剣聖 vs 魔王 3
片手剣のエネルギー消費の強化と、腰と足のスラスターのエネルギー噴射で常に多量のエネルギーを消費しているのだが、ヨミとアーネストの一撃がとてつもなく重く、すさまじい衝撃を毎回発生させるため減るよりも蓄積する方が早い。
右の剣で袈裟懸けに斬りかかるとアーネストも袈裟懸けに斬りかかってきて、切り払いながら斬り付けてくる。
左の剣を間に差し込んで防ぎ、ちょっとだけ左足のスラスターを変形させて蹴りに合わせて噴射。腰を狙ったが上に飛んで回避され、急旋回して落下速度に翼を羽ばたかせることで加速を足して、強烈な一撃をお見舞いされる。
蹴りを空ぶって若干姿勢を崩していたので回避ができずに受け止めてしまい、弾き飛ばされるでもなく一緒に地面に向かって墜落していく。
「お前だけ自爆でもしてろ! 『シャドウダイブ』!」
だがヨミには、自分だけが影の中に潜って落下ダメージを無効化できる移動用影魔術の『シャドウダイブ』がある。
それを使って影の中に落ちることで落下ダメージをなくし、アーネストだけ地面にぶつけてやろうと思っていたのだが、影の中から見えた彼はヨミがこうすることを分かっていたのか、美琴とフレイヤと離れる時に使っていた転移魔術で落下を回避していた。
自分もこうやって影に潜っているので人のことは言えないが、転移魔術とは何ともズルいなと思う。奇襲性も素晴らしいし覚えたいが、普段使いしている
「いつの間に転移魔術の呪文を唱えたの?」
「何、『
「その略式展開便利だよね。性能落ちるしMP消費えぐいけど、呪文なしで瞬時に使えるんだから」
「それを言うなら、君のその影潜りも中々便利そうじゃないか。今のところ、君使う影魔術の内容は君だけもユニーク性能だと言われているみたいだしね」
ざぶっと影から追い出されるように地上に出ると、ふわりと地面に着陸したアーネストがすぐに剣を構えたので、ヨミも動きにくいので足のスラスターをキャストオフして背中に集めておく。
すぐに合図もなく同時に動いて、両手で構えたアーネストが『ヴォーパルブラスト』、ヨミが『サベージイレイザー』の構えを取ってそれで攻撃してくる、と見せかけて全てのパーツを使って片刃の特大剣に変形させて両手剣突進戦技『アバランシュバースト』を起動。
その直前に両手剣のギミックとして峰のところについている噴出口からエネルギーを放出することで、ヨミの力とシステムのアシストに加えて、強烈な加速が付け加えられる。
ゴゥ! という音を立てて振り下ろされた特大剣形態のブリッツグライフェンはアーネストのアロンダイトと衝突し、弾かれることなく地面にたたきつけて減り込ませる。
一緒に特大剣も減り込んだが、柄部分と刃の一部を分離させて右脚だけにブーツとしてまとい、エネルギーを消費して脚力を強化する。
「ッ───」
咄嗟に左手をアロンダイトから離して、みぞおちに向かって放たれたヨミの蹴りを両手で掴んで防ごううとされたが、一定以上の威力で蹴られた際に発生する衝撃波と、脚力のみに限定しているためその一瞬だけ恐らく数値で出したら400近く出ていそうな筋力になっているので、受け止めきれずに蹴り飛ばされる。
パァンッ、と何かが破裂するような音が鳴って蹴り飛ばされたアーネストは、進んだ先にある建物の壁をぶち抜き、それでも止まらずに反対側から飛び出て、更に他の建物もぶち抜いていく。
以前リオンにやった時も過剰な威力だと思ったが、あの時使っていなかった月下血鬼を使っているので、もしかしなくてもあの時よりも酷いかもしれない。
「できれば今ので大ダメージを受けててくれたらいいんだけど」
きっちり防御されていたし、大ダメージとまでは行かないだろう。
