでこの脳筋女騎士は、自分を捕まえることに本気になるのか、これが不思議でならない。


「あ、クレープだ! ねえねえ、一口いい?」

「ダメって言っても齧るでしょーが。ほら」

「だってヨミちゃん絶対にくれるんだもん。……おいし」

「一口デカいな。今度何か驕ってよね……って、クリーム付いてるじゃんか。ほら、じっとして」

「えへへ、ありがと」


 口元に付いていたクリームを左手の人差し指ですくい取って、それを舐め取る。

 ちょっと恥ずかしかったのかほんのりと頬に朱を咲かせるノエルは、大人しく隣に腰を下ろす。


”お姉ちゃん登場からの速攻百合てぇてぇで浄化されました”

”新学期が始まって憂鬱だったけど、今の百合百合で一年は生きられそうです”

”てぇてぇ……てぇてぇよぉ……”

”キマシタワー”

”あら^~”

”なんか前よりも距離が近くなった気がするのは気のせいじゃないはず”

”まさか……女の子どうしてお付き合い……? なんだ、ただの天国か”


「妄想逞しいなみんな……。ボクとノエルはまだ付き合ってませんー」

「ヨミちゃん男の子に興味あるか怪しいしね」

「なんか誤解招きそうな言い方やめてもらえます!?」

「でも今日学校で告白された時も、男の子とお付き合いするつもりは今のところないって言ってたじゃん」

「ボクは男を好きになったことが一度もないって言ったの!」


”ガタッ”

”ガタッ”

”男を、好きになったことがない……だと……!?”

”マジでその内この二人がくっつきそうで興奮する”

”今の発言でえぐめな妄想し始めるやつ出て来るだろ”


 なんでこの話題に持って行ったとノエルに視線で抗議すると、ペロッと舌を出して来た。なのでインベントリに一本入ってた、食べかけのレッドホットスパイスティックを突っ込んでやった。


「~~~~~!?!?」


 何を突っ込まれたのかときょとんとしてもぐもぐと数回噛んだ後で、瞬間湯沸かし器のように顔を真っ赤にして悶絶し始める。

 レッドホットスパイスティックはフリーデンの特産品で、はじかみ生姜みたいな食べ物だ。口に咥えているだけでじわーっと辛いのが口に広がってきて、風味とだんだん痺れてくるような辛さを楽しむ食べ物だ。

 なお、噛んだりすると一気に辛い成分が入っているエキスが出てきて、辛いものも行けるヨミでも悶絶する。以前ジンが一本咥えているのを見て一本貰い、咽たのも少し噛んでしまったのが原因だ。

 ノエルも辛いのが苦手なわけではないが、この辛さはダメだったようだ。


「酷いよー!?」

「余計なことを言ったノエルが悪いんだ。ほら、コメント欄酷いことになってるじゃないか」

「げほっ、げほっ! だ、だからっていきなりこんな辛いの突っ込まないでよ!? うぅ……舌が痛いよぅ……」


 隣から恨みがましい視線が向けられてきたので、残りのクレープを全部あげた。それだけで機嫌を完全に直してくれることはなかったので、ノエルがそれを食べ終えた後で彼女の筋力に物を言わせて抱き上げられて膝の上に座らされた。

 またコメント欄が壊れたかのような速度で流れていくが、これでノエルの機嫌がよくなるならこれでいい。


「ステラさん、どうする?」

「どうって?」

「私も助けてあげたいけど、でも金竜王はどこにいるのか分からないし。それに、金竜王にかなり恨みを持ってるし、多分体が回復したら自分も戦いに出るって言いだしそうだよ」

「確かに言いそうだなあ。……あ、ステラさんのこと一言も話してなかったな」


 コメント欄が、ステラとは誰だと言うコメントが連続したので、昨日のことをかいつまんで説明する。


”運営ぃ……”

”人の心とかないんか”

”普通に楽しんで遊んでても、時々強烈なボディーブローぶち込んでくるような重い内容のクエストあるから油断できん”

”鬱アニメとか好きだからそういう鬱展開も大好きだけどさあ”

”その王女様はフリーデンにいるの?”

”プリンセスとか見てみてえ”


「今は会えないよ。ボクも配信に映すつもりはないし。あー、でも金竜と金竜王ランダムエンカだから、ボクの配信を通してステラさんを紹介して協力を呼びかけようかな」

「そういうのもよさそうだね。協力してくれる人とフレンド登録して、金竜か金竜王に遭遇したら足止めしつつメッセージを送ってきてもらうとか」

「足止めはかなり厳しいよ? 特に空からの襲撃なんて、ボクがほぼ反応できなかったんだもん。全員タンクで構成してチームがいて、その人たちが一斉にタンクスキルとか盾防御戦技使ってやっとじゃないかな」


