金色の王はどこにいる

 ステラを保護し、ド深夜帯だったにもかかわらずなぜかクインディアの軍事基地にいたガウェインに頼み込んで、車でワンスディアに迎えに来てもらった。

 ガウェインもステラからすれば竜王殺しの英雄の一人で、後ろの座席を倒して広くし横にして移動している間、何度かまた竜王と戦ってほしいと泣きながらお願いしてきたそうだ。

 王国騎士として、そして打倒竜王を掲げているので彼としてもステラの願いをかなえてあげたかったそうだが、ガウェインの大きすぎる功績で一部隊の隊長から一気に准将にまで昇進。今までのように自由に動くことが難しくなってしまったので、もしかしたら難しいかもしれないそうだ。


 ステラはそのことにすっかり消沈してしまったが、見かねたガウェインが後日マーリンと謁見して、もう一度王に挑んでいいかどうか尋ねることになった。

 その際ステラも一緒に来てもらうことになった。五年前に突如滅んだエヴァンデール王国とアンブロジアズ魔導王国は友好関係にあり、滅んでしまったことをマーリンは心を痛めていたそうだ。

 きっとステラが姿を見せれば、マーリンも喜ぶことだろう。


 ヨミとノエルはワープポイントを使ってギルドハウスに戻り、客室用として開けていた部屋にベッドなどを用意していた。

 ジン、シエル、ゼーレはガウェインとステラの護衛として車に搭乗していた。

 車がフリーデンに着いて迎えに出た時、シエルが「強さ的にお前が護衛に向いてね?」と言われた。確かにそうかもしれないと、どうして護衛ではなくノエルと共に部屋作りをしに行ったのだろうかと首を傾げた。

 こうしてステラを銀月の王座のギルドハウスに招き入れ、手紙を書いてアルベルトの家のポストの中に放り込んで、時間も時間だったのでヨミたちはログアウトした。


「あの後あたしは別行動になったけど、どうなったわけ?」

「ステラさんはボクのギルドハウスにいるよ。フリーデンの町長のおうちに手紙を出しておいたから、多分アルマやアリアちゃんが面倒を見に行くと思う」

「フリーデンで雑談配信すると結構な頻度で出てくるあの兄妹ね。ステラもアリアちゃんがいれば、かなり気がまぎれるんじゃない? あれだけ明るいから精神的にも癒されるだろうし」

「あの子、癒し的な意味で太陽だよね」

「詩乃も大概シスコンだよね」

「マジもんの妹は最近暴走して怖いから、シスコンにはなれないけどね」


 のえるが寝坊してしまったので詩乃一人で登校している途中で、美月が合流してきた。

 美月は銀月の王座と関係がないので、ギルドでステラを引き取ることになったあたりから部外者ということで別行動になった。

 元々彼女は回復薬を作るための素材を手に入れるために森に出ていたので、また素材集めに戻ることにしたのだ。

 その際、もしまたゴルドニールに吹っ飛ばされたらヨミを召喚すると言っていたが、何もなく一晩経ったので何もなかったようだ。


「しっかし、ゴルドフレイに挑むにはまず眷属のゴルドニールを倒して挑戦権を獲得しないとなー」

「こういう時ランダムエンカなの面倒だよね。どこかに行動パターンを把握している人とかいないのかな。動物系エネミーが極度に好きな人が、ランダムエンカウントのレアエネミーを捕まえるためだけに行動パターンを把握したっていう話はあるけど」

「流石にドラゴン系はないよね。前にアーカーシャのギルマスと会ったことあったから、あの時にフレ申請でもしておけばよかった」


 病的なまでに考察好きが集まった考察ギルド、アーカーシャ。そこのギルマスのシンカー・ベルは考察ギルドのマスターをやっているだけあって、FDO内で最も考察をしているプレイヤーだ。

 前に会った時もグランド関連になり得る赫き腐敗の森に連れて行ってほしいと言っていたし、掲示板でも情報収集してくれているシエルとゼーレ曰く、シンカーだけ竜王や竜神の考察密度が狂っているらしい。

 もしかしたら金竜や金竜王の行動パターンを割り出している可能性もあるので、もしあの時にフレ登録して親しくできていたら教えてくれたかもしれない。

 今から近付くとなると、いくら剥ぎ取っても使い道がないくらい余る黄竜王の鱗や肉でもあげれば、ぺらぺらと教えてくれるかもしれない。


「アーカーシャの考察って、ぶっちゃけあたしも助かってるのよね。欲しい素材のフレーバーがものすごく曖昧な時があるんだけど、大体あの人たちが運営している考察サイト行けば解決するし」

