剣の頂、血濡れの王、雷霆の主。落ちるは二つ、残るは一つ

 血の魔王となり暴虐の嵐そのものと化したヨミの猛攻を、アーネストは全て対応してみせた。

 戦技を使えば戦技で、それを繋げれば同じように接続して、離れれば追いかけてきて、接近すれば自分の間合いで戦うために追い出そうとする。

 竜王の骸から作られた至高の武器を、この世界に唯一無二の武器で迎え打つ。


 幾重もぶつかり合う音が鳴り、その都度地面がえぐれ、陥没し、亀裂が入り、裂傷が刻まれ、美しかった広場は戦争でも起きた後のようなひどいありさまとなっている。

 もしここに二つのギルドがおり、そのどちらもが激しく攻撃を繰り出していれば納得しただろうが、ここまで酷い光景に変えてしまったのが経った二人のプレイヤーだと言ったら、これを見ている人でなければ誰も信じないだろう。


「『ミゼラブルダンス』───見様見真似『ブレイドダンス』!」


 MPのみを消費し地面に広がる血の池から大量の血の武器を生成し、アーネストに向かって飛ばして激しく乱舞させながら自らもその嵐の中に身を投げ出し、全てを紙一重で回避しながら自身の背後に従えている別の血の武器を、自分自身で操作して乱舞する。

 ヘカテーの『スカーレットセイバー』からの『ブレイドダンス』はヨミは持っていないので、記憶の中にある動きを自力で再現しているだけだ。

 流石にアーネストと超速戦闘しながら三本以上を同時に操るのは無茶があり、四本目以降からは笑えるくらい単調な攻撃になっている。

 それでもこの最強相手にしながら三本も操れるんだから、十分褒めたたえられることだろう、すごいぞボク、と自分で自分を褒めておく。


「ハハハハハハ! 随分ド派手だな!? 確かにこれは魔王と呼ばれるだけはある!」

「この大量の血武器の嵐の中を笑って走り抜けてくるお前は、確かに剣聖と呼ばれるだけはあるよ! なんだお前バケモンか!? 最高じゃん!」


 お互いに血武器が衣服を掠めていきながら全部紙一重で回避しながら接近し、血武器の嵐の中で刃を交える。

 その衝撃で血武器が弾け飛んで行き、強制的に『ミゼラブルダンス』が解除される。

 ならばとアーネストの足元から『ジェノサイドピアッサー』を十個同時に射出してダメージを狙うが、直前に気付かれてヨミのことを蹴り飛ばしてから、翼を羽ばたかせて回避される。


 靴底で地面を削りながら停止したヨミは、顔を上げるとアーネストがアロンダイトを掲げて、光の奔流を空に向かって伸ばしているのを見て条件が比較的軽い固有戦技を連発できるのはずるいなと思いつつ、大鎌を特大剣に変えてから両手でしっかりと握る。


「『ウェポンアウェイク』───『湖光の聖剣アロンダイト』!!」

「『ウェポンアウェイク・全放出フルバースト』───『雷殲ブリクスト大剣撃グラム』!!」


 破滅の光の奔流と、破壊の竜王の雷が斬撃となって放たれて、二人の間で衝突してせめぎ合う。

 少しは拮抗していたが、アーネストの『湖光の聖剣』の方が威力が高めなようで、徐々に押されてくる。


「こ、の……! おぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 喉よ裂けよとばかりに叫び声をあげるが、プレイヤースキルが重視されると言っても結局はシステムとステータスが全てのこの世界で、気合でシステムに設定されているものの威力が変わることはない。

 それでも諦めてたまるかと踏ん張っていると、空間を捻じ曲げるほどの威力の雷の斬撃が飛んできた。

 雷の斬撃が湖光の聖剣と大剣撃とぶつかり、第三者からの介入によってバランスが崩れて大爆発が起こる。

 ヨミはとっさに特大剣を体がすっぽりと隠れるほど大きな盾に変形させ、アーネストは踏ん張りの聞かない空中にいたためあえて飛ばされることで衝撃から逃れる。


 一体誰が、などと考える必要などない。この試合の中で雷を、紫電を使えるのはたった一人だけだ。


「もしかして、ボクのギルメン倒してきちゃったんですか?」


 『血濡れの殺人姫』が時間切れとなり、全てのステータスが軒並み1まで下がる。月夜状態もゲージを消費しきってしまい、MPも一度1まで落ちたことでかかっているバフが全部解除される。

