ギルド対抗戦 決勝 7

 生き物のように動く炎の龍を縫うようにカナタが走る。狙うはもちろん、今この場において剣の乙女最大戦力であるリタだ。

 もう既に一年近くFDOを遊び、リタとも結構な時間遊んできたが、未だに彼女の種族すら分かっていない。

 あまりにも秘密主義すぎるので、それこそ本当にフレイヤにしか明かしていないそうだ。最近美琴も教えられたそうだが、脅されているのか露骨にこの話題になったら話を変えようとする。


「流石はトーチ様。炎の魔法使いグレイス・セブンスウィザード様の妹君ですね」

「トーチちゃんは現実でも、お姉さんに憧れて頑張っていますから! ゲームでも、あの魔法使いに追い付けるように努力していますよ!」


 カナタが兼定で連撃を繰り出し、リタがそれをやすやすと捌く。

 袈裟懸けを大鎌の柄で防ぎ、柄の上を滑らせながら手を狙ったらぱっと離して、大鎌を倒して石突をこちらに向けて突き出してくる。

 カナタはそれを最小限の動きのみで回避し、一歩前に踏み込んで柄頭をみぞおちに叩き込もうとする。


 一歩後ろに下がられてギリギリ触れる程度にとどまりダメージは皆無。左手を伸ばしてきたので顔を後ろに引いて回避すると、狙い澄ましたように大鎌が首を狩り取りに来た。

 両足を大きく左右に開くことで真下に回避し、そこから足払いで転ばせようとしたが軽いジャンプで躱され、追撃を受ける前に後ろに下がって大鎌の間合いから離れる。


 リタの両足が地面に着くと同時に、彼女が姿がブレるほどの速度で急加速して接近してくる。未だに種はよくわかっていないが、挙動そのものが加速してその後帳尻を合わせるように動きが鈍くなるので、自身の時間を加速させる彼女の固有スキルだと推測する。

 しかしこのゲームには時間に干渉するスキルというのは確認されていない、というかあったら確実にゲームバランスが壊れてしまうので、実装されていない。なので、たった今立てた推測を頭の中から追い出す。


「戦いのさなかに考え事ですか?」

「少し、リタさんについて気になることがあったもので!」

「おや、このような状況でもわたしのことを考えてくださるとは、光栄です」


 くるくると棒術でもしているかのように大鎌を振り回すリタ。

 武器の特性上かなり使いづらく、初期装備として選べるため多くのプレイヤーが選択して、ほぼ全員がその使いにくさに挫折し諦め、まともに使えない武器であるため玄人武器やネタ武器と呼ばれている。

 刃が内側に付いている、普通に振るえばほぼ全ての攻撃が突き刺しになる。このようなデメリットがあるにもかかわらず、リタはまるで昔からこの武器を使い続けてきているかのように、己の手足を動かすかの如く振るう。

 独特な武器の振り方で、もう何度も見ているのに未だに対処の難しい彼女の我流大鎌術。突き刺しなのか斬撃なのかは、直前にならないと分からない。


 くるりくるりと、まるで大鎌と共にワルツでも踊っているかのように、スカートの裾や背中にある大きなリボンをひらりと翻し、長いアッシュブロンドの髪が空を泳ぐ。

 上からは月の明かりが降り注ぎ、木々がそれを遮り木漏れ日のように淡い光が地面に落ちている。

 動くたびにリタのアッシュブロンドが淡い月明かりに照らされて、きらりと明るくなるその様は非常に幻想的だ。それで持っているものが大鎌でなければ、純粋に彼女の動きに見とれていたかもしれない。


「体も温まってまいりましたし、こちらを開放させていただきます」


 カナタを大きく後ろに弾き飛ばすと、にこりと笑みを浮かべるリタ。彼女の持つ大鎌には、戦技特有の淡いエフェクトがかかっている。

 まずい、と思った時には既に遅く、袈裟斬り、水平斬り、逆袈裟斬りの三連撃が叩き込まれる。大鎌戦技『ジャッジメントマーター』だ。

 だが戦技を使ったのならほんの僅かな硬直が入る。クリティカルを狙うのは難しいかもしれないが、ダメージくらいは与えられるはずだと彼女の細腕を斬り落とそうと刀を振るう。

 だがリタの腕を斬ることは叶わず、むしろ自分が後ろに押し飛ばされた。


「なっ!?」


 今のは前方を強く薙ぎ払う『ナハトクリンゲ』だ。まだすぐに戦技が使える状態ではなかったはずだと困惑するが、大鎌からエフェクトが消えると同時にまたエフェクトがかかったのを見て、すぐにアーネストの得意技を真似たのだと理解する。

 戦技バトルアーツを連射する、あるいは連結させることが可能となるシステム外のスキル、戦技連結バトルアーツコネクト、あるいは戦技連射ラビットファイアアーツ

 唯一の使用者のアーネストが使い方を隠しているので詳しくは分からないが、今までのアーネストとの戦い方やリタの挙動を見るに、戦技の終わりと戦技の初動を合わせることで、硬直をキャンセルして強制的に動かしているようだ。

