竜王の雷を口から吐く吸血鬼は何と呼べばいいのか

 ゴルドフレイを倒すと啖呵を切ったはいいが、奴はランダムエンカ。ヨミが他のプレイヤーより狙われやすくなっているとはいえど、同じエリア内にいないのであればエンカウントのしようがない。

 また、正式な挑戦権を獲得するにはショートストーリークエストを進めて、金の王への挑戦権を発生させないといけない。

 なのでまずはステラから発生しているクエストを進ませないといけないのだが、夕飯の準備のためにログアウトして食事してお風呂に入って歯磨きを済ませてから戻ってきても、気持ちが大分落ち着いた様子のステラはマーリンと未だに話していたので、会話に混ざれなかった。


「へー、そんなことがあったんだ。想像以上というか、昨日狙われた理由がヨミのせいだったのが意外というか」

「仮説でしかないけど、それしか考えられないから。だからゴルドニールと戦うにも、アンボルト装備を着けて適当にぶらついていれば来るんじゃないかなーって思ってる」

「随分ノープランね」

「これ以外に考えられないんだよ。ランダムエンカウントなんだから、それこそ行動パターン掌握しないと意図的に遭遇するとか無理」


 ということなので、ヨミはワンスディアにあるキアナのお店にやってきている。FDOのゲーム内時間は現実より数時間早いので、こちらでは早朝だ。

 アルマもアリアも実に早起きだなとほっこりするが、逆に言えば朝からとんでもないことがあったことになる。


「それよりもさ、ヨミが受け取ったっていう竜王の心核ってのが気になるんだけど」

「ごめん、実物は使っちゃったからもうない」


 竜王の心核は既に使用して取り込んでしまったので、手元にはない。

 心核を取り込んだことで『グランドスキル:雷王怨嗟』と言うものが発現し、ヨミは名実ともに王の力を手に入れた。あとでお試し使用してみるつもりだ。


「その力を使っている間は体が竜の体質に変化するから元々使えてたのは使えなくなるってことだけどさ、聞いた限りじゃデメリットが大きいけど効果を考えると軽い気がするんだけど」

「それはボクも感じた。まだ七分の二でどれくらいの火力を叩き出すのか分からないから何とも言えないけど、心核をフルサイズで使ったらアンボルトと同じ規模で雷が使えるとかだったら、使うメリットがデメリットを凌駕することになるんだよね」


 流石に一プレイヤーがあの規模の雷を使えたら反則過ぎるので、プレイヤースペックまで弱体化はされているだろう。

 しかし、口からブレスを吐いたり、アンボルトが使った雷の玉を落として破滅の一撃をぶっ放すあれとかが使えたら、それはすさまじいロマンだ。

 もっと早くこの心核を手に入れたかったが、アーネストとの戦いは自分のバフとかをガン積みして拮抗していたので、持っていてもろくに使えなかったかもしれない。


「使うたびに怨嗟ゲージって言うのが溜まっていって、それが満タンになるとゲージが時間経過で消費しきるまで暴走状態になって、その間は敵味方関係なく自分の周囲にいるプレイヤーを含めた全ての生命が破壊対象になるけど、ゲージ管理をしっかりすれば問題ないし」

「デメリットバカでかいじゃん。ようは使える回数がかなり制限されてんでしょ? 下手したら暴走してPKになっちゃうじゃん」

「事故でPKerになっても、うちにはPKK過激派幼女がいるからその子のキルしてもらって罪を清算するさ」

「解決方法が脳筋すぎる」


 キアナの店に来たのは、ゲージが溜まると言うことはバッドステータス系ということだ。なので、品ぞろえがいいと豪語しているのだからバッドステータスの蓄積ゲージを軽減するアイテムがないかを探している。

 怨嗟とあるので呪い系だろうし、聖水とか効果がありそうだ。被ったらえげつないダメージが自分にも入るが。

 浄化結晶なるものも置いてあったが、呪いや穢れを解除することができるしアンデッド系にダメージが入ると書いてあった。吸血鬼も魔族という括りだがアンデッドでもあるので、もしかしたらダメージが入るかもしれないので購入は躊躇われる。