 ブリッツグライフェンも持っていることはできるが装備できなくなり、強制解除されてしまう。

 そんなのは『ソウルサクリファイス』を使えばすぐに解決できるので特に慌てず、最高の一騎打ちに水を差すどころか雷をぶっ放してきた雷神に向かって問う。


「残念ながら、全員は無理だったわ。あなたのところのタンクとスナイパーはフレイヤさんの奥の手で消し飛ばされちゃったし。脳筋ちゃんは分からないけど、爆心地近くにいたから無事じゃないでしょうね」


 全身ボロボロ、左腕を失い左半身もひどく焼かれて美人が台無しになっている美琴が答える。

 あれだけの火傷だ、スリップダメージもかなりのものだろう。何もしなくてもそのうち倒れてしまうだろうが、それだともったいない。


「せっかくだ、美琴も来たことだし最後は三つ巴で終わらないか? どうやら、そっちは魔術師の二人はどうにか生きているようだけど」


 飛ばされてたアーネストが降りてきて、そんな提案をする。ヨミもまさに、せっかく美琴が来たのだから、一人足りないが最初と同じように戦おうと思っていたところだ。


「フレイヤさんの攻撃は、威力を増幅させた魔術攻撃だからね。炎耐性を高くしてるトーチちゃんと、強力な属性防御を使えるルナちゃんの合わせ技で、ぎりぎり生き残れたのよ」

「むしろ彼女の爆撃を食らってどうにか生きている時点で相当だと思うんだが。まあいい、君は左の腕と視界を失っているんだ。魔術師二人くらい、いいハンデだろう」

「言うねえ。トーチちゃんとルナちゃん残したことを後悔させてやるわ」


 二人のやり取りをしている間、自分のパーティーメンバーを確認する。

 ヘカテーの名前はなく、ジンもシエルもない。ただ、フレイヤの爆撃の爆心地にいたというノエルは、レッドゾーンから徐々に減っているが確かに残っている。

 安否を確認したいが、ここでノエルに連絡すると生きていることがバレるので、何もしないでおく。


「さて、何度目かの仕切り直しだ。私の神聖騎士はもうじき効果が切れるし、美琴の奥の手もその状態じゃそう長くは使えないだろう?」

「ヨミちゃんが元通りになってるけど、いいの?」

「お構いなく」


 条件を満たせば持っているだけで装備状態にできるので、かなり重く感じる特大剣状態のままのブリッツグライフェンを持ちながら、左手でウィンドウを操作してある一つの武器のところで止める。


「……諸願七雷・七鳴神───神刀真打・抜刀!」


 数度の深呼吸の後、美琴が背中に七つの一つ巴紋を出し、続けて自分の胸に右手を当てて一見すれば胸の谷間から引っ張り出しているようにも見える動作で、陰打とは似ているが輝きが違う刀を取り出した。

