ギルド対抗戦 決勝 11

 フレイヤと全力でやり合っている美琴が、自分の視界の邪魔にならないところにあるサクラのHPバーが、消滅したことを確認し、驚く。

 サクラの実力は誰よりも信用しているからこそ、まさか負けるなんて思いもしなかった。


『美琴さん! 離れた場所にいるスナイパーにサクラさんが……きゃあ!?』


 パーティーチャットで繋がっているトーチが慌てた声で報告し、短く悲鳴を上げてその後で呻き声を上げる。

 見るとHPが大きく減っており、一緒に行動しているルナが狙撃されたと報告してきた。

 銀月の王座の狙撃手は一人だけ。大きな大会とはいえ幼い女の子を狙撃するなんて、なんと酷い人なのだろうかと憤りを感じ、それをフレイヤにぶつける。


「あの、今確実に何か八つ当たり的な攻撃しませんでした!?」

「相手ギルドがうちのトーチちゃんに攻撃して、酷いなって」

「だからってそれを私にぶつけないでください! 少し驚きましたよ!」


 戦いのさなかでもこんな軽いやり取りをしているが、その間もすさまじい応酬が繰り広げられている。

 フレイヤのランスは彼女の背丈ほどの大きさがあるのに、重さを感じさせないほどの速度で突きが連続して繰り出されている。

 美琴はそれを陰打で全て弾いて捌き、フレイヤにカウンターを仕掛ける。だが彼女がまとった護国の王キングがオートでそれを防ぎ、フレイヤ自身は防御行動を取らずに攻撃に転じてくる。


 ゴゥ! という音を立てて放たれた突きを紙一重で回避して髪の毛をいくらか散らし、ランスの上を滑らせながら陰打で首を狙う。

 やはり護国の王に防がれるが、そんな防御など知らんと言わんばかりに刀に雷をまとわせて強烈な追撃を発生させ、強引に防御を突破する。

 その隙に後ろにバックステップで下がっていたフレイヤを追いかけて、連撃を繰り出し斬撃の檻に閉じ込めようとする。


殲撃の女王クイーン!」


 名前を口にすると、フレイヤの左側から染み出るようにして姿を現し、巨大なカーテナを鋭く振るって攻撃してくる。

 この大きさと威力では防いでもダメージが来るしノックバックしてしまうなと後ろに下がり、振り抜かれたところを狙って殲撃の女王に肉薄して下から上に振り抜く逆風で両断する。

 真っ二つにされた女王は溶けるように姿を消し、実体はあるのにまるで幽霊のようなこれは何なのだと、初めて見た時から疑問に思う。


 ちらりと背中に浮かんでいる五つの一つ巴紋を見る。

 美琴の固有スキル『諸願七雷』は、一鳴ひとつなりから最大の七鳴神しちなるかみまである、段階的な自己強化と雷の行使だ。

 一つなりでは雷を使って身体能力の強化と思考処理速度の上昇だけだが、今の五鳴いつつなりは雷の行使と、膨大な量の雷の蓄積が可能だ。

 蓄積しきれば五つの一つ巴が一つになって五つ金輪巴紋に変化するのだが、強力である反面蓄積しきるまでめちゃくちゃ時間がかかるし、自己強化を除いた雷の行使と蓄積を同時に使用することはできない。


 フレイヤは強い。手加減して勝てるような相手じゃないので、常に全開で雷を使っている。

 可能な限り合間に蓄積をしているが、ここまで戦ってやっと六割行った程度だ。

 魔族側の固有種族で、ピーキーだと言われているレア種族の中ではまだ比較的使いやすい性能をしているのだが、こういう場面では最高火力をすぐに出せないのは面倒だと感じる。


