ギルド対抗戦 決勝 5

 ヨミが一人でギルドを一つ落とすと言う大仕事をしてくれたのだから、自分たちもここで一つギルドを倒して、優勝に貢献しなければ。

 そう意気込んでいるノエルは、自分の中で勝手に決めて後でお願いしようと思っていることだが、優勝できたらいっぱいよしよしと撫でてもらうか、あるいはあの肉付きがよくむちむちとした太ももで膝枕してもらいながら頭を撫でてもらうか、耳かきをしてもらおうかと考えている。

 動機は単純に、ここ数日ヨミが甘えて来ては首を舐めたり甘噛みしたりして、毎回それでとてもドキドキさせられているからだ。なのでちょっとくらい、自分から甘えたっていいだろうと思っている。


「まずはヘカテーちゃんのおかげで瀕死のあなた!」

「ですよねー!? 『フォートレスシールド』!」


 真っ先に狙うのは、もちろんヘカテーが瀕死まで追い込んだタンクの女性だ。彼女の持っている盾の物理カット率がどれほどのものかは分からないが、分からないなら死ぬまで盾越しにでも殴って倒せばいい。

 全力でフルスイングして殴りかかると、残っている左手でしっかり構えた盾で防御戦技を発動し、ノエルのフルスイングを防ぐ。


「なんのぉ!」


 構わず殴る。殴って殴って殴って殴りまくる。

 両手メイスなので大きく重く、振りが毎度大きくなってしまうが、構わない。振りが大きくなるなら、この世界でバカみたく高くした筋力で、無理やり早く振るえばいい。


「めっちゃ脳筋じゃん!?」

「そりゃ、ギルメンにも脳筋女騎士って言われてますから!」


 めちゃくちゃに殴っているように見えつつ、実は同じ場所を狙って殴り続けているノエル。

 FDOは各種装備やこうした結界などに耐久値があり、衝撃を与えることで耐久が減っていく。その仕様の中に、同じ個所を狙って攻撃し続けると、その部分の耐久値が著しく減少していき、破壊されやすくなると言うのがある。

 もちろんノエルは自分で気付いたのではなく、ヨミとシエルから教えてもらったことだ。この二人は、すさまじい速度と手数で即座に破壊するか、すさまじい威力と手数で破壊することができる。

 ノエルだってやればできる。そう言われて、実はぶっつけ本番でそれをやっている。


「『クイックドライブ』!」

「わっ。ありがとうジンさん!」

「あんまり攻めすぎないように! ガンナーがいるんだし、気を付けて!」

「りょーかい! 『パイルインパクト』ぉ!」


 巨大な盾戦技の障壁にびしりと大きなひびが入ったので、メイス戦技を使ってシステムアシストに便乗し、ありったけの力を込めて全力で殴りつける。

 強烈な一撃が叩き込まれよりひびが大きくなる。直後に、ノエルの今の一撃の倍の威力の追撃が同じ場所に発生し、破壊する。


「なん───」


 防御を二十秒も欠けずに破壊されて驚いたタンクの女性が声を上げようとした瞬間、盾から僅かにしか見えていない右目を、針穴に糸を通すような正確さで弾丸が撃ち抜いた。遅れて、ドオォン……、という銃声が聞こえた。

 ここまで音が遅れて聞こえてくると言うことは、電磁加速弾レールバレットだなと想像し、再度弟の評価を上げる。


「やっぱあのスナイパーどうにかしたほうがいいって!」

「でもどうやって!? あそこの時計塔にいるのは分かってても、この人たちがいるからいけないよ!?」


 守りの要があっさりと退場してしまい、混乱状態に陥るギルドAVALONのメンバーたち。

 残っているのはガンナーの男性と両手ハンマーのアタッカーな女性、そして魔術師なのか剣士なのか分からない装備構成の技魔の男性だ。


 どうしようどうしようと混乱している今がチャンスだと、まずは遠距離攻撃手段持ちのガンナーから排除しにかかる。


「う、うわ!? 真っすぐ僕のところに来た!?」

「ちょ、バカ! 今掠ってったじゃない!」


 恐慌状態に陥ってしまったガンナーが、震えて照準も定まっていない状態で引き金を引き、弾丸がハンマー持ちの女性の腕を掠めていった。

 これはあまりよくないなと目いっぱい地面を強く蹴って急加速し、二発、三発と放たれるも見当違いな方に向かって飛んでいく。

 四発目を撃とうと引き金を引こうとしたところでノエルが左手を伸ばして掴み、上に向けさせる。


「戦いだから撃つなとは言わないけど、でもそんなに震えて撃ったら仲間にも当たっちゃうよ? もし、それでフレンドリーファイアで仲間が一人キルされちゃったら、あなた、どうなると思う?」

「……ぁ」


 優しく諭すように言うと、掴んでいる手から伝わってきた震えが収まったのを感じる。

 フレンドリーファイアの問題は深刻だ。シエルはそんなことが起きないくらい遠距離狙撃も中距離射撃も正確なので、超ギリギリを狙って撃ち抜くと言う曲芸をやることはあっても、掠めていくことすらない。

 どんな状況であっても正確に撃ってくれると言う信頼があるので任せられるが、もし一回でもフレンドリーファイアをしてしまうと、たったその一回の失敗だけで信用できなくなってしまう。