 美琴の最高瞬間火力、神刀夢想浄雷・真打。陰打の上位互換で、七鳴神状態時のみ使用可能のスキルによって作られた刀だ。

 あまりにも火力が高いため長時間の使用はできず、今の美琴から考えれば一分持てばいい方だろう。


「『ソウルサクリファイス』!」


 美琴が奥の手を使ったのを確認してから、ヨミは運営の自費で一つだけ与えられているストックを生贄に、全てのステータス復活させてHPとMPを全快まで持っていく。

 月夜状態を除いた、効果が切れていた『血濡れの殺人姫』を含めた自己バフが再度活性化し、力が漲り血の魔王が再臨する。

 更に、MPが復活してすぐにインベントリを操作して背中に夜空の星剣を装備し、その柄に触れる。


「『ウェポンアウェイク』───『月の揺り籠ムーンクレイドル』!」


 ヨミのユニーク武器の固有戦技を開放。全快したMPを八割消費して紛い物でありながら本物の月光を降り注ぐ、小さな満月を作り上げて筋力にバフを重ねる。


 アーネストだけが何もせずに準備が整うのを待ち、ヨミが夜空の星剣から手を放して、ブリッツグライフェンを大鎌に変形させてから襲い掛かってくる。

 真っ先にヨミを狙ってきたが、美琴がやや乱雑に振り下ろした真打が地面を斬り裂きながら雷の斬撃を放ってきたので足を止め、その隙に美琴がアーネストに向かうがヨミが妨害する。


 ギリギリと鍔迫り合いとなって押し合っていると、アーネストが湖光の聖剣を使ってまとめて吹っ飛ばそうとしてきたので、どれだけMPが豊潤にあるのだと言いたくなりながら美琴を蹴り飛ばして射線から外れる。


「ゼェイ!」


 裂帛の気合と共に振り上げられた真打から放たれた斬撃が光の奔流の斬撃と衝突し、僅かな拮抗の後に爆散。

 その爆風に抗うようにヨミがアーネストに駆け出していくと、また湖光の聖剣を使ってきた。

 回避するのは時間がもったいないのでしっかりと見極めて、直撃しないように横にずれることでやり過ごし、地面を粉砕しながらダッシュ。一気に間合いを詰めてトップスピードになったところで更にアシストを得るために『ソロウラメンテーション』を使い、初動の突進で加速を得る。


「ぐぅ……!」


 強烈な横薙を繰り出し、アーネストがそれを受け止めるが小さな満月のバフもあるため力で押し切って、追撃で追いかけながら袈裟懸けに斬り下ろす。

 斬り下ろしを『デイブレイク』で迎撃されて上に弾き上げられ、既定の動作から大きくずれたとして体が僅かに硬直。どう頑張って体を動かしてもすぐに『ヴォーパルブラスト』の構えを取ったアーネストからは逃れられない。

 ならば体を動かさなければいいとそのまま倒れながら『シャドウダイブ』で影の中に落ちて、影の上を通過していったアーネストを傍観する。


 雷鳴のような音を鳴らしながら一瞬で彼の前に移動してきた美琴が、袈裟懸けに真打を振り下ろして攻撃する。

 それを掲げたアロンダイトで防ぐが、その防御を突き抜けて彼の体に傷が刻まれる。直撃していたら真っ二つだっただろうなと分析しつつ、二人まとめて切り伏せられるように後ろから飛び出て防御を40%無視する『ソウルディバイダー』の構えを取る。


「うわぉ!?」


 地面に足を付けてから戦技の初動が検知される位置まで大鎌を持っていこうとして、飛んで来た炎の槍をギリギリで躱す。

 地面に着弾して爆発した際の熱と衝撃でいくらかダメージを受けるが、誤差の範囲だ。

 どこから撃ってきたと視線を廻らせると、アーネストが美琴をヨミに向かって押し飛ばしたようで、いきなり飛んできた美琴に反応できずに仲良く地面に倒れる。

 どれだけぼろぼろになっていても、ほんのりと甘くていい匂いが残っているが、主にアドレナリンドバドバでそんなものを意識している余裕などなかった。


月夜の繚歌ムーンフェイズ繊月クレセント!」


 上に乗っかってしまった美琴を押し退けようとしていると、銀髪の魔術師の少女が月魔術を使ってきた。

 星月の耳飾りで月下美人状態になった時の五分間のみ月魔術が使えるので、繊月がどういう内容のものなのか知っている。

 喰らったらまずいと影の中に潜ろうとするが、突然起き上がった美琴がヨミの胸ぐらをつかんで影に沈んでいた体を引っ張り上げて、そのまま迫り来る三日月に放り投げられてしまう。


