お祭りを終えて
カウントダウンが終わり、開始地点だった中央広場に転送されたヨミたち。
姿を見せた瞬間集まっていたプレイヤーから地響きのような大歓声を向けられてちょっとビビったが、辺り一面を埋め尽くすほどの大ぜいからの賞賛や歓声をゲーム内とはいえ直接聞いて、これは癖になりそうだと苦笑した。
「ヨミちゃああああああああああああああん!」
「むぐっ!?」
そっちに気を取られていたらノエルのダイレクトアタックに反応できず、捕獲されて胸に顔を埋めてしまう。
いつの間にか鎧を脱いでおり、硬い鉄の感触ではなく極上に柔らかな膨らみに頭が混乱する。結構ノエルのことを見てしまっていると白状したからか、あえて鎧を脱いでいるようにも感じる。
しばらくヨミ以上に喜びを爆発させているノエルにもみくちゃにされてから解放され、喜びつつも夢想の雷霆のサクラ相手に負けてしまったのが悔しいのか、ちょっとくらい表情をしていたヘカテーを慰めるように抱きしめてあげる。
「お疲れさん。ナイスファイトだったぞ」
ヘカテーを慰めていると、シエルが左手を上げながら近付いてきたので、ヨミも左手を上げてハイタッチする。
「あんがとさん。そっちこそ、ボクにとっての理想的な状況を壊さないようにやってくれてありがと」
「結局フレイヤさんにやられたけどな。なんだよあの超火力。ほぼ余波でHP消し飛んだぞ」
「ノエルは爆心地にいたって聞いてたけど」
「あ、私控室的な場所で見ていましたけど、ジンさんが守っていましたよ」
「守ることくらいしかできなかったけどね」
「その守りのおかげでかなり助かってるんだから、自信持って。ジンがいなかったら、そこの脳筋はすぐにやられてたと思うよ」
「ヨミちゃん酷ーい!」
そんなやり取りをしているとヨミたちの前にウィンドウが出てきて、それを読んでから全員で一斉に『YES』を押して、再び転送される。
飛ばされた場所は白い背景に大きなモニターやちょっとした飾りがある部屋で、大きなテーブルと20個の椅子が並べられていた。
「なんだ、私たちが先かと思ったが若干出遅れたか」
すぐ後に誰かが近くに転送されてきた。見れば、先ほどまで大激戦を繰り広げていたアーネストと、彼と共に試合に参加していたメンバーだった。
そこから美琴たち夢想の雷霆、フレイヤたち剣の乙女が飛ばされてきた。
こういう戦いの後というのは決まってインタビューされると相場が決まっているが、それは大体上位三つまでだ。
前回の対抗戦のアーカイブを流しで見ていた時も、同率一位だったグローリア・ブレイズと夢想の雷霆、そして三位だった剣の乙女だけだった。
ではどうして今回は四位までなのだろうと首をかしげるが、隣でシエルが「どうせお前と剣聖に聞きたいことがあったからだろ」と言って納得する。
立っているのもなんだし、用意されている椅子に座ろうかという空気になりギルドごとに分かれて椅子に腰を掛ける。もちろんノエルが右隣り、ヘカテーが左隣に座った。
「皆さん、お疲れ様です! 今回も超絶激熱なバトルをお届けしていただき、誠にありがとうございます!」
しばらく待っていると金髪緑眼でスーツをぴしっと決めたエルフの女性がやって来た。
対抗戦のアーカイブ、特に公式生実況配信を見ていれば誰もが知っている公式実況者のヴィオラだ。
彼女が入ってくると同時に、大きなモニターのような場所に自分たちが映っている映像が流れ、濁流のような量のコメントが一気に流れていく。
「いやー、本当に今回の対抗戦は激戦に次ぐ激戦、そして予想外の展開が続いて実に驚きに満ちていましたよ。では視聴者の皆様方、今回の大会を大いに盛り上げてくださった方々に盛大な拍手をお願いします!」
その瞬間拍手の絵文字や「88888」などのコメントで画面が埋め尽くされる。よく見れば同接数が百万近くにまで膨れ上がっており、今自分が百万人近くに見られていると分かった途端、急に緊張し始める。
「本来であれば三位までのギルドなのですが、今回惜しくも四位となってしまったグローリア・ブレイズは外せないよね、という話になったので特別にご招待しました。時間が少し押してしまっているので、手早くインタビューをしていきましょう。ではまずは、惜しくも優勝を逃してしまったギルド、グローリア・ブレイズの皆様方から。アーネストさん、今回の大会はどうでしたか?」
