ギルド対抗戦 決勝 6
決勝戦が始まり、同時に飛び出していってしまったギルマスを探しつつ、敵を探し回っているギルドがいた。
それは全員が少女で構成されており、しかも全員学生だ。構成的には中学生二人にギルマスを含めて女子高生三人だ。
何を隠そう、この少女だけのギルドこそが夢想の雷霆である。
「ほんに、美琴はどこに行ったんじゃろうなあ」
巫女服をカスタマイズしてミニスカに白ニーソ、分離袖と巫女服っぽさを残しながらも巫女服ではない衣装に身を包んでいる、狐耳と尻尾を生やした獣人族の少女、サクラが漏らす。
「どうせ、最近見つけたと言って入り浸っている配信者の下じゃないですかね」
「ヨミさん、ですよね? 私と同い年っぽく見えるけど、多分あの人美琴さんの一個下とかじゃないですかね」
月灯りを受けてきらきらと輝いているように見える銀髪をした小柄な魔族の魔術師の少女ルナが、最近の美琴の行動を思い出しながら言う。
人間族の魔術師の少女トーチは、一緒に美琴と見たことがあるので思い出しながら、言動や雰囲気からなんとなくで年齢を推測する。
「ほう、じゃあこの春休みが明けたら高校生かもしれないのか。何度か配信のアーカイブを見たが、あの歳でよくもあそこまで戦闘技術を磨いたものじゃなあ」
「それ、美琴さんに限らずサクラさんとカナタさんにも言えますからね」
探し回っているのはいいが、美琴が開始早々ヘルシングというギルドを潰し、その少し後にヴァイスレベリオというギルドが他のギルドに潰された。
つい先ほどもまた一つギルドが壊滅したので、どんどんと他ギルドとの遭遇率が下がっていっている。
楽に終わってくれるならそれに越したことはないのだが、何もせずに終わってしまうのは、単独でギルド壊滅をやってくれた美琴がいる手前あってほしくない。
そういう空気が若干流れながらも、一番後ろで鯉口を切り控え斬りにしている長い鴉の濡れ羽の髪の人間族の少女、カナタは敵を求めていた。
刀という武器をこうして扱えて相手にダメージを与えられているので装備できるし、スキルを所持していないのに熟練度の上昇が確認できているので、間違いなくスキルはあるはずなのにいまだ見つかっていないレアスキルだ。
もちろんカナタも、同じ刀と脇差を所持しているサクラも刀スキルを保持していないが、現実世界の方で新しく習得した技があるのでそれを早くこっちで試したくて仕方がないのだ。
「落ち着かぬか、カナタ。気が逸っておるぞ」
「わ、分かっています。ですが、いつどこから敵が来るか分からない状況なんですから、警戒するのは当たり前のことです」
「本当にそれだけかのう? 妾の目には、早く習得した新技を試したくて仕方がないように見えておるが?」
「そ、そんなわけ、ないですっ」
図星だったのでそっぽを向きながら返すと、サクラがくくくっ、と笑う。
現実と同じ亜麻色の長く美しい髪をしているこのサクラはカナタとは親戚関係で、幼い頃からサクラの悪い癖をよく知っている。
それはすぐに人をからかってしまうことだ。それが自分だけならまだいいが、他の人も同様にからかうし、その際に距離が近くなりすぎたりするおかげで一部男子から勘違いされたこともある。
その時にちょっと怖い目に遭ったのだから態度を改めてくれたらいいなと思っていたのだが、結局この悪い癖は治らずじまいだ。もうどうしようもない。
「あんまりからかうと、油揚げやあなた好みの甘じょっぱさに味付けしたきつねやお稲荷さんを作ってあげませんよ」
「うぐっ!? わ、妾にその脅しは卑怯じゃぞ!?」
「変にからかおうとしてくるからです。もしまたやったら、美味しく作ったお稲荷さんを目の前でこれ見よがしに食べちゃいますから」
「な、なんとご無体な……!」
がくぅ、と肩を落とすサクラ。
彼女の好物は油揚げやそれを使った料理全般だが、特に好きなのは甘じょっぱく味付けしたきつねや稲荷寿司だ。
今日の昼食だって、決勝戦に向けて英気を養うためとか言って、最初から最後まで全部、お腹いっぱいになるまで稲荷寿司を幸せそうに頬張っていた。
あんまりにも油揚げ関連が好物すぎるので昔から時々「きつねちゃん」と呼んだりしていたのだが、FDOを始めた時に獣人族でキャラクリをしてイメージそのまんまのきつねで来た時には驚いたものだ。
「……あ、カナタさん、サクラさん。索敵に反応がありました」
「ほら、敵が来たみたいですよ。しゃきっとする」
「が、頑張ったら、しっとりとした甘じょっぱい油揚げ……」
「分かりました。好きなだけ作ってあげますから」
「言質は取ったぞ? では、いざゆかん!」
ぱっと表情を明るくして接近してきているだろう敵に向かおうとしたサクラだが、トーチがはっとなって彼女の細い腰に飛びついて止める。
「ルナちゃん! 防御!」
「ほい来た!