 硬直が発生した状態でも使えるかは不明だが、リタほどの腕があればミスをして硬直を発生させずに、連続して戦技を使ってくるだろう。


「いつの間にそんなのを習得したんですね……!」

「思っている以上に難しかったんですよ、これ。アーネスト様ほどの練度で、アーネスト様ほど連続で使うことは未だ叶わずですが、強力な戦技を連射できることがどれだけ素晴らしいかがよく分かりました。そしてそれを自前のプレイヤースキルのみで全部捌き切っている、カナタ様の技量の高さに感服いたします」


 連射されると分かった上で使われても、十分対処は可能だ。リタという駒は非常に厄介なので、彼女の使う大鎌戦技の初動の位置を放たれる攻撃は、ほぼ全て頭の中に叩き込んである。

 一部、完全にランダムの攻撃を仕掛けるものもあるが、それはその場で対応してしまえばいい。


 やや大きな予備動作から放たれる首狩りの一撃を、刀を垂直に立てて受け止める、と見せかけて体を少し倒しながら刀身を傾けて受け流す。

 そのまま自分から攻撃を仕掛けようとするが、エフェクトが消えてまたエフェクトが出たので、この状態から放たれるものは何かを予測して後ろに下がる。

 振り抜いた勢いのまま発動された大鎌戦技は『ケイオスイーグレット』といい、回転しながら相手を三度斬り付ける回転斬り技だ。

 回転するごとに威力が上がるので下手に受け止めてはいけないので、後ろに下がって戦技が終了するのと同時に踏み込んで強制的に体を硬直させる。

 つもりだったのだがあの一瞬で初動を揃えられたようで、ぐん、と押し込まれて無理やり大鎌が震わせて後ろに押されてしまう。


 本来なら突進してから横薙に振るい、その場で迎撃したらその場所で斬り下ろし、斬撃を防いで後ろに押されたら突進しながら斬り下ろしの追撃が発生する戦技『ソロウラメンテーション』だ。

 リタはゼロ距離であえて使うことで突進をタックルに利用してカナタの姿勢を崩し、回避することも防ぐことも難しくしてきた。

 これは仕方がないと小さく舌打ちしながら刀で受け止めて弾き飛ばされ、地面を転がって素早く起き上がってから追撃の突進斬り下ろしを、大鎌の刃を刀で斬り付けて左側に逸らす。

 カナタの得意技である、受け止めると同時に刀身を傾けて受け流す変則受け流しでやってもいいのだが、大鎌という普通ではない刃の付き方をしている武器なので、もしかしたら体に刺さってしまうかもしれないと日和ってしまった。


 ようやく戦技連結をミスしたのか、あるいはカナタの受け流しがシステムによる保護で体を動かせる範囲を超えたのか、僅かに体が硬直して大鎌からエフェクトが消失する。

 その隙に後ろに下がって大鎌の間合いから外れ、腰を落として正眼に構える。


「相変わらず、剣術の技量がすさまじいですね。これだけ戦技を連発しているのに、カナタ様は戦技なし、使用しているスキルも強化系のバフのみ、ご自身の技量のみで捌き切られてしまいます」


 優雅で流麗な所作で大鎌を構えなおしたリタが、カナタの技量を称賛する。

 自称したことはないが、自分がこのゲームの中で一番剣に優れているという自負はある。なにせ、あのアーネストに戦技なし、スキルや魔術なしの純粋な剣術勝負は絶対に勝ち越せないと言わせたことがあるし、実家の剣術道場を運営している父親からもその腕を認められている。

 なのでこうして改めて他の人からすごいと言われると素直に嬉しいのだが、自分のこの技量をもってしても攻めきれない辺りリタも中々だ。


「ふふふっ。もしかしたら、大勢が見ている中でわたしの全てをさらけ出してしまうかもしれませんね」

「い、言い方どうにかできませんか?」


 悪戯っぽく笑みを浮かべながらほんのりと頬を赤く染めながら言うリタに、釣られてカナタも頬を赤くする。

 同い年であることは分かっているのだが、色気がすさまじすぎてとても今年十七歳の高校二年生になる少女とは思えない。顔を知っているし、何だったらフレイヤ共々同じ学校に通っているので、十七歳になるのは確かだ。

 どうしたらここまで大人っぽく、色っぽくなれるのだろうかと不思議に思いつつ、しっかりと刀を構えて再びじりじりとお互いの出方を窺う。



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近況ノート更新しました


作者が勝手にやってる『勝手にQ&Aコーナー』


Q.トーチちゃんのお姉さんのセブンスウィザードってどういうこと?


A.魔法使いになった時に与えられた公式の名字的なもの。一から順番に付けられるから、ファーストウィザード、セカンドウィザード、サードウィザード、フォースウィザード、フィフスウィザード、シクスウィザード、セブンスウィザード、みたいな感じ。


なんで始まって一年程度のゲームで、七人も魔法使いがいるんですかねえ? ちなみにファーストは今作ぶっちぎりのチート級魔法だから、その内出したい

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