 五鳴を最大まで貯められれば、五鳴最大の火力技の『飛雷の太刀』が使えるのだが、前述の通りフレイヤ相手に加減なんてしていられないのでまだ使えない。

 ここは防戦気味になってもいいから、蓄積に雷を回して攻撃に使う雷の数は少し控えようかと悩むが、フレイヤは恐ろしく聡いので火力技を出す前に潰しに来るだろう。


 今彼女の持っているランスは、恐らくこの大会のために仕上げたものだろう。付き合いは結構あるが、今日まで見たことがない。少なくとも、あれが彼女の最高火力武器というわけではあるまい。

 フレイヤの最高火力武器はああいう突き特化のものではなく、斬ることもできるブレードランス型の魔導兵装だ。

 そのブレードランスには特徴があり、かなりの本数所持しているが全て星や星座に関する名前が付いており、それにちなんだ能力がある。なのである程度名前からの推測は可能だが、知ったところでどうしようもないレベルの火力をぶち込んでくるので、対処は使わせないことか使われても意地でも逃げ切る・防御するしかない。


「五鳴を使えないことが悔しいんですか!? いいですよ、最大火力を出すために蓄積に回しても!」

「そうしたいのは山々だけどっ、それやったらどうするつもり!?」

「もちろんその間に全力であなたを倒します! 物量戦に持ち込んででもやります!」

「フレイヤさんなら一人で機械の軍勢作るのなんてやってきそうだから怖いなあ!」


 やはり攻撃以外に回していられない。

 彼女の持つランスはシンプルに、フレイヤが魔術を使う際の発動媒体になり、その威力を大幅に跳ね上げる、そして攻撃の際に衝撃波を発生させることだ。

 森一つを一撃で消し炭にする、湖を一撃で干上がらせる、空を覆う雨雲を一撃で消し飛ばす、なんて訳の分からない性能の数々の兵装たちの中でも比較的シンプルだが、シンプルにしてあるからこそ複雑化せず威力上昇に回せているようだ。


 横薙に振るったランスが木々を薙ぎ倒す衝撃波を発生させ、美琴がそれを雷撃の斬撃で押し返す。

 衝撃を押し返した雷の斬撃を、フレイヤがランスを媒体に張った結界で防ぎ、その結界を内側からぶち壊しながら大量の特大の氷の槍の雨を降らせてくる。

 陰打に雷をまとわせながら身体強化と思考速度加速を行い、巨大な氷の槍の雨を一つ残らずに破壊する。


 その氷の雨の中を、大鎌を持ったメイドが氷の槍が飛んでくる以上の速度で走ってきて、大鎌で首を狩り落とそうとしてくる。

 どこかに隠れていたのか奇襲を受けてしまったが、反応できないほどじゃなかったので最後の一本の氷の槍を破壊してから、思考加速を解いて加速に重点を置いて袈裟掛けにリタに斬りかかる。

 物打ちでしっかりと肩口を捉えてバッサリと切るが、すぐに偽物かと軽く歯噛みしてフレイヤに向き直る。


 リタの持つ固有スキルは、基本何でもできる。それこそ、回数に制限こそあるが自分がキルされたことすらなかったことにできる超反則性能をしている。死をなかったことにできるのは、代償として回数を重ねるごとに弱体化してそれが解けるまでにかかる時間が伸びてしまうのだが。

 それ以外にも、自分以外の蘇生にも使えるし、回復、攻撃、回避、その他諸々に応用できる。今の偽物のリタも、彼女のスキルによって生み出されたものだ。

 そして、あり得ない速度で走ってくるのもまた彼女のスキルによって行われているものだ。


 鋭い薙ぎ払いを後ろに半歩下がって回避し、爆発のような音を立てて突っ込んで来たフレイヤの突きを矢斬りの要領で受け流し、左腕を突き出すことで正面に張られた盾で弾き飛ばされてから彼女の後ろから出て来た殲撃の女王の攻撃を、左手に集中させた雷を砲撃のように放って女王そのものを消し飛ばして防ぐ。

