剣聖 vs 魔王 2

「ほらほらどうした!? 明らかに動き悪くなってるよ!?」

「君が仕込んでおいてよく言うよ!」


 最強の剣士系プレイヤーの称号でもある剣聖相手に、精神的自滅をしながら防戦一方に持ち込む。

 高い筋力と優れた剣技が合わさった高いDPSが厄介だったが、あまりヨミに派手な回避行動や攻撃をさせないように意識してしまっているため、消極的になって来た。

 一方で、ヨミは自分から見えそうになる動きをしつつ攻撃を仕掛ける側なので、ちょっと動きにくさはあるがほとんどパフォーマンスを落としていない。


 あと戦っていてわかったのだが、星月の耳飾りの効果である月下美人状態は、最初に発動させるには月明りの下で舞を披露する必要があるが、発動してからは消耗は止められないが戦いの中に舞を混ぜることでゲージの消耗を遅くすることができる。

 すでに五分以上経っているのに未だに効果が続いているので、舞の基準は緩いらしい。全く意識せずにただ片手剣二刀流でアーネストと暴れ回っていただけなので、恐らく剣舞という括りで認識されたのかもしれない。


 予想外の効果延長はシンプルに嬉しい。それもあと一分もしないうちに切れてしまうだろうが、ずっと満月の下で戦っているので月下美人が切れてももうじき『月下血鬼ブラッドナイト』が使えるようになる。

 こちらは消耗は抑えられないし、ゲージ消費して使う月光戦技を使うと効果時間が短くなるので、月下美人がなくなったらすぐに使うわけにはいかない。


 少し大胆にやや高く足を上げて踏み込み、影の大鎌を振るう。アロンダイトで柄を殴られて防がれて姿勢を崩しかけ、彼の視線が若干泳ぐのを見て、本当にこいつこの顔で女性経験ないのかと妙な親近感がわきそうになった。

 でもヨミは、肉体関係ではないがノエルとは一緒にお風呂入ったり、(主に抱き枕にされるが)添い寝したり、最近は(首を)舐めたり(首を)噛んだりする仲だ。漢ではないが、少なくとも目の前の気に食わないイケメンよりは女の子のことを知っている。


 あえて後ろに倒れることで影に潜り追撃を逃れ、影から飛び出てすぐに低い姿勢で接近する。


「『シャドウプロティアン』!」


 大鎌を振るって攻撃を仕掛ける、と見せかけて直前で影武器の形を変えるだけの影魔術を使い、大鎌を弾いて防ごうと振るったアロンダイトを空ぶらせる。

 切り替えた武器はナイフ二本だ。右手に逆手に持って構えたナイフを顔の横に持ってきており、エフェクトを発生させる。


「『サイドスラッシュ』!」


 胸は銀のブレストプレートで守られているので、腹を狙ってナイフを振るう。

 ギリギリで当たらない程度に間合いから外れて空振りするが、左手に持つナイフで投擲戦技を発動させて投げる。

 数メートルも離れていない距離からの素早い投擲に反応しきれなかったアーネストの腹部に、影のナイフが突き刺さる。


「い゛……づぁ!?」


 ナイフが腹に刺さってぐらりと体が傾ぐ。これはチャンスだと防御30%無視の『アーマーピアッサー』で胸を狙って攻撃するが、ぐっと歯を食いしばったアーネストが倒れるのを堪え、突き出したヨミの右手を切り落として防ぐ。


「い゛っだ!?」


 右手を落とされてびくりと体を震わせ、本能的に逃れようと後ろに下がる。

 落とされたのは手首から上だけなので、育っている自己再生スキルと満月で効果が上がっている月夜の死なずの君ノーライフキングで一分もしないで再生していく。

 ここにきて一度仕切り直しかと、短く息を吐く。近くに転がっている盾形態のブリッツグライフェンを、背中に残っているパーツを引き寄せるためのパーツのギミックと使い、飛んできたブリッツグライフェンを掴んで片手剣二本に変形させる。