「あれ、もしかしてグランドスキルとボクって相性めちゃくちゃ悪い?」

「かもね。後先考えずに行動するからじゃない?」

「本格的にゲージ管理が大切になりそうだ」


 試さないで買わないのはもったいないからと、浄化結晶を五個ほど購入する。今朝登校している時に言っていた通り、割引にしてくれた。


「ありがとうキアナ。早速試してくる」

「ほどほどにしなよー。多分それ、間違いなく吸血鬼にダメージ入るから」

「使った瞬間即死したら返品ってできる?」

「構わないけど、頻繁にそういうことはしないでね」


 クーリングオフはできるようだ。これもありがたいが、信用問題的にも乱用はしない。

 キアナとは学校でクラスが一緒で、彼女は前の席だ。ゲームの中で関係をこじらせてしまえば、現実にも多大な影響がでる。それだけは勘弁願いたい。


 浄化結晶を購入してインベントリに突っ込んだヨミは、対抗戦の間は配信を全くしていなかったので久々に配信でもするかとウィンドウを開き、手早く準備をしながらキアナと軽く言葉を交わしてクインディアまで戻り、そこのエネミーで色々試すことにした。



「結構時間経ったはずなのにいまだに始まりの挨拶すらありません。どうもヨミでーす。もうここまで来たらいっそのこと始まりの挨拶なしで行くか、視聴者から募集しようかな」


”ヨミちゃーん!”

”可愛い可愛い可愛い可愛い”

”やはりヨミちゃんを見ることが一番の癒しだわ”

”色んなロリ系配信者を見に行っても、結局ヨミちゃんに戻ってくる”

”前みたいに長時間配信はもうしないの?”

”24時間耐久配信するんだったら24時間張り付くぜ”


 少し前に告知しておいたため結構な数の視聴者が集まって来た。まだじわじわ伸びて行っているし、一月足らずでよくここまで伸びたものだと感慨深くなる。


「長時間配信は金曜日と土曜日くらいにしかできないかな。ずっと言わずにいたけど、ボク一応学生だからさ」


 配信活動を始めてから一言も年齢を明かしてこなかったが、今までのように時間が取れないので学生であることだけは明確に明かしておく。

 空と幼馴染だと明かしているので、そこでヨミも学生であると予想はされていたが改めて自分の口からそれを確定させる。


”やっぱ学生か”

”シエルくんと幼馴染だって言ってたし、結構予想はされてたね”

”JCか? JCなのか? JCであってくれ”

”シエルくんと幼馴染だしJKだなこりゃ”

”JKであの鬼強プレイヤースキルとかどうなってるの?”

”ヨミちゃんのパンチラ見て興奮してる変態がガチの変態になった件”


「ぱ、パンツは見ないでね。色聞かれても絶対に答えないから」


 顔をほんのりと赤くして、右手でスカートをきゅっと押さえる。

 男物のパンツを見られても別に何ともないのに、女の子の肌触りがよくぴったりとフィットするあのパンツは、見られるのがものすごく嫌だ。

 女の子がスカートをバカな男子にめくられて悲鳴を上げる気持ちを、こうして理解できるようになるとは思わなかった。


「今日は二時間くらいの配信で終わりにするからね。金曜日と土曜日は、予定が入っていない限りは深夜までやるつもりかな。あ、そうだ。みんなのおかげで収益化が通りました。本当にありがとう。でもスパチャは解禁しないからね」


”なんで!?”

”スパチャ爆撃して美少女を慌てふためかせることを夢見てたのに……”

”大金が濁流のように押し寄せてくる光景に涙目になる美少女が見たかった……”

”学生だからお金持ちたくないとか?”

”広告収益もあるから、当分はそれだけなの?”


