ギルド対抗戦 決勝 13

弾丸装填リロード……多重術式装填マルチキャスト強撃弾・三重ブースト トリプル!」


 シエルの熟練度では、まだ三重までしか同術式の同時展開ができない銃魔術、多重術式装填。

 同じ弾丸魔術を重ね掛けできて威力を倍々にできる優れモノだが、事前にセットしてその後は変更しないでおくのが定石だ。

 理由は、重ねる回数が増えればその分だけ時間がかかるからだ。バフ次第でかなりの速さで動ける剣士と戦っている時に、ちんたら重ね掛けが成功するまで待っていられないし、待っている間に倒されてしまう。

 それ故に賭けに出たのだが、ギリギリで間に合った。


 クイックショットは得意だ。ここまで強化してしまえば、どこに当たっても大ダメージ必至だ。

 引き金に指をかけ銃そのものにエフェクトを発生させて、装填された六発の弾丸をドパァァァンッ! という間延びした銃声を響かせてほぼ同時に速射する。

 弾丸魔術ではなく、銃戦技・・『クイックファイア』。リボルバー系の拳銃のみに限り、ほぼ同時に弾丸を全て撃つ速射系戦技だ。

 近距離ならいいが、ある程度離れると六発全てをほぼ同時に打つため反動がすさまじく、狙いは定まらずに明後日の方向に飛んでいく。

 シエルもシステムのアシストを受けてなお反動を御しきれず、ほぼ真上まで腕が跳ねあがり右手がびりびりと痺れて痛む。また、強烈すぎる反動で吹っ飛びそうになり、それを防ぐために木に付けていた背中がぐっと押し付けられる。

 だが、六発中二発がシーグの右脚と左肩に当たり、三重に強化された弾丸によって左肩と右脚が千切れる。


 イーグルは一時行動不能。シーグはアイテムや回復をされない限り行動不能。残る近接系はイリヤのみで、近接系での複数体一の常に一対一の状況を作るを達成する。


「ほぼ運でできたようなもんだから、あいつに自慢なんかできねえな! 術式起動ブート自動装填オートリロード!」


 術式装填とは違う術式の起動。耐久値が減りやすくなるが、一発撃つごとに自動で弾丸が装填されて行くため、数が多い敵に囲まれている時に使う。

 それを両方のリボルバーで起動させ、電磁加速弾と強撃弾をひたすら乱射しながらイリヤをシエルに近付かせなくする。

 しかもラッキーなことに、イリヤの背後にはダビデがおり、回避してしまえばそのまま彼の排除ができる。

 それに気付いているので直線状にならないように動こうとしているが、アオステルベンで三重に起動している強撃弾の威力がすさまじく、防ぐごとにノックバックして動きが一瞬抑えられ、その間に直線状になるようにシエルが動く。


「あんた、鬼畜鬼畜って言われてるけど本当に鬼畜なのね!?」

「よく言われるよ、不本意甚だしいけどな!」


 幾重にも銃声を重ねていき、イリヤをその場に縫い留める。

 常にダビデの視界に入ってしまわないようイリヤにしっかりと盾を構えてもらい、それでシエルはダビデから姿を隠し拘束魔術を使わせない。

 真のトップ魔術師は使い魔と視覚を共有して別アングルの視界を確保し、たとえこのような状況になっても問答無用でピンポイントで使ってくると言うが、そんなことできるプレイヤーはごく僅かだろう。


 ノエルは一人で剣の乙女のメンバーを倒した。ヘカテーはぼろぼろになりながらも、最強格の桜相手に一歩も引かずに攻めて、自分自身を犠牲にサクラをシエルとの連携で倒した。

 ヨミは一人でギルドを壊滅させ、この試合に限らずこのゲーム内で最強のプレイヤーと一騎打ちしている。

 シエルはヨミのライバルだ。メンバーみんなが頑張っている中、一人だけお膳立てしてもらってその上でキルしただけなのは嫌だ。


「『ウェポンアウェイク』───『雷轟殲弾エヒトラーク』!」


 だからここで全てを出し切る。

 アオステルベンをレッグホルスターにしまってから、グランドウェポンのボルテロイドの固有戦技を発動。全てのMPを一気に消費し、たった一発の弾丸として撃ち出す。

 両手でしっかりと構えて引き金を引き、ハンマーが起きて雷管を叩き、薬莢の中の火薬が炸裂。ボルテロイドの固有戦技が弾丸に干渉し、竜王の一部より作り出された武器であるのにふさわしい雷を内蔵し、銃口から飛び出る。

 その瞬間、知っているシエル以外のその場にいるグローリア・ブレイズのメンバーは、視界を白く塗りつぶされる。

 更に、特大の雷鳴のような大轟音が響き、銃口より飛び出た一発の弾丸は竜王の雷を放出しながらまっすぐイリヤの構えている盾に向かっていき、膨大な量のMPを全て消費し尽くしたたった一発限りの弾丸が、盾をやすやすと破壊してイリヤの体が消し飛び、そのまま射線上にいるダビデもそれに飲まれて消滅する。


