ギルド対抗戦 決勝 4

 ヨミがアーネストとタイマン勝負を始めた頃、銀月の王座はここで負けたら終わりだからと、今までのガンガン行こうぜスタンスから変えて慎重に動いていた。

 有利なポジション、それもシエルが射線を通しやすい丘の上や崖上、建物の屋上などを探し回っている時にいきなりポイントが増えた時は驚いた。

 現在一同は、時計塔のある建物の一角にいる。そこはシエルは射線が通しやすく、他からはやや射線が通りにくくなっている絶好の狙撃ポイントだ。


「決勝戦なのになんであの子、いつもと変わらないパフォーマンスでギルド単独撃破なんてやってんだろう」


 周辺を警戒しているシエルを守る様に盾を構えているジンが、増えているポイントを見ながら呆れたように呟く。


「ヨミは今までいろんなゲームの公式イベント大会に参加して、場数を踏んでいるからな。中には公式が生配信しているのもたくさんあったし、慣れてんだよ。あんなでもあいつ、最初は本来の実力を出し切れなかったこともあるんだ」

「意外ですね。ヨミさんなら何でもそつなくこなせるイメージがあったのに」

「周りの奴が見ればあいつは天才型だっていうけど、あいつのことをよく知ってる奴からすれば天才型でも努力の天才なんだよ。それもあってあいつ、努力したことを簡単に否定できる天才って言葉はあまり好きじゃないし」

「本当の天才には言うけどね。でもほとんどの人が努力しているのを知っているし、ヨミちゃんも努力型だから本当に言わないけど」


 親が子供を褒める時に使うような天才には特に反応しないが、努力している部分を見てもいないくせにまるで努力していないのにいいスコアや成績を出していると勘違いして言う天才には、少し過剰に反応する。

 多くの人はそうやって才能を褒められると喜ぶだろう。ヨミも幼い頃はそう言われることの方が嬉しかったのだが、数々のフルダイブゲームを渡り歩いて逸話を残していくと、ヨミのことを「天才プレイヤー」と称するプレイヤーが出始めた。

 もちろん最初はそう言われて喜んでいた節があったのだが、次第にそう呼ばれることを嫌がるようになっていた。


 それに先に気付いたのはノエルで、どうしたのかと聞いたら、立ち回りや戦い方を色々と工夫して何回も失敗して努力してきたのに、その努力を見ていない人たちが結果だけを見てそれをもてはやされるのが嫌だと、少し泣きそうな声で零した。

 ノエルもシエルも、頑張っているのを誰よりも間近で見ていたので、努力している部分に誰一人として触れず結果だけに目を付けられて傷付いているのを見て、どれだゲームが上手くて強くても、学校の成績がよくても、ただ結果だけを見てすごいと言わずに努力していることも含めてすごいと言うようになった。


「確かに、ヨミちゃん結構色々試して練習してるよね。あの、えーっと……ブリッツグライフェンだ。それも使いこなすためにってよく素振りしてるし」

「ジンはそれを見てどう思った?」

「え? うーん、ヨミちゃんでも練習が必要なんだなって最初は思ったけど、でもずっと見ていると、あの強さはああいう積み重ねが根底にあるんだなって」

「あいつでもできないことだってあるからな。前にも言ってたと思うけど、GBOで刀メインの拳銃がサブの変態構成でいたのも、あいつがそこまで銃器の扱いに長けてないからなんだ」

「リオンさんみたいに、近距離でのガンカタしながらだったら当てられるって言ってたよね。あれもあれでかなり難しそうだけど」

「むしろリオンさんがFPSプロゲーマーで異質なだけだ。それより、おしゃべりはここまでだ。来たぞ」


 スコープを覗きながら索敵用の魔術でも索敵していたシエルが、敵を見つけたと伝える。

 その瞬間、後ろにいるヘカテーの雰囲気が急変する。まるでPKにでも遭遇した時のようなものに。


「どのギルドか分かる?」

「胸に島みたいな紋章付けてるから、AVALONだな。……掲げている優勝という理想郷には、俺たちが行かせてもらうけどな。『|術式装填・狙撃印弾スナイパーズマーク』」


 構えているスナイパーに魔法陣が現れて、スキャンするように通過して消える。

 すぅ、と息を短く吸ってから呼吸を止め、引き金に指をかけて狙撃する。銃声が一発鳴り、後方を歩くバフ要因であろう魔術師を排除しようとしたが、ヘッドショットを食らったにもかかわらず即死せずにギリギリ耐えた。