「そうだね、広告収益があるから学生の間はそれで十分だね。大人になってもこのゲームが続いててまだ配信していたら、スパチャの解禁はするかもね」


 色んな配信者を見ると、必ず何かがきっかけとなってスパチャ爆撃と呼ばれる投げ銭連打が行われる。

 被害者は大体が女性配信者で、美琴もやられて涙目になっている。

 ヨミは配信者になったらどうだとのえるにそそのかされて配信を始め、お金を得られたらいいな、程度に思っていたのでスパチャは解禁していない。

 元々お金に不自由していないくらい裕福な家庭だし、一人暮らしするまでは広告収益だけで十分だろう。その広告収入でも既に結構な額行ってて吐きそうになったが。


「とりあえず、ボクにお金を渡したいって思うならたくさんアーカイブとか見てね。もしかしたら自分で10分20分くらいの動画を投稿するかもしれないから、そっちもよろしく。見たい動画があったらリクエストもしていいからね」


 切り抜き特化のAIとかをそのうち購入して、自分の配信の見どころを切り抜いてもらって字幕を付けてもらって、間違っているところを手直しするのもありかもしれない。

 もうすでに非公式切り抜きチャンネルもあるくらいだし、自分でやってもいい頃だろう。


「そろそろ本題に入ろう。今日の目的は、アンボルトの剥ぎ取りを一緒に戦った魔導王国軍第十五魔導騎士大隊の人たちに任せてたら、とんでもないものが剥ぎ取れてそれを使って新しいスキルを手に入れたから、それのお披露目だね」


 そう言いながらウィンドウを操作する。

 リスナーたちにも見えるように設定して、新しく獲得した『グランドスキル:雷王怨嗟』を見せる。


「この『グランドスキル:雷王怨嗟』が新しく習得したものなんだ。効果とかえげつないのが書いてあるけど、要はゲージ管理をしっかりしていれば暴走せずに竜王の力が使えるってこと。もうすでにその素材? なのかな? は取り込んじゃってあるから、ボクのことをキルしても落とさないからPK共は下手に襲撃してこないでね」


”襲撃しないで×

襲撃できない〇”

”読む限りじゃあまりにもぶっ壊れすぎるスキルで草”

”もしそれを対抗戦の間に手に入れてたらって思ったけど、ヨミちゃん他の魔術とか強化スキル使えなくなるから無理か”

”ヨミちゃんの強みはスキルや魔術を連結させての超フィジカルだし、もしかしたらない方が強い可能性微レ存”

”でも倒した強敵の技を使えるようになるのはロマン”


「そうなんだよ! ボクがこのスキルを獲得したのは、鬼強かったアンボルトの技をボクも使えるようになるからなんだよ! というわけなので早速やっていこうと思うんだけど、なんでか中々エネミーと遭遇しないと言うアクシデントに見舞われております。誰か助けて」


 エネミーが寄って来やすいように少し声を張っているのだが、それでもやってこない。

 アンボルトの防具にはエネミーを寄せ付けないエネミー避けの効果でもあるのではないかと思うほど来ないが、そんな呪いの装備というわけじゃないんだしと頭を振る。


「よぉ……久しぶりだなぁ……」


 歩き回ってもエネミーがいないので、赫き腐敗の森に行ってとっくの昔に復活しているロットヴルムに挨拶代わりにアンボルトブレスでもぶちかましに行こうかと思ったところで、大きな茂みの中から大剣を持った男性が出て来た。

 カーソルが赤いのでレッドネーム、つまりはPKだ。なんだかPKに狙われるのも久しぶりな気がしたが、対抗戦中にPK共をぶちのめしているので意外とそうでもない。

 それよりも、


「お兄さんとは初対面のはずだけど?」


 久しぶりと言われたがヨミはその顔を知らないので、ガチ目のトーンで言い返す。

 すると顔をカッと真っ赤にして、持っている大剣を地面に思い切り突き立てる。


「ふざけんな! お前がバトレイドで散々煽りまくってくれたおかげで、本来の実力を出せずに倒されたアマデウスだよ!」

「あまでうす……あぁ! ボクにぼっこぼこにされて、最後に自棄になってめちゃくちゃな攻撃してきた情けない人!」

「ぶち※※ぞてめぇ!?」


 なんだか彼も懐かしい。そう言えば、アマデウスがきっかけでメスガキ演技を始めたんだなと、FDO二日目を思い出す。

 すると、こいつさえ来なければ少なくともあんなメスガキ演技をしてメンタルにセルフクリティカルを叩き込むこともなかったのにと、理不尽な怒りが湧いてきた。


「話は聞いたぜぇ? アンボルトから剥ぎ取れたもので、グランドスキルってのを手に入れたんだろ? 俺にもその素材を剥ぎ取らせてくれよ。そうしたらキルしないで矢やっからよ」