それでもちょっとくらいは期待してもいいだろうと、ぶち抜かれて行った建物の中を通らず屋根を伝って走っていくと、アーネストがいるであろう場所から剣の形をした白い光の柱が伸び、それが振り下ろされて破滅の光の本流が襲い掛かってくる。
「この試合限りの限定マップだからってめちゃくちゃだなオイ!?」
瞬時にもう一度ブリッツグライフェンを特大剣に切り替えて、エネルギーを全開放する。
『ウェポンアウェイク・
アーネストのアロンダイトのように大剣から雷が剣の形となって登り、地面にたたきつけるように振り下ろす。
雷鳴のような轟音と共に地面を破壊しながら迫り来るアロンダイトの光の斬撃と衝突し、少し拮抗してヨミの大剣撃が押し込まれたところで爆発して相殺される。
今のがどれくらいの威力で放たれたのかは分からないが、もしあれが本気ではなかったら、グランドウェポンの一撃でも押し返せないということになる。
武器のレアリティで言えばこちらの方が上だろうに、とちょっと不機嫌になるが、考えてみればあんな見るからに聖属性をバチクソ強化しますよー、あるいは聖属性を思いっきり上乗せしますよー、みたいな見た目をしているんだし本来の性能よりも上がっていると思ってもいいかもしれない。
すっかりエネルギー切れとなりエネルギー消費の技も使えなくなったので、ただデカすぎて重いだけの塊に成り下がった特大剣形態から、片手剣形態に変形させる。
どこから来ると油断なく構えていると、もうもうと上がっている煙の中から四枚の翼を大きく広げたアーネストが、小細工なしで真っ向から羽ばたいてきた。
そういう小細工を仕掛けてこないのは大好物だと笑みを浮かべ、地面を砕きながら走っていく。
左の剣で『ヴォーパルブラスト』を使って一気に加速し、顔面を狙う。
何かの戦技で弾かれると思ったが、目の前から魔法陣を残して消えてすぐに転移の略式展開だと見抜き、硬直が入る前に気合で後ろを向いてから一瞬ぎしりと体が固まるが、それまでに気合で右の剣を初動まで持って行けたので『ヴァーチカルフォール』が発動する。
下からの振り上げとぶつかりお互いの武器が弾かれ、アーネストは弾かれた勢いを使って『デイブレイク』の初動へ、ヨミは左の剣を『ヴァーチカルフォール』発動中に『ノヴァストライク』の初動に持っていき、同時に剣が繰り出されて再び弾かれる。
戦技同士の打ち合いになると予感したヨミは、すぐに両手の片手剣を合わせて背中の接続パーツを引っ張り、大鎌に変形。そのまま構えを揃え、袈裟斬り、水平斬り、逆袈裟斬りの三連攻撃の大鎌戦技『ジャッジメントマーター』を起動。
アーネストはそれを『サベージイレイザー』、『デイブレイク』、『ノヴァストライク』の三つの戦技を連続して発動させてくると言う離れ業で対処してきた。
ヨミの三連撃を防がれた後、六連撃片手剣戦技『スターバーストメテオライト』の構えを取ったアーネストが、それはそれはとても楽しそうな歯をむき出しにした笑みを浮かべながら剣を放ってくる。
その笑顔はまるで、「私がやったのだからお前もやれ」と言われているような気がしたので、だったらその期待に応えてやろうと突進が始まりの大鎌戦技『ソロウラメンテーション』を始めに、全部で六つの戦技を連結して弾く。
「ははは! まさか本当にやるなんてね!」
「お前がやれって顔をしてたからな! だったらそのクソ生意気な顔を驚きに変えるために、気合と根性でどうにでもしてやるさ!」
壮絶な戦技の打ち合いが行われる。
二人の武器には常にエフェクトがまとわりつき、爆撃音と表現できるほどの武器の衝突音を響き渡らせる。
アーネストはアロンダイトという一つの武器のみで、ヨミは硬直が入るまでのほんの一瞬の間にブリッツグライフェンを変形させ、変形途中には既に武器が変わっている判定になっているのを利用し、変わり切っていないうちに戦技をエフェクトをまとわせる。