「ちっ、耐えられた。でもマークはした。後方にいる魔術師。一分間はそいつに対するダメージが増加してるから、ガンガン狙ってけ。バフ要因は面倒だからね」

「りょーかい! よし、行くよヘカテーちゃん!」

「はい! PKは滅ぼします!」

「いや、PKじゃないからね?」


 ヨミが試合前に、緊張をほぐすために冗談で言ったことを真面目に行っているらしいヘカテーは、ハイライトの消えた瞳で笑みを浮かべながら、血の鎖を飛ばして建物に突き刺して、強烈に引っ張ることですさまじい加速をして飛んでいく。

 元より小学生らしく小柄で機動力のあるタイプだったのに、そこに最近ヨミの真似をしているようで、あちこちに血の剣を配置してそれを足場にして立体的に立ち回ったり、鎖を飛ばして某巨人に挑む人類の漫画に出てくる装置のように立体機動しながら長い距離を短時間で最短距離で行くようになった。

 メンバーが強くなるのはいいことなのだが、このままヨミの影響を受け続けると、純粋なヘカテーも戦闘狂に成り果ててしまうのではないかと、既にその兆候が出始めているのを見て心配になる。


 真っすぐ突撃していったヘカテーを追いかけるように飛び出したノエルに、強化弾エンハンスを撃ち込んでバフをかけておき、ノエルがある程度離れたところでジンがタンクスキル『クイックドライブ』でノエルの近くに瞬間移動したのを見て、まあなるようになるだろうとレバーを引いて空薬莢を排莢する。



「どこから撃ってきた!?」

「あ、あそこ! あの時計塔から!」

「遠くねえ!? まさか銀月の王座か!?」

「その通りです!」

「ぎゃっ」


 街灯に鎖を引っかけて軌道を無理やり変え、遠心力をたっぷりと乗せた両手斧の一撃をシエルが狙撃した魔術師に叩きこんで、上半身と下半身を両断してポリゴンに変えてしまう。


「うわあああああああああ!? PKK過激派幼女だあああああああああああ!?」

「あ、でもヨミちゃんいないっぽいからいけるんじゃない!?」

「そうかもしれんけど、こんな可愛い女の子に攻撃するのすごく罪悪感がある!」

「あまり私を舐めないでください! 『ブラッドランサー』!」


 ざざっと地面を踏んで滑りつつ、地面を蹴って一気に一番遠くにいるタンクの女性に急接近し、構えられた盾に小さな左手を置いてゼロ距離で血魔術を発動。

 バァン! という音を立てて盾にゼロ距離で血の槍が連続してぶち当たり、その衝撃で盾を弾き上げる。


「く!? この、程度で───」


 若干バランスを崩しつつ右手の長剣を振り上げてヘカテーに攻撃をしようとするが、振り下ろそうとしたタイミングで右の肘が弾け飛ぶ。


「い゛っだあ!?」


 予想外のタイミングでのピンポイント狙撃で、その痛みに表情を歪めて体が硬直する。

 その致命的な隙を逃すはずもなく、ヘカテーが右手一本で持つ両手斧をがら空きの胴体に叩き込む。

 確かな手応えがありそのまま両断しようと力を込めたが、付けている装備が上等なもののようでかなり深く食い込んだが止められてしまった。


「た、ただでやられるほど、わたしたちも弱くないんだよね!」

「きゃあ!?」


 食い込んだ両手斧を引き抜こうと両手で柄を握って引っ張ろうとしたところで、弾かれた盾を引き戻すようにしながらヘカテーを盾で弾き飛ばす。

 想像以上の強さに思わず両手を柄から離してしまい丸腰になってしまうが、すぐに追撃を受けないようにと右手で血の鎖を飛ばして街灯に巻き付け、自分を引っ張り上げてそこから離脱する。