 一瞬すぎて分からないことだらけだが、グランドに関連するものだ。一人や二人で足止めできるようなものじゃない。

 ロットヴルムはクリティカル狙いまくって、自分一人だけだったので集中しやすい環境が揃っていたから倒せたし、ボルトリントはその場にいないシエルが狙撃で気を逸らすことで、実質タンクとしての役割をこなしていた。

 後になってジンを連れて行き彼にもボルトリント戦ってもらったが、その時もシエルとの連携でジン一人にタンクをやらせていなかった。


「やっと見つけたわ!」


 いつまでもこんなまったりとしているところをお見せし続けるわけにも行かないので、この力がロットヴルムにも通用するのかどうかを確かめるため、ノエルと一緒に赫き腐敗の森に行こうかと口にしようとした瞬間、女性の声がそれを遮った。

 その声には聞き覚えがあり、声がしたほうを向くとそこには軍服のような衣装に身を包んだ高身長カップルに挟まれるように立っている、比較的小柄な金髪の女性が腕を組んで仁王立ちしていた。

 はたから見れば、その身長差からまるっきり親子だ。実際の年齢は真ん中の女性、クルルの方が上なのだが。


「なんでここにリオンさんたちがいるの?」

「ここにいるのは偶然だけど、うちのリーダーは対抗戦が終わってからずっと探してたんだ」

「ボクたちを?」


 プロゲーマーが一体何の用なのだろうか。まさか自分たちに試合で勝ったから、プロに勧誘でもしに来たのか、あるいは試合で勝てなかったからPvPで決着を着けようとしているのだろうか。


「あんたたちの腕を見込んで話があるわ! 私たちと手を組みなさい!」

「リーダー、それじゃあ端的すぎて理解できないですよ」

「詳しく言うと、俺たちは前にゴルドフレイと戦って負けたことがあるんだ。クルルはそれが悔しくてな。どうにかして奴を倒したいと思っていたところに、君たちがアンボルトという竜王を倒した。だから、竜王を討伐したその腕を見込んで、俺たちと手を組んで一緒にゴルドフレイを倒してほしいんだ」

「そういうことよ!」


 そういうことらしい。

 理由は違えど目的は同じ。これは確かに手を組まないわけにはいかないだろう。

 ノエルにアイコンタクトを取ると、彼女もこの話を逃す手はないとこくりと頷く。


「要求は?」

「ないわ! しいて言うなら、ゴルドフレイを倒したらこっちに少し多めに素材を渡してほしいってことくらいね」

「アンボルトで50メートル以上あるし、ゴルドフレイも同じくらいだろうからそっちに多めに渡してもいいよ。多すぎても困るし」

「手を組むってことでいいのか?」

「えぇ、まあ。ボクたちも訳あってゴルドフレイを倒さないといけないんで、渡りに船ってやつですね」

「助かる」

「あれに挑むってことは、リオンさんたちはショートストーリークエストを進ませてグランドキークエストを発生させたんですか?」

「……なんだそれ」


 どうやら知らなかったらしい。意外だ。

 手を組んで戦うと約束してしまったし、協力するならばときちんと情報を開示する。ショートストーリークエストはグランドエネミーが生きている限りは、何度でも違うNPCから発生するし、特に明かしてしまってもダメージはない。そもそも独占して攻略するつもりでもなかったのだし。


「なるほどな。エヴァンデール王国の王女様が、そのショートストーリークエストと、直通のグランドキークエストのフラグを持っているのか」

「その情報は正しいのかしら」

「バーンロットへの挑戦権の獲得とアンボルトの挑戦権の獲得が、ショートストーリーからのグランドキークエと同じだったので、多分正しいはずです」

「そう、分かったわ。それじゃあ、早速連れて行ってほしいのだけれどいいかしら?」

「……ヨミちゃんどうする? ステラさんまだかなり弱ってるだろうし、日に何回も訪問者が来たら体力消耗するよね?」

「そうだね。……クルルさん、ステラさんはかなり弱っているから、明日でもいいですか? 今ステラさんはマーリン国王陛下と話しているので」

「なんでこの国の王様はそんなにフットワーク軽いの?」

「さあ?」


 民と距離が近いので、愛されている王様であるのは確かだろう。

 とりあえず亡霊の弾丸の主要メンバーであるクルル、リオン、シェリア、トーマス、アイザックの対抗戦参加組は明日ステラと会うことになった。

 リオンたちとフレンド登録をして連絡を取れるようにしてから彼らと分かれ、今度こそはと検証のためにロットヴルムのところに向かうことにした。


 結果は、竜王の力なのでどの竜特効よりも強力にダメージを与えられるが、他の能力が使えなくなってしまうのが致命的で、ノエルと二人仲よく腐敗のブレスに飲み込まれてフリーデンのギルドハウスでリスポーンした。

 かなりマイルドに表現されていたが、それでも体が腐っていく形容しがたい感覚は、当面の間はちょっとしたトラウマになることだろう。

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