「そうだね……。一言で言えば、死ぬほど悔しい結果になってしまったね。私たちは優勝を勝ち取るつもりで挑んでいたし、それに向けて準備もしていた。最初は妥当夢想の雷霆。途中から銀月の王座も加わり、だからこそ最善を尽くした。その結果で負けてしまったのだからもちろん悔しいが、全力を出し尽くして負けたのだから、それは私の実力不足ということになるからね。だから、悔しいが、君たちには素直に賞賛の言葉を送るよ。優勝おめでとう」
「さっきから何回も悔しいって挟んでるじゃんか」
「この日に備えてめちゃくちゃ努力して負けて、悔しくない奴がいると思うか?」
「いないね。ボクだったら多分、悔しくて大泣きするかもね」
「……それはそれでわたしが見てみたいかも」
「司会さん仕事して」
勝ったから、喜び大爆発を百万に見られてしまったがそれはいい。もし負けていたら、負けて悔しくて大泣きしていた姿がこの人数に見られていたかもしれないと思うと、勝ててよかったと心底安堵する。
「ごめんなさい、兄さん……。せっかく他ギルドの方を任されたのに……」
しょんぼりとした様子の、アーネストと目元がそっくりな金髪の少女、イリヤが弱弱しい声で謝罪する。
盾で戦うシールダーとかなり珍しい戦闘スタイルを確立させており、攻防一体の優れたアタッカーだ。
アタッカー用のスキルとタンクのスキルの両方を獲得しているので、攻撃力が高くてがちがちに硬い特徴がある。グランド戦でも、イリヤが防御の要となっている。
「気にするな。相手はプロだったんだ。そのプロ相手にそれなりの時間持たせられたんだろ? 勝つことが一番の最前だが、お前はシエルをその場に止めたんだ。十分たたえられる功績だよ」
「でも……ポイントを獲得したの、兄さんだけだったから……」
「あとでアーカイブは見直すが、多分相性と状況がよくなかったんだろう。大丈夫、お前は強い。だから次戦ったら勝てるさ」
「おう、言ってくれるじゃないか剣聖さんよ」
「当然だ。イリヤは少し自分に自信がないところがあるが、うちの最高のタンクで最良のアタッカーだ。私の妹だしね。だから次君と戦う時は、必ず君を倒せるだろうさ」
「言ったな? 次も正面から捻じ伏せたる」
アーネストとシエルの間にバチバチと火花が散る。一応、ライバル関係に当たるのはヨミのはずだし、火花を散らすんだったらシエルとイリヤの二人だろうにと思ったが、何も言わないでおく。
「ポイント見たけど、あそこで倒されないでいたら優勝狙えたかもしれないのが一番悔しいなー。フレイヤさんが何人か消し飛ばしちゃったし、なんか残念」
「むしろあれをほぼ真正面から受けて生きているあなたの方がおかしいです。なんで生きてたんですか」
「うちの魔術師ちゃんたちは優秀なのだ」
「そ、そんな……! け、結局私なんて、ちょっとお手伝いすることしかできませんでしたし、最終局面では何のお役にも……」
「私もですよ。せっかくトーチちゃんと生き残れたのに、最後にそこのイケメンお兄さんの一撃でまとめてやられちゃったし。超悔しいです」
「あれはごめんね? 私がヨミちゃんの攻撃見切っていれば、あそこでアーネスト君倒せたんだけどね」
「うわ、七鳴神完成直前だったのか。いい連携をしてくれたね、ヨミ」
「一人で総取りするつもりだったんだけどね」
あそこで二人とも倒して、トーチとルナを降参させることでポイント総取りするつもりだったが、魔術師からの支援攻撃をさせないために立ち回っていたのが仇になってしまった。
「フレイヤさんは今回、特に誰を意識して対策を立てていましたか? わたしには、美琴さんを特に意識しているように感じましたが」
「その通りですね。美琴さんの対策を最優先にして、その次にアーネストさん、ヨミさんの順番で対策装備を作りました。できれば最初の戦いで全部使っておきたかったんですけど、そこの戦闘狂がヨミさんを独占したので」
「言い方」
「でも事実でしょう? あなたはヨミさんに負けた。もし最初の私たちの四つ巴の戦いをしていれば、ヨミさん対策の聖属性と炎属性を積んだ純銀製の魔導兵装で即殺していましたよ」
「アーネスト、ナイス転移」
「そ、そんなものを作ってたんですねー。フレイヤさんは第一回の時も、視聴者全員の度肝を抜くような殲滅兵器引っ提げてきたので、ある意味驚きはしないですけど」