「昨日のヨミちゃんとかの戦い方見て思ったけどさ、君たちやけに立体機〇装置使ってるみたいな動きしない?」


 胴体に刺さった斧を引き抜いて、ヘカテーから離すように投げ捨てる女性。仕方がないので、血を消費して血の両手斧を作り上げる。


「ヨミさんも、影の鎖を使えるようになって、自分より重いプレイヤーや建物に巻き付けたり突き立てると引っ張られる特性を知ってから、同じようなこと言ってました」

「あぁ、じゃあマジで意識してのことなんだ。あの速度でやるのは、怖くないかって不安になるけど」

「結構楽しいですよ。それに、使いこなせればこういう状況でもかなり有利に立ち回れますからね!」


 再び血の鎖を伸ばしつつ、血の槍を一本作ってそれを近くに追従させる。

 タンクの女性に向かって鎖を巻き取りながら急接近するが、いくら早くても直線的な動きは見切られやすい。

 なので体重移動で少し左に逸れて弧を描き、近くに追従させていた血の槍を操作して鎖を引っかけることで急旋回し、勢いをつけて右手で持つ斧をタンクの女性に叩き込む。


 その際両手斧戦技『スパインブレイク』を発動させたので、超速度の突進とシステムアシストを受けて動く強力な戦技の威力が重なり、一撃でガードブレイクを発生。

 急停止の仕方が分からないので体を丸めて胴体に強烈なタックルを食らわせて、自分のHPも一緒に減らしながら女性を吹っ飛ばす。


「『クラッシュメテオ』!」


 丁度そこに駆け付けたノエルが、大きく振り上げたメイスで戦技を発動させて、突進して来て地面に倒れたタンクの女性の胴体を殴る。

 クリティカルではない。しかし、ノエルのグランド武器シュラークゼーゲンの筋力補正、その他クロム謹製の防具についている筋力補正の装備スキル、自身の強化魔術とシエルから受けたバフが重なりに重なって、胴体を殴っただけでHPがごっそりと削れて残りが一割となる。


「あーん! クリティカルじゃなかった!」

「でもナイスです! ……っ、ノエルお姉ちゃん、危ない!」


 戦技終了直後の僅かな硬直を狙って、ガンナーの男性がノエルの頭に向けてライフルを構えているのが見え、ノエルに飛びついて地面に押したおす。

 頭上ギリギリをライフル弾が通過していき一安心するが、アタッカーの女性が両手ハンマーを持ってこちらに来たので、血を消費して『ブラッドシールド』を展開。血の盾で一撃は防いだが、その一撃でひびが入ってそこにガンナーがピンポイントで射撃して来て壊れてしまった。


 準決勝とはわけが違う、決勝まで勝ち残った強豪チーム。亡霊の弾丸もかなりの強敵だったし、個人個人が突出しまくっている上で連携してくるので向こうの方が格上だが、どうしても決勝という最後の戦いの舞台にいるからか、今戦っているギルドがやけに強く感じてしまう。

 決勝戦まで勝ち抜いてきた相手。ここまで苦労してきたからこそわかるが、運程度でここまで来れるほど簡単ではない。

 正面にいる人たちは、紛れもない実力者揃い。それを意識し始めると、だんだんとヘカテーに緊張が出始めてくる。


「大丈夫だよヘカテーちゃん。私たちは負けない。そうでしょ?」


 ぽん、と優しく手が頭の上に乗せられる。ヨミとはまた違う、優しい撫で方。それだけで緊張が解けていき、無駄な強張りがなくなっていく。


「ありがとうございます、ノエルお姉ちゃん。もう大丈夫です」

「うんうん、その調子。……あ、ジンさん遅ーい」

「君らが速すぎんだよ。クイックドライブでも追い付けないってどんだけだよ」


 ようやくジンが、ドスンと音を立てて地面に着地する。タンクである都合上装備が重いので仕方がないのだが、確かに遅い。


「ちょっと遅れた分、巻き返さないとね。シエルくん、サポート頼むよ」

『言われなくても。とはいえあまりバカスカ撃てないからな。どっかに最強ギルド共が潜んでるし』

「じゃあバレない程度にバカスカ撃っちゃえ」

『姉さんは一度、スナイパーの大変さを味わったらいいよ』


 それだけ言ってシエルが沈黙する。

 相変わらず仲がいいんだなと、一人っ子のヘカテーはちょっと羨ましさを感じる。終わったら何かお願いでもしようかなと思いつつ、両手斧をしっかりと構える。


「それじゃ、私たちの勝利への一歩を更に進ませてもらおう!」


 元気よくノエルが声を張って、先陣を切る。

 若干遅れてヘカテーが飛び出していき、戦闘が始まる。

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