「え、無理。ボクのこと最後までチーターか八百長で勝ったと思い込んでた人に言っても無駄だろうけど、アンボルトの死体はNPC以外では銀月の王座に所属してるメンバー以外に剥ぎ取れないから」

「信じるかよ」

「ほらね。でも運営の処置だと思うよ? ハイエナみたいに素材だけを剥ぎ取りに来るスカベンジャーが出てこないように、その戦いに関わったギルドの人たちだけしか入手できないようにしているの」


 アンボルトの死体は一つだけ。たった一体のユニークなので再戦は今のところできないが、一つのギルドだけがその旨味を味わうのはあまりにも公平性がないので、近いうちに公平を期すために一定レア度の素材を落とすように調整されたアンボルトに挑戦できるコンテンツが出てくるかもしれない。

 大量にあるためアンボルトの中ではレアリティの低い鱗や骨、は確定で手に入れられて、牙や爪は確立入手とかそんな感じになるかもしれない。


「いいからさっさと案内しやがれメスガキが」

「ていうか前会った時は普通のマナーが悪いだけのプレイヤーだったのに、PKerまで落ちぶれたんだ。うっわ、だっさ」

「もうお前の手口は分かってんだよ。もうその煽りには乗らねえからな」

「メスガキとか言って見下してるような女の子にほぼ一方的にボコられた事実は消えないよー?」

「……それはそれとして、そのムカつく顔を思い切り一発殴る」

「きゃー、怖ーい(棒)」

「やっぱクソムカつくなこのクソメスガキがぁ!」


 地面に突き立てた大剣を引き抜いて上段に構えると、そのまま両手剣戦技『アバランシュバースト』でダッシュしてくる。

 やっぱ怒りやすい人って単純だなと呆れ、スキル『雷王怨嗟』を発動。習得している全ての魔術スキルが使用不可となり、唯一『雷王怨嗟』で使用できる雷だけが残される。


 すぅー、と大きく息を胸いっぱいに吸い込み、ぷくっと頬を膨らませ口元に小さな魔法陣を出現させて準備が完了する。

 使うのは、ドラゴンと言えばな代表的な攻撃。ブレスだ。


「わあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 できる限りの大声で叫ぶと、ヨミの口の前に出てきた魔法陣が声の大きさに比例して巨大化し、ズドォオ!! という音と共に特大の雷ブレスが放たれる。その衝撃で体重の軽い体が後ろに少し押し込まれたが、踏ん張って堪える。

 今初めて使った『雷王怨嗟』だが、どれだけの間このスキルを使って雷を使用し続けたかでゲージ増えるらしい。

 かなりデカいブレスを撃ったにもかかわらずゲージの増え方は一定で、このスキルはちまちま攻撃して削ると損をして、デカい攻撃で叩きのめすのが得するようだ。


「ふぅ……! 大声を出しつつ邪魔者排除できるとスカッとするね!」


”なにそれぇ……”

”ヨミちゃんの体以上のデカさのブレス飛び出てましたが”

”息一杯吸いこんでほっぺ膨らまして可愛いって思ってたら殺意の塊みたいなのが飛び出て鼻水出た”

”これしか使えないようにした運営ナイス。バフガン盛で超高速移動しながらこんなもんぶっ放されたら死んでまう”


 コメント欄もかなり盛り上がりを見せており、お披露目は大成功だなと黒焦げになってえぐれている地面を見なかったことにしながら、一仕事やり終えたようないい笑顔を浮かべた。

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