もしアーネストに捕まれて転移していなかったら、序盤の序盤でもしかしたらワンパンされていた可能性があると知り、ぶるりと身震いする。
事前に対策を考えて装備を作ってくると言うフレイヤのスタイルの特性上、そういうガンメタ装備を引っ提げてくるのは想像に難くない。
ヨミだって何かあるだろうとは思っていたが、せいぜい炎か聖属性どっちかの火力がぶっ壊れてるものだと思っていた。その両方に加えて純銀だとは思わなかったが。
「次は絶対に、先にヨミさんかアーネストさんのどっちかを潰します。もちろん、美琴さんを最初に潰せるならそれに越したことはありませんが」
「本当に初手超広域破壊魔導兵装使ってきそうで怖いよ……」
「それだと戦いの楽しみがありませんからやりませんよ。でも楽しさ度外視するなら、やったっていいですよ? 絵面は死にますけど」
「止めてください、実況することがなくなっちゃいます」
やはり実況者として公式に招かれているヴィオラ的に、初手から絵面が死ぬのはやめてほしいようだ。
一応ヨミは影の中に潜って回避できるので、もし今回それをやられていても平気だったかもしれないが、次回の大会でされたらどうかは分からない。
このゲームを始めて配信を始めて、それを通して頻繁に使ってきた『シャドウダイブ』のチート具合は、運営にも届いているはずだ。
この大会でもこれがなければ即死していたような場面がいくつもあったし、助けられまくっているので調整は入ってほしくないが、ゲームバランス的にもそういうわけにはいくまい。
きっと影の中にいてもダメージを受けるか、ものすごく長いリキャストが入るとかその辺だろう。
「美琴さんは誰を意識して対策しましたか?」
「もちろんアーネスト君ですね。前回引き分けたし。でもヨミちゃんもフレイヤさんも同じくらい警戒はしていたかな。フレイヤさんは油断したら消し飛びそうだし、ヨミちゃんはグランドエネミー倒して変形する武器持ってるし。吸血鬼だから今回は炎魔術が得意なトーチちゃんを連れて来たんだけど、まさかあそこまで複数対一が得意とは思わなかったなー」
「他ゲームで確か30対1やったことあるから」
「前からうちの視聴者から言われてましたけど、ヨミさんってやっぱり黄泉送りっていう鬼強プレイヤーですか?」
「ノーコメントで」
その返答がもはや答えになっているようなものだが、明言だけはしないでおく。ただでさえ人気がバグりつつあるのだ。これ以上変態が湧いてほしくない。
「サクラさんとカナタさんもいい勝負してましたよねー。わたし、カナタさん対リタさんが一番好きです! あのスピードファイターと真の剣聖とまで呼ばれるカナタさんの一騎打ち、あれ好きな人いっぱいいると思いますよ」
「そう、でしょうか? 決着つかずにフレイヤさんにやられちゃったので、私はなんとも言えませんけど……」
「戦技なしで戦技連結したわたしの攻撃に対応してくるのですから、その圧倒的技量で見せる純粋な剣技が好き、という方は必ずいると思いますよ、カナタ様」
「いつも思いますけど、カナタさんって現状戦技使えない刀使ってるのに何で時々ランキング1位掻っ攫っていくんですかね。強さの秘訣って何ですか?」
「日々の努力、としか。実家が剣術道場をやっていて幼い頃から毎日欠かさず剣術をやり続けているので」
「それだとしてもあの剣術はちょっとおかしいと思いますけどね。アーネストさんに、抜刀術は間合いの外に出ないとやられるって言わせるとかどうなってるんですか」
「抜刀術が一番の得意技なので。今回は使えませんでしたけど」
カナタは努力しまくっている天才らしい。今回は縁がなかったが、いつかどこかでPvPをやってみたいものだ。
「そしてそして、今回見事に優勝を飾った銀月の王座の皆さまですが、まずは優勝おめでとうございます! ……設立したばかりのギルド、マスターも始めて一か月経っていないのにそこまで強くなれた理由って何かあります?」
「理由って言われてもなあ……。ボクはただやりたいように遊んでたら、結果的に化け物に挑むことになってた感じだったし。グランドエネミーも、シエルがキークエストクリアしててシエル経由でボクたちもキークエクリアして挑んだ感じだったし」
