ふぁんたしあですてぃにーおふらいん 3
入学式を終え、一度詩音と正宗と合流した後で、詩乃はのえると空と三人で寄り道しながら帰ると伝えた。
早速生徒に囲まれそうになったがさっさと退散することでそれを回避し、ちゃんと通学し始めるのは明日からだが学生らしく放課後制服を着たまま町を散策する。
……ことにしていたのだが、ここで思わぬハプニングが起きた。
「いやー、まさかあなたが私の後輩になるなんてねー」
「ははは……。ボクも予想外ですよ……」
そう、美琴に捕まったのである。
生徒会の仕事があるのでまだ学校に残るらしいので一緒に町に出られないから、その前に詩乃と会いたかったのだと言う。
「でもまさか、ゲームの姿そのまんまとは思わなかったよ」
「雷電先輩こそ、姿どころか名前までそのままじゃないですか」
「いやー、私実はFDOが初めてのゲームでね。あまり本名とかはよくないって言うの、後になって知ってさ。でももう名前変えるの面倒だから、このままでいいやって。あ、ここだけの話、カナタもFDOが初めてのゲームで私と同じように姿も名前もそのまんまなの。サクラは名前も顔もちょっといじってるけど」
「……もしかしなくても、二人ともいます?」
「いるよー。カナタ、
最強ギルドの夢想の雷霆のトップスリーが揃っていた。華奈樹と美桜も今日は来ていて、生徒会室にいるらしい。
もうここまで来たらアーネストがいたって驚かない。と思ったが、アーネストは別の高校に通っているそうなので、ここにはいないとのこと。フレイヤとリタも同様だ。
「ともあれ、昨日の敵は今日は友って言うし、生徒会長としてあなたたちの入学を歓迎するわ。それと、別に雷電先輩じゃなくて美琴さんでもいいのよ?」
「……そうします。なんかこう、最初の印象であまり先輩って言いづらかったんで」
「酷ーい! 確かに初めて会った時ちょっと変なテンションになっちゃってたけどさー」
準決勝当日、遠くからなんかすごい目でこっちを見つめていた美琴を思い出す。
本人の口から妹が欲しかったと聞かされていたし、あの時詩乃はヘカテーを膝の上に乗せてそっと抱き寄せていたので、多分何かが大いに刺激されていたのだろう。
数分程度美琴と言葉を交わしてから、今度こそ他の生徒に囲まれてしまう前にのえるたちと脱出し、町に出る。
太陽はかなり高い位置に来ており、本当だったら温かくて非常に過ごしやすい程度だろうが、詩乃には真夏の猛暑のように感じてしまう。
「お前、春でそれじゃ夏とかどうなるんだよ」
「多分、溶ける……」
「下手したら夏の体育には参加できないかもな」
「それはやだ。……って言いたいけど、無茶して熱中症とか日射病になったら大変だし、行けそうなときに参加することにするよ」
「そうしたほうがいいよ。倒れちゃったら多分クラスの男子が黙ってないだろうし」
「先生が手助けしてあげましょうって言った時の男子の気合の入りよう、あれは笑ったな」
「男に好かれてもなあ……」
しかし詩乃は、分かりやすく男子に好かれやすいタイプになっている。
小柄で可憐で、基本は健康的だけどふとした時に倒れてしまいそうな、ちょっと儚げな女の子。
男子という生き物はそういう庇護欲そそられるのが大好きだし、詩乃ほどの美少女が困っていたらいい印象を持ってもらうために色々するだろう。
だが見た目は女の子でも、心も大分女の子が進行しているがそれでも心は男のつもりだ。
趣味趣向は男子の頃と変わっていないし、恋愛対象だって男ではなく女子だ。なので男に好かれたところで、正直困るだけだ。
「今時ベッタベタに古典的な、下駄箱にラブレターとかあるんじゃないか?」
「嫌だなあ……」
「姉さんも中学から男子人気高かったし、あるんじゃないか?」
「えぇ? 私に? ないと思うけどなあ」
「思春期男子、特に高校生男子を舐めないほうがいいぞ二人とも。性欲の塊だからな」
「その男子高校生のお前が言うなお前が」
「空は女子からたくさん告白されそうだねー。プロゲーマーで身長高いし、姉贔屓抜きにしても顔もいいし」
「プロゲーマーだからって寄ってくる女子を俺は信用しない」
今時プロゲーマーというのは、リアルのスポーツ選手とほぼ同じ扱いだ。収入面も当然個人差はあるが、トップ選手となれば億の収入だって見込める。
空はそのトップ選手に中学生の時から仲間入りを果たしているし、今回の世界大会で優勝してとんでもない額の賞金を引っ提げて帰って来た。