 体に穴をあけられてまた溶けるように消えたが、何事もなかったかのようにフレイヤの背後に幽鬼のように現れる。


「それさ、フレイヤさんがどっかに隠し持ってる核を壊さないと倒せないとか、ズルすぎない?」

「その気になったらこの戦いを、一瞬で終わらせることのできるあなたが何を言いますか」

「何回でも復活できるのがズルいって言ってるの!」


 地面を蹴ってフレイヤに肉薄し、唐竹に振り下ろした攻撃を左手の盾で防がれて、そこにリタが横から鋭い横蹴りを放ってくる。

 喰らわないように下がって、伸びきっている細くも肉付きのいい右足を斬り落とそうとするが、スキルを使われて掠めていくだけだった。


「フレイヤ様がズルいのは今更でしょう。自分本体がそこまで強くなくても、その魔術を使えてものに込められれば、それを何十倍にも引き上げられるという技術を持っているのですから」

「このゲームって基本自由度すごく高いけどさ、そこまで自由できるものなの?」

「できているってことは、できると言うことじゃないですか? 私はやりたいようにやっているだけですので何とも」

「それでそんなの作れちゃうのがズルいってのよ」


 フレイヤはこのゲームにおいての自分の特異性を自覚したほうがいい。

 トッププレイヤーとして名を馳せて、武器を使うと言う特性上本人もかなり上位に入るレベルで強いが、素の能力はトップには及ばない。

 それでも彼女がトップ層に名を連ねているのは、上位クラスの素の強さとそれを補強しまくる魔導兵装の存在が大きい。

 離れれば特大火力で一気に攻められ、近付いても自身を強化する魔導兵装を山盛りに担いで、ゴリ押しで押し返す。

 数の暴力で攻めても、これもまたトンデモ火力の魔導兵装で一網打尽だ。つくづくフレイヤ自身が異常に強い。


 彼女ばかりに構っているわけにはいかない。

 今この場には、何をトチ狂ったのかひたすら筋力の極振りしまくっている脳筋ちゃんがいるし、キモいくらい正確な狙撃してくる狙撃手もいるし、竜王の攻撃にも耐えられる防御力のあるタンクもいる。

 今はまだアーネストと戦っているようでここにはいないが、もしアーネストが負けた場合プレイヤースキルモンスターのヨミがやってくる。

 ちっちゃくて可愛いし抱きしめたいくらいだが、見た目に反して恐ろしく強い。今この状況であの吸血鬼に来られたら、あの高機動力であっという間にひっくり返されかねない。


『美琴先輩! 今度はグローリア・ブレイズが来ましたあ!』

「なんでよ!?」


 ルナから飛んできたその報告に、思わず頭を抱えたくなる。

 なんかやたら遠くからすさまじい戦闘音が聞こえているので、アーネストはまだ合流していないのは確かだ。それでも、精鋭が勢揃いしているあのギルドまでもがこちらに来ているとなると、面倒にもほどがある。

 ここは一時休戦して協力関係になろうにも、フレイヤとリタははなからそのつもりがないようで、気付いているだろうに攻めの手を緩める気配がない。


「あああああああああ、もう! いいわよ、やってやるわよ!」


 最大の七鳴神は、まだ使ってはいけない。なので、今の次の段階である六鳴むつなりを開放し、一つ巴紋が一つ増えて六つになる。

 フレイヤの防御力とリタの高機動力なら、六鳴を開放して膨大な量の雷による広範囲攻撃すら容易に切り抜けるだろう。

 なので、防御しようが関係ないレベルの特大火力を浴びせて、フレイヤの堅固な防御ごと倒すしかない。

 当面は防戦になるだろうなと覚悟を決めて、雷を全て六鳴の最高火力が撃てるまで蓄積し始める。



====

書きたいこと優先して書いてたら、ヨミちゃんが全く出ないという悲劇が起きてしまった件。作者の圧倒的構成力不足をお許しくださいまし(本音:書きたいもん書いてて満足です)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る