「ちょ……!?」


 反射的に美琴に手を伸ばすが届かず、飛んできた三日月に体を強かに殴られてすさまじいノックバックを受けて吹っ飛ぶ。

 五分間だけ使えるため繊月の特性を知っているとはいえ、ああやって身動きの取れない中空に放り投げられたらどうしようもない。

 ノックバック怯みはすぐに解除されて自由になったが、右手一本で持っている真打を上段に構えて冗談な喰らい雷を放出しているのを見て、顔を真っ青にする。


 大急ぎでブリッツグライフェンを盾の形に変形させて体に密着させ、そうすることでできた影の中に潜り込むことで回避を試みる。


「雷霆万鈞!」


 影の中に潜り始めると同時に刀が振り下ろされ、地面に裂傷を刻みながら特大の雷の斬撃が放たれてきた。

 体はどうにか影の中に入ったが、盾を掴んでいた左腕を引っ込めるのが遅れてしまい落されてしまう。

 ズキズキと痛むが、血濡れの殺人姫中は再生能力も向上しているので、影に潜っている間に再生する。


 美琴の背後の影から飛び出ると、後ろに来ることは分かっていると瞬時に振り返りながら首に刀を振るってきたので、至近距離で『ジェットファランクス』を使い牽制する。

 漆黒の槍衾に攻撃を防がれて苦い顔をした美琴が離れ、先に作ったジェットブラックの槍の軍勢を飛ばしてから、追加で『ブラックムーン』を作り銀色の明りを落とす満月と、強い重力を発生させる黒の満月が一つのフィールドに誕生する。


「うっ……!? この程度の重力で、止められると思わないで……!」

「この程度で止められるなんて思ってないさ!」


 ほしかったのは、背中にあるパーツを使って離れた場所にあるブリッツグライフェンを呼び寄せて変形させる時間だ。


「これ以上厄介なものを、君の下にやるわけにはいかないね」


 しかし飛んできている途中の盾形態のブリッツグライフェンがアーネストの一撃で弾き飛ばされ、最悪なことに引き寄せ可能範囲から出てしまう。

 チッ、と舌打ちしながら夜空の星剣を右手で鞘から抜きながら、左手で素早くウィンドウ操作して暁の煌剣を取り出す。


 残り時間は二十秒もない。アーネストも美琴もそれは同じだろう。それまでにここにいる全員を、どうにかして倒さなければいけない。

 ヨミにとって今一番面倒なのは、特大火力を連射してくる剣聖と雷神ではなく、強力な炎属性魔術を針穴に糸を通すような精密さで撃ってくるトーチと、その魔術にバフをかけられるルナだ。

 あの幼い魔術師二人のところに向かおうにも、当然美琴がそれを妨害してくるし、背中を向けた瞬間アーネストが容赦なく攻撃してくるのは道理だ。


 美琴は切れ味の高い一刀で必殺を、アーネストは高い火力で殲滅を、ヨミは的確な攻撃でクリティカルを狙う。

 どれが一番怖いかと言えばもちろんアーネストの大火力だが、どれが一番厄介化と言えば奇襲性能が高いヨミのクリティカルだろう。

 派手な攻撃を目くらましに潜り込んできて、首を刎ね飛ばして即死させる。それを最強相手にもできるのは何度も見せているので、速度の高いヨミをアーネストは先に潰しておきたいだろう。


 複数対一の時は、常に一対一の状況を作る。遮蔽物があればそれを盾にすることもできたが、先のアーネストとヨミの激戦で遮蔽物になりそうなのは壊れているし、そもそも雷神と剣聖が揃って間合いを無視した破壊攻撃が可能なので、遮蔽物の意味がない。

 トーチとルナがあまり魔術を撃ってこないのは、ヨミが常に自分の射線上に美琴がいるように立ち回っているからなので、下手に高い火力の魔術を撃ったら美琴に当たる可能性がある。