中学生の時からプロゲーマーでやってきていて、収入を得ている。それはさぞ周りから見れば恵まれているように見えるだろう。それが理由で言い寄られたことも一度や二度ではない。
「そうだ。プロゲーマーで思い出したんだけど、うちの社長が詩乃を勧誘してほしいって」
「前も言ったけど、ボクはプロゲーマーにはならないよ。配信者活動もびっくりするくらい軌道に乗ったからなおさらね」
「普通は配信社業と兼業してでもプロゲーマーやるんだけどな。ヒンメルも大会とかない時は配信やってるぞ」
「もうこれ以上目立ちたくない」
「何をいまさら、ワールドワイドロリが」
「昨日の最終決戦、ほぼノーカットで切り抜かれて公式にアップされてたね」
FDOは世界中で大人気のオンラインゲーム。特に一番人気が高いのが、昨日まで行われていた対抗戦だ。
元より詩乃……ヨミは色んな事があって人気が高かったが、グランドエネミー戦で一度大爆発してから、その炎が鎮火する前に対抗戦決勝でニトロをぶち込んでしまった。
その結果一晩でとんでもない広がりを見せ、ツウィーターというSNSのトレンドで1位を獲得していた。今も多分まだ変動していないだろう。
日本語以外にも海外のコメントも多く見受けられたが、日本人ばかりが変態かと思ったら海外の視聴者にも変態が多かった。
一番言及されていたのは、メスガキムーブで顔を真っ赤にしながら左手でほんの少しだけスカートをたくし上げていたところで、日本の変態共と何ら変わりないコメントがあって頭が痛くなった。
チャンネルの登録者も爆増してくれて嬉しいのだが、その分変態も増えるのかと嬉しい気持ちと嫌な気持ちが半々だ。
「詩乃ちゃん、変態さんが増えるのって原因ほぼ詩乃ちゃんだからね?」
「うっ」
「そうだな。お前がアマデウスとの戦いの時にメスガキムーブなんてしなければ、今ほど変態は来なかっただろうな」
「ううっ」
「どっちにしろちっちゃくて可愛いから少なからず来てたかもだけど、今ほどじゃなかったと思うな。それもあるから、私はやめろって言ってたんだよ?」
「ごめんなさい……」
相手の反応が面白いのと、今の自分がメスガキムーブをすれば高確率で相手がブチギレて動きを悪くするか、怒らなくても言葉一つで強く意識させて動きを鈍らせられるからと、やらなければよかったと後悔しているが後の祭りだ。
「それはさておき、町に出たはいいけどどうするよ。なんも考えてなかったぞ」
「私もー」
「おい言い出しっぺ」
「ただ制服着て放課後町を歩きたかっただけだもーん」
「中学に入学した時もあったよねこれ」
のえるの思いつきノープランは今に始まったことではない。もう長い付き合いなのだ、いい加減慣れて来た。
とりあえずお昼が近いので、昼食は外でのえるたちと食べてくると詩音にメッセージを飛ばして断りを入れておいた。
すぐに正宗が残念がっていると返事が返ってきたが、今日は一日休みを取っているんだし夕飯は一緒に食べるんだからいいだろと送り返しておいた。
「こういう放課後で外食といったら、定番のファミレスかファストフードだよね。空はどこか行きたいところとかある?」
「日本のマック行きたいな。帰って来てからまだ一度も行ってないんだ」
「これも定番だねえ。詩乃ちゃんもマックでいい?」
「いいよ、行こう」
そういえば、のえるに何度も慣れるためにと連れ出すという名目で単なるお出かけを敢行された時に当然外食をしていたが、ファミレスだったりちょっとおしゃれなカフェだったりしたので、リアルでマックは食べていなかったなと思い出す。
でもあまり久々に食べるという印象がなくて首を傾げそうになったが、リアルでは食べていなくても現実と変わらない味覚を完全再現している味覚エンジンが働いているFDO内で、何度か一人で食べていた。
やっぱり現実と全く同じように味覚を再現しているのは素晴らしいが、こういう弊害もあるから気を付けないとなと苦笑し、先を急ぐように駆け足で走っていったのえるを追いかけた。
===
作者が勝手にやってる『勝手にQ&Aコーナー』
Q.本当にヨミちゃんがメスガキムーブしてなかったら、今より変態は少なかったの?
A.メスガキ好きが集まらないけど、清楚系でゴスロリ着たロリだからどっちにしろロリコンどもが集まって来てトントンになる
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