 雷轟殲弾、エヒトラーク。その意味は、真なる雷。

 この名前にたがわぬ一撃が放たれて、からっけつになりながらも一番厄介なイリヤとダビデの排除に成功する。


「くっそ、マジかよ……! そんな奥の手を持ってやがったのか……!」

「はは! 切り札って言うのはここぞという時に使うからこそなんだよ! できればお前らのマスターに使いたかったがなあ!?」


 弾丸魔術は撃つたびにMPを消費するため、めちゃくちゃ上げておいたMP自然回復量増加のおかげで、みるみる回復していく。数分もしないうちに、満タンの状態からもう一発撃てるだろうが、恐らく許されないだろう。

 ダビデが消滅する直前にイーグルとシーグに強力な回復でもかけたようで、二人が五体満足でシエルの前に立つ。


 さて、これからどうしようかと割と後先考えずにMP全消費してしまい若干後悔していると、シーグのイーグルがシエルの後ろを見てさっと青くする。

 今ここで振り向いたら実は罠でした、なんてこともあり得るので振り向かずにいると、ボォオオオオオオオオオオオオ!! という咆哮のようで咆哮じゃない何かが聞こえたので、振り向かざるを得なくなった。


 そこにあったのは、両手に炎の十字架を持って、それをめちゃくちゃに地面に叩きつけながらこっちに向かって暴走機関車のように突っ込んできている、巨大な炎の巨人だった。

 魔術解析を行うと紛れもなく魔術で作られているもので、しかもリアルタイムで操作されているのが分かった。

 炎の巨人でものすごい速度で動く。これだけでトーチがやっているんだなと察し、どこまでもあの押さない魔術師は優秀だなと頬が引き攣る。


「でも好都合! そこの二人! 一緒にどっちがこの巨人に殴り殺されるかのチキンレースしようぜ!?」


 そう言って回復してきたMPを振り絞って『フィジカルエンハンス』をかけて、全力ダッシュで二人に向かって走る。


「ふ、ふざっ、ふざけんな!?」

「いやあああああああああああ!?」


 敵同士だと言うのに仲よく並んで走り回り、しかしただ並んで走るつもりもないのでお互いに邪魔し合う。


「お前が狙われてんだろお前が囮になれや!?」

「はあああああああん!? どう考えてもお前が狙われていると思いますけどお!? あの炎の巨人を引き寄せるベイトになったらどうですかねえ!?」

「絶対あんたが狙われてるから! お願いだから私たちのために焼き殺されてよお!?」

「だが断る!」

「なんでだよ!?」

「このプロゲーマーシエルが最も好きなことの一つは、自分が助かると思い込んでいる奴に『Hasta la vista地獄で会おうぜ』と言ってから巻き込んで自爆することだ……!」

「一番性質タチ悪いじゃねえかそれ!?」

「潔白なだけでプロゲーマーで飯なんか食えるかよ!」


 ギャースギャースと罵り合いながら、炎の巨人から逃げ回る三人。その間もお互いの妨害は忘れない。

 身体強化も全開でやっているのでそろそろMPがきつくなってきたので、ここいらでどっちかを蹴落としてしまおうと、一番面倒そうなイーグルを生贄にしようと企んだところで、後ろを追いかけてくる炎の巨人の熱が一瞬消えた後に、それ以上の熱を全身に感じながら体が突然宙に浮いた。


 一体何がどうなったのか、一瞬分からなかった。分かったのは、両隣を走っていた二人が全身を焼かれて即死してポリゴンとなって消滅したことと、魔術師であるため魔術耐性が高いおかげで即死はしなかったが、その一撃でHPがレッドゾーンに突入したことだ。

 地面にたたきつけられてよりHPが減り、火傷のバッドステータスでじりじりとスリップダメージを受けて死に向かう。


「こんなところで、死んでられっかよ……!」


 上手く動かせない腕を動かしてインベントリから回復ポーションを取り出し、HPを回復させる。だが全身を焼かれているためスリップダメージの方が多く、回復した側から減っていく。

 しかしその抵抗空しく、火傷によるスリップダメージでHPが全損し、体の端からポリゴンとなって霧散していく。


 シエルが最後に見たものは、燃えている森から紫電の特大の斬撃が斜め上に向かって伸びていくという光景だった。



===

次話からやっとヨミちゃんが出ます。書きたいこと優先して書いたらこんな長くなっちゃった……。


作者が勝手にやってる『勝手にQ&Aコーナー』


Q.トーチちゃんが使ってた炎の巨人って何?


A.トーチちゃんのお姉ちゃんのグレイスが魔法で使ってたものを、トーチちゃんにも使えるようにと魔術化した魔法由来の魔術『イノケンティウス』。魔術攻撃で魔術耐性が高い魔術師でも、こいつは魔術師特効の魔術なのでマジでちゃんと防御するか素の耐性が高くないと死ぬ。ちなみにシエルの耐性はかなり高いけど、それでも死ぬ。

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