「本当、あの手この手でとにかく私を倒そうとしてくるな」

「そりゃもちろん勝ちに来てるからね。……そのためには色仕掛けだって辞さないよ?」

「それが君の精神に多大なダメージを与えているようだし、止したほうがいいと思うよ。それはそれとして、そっちの準備は整ったかい?」

「……にゃろ、やっぱ気付いてたな?」

「君のアンボルト戦のアーカイブは見させてもらったからね。名前は知らないが、月明りを浴び続けることでバフを得る固有スキルを持っていることくらい把握済みさ」


 そりゃあれだけ話題になれば見てるよなと肩をすくめる。

 本人が所望しているので、この仕切り直しからもう一度戦いが始まる時に月夜ムーンナイト状態に移行することにする。


「実は、私も準備がやっと整ったところなんだ。ここからは、お互いの全力の全力でやり合おう」

「……ボクが言えたことじゃないけどさ、奥の手何個持ってんのさ。知ってる限りじゃ二つはあるよね」

「さあ? いくつあるだろうね。少なくとも二つや三っつじゃない、とだけ」


 それだけ言うと、さっきまでヨミのパンツが見えそうだからと顔を赤くし狼狽えていたのが嘘のように、アーネストの雰囲気が激変する。

 これは反応が遅れたら即死しそうだなといつでも月夜状態に移行できるようにしておき、構える。


第三典開ドリットレーゼン───『神聖騎士ハイリヒリッター』」


 それを宣言したアーネストがまばゆい光に包まれて、変貌していく。

 短く整えられていた金髪が長く伸びていき、頭の上に白銀の輪が現れ、背中から巨大な純白の翼が二対生えてくる。

 彼の体を包んでいた光そのものが物質化していって鎧となっていき、その容貌はまさに聖騎士といった感じだ。


 アーネストの本気形態。ウォータイス戦でも終盤で必ず使っており、この状態のアーネストは人間兵器と言ってもいいレベルで高火力技を連発してくる。

 使うまでに時間がかかっているし、とんでもない火力を出してくるので間違いなく時間制限付きだが、ウォータイス戦では神聖騎士形態が切れる前に倒されているので、正確な時間は分かっていない。

 ヨミの『血濡れの殺人姫』が一分、現在対抗戦中なのでストック消費することで弱体化を解除して再使用できるので最大二分使えるが、見た限り三分は維持されていたので、時間制限付き系は例外なく最大五分までだからそれくらいだろうと仮定しておく。


 ヨミも月夜状態に移行し、強力なバフを得る。まだ月下美人がほんの数十秒重複するので、この重複している間にどれだけアーネストの攻撃を見切れるかが鍵になる。

 五秒ほど無言の時間が続き、どちらからでもなく同時に地面を踏み砕きながら突進する。

 夜を生き月を味方にした血の魔王と、強い神聖を宿した最強の剣聖が、己の武器を衝突させて第三ラウンドの開始を告げる鐘の音を響かせる。


 先ほどとは比べ物にならない力に押し込まれそうになり、力比べに付き合ってられないと力を抜いてつんのめらせて、顔面に膝蹴りを叩き込もうとする。


「ひゃあ!?」


 それをアーネストは、背中の翼を強く羽ばたかせて強風を起こしながら上に飛ぶことで回避。


「その翼ちゃんと飛べるのかよ!?」

「見掛け倒しってわけじゃないからな! むしろ吸血鬼なのに翼を出せない君の方に驚きなんだが?」

「吸血鬼がみんな翼出せると思うな! だから代わりにこっちをお披露目だ!」


 背中のパーツを腰と足に付けて変形させて、蓄積してあるエネルギーを噴出するスラスターと空中制御デバイスにする。

 ボウッ! と音を立てて飛び、エネルギーを減らしながらアーネストと同じように空中に滞空する。そう長くは持たないが、ブリッツグライフェンのエネルギー蓄積は核となっている魔法石が周囲の魔力を吸い取って貯める以外に、衝撃を受けることでもエネルギーを溜められる。

 この戦闘狂剣聖の一撃はものすごく重いので、ちゃんと刃を交えてさえいればエネルギーが切れるなんてこともないだろう。


「君、その内それを全身にまとってアイ〇ンマンみたいになるんじゃない?」

「アンボルトの素材まだ全部剥ぎ取り切れていないから、多分できるかも」

「……まるで、何度も挑んでも竜王を倒せない私に対する当てつけのようにも見えるな」

「あっれぇー? FDO最強の剣聖様はまだ竜王倒せてないんですかぁー?」

「それ、下手したら方々に敵を作るからやめなさい」

「うい」


 割とガチ目なトーン、かつ虚ろな目で言われたので大人しくやめる。

 すぐに気持ちを切り替えて、スラスターを吹かせてアーネストに向かって飛翔する。彼も翼を力強く羽ばたかせてこちらに向かって来て、アロンダイトを上段に構える。

 ドンッ! という音を立てて振り下ろされた剣を受け止めずにするりと受け流し、左の剣で首を狙う。

 右の下の方の翼で体の前方を覆うことで防がれ、その翼の後ろで構えられた剣で戦技が発動し、片手剣熟練度95の戦技『スターバーストメテオライト』が放たれる。


 流星のような速度の突きを紙一重で回避すると、そこからヨミを追うように振り返りながらの薙ぎ払い。体を横に傾けて回避したら今度は袈裟懸け、来た道を戻る逆袈裟、垂直の振り下ろし、再び突き、最後に左からの斬り下ろしが連続で繰り出される。


「おっも!」


 袈裟懸けと左の斬り下ろしは回避しきれずに受け止めたのだが、それを防いだ左腕がびりびりと痺れている。

 一体どれだけ筋力が上がっているんだと、ワクワクとしてしまう。


「本当、それ女の子がするような顔じゃないからね!」

「今更! さあ、もっと思い切りやり合おう!」


 スラスターを全開にして突進し、刃をぶつける。

 端正な顔には獰猛な笑みが浮かんでおり、そしてアーネストも同様の笑みを浮かべている。

 周りから見れば剣聖青年と魔王と呼ばれている少女の戦いだろうが、二人からすれば同じ戦闘狂同士の戦いだ。

 決着を着ける、というよりも相手がどれだけ強いのかが知りたい。その気持ちが強く前面に出つつも、その中に強い相手を倒したいと言う願望が混じっている。


 勝つのは自分だ、ときっと向こうも思っているだろう。だが勝ちは譲らないと二人とも目で訴えて、お互いの得物を鋭く強く振るってオレンジの火花を盛大に散らせる。


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