 それくらいこの問題は深刻なのだ。


「分かればよろしい。……それはそうと、お命頂戴?」

「へ……!? げぶぅ!?」


 震えが完全に収まったので、にっこりと笑顔を浮かべて容赦なくメイスでみぞおちを殴って飛ばす。

 パーティーチャットから『うっわ……』というガチ目にドン引きしたようなシエルの声が聞こえてきたが、ゲームとはいえ戦いの真っ最中だ。勝ちを取れる時に取らないともったいない。


「本当にとことん脳筋というか……」

「ビルくん大丈夫!?」

「な、なんとか……」


 またもやクリティカルを出せず、レッドゾーンまで減らす程度で済んでしまった。

 ここまで勝ち抜いてきたギルドはやっぱり硬いなと、ふぅ、と息を吐く。

 ノエルに殴り飛ばされたビルという名のガンナーがハンマー持ちの女性に支えられながら立ち上がるが、彼の後ろから弾丸が飛んできて後頭部から頭を撃ち抜いて即死させた。

 ノエルには見えていた。時計塔にいるシエルが明後日の方向に向かって射撃し、二回銃弾の軌道を曲げて、まるで後ろから狙撃されたかのように演出したのを。


「シエルだって人のことドン引きできないじゃない」

『それがスナイパーの仕事なのでね』


 後ろから撃たれて前に倒れながらポリゴンへと帰っていたビルをみて、背後にいるのだろうと思って振り向いてしまったハンマー持ちの女性に、ノエルとヘカテーが同時に走っていく。


「アマネ! 魔道弾で軌道を変えた狙撃だ! 後ろには誰もいない!」

「あぁ、もう! 本っ当に厄介ね!」


 すぐにノエルたちの方に向き直り、両手でハンマーを握ってメイスを左下に構えたノエルを迎撃する。


「そぉれぇ!」

「マジ!?」


 下から右上に向かって振り上げたメイスを上から叩きつけてパリィしようとしたらしいが、ノエルが逆にパワーでパリィしてしまう。

 すかさず前に踏み込んで振り上げたメイスを振り下ろし、脳筋パリィされて後ろに倒れていたアマネと呼ばれた女性はそれを防ぎ、地面に押し付けられてしまう。


 ノエルはヘカテーを呼ぼうと思ったが彼女はジンと共に技魔の男性と戦っているので、ここは仕方なく武器破壊でも狙って頭を殴ってしまおうと振り上げる。


「こんの……、負けてたまるかっての!」


 右足を引いてお腹に向かって蹴り出してきたが、目で追えない速度で銃弾が膝を破壊して千切り落とす。

 更にもう一発飛んできて、ハンマーを持っている左手の手首を弾け飛ばし、支えを一つ失ったハンマーの柄が傾く。


「え、ちょ」

「『クラッシュメテオ』!」


 両手でしっかりと持って振り上げたメイスで初動を検知させ、アシストに便乗して全力で振り下ろす。

 右腕一つでハンマーを持って防ごうとするが、ドゴンッ! という音とともに押し込まれてしまい頭を潰されてクリティカルとなりポリゴンとなって消えていく。


 残るは一人。剣士なのか魔術師なのか分からない技魔の男性だけだ。

 くるりを振り向いて加勢しに行こうとしたところで、技魔の男性は右手のショートソードと左手の杖を手放し、地面に落とす。


「流石にこの強さの君らと一人で戦う度胸はない。降参だ」

「そりゃそうだ」

「うーん、なんだか不完全燃焼」

「あっさり負けを認めるんですね」

「あれだけ超正確な狙撃をしてくるスナイパーがいて、女の子二人は超火力だし、タンクの男はめちゃくちゃ硬いし、剣士としても魔術師としても中途半端な俺じゃ勝ち筋が見えない。そういうわけだから、一思いにどうぞ」


 完全に諦めたようにだらりと脱力する男性。

 ヘカテーとジンが目を合わせてジンが下がったので、ヘカテーが小さな両手で血の両手斧を握って前に出る。


「それでは、介錯します」


 そう言って両手斧を振りかざして、男性を袈裟懸けに斬り付けようとする。


「……諦めるけど、ただでじゃ諦めないから」

「ヘカテーちゃん!」


 胴体を深々と斬り付けてクリティカルすると同時に、男性の体が爆ぜる。

 辛うじてジンが『クイックドライブ』でヘカテーの前に自分の体をねじ込んで、高い耐久値とHPに物を言わせて体で爆発を受け止める。

 半分ほどHPが削れたのを見て、最後にとんでもない置き土産をしていってくれたなと目を瞠る。


「大丈夫ですか、ジンさん!?」

「平気平気。この程度じゃタンクは落ちないよ」


 盾による防御が間に合わず体で爆発を受けたジンをヘカテーが心配するが、すぐに自己回復スキルでHPが回復していった。


「あんなのもあるんだね。シエルは知ってた?」

『HPが全損することが条件で発動する自爆魔術があることは知ってたけど、いわゆるネタ魔術なんだ。まさかここで使う奴がいるなんてね』

「そのネタ魔術でもジンさんのHP半分減ってるんだけどね」

『超至近距離なら威力が最大なんだよ。ちょっとでも離れると一気に距離減衰でダメージが出なくなる。それより、今の爆発でどっかのギルドがやって来るんじゃないか?』

「だとしたら嬉しいけど、流石にちょっと色々と整えたいかな。どこかいい休憩スポットみたいなのない?」


 シエルに頼んで少しでもいいから休めるポイントを見つけてもらい、そこに移動する。

 ヘカテーが血を消費していたので、パックを飲ませて回復してもらい、戦技やスキルの発動で消耗したMPをゆっくりと回復してから、合流したシエルと共に次のギルドを探して歩き回るのだった。

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