「どのゲームにも考察ガチ勢っているんだね」

「リアルにもいるわよ。早速詩乃には彼氏がいるのかどうか、みたいな考察を男子がしてたよ」

「それって考察って言うのかな?」


 なぜ自分なのだ。彼氏いるかどうか気になるんだったらのえるの方を気にしろ。いやでもやっぱりのえるに邪な目が向けられるのは嫌だから、自分一人に集中してもいい。

 と、このようなことを考えていた自分に驚きつつも、彼氏ができて関係が進んで処女じゃなくなってしまえば、あの絶品なんて言葉じゃ済まないほど美味しい血の味が落ちてしまうかもしれないし、依存しているような状態とはいえどそんな理由で離れたくなどないからだと頭の中で言い訳する。


「もう下駄箱の中にラブレター入ってたりして」

「ボク、生まれてきて一度もそんなこってこてに古典的なものを見たことがないんだけど」

「こってこてに古典的」

「狙って言ったわけじゃないから拾うな」


 今時あらゆるメッセージなどのやり取りは、スマホやナーヴコネクトデバイスで行われる。ほとんどの人はスマホの機能をデバイスに移すか同期させることで、キャッシュレス化が進んだこともあり財布もスマホも持たずにいる人が増えている。

 詩乃は万が一のことも考えてスマホをメインで使っているが、どっちが便利かと言われれば断然ナーヴコネクトデバイスと答える。


 中学時代、のえるはよく男子に呼び出されては思春期男子のガラスハートを言葉のメイスをフルスイングして粉微塵にしていたが、その際もデバイスでメッセージが送られてきていた。

 手紙なんて文字を打ち込むよりも時間がかかるし、送ってから届くまでにも時間がかかる。もちろん利点として、データではなく物質として残るので電子機器が壊れて見れなくなってしまう、なんてこともないが、それでも電子化は大いに進んでいる。

 第一、あまり手紙をもらうとかさばって邪魔になってしまうし管理が面倒、というのが本音だ。なので男から貰っても嬉しくないし、ただただ困るだけだ。


「クラスのグループトークルーム作る?」

「それは入るよ。……そこから個人的に登録されて、個人メッセージ飛んできそうだけど」

「そこはもう諦めな。詩乃は超が付くほどの美少女なんだしさ」

「うへぇ……」


 そのうち特に親しくもない男子から、夜中にメッセージでも来るのだろうか。

 いずれあり得るかもしれない少し先の未来を想像して若干憂鬱になってしまう。


「ま、もし金竜と金竜王の行動パターンとかを突き止めることができたら教えてね。戦いには行けないけど、物資の補充とかで助けてあげる」

「美月……!」

「お得意様になりそうだから、四割引きにしといてあげる」

「そこはタダじゃないんだ」

「こっちも商売なんで」

「そりゃそうだ」


 昨日は色々あって美月キアナのお店に行けなかったので、今日こそは彼女のお店に行って品ぞろえを確認する。

 本人が、トッププレイヤーの仲間入りを果たした詩乃に対して揃っていると言っているのだし、期待はしていいだろう。

 高レアアイテムなどを売っていたら、専属のアイテム売人にしてもいいかもしれない。お金は潤いすぎて溺れそうなくらいあるし、お金がなくても現状銀月の王座のみが独占しているアンボルト素材もある。


「そういえばさ」

「んー?」

「昨日はどうして、ゴルドニールはあんなに上空にいたのに急にこっちに来たんだろうね」

「あー、確かに。リアルでもジェット機が飛んでいる以上の高さにいたよね」


 ドラゴンの視力がどんなものなのかは知らないが、仮に見えていたのだとしてもわざわざ降りてきて確殺ホームランしに来る必要なんてないはずだ。

 なのに昨日、ゴルドニールは隕石のように地面に墜落してから、減り込んだ体をどういう原理かなおも音速以上で進ませて地面を抉りながら体当たりしてきた。

 ヨミたちを見て何かを感じて襲って来たのか、あるいはただ単に視界に人が映り込んで不愉快だったこと、その人が空を見上げて自分を見てより不愉快になったことで、絶殺モードになったのかもしれない。


 そういえば、と。

 アンボルトと戦っている時、その終盤で斬赫爪を取り出した際酷く怯えていたことを思い出す。

 バーンロットは竜王の中でも最強格の三体の一つ。本気じゃないし、何ならあれ自体本体の記憶と経験が詰め込まれている人形の可能性もあるわけだが、それでも赫竜王のもの。

 そして、ヨミ専用のグランドウェポンブリッツグライフェンも、インベントリ内にしまってあったとはいえど所持している。

 まさか、それを察知して襲ってきたわけなあるまいなと思ったが、流石にそんなわけないかと考えすぎだと否定する。


 今日の予定は確か、教室でロングホームルームを行いそこでクラス委員やらを決めることになっており、午後からは体育館で部活動の紹介だ。

 クラス委員になるつもりもなければ部活にも入る予定もないので、適当に流しながら今日一日を過ごすかと、ちょっぴり出た欠伸を噛み殺しながら思った。

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