「ま、お前はそれがなくても多分今くらい強くなってたんじゃないか? ロットヴルム周回でもして」
「あんなもん周回したくねーよバカ。二度とごめんだね」
「なるほどー。つまり強敵に挑みまくってひたすら鍛えていたと」
「端的に言えばそうですかね。あとはひたすらPvPしてましたね。対人戦ってなんか熟練度伸びやすいので」
対抗戦が近くなったらやらなくなったが、それまではとにかく挑みまくって連勝記録を作り続けていた。
この大会で上位三ギルドに目を付けられたので、その内連勝記録はストップするかもしれない。
「ではでは、優勝した感想をお聞きしたいのですが」
「そりゃもうすっ……ごく嬉しいに決まってるじゃないですか。あんな本気の戦いをして、自分の全部を使って勝ちをもぎ取る。これほど気持ちいいことってないですよ」
「ですよね! 勝った後に超嬉しそうにしてましたし」
「うぐっ!? や、やっぱり見られてました……?」
「百万人がしっかりと見てましたよ。可愛いってコメントで画面が埋まってました」
「ひぇぁ」
あれがやっぱり大勢に見られていたと知り、顔を真っ赤にする。
すぐにでもノエルに抱き着いて顔を隠したいが、それをしたらこの放送に来ているであろうヨミの変態視聴者共に餌を与えることになるので、ただ黙ってゆでだこのように真っ赤になった顔を晒すだけにする。
「ところで、途中で強烈なメスガキを披露した件について聞きたいんですが」
「え、ちょ」
「コメント欄でも『顔を真っ赤にしてて可愛かった』、『無理をしている感じがぶっ刺さった』、『新しい扉が開いた』と言ったのが大量にあったんですけども」
「ヨミちゃあん?」
「ぴぃっ」
どうせ後でバレることではあったのだが、それでも隠しておきたかったことをヴィオラがばらしてしまった。
その瞬間からじとーっとした冷たい視線が右から突き刺さってきていた。
そーっと顔を向けないようにしていると、がしっと顔を掴まれて強制的に顔を合わせられる。満面の笑みなのに、なぜかものすごく怖かった。
「そういうのはやっちゃダメだって、いつも言ってるよねえ? なんでいつも約束破っちゃうのかな? それでいつもお仕置きされてるのに破っちゃうなんて、実はお仕置きされたい変態ちゃんなの?」
「ち、ちが……い、ます……」
「じゃあなんで今回もやったの?」
「それは、そのぉ……。あー、アーネストの動きを悪くしようかなって、思いまして……」
「……お仕置きの内容は、後でアーカイブ見てどんなムーブしたのか見てから決めるから、覚悟して」
「……」
「返事」
「は、はひっ」
これはもう、詩月を交えたゴスロリファッションショーの開催決定だろう。多分ログアウトしてすぐにチェックされて、そのまま即日開催となるはずだ。
あんなことやらなければよかったと後悔するが後の祭り。左に座るヘカテーすら「自業自得です」と言って来て、それが地味にハートブレイクしてきた。
そんなこんなでインタビューを終えた後はMVPや指揮官賞、敢闘賞、ベストバウト賞などの発表があった。
MVPは美琴、指揮官賞はシエル、敢闘賞にはノエルとヘカテーのダブルピックアップ、ベストバウトはヨミとアーネストの大激戦が選ばれた。
こうしてすべてのイベントを終え、運営からギルドハウスに飾る置物と優勝したヨミたち全員に、それぞれにちなんだ称号が与えられたりしてから解散となった。
「はーい、詩乃ちゃんこれ着ようねー」
「あ、これもこれも! 絶対これとかかわいいから!」
「シズちゃん……あなた、もしかして天才!?」
「のえるお姉ちゃんほどじゃないよー」
「もう好きにして……」
その後、ちゃんとアーカイブを確認された後でゴスロリファッションショーの強制開催が決定され、速攻で詩月を呼んで二人に着せ替え人形にさせられた。
同時に撮影会も開催され、自分は人形だと自己暗示することで二人の指示に従って色んなポーズや表情を取って、二人のスマホで激写されまくった。
男としてのプライドがズタズタになったのは、言うまでもないだろう。代わりに、リアルでも可愛い格好をすることの楽しさが芽生え始めて、もう心は男のままだとは言えなくなってしまったかもしれないと、のえるに抱きしめられながら思ったヨミだった。
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