ただの武器同士の衝突。その余波で地面に亀裂が次々と発生し、鋭い斬撃の応酬があったと証明するように、斬撃痕が刻まれて行く。
踏み込みだけで地面を砕き、戦技を二分近くも途切れさせることなく連射し続ける。
合間にアーネストが超至近距離で固有戦技を使って来ようとしたので、ブーツ形態に切り替えて強く地面を蹴って急接近し、二分足らずの応酬で満タンになったエネルギーを全部使った『
「次々と武器を変えて、それでも戦技を途切れさせずに使ってこれるなんて、素晴らしいじゃないか! 戦い初めの時に、使い慣れている片手剣とナイフでしかできないとか抜かしていたが、それは嘘だったのか!?」
「嘘じゃなかったさ! 気合と根性で無理やりつなげてんだよ! こんなでもプレイヤーからは魔王なんて呼ばれているからね! だったら魔王らしく、その場で即興で対応できなきゃだろ!」
ブーツ形態のフルパワー脚撃の、地面が捲れ上がるほどの衝撃を食らっても何故かぴんぴんしているアーネストが、またもや小細工なしで真っ向から剣戟勝負を挑んでくる。
もちろん戦技のエフェクトをたたえているので、ヨミもブーツ形態のまま一度右足で思い切り地面を蹴り付けて少しだけエネルギーを生み出してから、両足にエフェクトを発生させて、ほんのちょっとのエネルギーを使って脚力強化し踏み込む。
アーネストが『デッドリープレデター』で五連撃を繰り出してきたので、二連蹴り体術戦技『菊花』を二回使い、最後の突きを単発重攻撃の蹴り技の『柳星』で止める。
ギリギリと押し合いをした後で弾かれるように離れ、再びブーツをキャストオフしながら背中のパーツを右手に集め、長引かせるのはよくないため、勝手につけられている魔王の名に相応しい武器である大鎌に変える。
「一体いくつの武器に変形するんだろうな!? できれば全て見てみたいものだ!」
「残念ながら、そんなに時間はないんだ! あんたと戦うのは楽しいけど、これ以上長引かせるのはよくないからね! だから……本気の本気だ! お前も食らいついて来いよ!」
それだけでアーネストは、ヨミが何をするのかを察して、戦いが始まってから一番うれしそうな笑顔を浮かべる。
「『ブラッドレッドレイク』、『スカーレットアーマメント』、『ブラッドメタルクラッド』……すぅ、悲鳴が奏でる協奏曲。飾り付けるのは真紅の鮮血。白いドレスを赤く染め、
どろりと、全身に血でも被ったように真っ赤に変色し、赤黒い血色のドレスをまとったヨミ。
髪も、服も、琥珀色だったはずの大鎌さえも、地面も、全てが真っ赤な血色に染め上げられ、大量の血の武器を背後に従えた血の魔王が降臨する。
「あなたは常に私と共に、ゆえに私は恐れることはなく。あなたが私の主であり、ゆえに私はたじろぐことはなく。あなたとともにいるがために下がることなく進み続け、あなたに与えられたこの力をもって私は全ての悪を討ち滅ぼす!」
ドウッ! と光の奔流が彼の体から立ち上る。見た目にこれといった変化はないが、恐らくはバフ系の詠唱だったのだろう。
まとっている装備に持っている武器。全てが白銀や白色で、全身赤黒いヨミとは正反対。その姿はまさに、暴虐の限りを尽くす魔王に挑む勇者そのものだ。
先に血魔術と血壊魔術を使ったので、この一回目はフルタイムで使うことはできない。だが、ストックはまだ一つ残っている。
できるなら二分間ずっとこの状態でありたかったが、贅沢は言うまい。
「さあ、行くぞ剣聖。お前のその首、刈り取ってやる!」
「あぁ、来いよ魔王。お前の心臓を、この聖剣で潰す!」
このやり取りが最終戦の合図となり、一瞬のうちに間合いまで踏み込んだ二人の戦技でもないただの一撃が、更に地面を捲りクレーターのようにして周りの建物が崩壊した。
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