 攻撃できない。この状況が続いている今のうちに美琴を削り切り、自分に向いた魔術攻撃をアーネストに向けてやらなければいけない。


「トーチちゃん! やって!」

「……ッ。灰は灰にATA塵は塵にDTD!」

月夜の繚歌ムーンフェイズ月魄の王冠クラウン・オヴ・セレネ!」


 トーチが魔術を起動し、それに合わせてルナが月魔術のバフをトーチにかける。

 トーチの頭に王冠のようなものが現れて、直後に超広範囲の炎の濁流が放たれる。

 炎はヨミの弱点属性。喰らったら即死するだろう。

 残り時間は少ないので影に潜ってやり過ごしつつアーネストの排除に向かおうとするが、美琴が足止めしてくる。


「ここでヨミちゃんを仕留める!」

「残り時間少ないのにぃ!」


 あと十秒程度なので本格的に焦り始める。

 どうするべきかと思っていると、アーネストが特大の光の奔流を空に伸ばし振り下ろした来たのが見えたので、好都合だと影魔術『シャドウソーン』で縛り上げてからと血壊魔術『ブラッドドレインスキューア』で足をメインに串刺しにしてその場に縫い留める。

 この高速コンボが奇跡的に通ったのでこのまま仕留めたかったが、破滅の光が迫っていたので諦めて影に潜って回避。美琴が後ろから湖光の聖剣の斬撃に飲まれ、そのまま真っすぐ進んでいった特大の光の奔流が炎を割り、その先にいるトーチとルナを巻き込んだ。


 残りのギルド数が2になり、銀月の王座とグローリア・ブレイズの二つだけになったのを示す。

 残りは十秒もない。この十秒に全てを賭ける。


「『イクリプスデスサイズ』!」


 両手に持っていた剣を投げ捨てて、インベントリから斬赫爪を取り出して、暗影魔術100で取得する最終魔術を発動。

 悍ましいほど赫い大鎌が影に飲まれ、巨大化して禍々しく変貌する。影が大鎌をまとっていく二秒足らずの間にインベントリを操作して、腰に一つ別の装備を付けておく。


「ははは! そんな隠し玉まであったのか! あいにく私は、これしか持ち合わせていないよ!」


 大上段に構えたアロンダイトから、再び光の柱が立ち上る。彼にも時間は残されていない。この一撃で全ての決着がつく。

 タイミングを見計らって、なんてことをやっている暇などないので最速で最短距離を駆け抜ける。


 残り五秒。


 アロンダイトが振り下ろされて、特大の光の奔流の斬撃が襲い掛かる。その攻撃に合わせて影の大鎌を正面に向けて、モーセの伝説の如く光の奔流が左右に分かれていく。

 だがやはりヨミ特効の何かが付いているようで、触れずともスリップダメージが入ってくる。ゴリゴリと削れて行きあっという間にレッドゾーンまで削れてしまうが、暗影魔術最後の大魔術は竜殺しの一撃を耐え抜いた。


 残り四秒。


「なんだと!?」


 最大火力で撃ったのだろうが、それを受けきられてしまったのが予想外だったようで反応が僅かに遅れる。

 貴重な一瞬の隙を逃さずに地面を踏み砕きながら急接近し、巨大な影の大鎌を全身の発条を使って振るう。


 残り三秒。


 ゴガァンッ! という音を立てて受け止められてしまうが、大魔術を立てや防御系魔術なしで、剣一つで受けきれるはずもなく大ダメージを受けて、彼のHPがヨミと同じくレッドゾーンまで減る。


 残り二秒。


 『イクリプスデスサイズ』はたった一度きりの攻撃しかできない代わりに、防御力をかなり無視した一撃を叩き込む。先ほどアロンダイトの一撃は振るうのではなく、射線上に置いただけなので攻撃判定にはならずとどまっていた。

 アーネストに叩き込んだため影の大鎌が消え、元の斬赫爪の姿が見える。より深く踏み込んで自分の間合いに入り込み、アーネストが『ヴァーチカルフォール』、ヨミが『ソウルディバイダー』を発動して武器が衝突。