トーチの短い指示に何故と返さず、速攻で正面に満月のような綺麗な円形の盾を張るルナ。
そこにトーチがルナの魔術にバフをかけて強化を施し、強度と魔術防御性能を上げる。
一連の動作が終わると同時に、カナタたちがいる森の一角にすさまじい大火炎の濁流が流れ込んで来た。
数秒程度炎の濁流は過ぎ去っていったが、その数秒で周辺の木々が瞬く間に炭化。地面も溶けて溶岩化し、一部がガラス質のものに変質している。
こんなバカげた芸当ができるのは一人だけ、あるいは一つのギルドしかいない。
「全員戦闘準備!
「言われなくても分かっておるわ。……ふむ、足音の数は四人。フレイヤはあれじゃな。きっとどっかで剣聖の小僧と美琴と吸血鬼のちみっこと戦っているのじゃろうな」
獣人族の補正で聴力が鋭くなっているサクラが、亜麻色の狐耳をぴこぴこと動かして足音の数を把握。それを手短に全員に伝えてくれる。
「前も戦ったから覚えていると思いますが、剣の乙女で一番に警戒すべきなのは最速のプレイヤーのリタさんではなく、他三名が持つ超特大火力の魔導兵装です。広域殲滅魔術を武器に付与し、リキャストが発生しないあるいは極端に短いリキャストで連発してきます。対処法は、」
「自分を巻き込む可能性のある近距離戦に持ち込む、あるいは所有者のMPを無駄打ちさせる!」
「その通りです、ルナさん。サクラ、私と一緒に前へ」
「言われなくともそのつもりじゃ。ようやく戦えるのう」
カナタは腰に差している刀、九字兼定を、サクラは桜花という名の刀と
二人とも物理戦特化のインファイターで、所有しているスキルも全てが自己バフのみだ。防御系の魔術も攻撃系もないので、ひたすら相手が逃げに徹したり遠距離から完封してくるような戦い方をされたら、じり貧になってしまう尖った構成だ。
しかしその心配はない。なにせ、トーチとルナは
そのおかげで怖がることは何もなく、サクラもカナタもガンガン前に出ることができる。
「前方80メートル先です!」
「見えておる! 行くぞ!」
抜刀した美少女侍二人は、筋力に極振りして装備も全部筋力強化の
強く地面を蹴って一歩目からトップスピードに到達した二人は、風よりも早く森の中を駆け抜けていく。
すぐに、巨大な剣身に幾重もの魔法陣を浮かび上がらせている特大剣を持った少女を後方に、ライフル型魔導兵装とランス型魔導兵装をもった女性二人、そして大鎌を持った一人だけ場違いなくらいメイド服を着こなしているアッシュブロンドの少女、リタが見える。
リタはカナタとサクラが接近しているのを見つけると、ふわりと笑みを浮かべて大鎌を地面に突き刺し、カーテシーで恭しく礼をする。
相変わらずミニスカートでやるような所作じゃないだろと、二人同時に息を吸う。
ヒノイズル皇国のとある山奥に住まう仙人から、一週間教えを受けることで習得できる、錬気呼吸法という自己回復と身体能力にバフをかけるスキルの、発動所作だ。
丹田あたりからじわりと温かいものが体に広がっていき、内側から力が溢れてくる。
ぐっと力を込めてより加速してリタに接近しようとしたが、姿がブレるほどの速度で急加速して接近してきた彼女の振るった大鎌で、後ろに仲よく押し返されてしまう。
「よくぞおいでくださいました、サクラ様、カナタ様。フレイヤ様にお仕えするメイドとして、歓迎いたします」
「随分ド派手で殺意の高い歓迎じゃな」
「危うく首が落ちるかと思いましたよ」
「うふふっ。あの程度のご挨拶で、お二人ともダメージを受けるほど弱くはないでしょう?」
その通りだと二人で笑みを浮かべる。
そして唐突に訪れる沈黙。一歩でも動いた瞬間から、烈火のごとく激しい戦いが始まる。先に動いたからと言って有利になるわけではない、むしろ場合によっては先に動いたのに返り討ちにされてしまう。
あり得るかもしれない少し先の出来事をイメージし、全員が動かずに武器を構え、じりじりと間合いを詰めたり離したりする。
この緊迫の状態を先に壊したのは、後方に構えているトーチだった。
カナタとサクラを避けるように膨大な炎が流れていき、細分化してまるで炎で形作られた龍のようになり、それぞれが別々の生き物のように複雑に動き回る。
彼女が夢想の雷霆に所属してから何度もパーティーを組んで来たが、相変わらずすさまじい魔術の操作だとぞくりと背筋を震わせる。
夢想の雷霆と剣の乙女。ともにギルドマスター不在の中、三大ギルド同士の戦いが幕を開く。
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