 ヨミの手から斬赫爪がすっぽ抜け、アーネストのアロンダイトが上に弾き上げられる。


 残り一秒。


 両者ともに戦技直後の硬直が入ってしまう。残り僅かな時間しかなく焦りが生まれるが、一足先に復活したのはヨミだった。

 素早く左手を腰に回してあらかじめそこに装備しておいた武器の柄を握り、引き抜く。

 逆手に持ったそれを、顔の右側に持って行って構え、エフェクトを発生させる。

 遅れて復活したアーネストが弾かれた体勢のままアロンダイトにエフェクトをまとわせる。輝きが違うので、『ノヴァストライク』だ。


 そして、ゼロ。


 時間切れになり、全てのステータスが再び1になる。

 着ている装備が重く感じ鈍重になるが、システムによって無理やり動かされた体はその程度で止まらず、ナイフ初期戦技『サイドスラッシュ』が放たれる。

 この戦技の特徴は、ナイフという超近距離武器であるため、必ず相手のかなり密着するレベルまで接近することだ。

 体を捻るようにしながら打ち出された、装備条件が一切なくたとえ全てのステータスが0であっても装備できる初心者用装備『鉄のナイフ』は、守られていない剥き出しの首に吸い込まれて行き……、


「……私の、負けだ」

「あぁ、ボクの勝ちだ。だから、最強の座はボクが貰う」


 鉄のナイフは、アーネストの首に突き立てられていた。

 根元までしっかりと突き立てられ、誰がどう見ても紛うことなきクリティカル。レッドゾーンに入っていたアーネストのHPを『CRITICAL』の表示と共に消滅させる。


「クソ……、今度こそ、対抗戦を優勝できると思ったんだがな……」


 悔しそうな顔をしたアーネストは、それだけを言い残してポリゴンになって消えた。


「ご愁傷様。優勝はボクら銀月の王座が頂くよ」


 消えていくポリゴンを見ながら、ヨミはぽつりと呟く。


『BATTLE FINISH』

『CHAMPION:銀月の王座』

『ANNOUNCEMENT:ギルド銀月の王座が称号【頂に至った強者】を獲得しました』

『第二回Fantasia Destiny Onlineギルド対抗戦決勝戦が終了しました。三十秒後に開始地点の中央広場に転送いたします。お疲れさまでした』


 次々と現れたウィンドウと、優勝を告げているかのような盛大な鐘の音が、年に一度行われるビッグイベントギルド対抗戦の勝者を祝福するように鳴り響いた。


「……勝った」


 減っていっているカウントダウンとずっと眼前に浮かぶウィンドウに書かれた『CHAMPION』の文字。それを見つめながらぽつりと零すと、それを皮切りにじわじわと胸の奥から熱いものがこみあげてくる。


「勝った……勝った……!」


 少しずつ声のトーンが上がっていき、じわりと目尻に涙が浮かんでくる。


「~~~~~~!! 勝ったああああああああああああああああああ!!」


 なんて素晴らしい達成感なのだろうか。あまりの嬉しさにヨミは全身で喜びを大爆発させる。

 激戦も激戦、しかも最後は美琴とトーチ、ルナの乱入で混戦となっていたので非常に疲れた。

 全てが終わり気が抜けたからふっと力が抜けて尻もちをついてしまい、そのまま大の字に地面に寝転がる。


「はぁー、疲れたー……。今日はもう何もしたくないやー……」


 疲労困憊。ログアウトしたらそのまま眠ってしまいたいくらいだ。

 恐らくまだ一仕事残っているのでリアルに戻るのはもう少し先の話だろうが、とにかくもう休みたい。

 そんなことを考えながら刻々と近付く転送開始のカウントダウンを、ぼんやりと見つめていた。


===


1.銀月の王座:75p

2.夢想浄雷:42p

3.剣の乙女:22p

4.グローリア・ブレイズ:16p

5.AVALON:0p

6.ヴァイスレベリオ:0p

7.ヘルシング:0p


ノエルちゃんは結局、フレイヤちゃんの魔導兵装で受けた攻撃の火傷のスリップダメージで倒されちゃいました。

そしてここまでギルド対抗戦編を読んでいただきありがとうございます! 対人戦書くのくそむずくてめちゃ苦労した……。あともうちょっとだけ対抗戦編は続くんじゃ。

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