ギルド対抗戦 決勝 3

 魔王と剣聖、二人の剣が衝突して地面がその衝撃で捲れる。

 お互いの筋力が拮抗しており、ヨミはアーネストの剣が弾かれたことをラッキーと捉え、対してアーネストは驚愕に目を見開いていた。

 いくらプレイヤー間で魔王と呼ばれていようと、所詮初めて一月も経っていない新人だと思っていたのだろう。ぶっちゃけヨミも、アーネストらトップ層の廃人どもと比較すればまだまだ新人だが、持っている装備などはそれに並ぶと自負している。


 インベントリに放り込まれている斬赫爪に夜空の星剣と暁の煌剣。身に着けている、クロム謹製の防具一式に、グランドウェポンのブリッツグライフェン、グランドクエスト達成報酬の星月の耳飾り。

 プレイ時間と装備のレアリティが笑えるくらい釣り合っていないが、ここまでしないとアーネストとまともにやり合えないのは何のバグなんだとすら思える。


「まずは一番厄介なお前から潰す!」


 小柄で体が軽いことを活かして素早くバク転してその分だけ離れ、ニィっと笑みを浮かべながら突進する。

 戦技も何も使わない、純粋なヨミ自身のステータスによって繰り出される超速度の突進と斬撃。アーネストはその斬撃を半歩下がるだけで回避して、はらりと金髪が二本ほど散る。

 剣を振り抜いたところに合わせて大きく振りかざしたアロンダイトを振り下ろしてくるが、左の剣でそれを防いでパリィで弾こうとしたが、想像以上の重さに弾けないと即座に判断して受け流す。


 引いていた右の剣を心臓目がけて突き出すと半身になって躱され、引き絞る様に構えたアロンダイトでお返しだと言わんばかりに首を狙ってきた。

 下手に受けようとせずに後ろに下がることでやり過ごし、追撃するように地面を蹴って踏み込んで来たのに合わせて、ヨミは地を這うような低い姿勢で迎え撃とうとする。


「ひゃあ!?」

「うわっと!?」


 再び戦技をぶちかましてやろうと初動を検知させようとしたところで、特大の炎が二人を飲み込まんと襲い掛かって来た。

 アーネストは咄嗟に防御魔術か何かなのか、半透明の膜を前方に張って防ぎ、ヨミは防御手段がないので食らったら大ダメージを受けるからと、影に潜って逃げた。

 少し離れた場所の影から飛び出ると、左手一本で特大剣を持ちそれを振り抜いた体勢のフレイヤが炎が来た方向に立っていた。

 彼女の配信のアーカイブに時々出てくる、全ての機能を『炎を放つ』『焼き払う』ことに特化させた炎の魔導兵装『紅天』だ。


 魔導兵装という兵器で超強力な魔術攻撃を仕掛けてくるフレイヤが、この中で一番の危険だと順位を入れ替えて彼女に向かおうとするが、左から紫電をまとった美琴が雷光となって突撃してきたので反応せざるを得ず、六割ほど蓄積されているエネルギーを消費しながら自分を強化して、体の反応速度を底上げして迎撃する。


「流石!」

「美琴さん達くらいの実力者が相手だと、混戦とかしたくないんですけど!」

「それは同意するわ! だからこそ、今のうちにここで一人潰すのが得策なのよ!」


 くるくると棒術のように薙刀を回転させてから、雷光のように速く鋭い突きが連続して放たれる。

 その突きを優れた動体視力と反応速度、鍛え抜いた予測、後はおなじみの気合と根性と直感で捌き切ろうとする。

 しかし、リタさえいなければ全プレイヤー中最速だったと言われるほど速度に優れた美琴の連撃は、数多くのゲームを渡り歩き鍛え抜いたヨミのプレイヤースキルと戦闘技術をもってしても、完全には捌き切れない。


 このまま連続突きを使わせ続けるわけにも行かないので、被弾が増えるのを覚悟で魔術を使うために意識を割く。

 早速わき腹をえぐられてHPをいくらか減らして血壊魔術スローターアーク『スカーレットアーマメント』で血の武器を五本ほど作り、それを襲わせることで無理やり連撃を止めさせる。


 一瞬だけ意識が自分から外れたのを確認すると、追加で作った血の武器に影の鎖を巻き付けて、操作して自分を上に跳ね上げて一気に加速。

 大きく弧を描きながらすさまじいGを感じて顔を歪め、遠心力をたっぷりと乗せた攻撃を叩き込む。

 かなりの速度と勢いが乗った攻撃だったが、的確に反応されて防がれてしまう。しかし現実と同じように物理法則がこの世界で働くようになる物理エンジンが仕事をして、美琴はその場に踏みとどまれずに蹴り飛ばされる。


 着地をしようにも速度が乗りすぎているので影に潜って、その勢いのままついでにフレイヤと刃を交えているアーネストの方にすっ飛んで行って、足元に落ちている影から飛び出て首を狙う。

 汚いと言われても構わない。それだけアーネストというプレイヤーの強さは脅威になる。


「そう来るか!」

「なんでそこから反応できるのさ!?」

「私の攻撃を利用してヨミさんの攻撃を防がないでください!」

「戦いは何でも使って勝ってこそだよ!」


 フレイヤが攻撃を仕掛けるタイミングでヨミも首を狙って行ったので、絶対に反応できないだろうと思っていたのに、フレイヤの攻撃を受け流してそれで自分の首を守った。

 なんだその変則ガードはとその技術に感嘆しつつ、更にヨミの後ろから三人まとめて串刺しにせんと突っ込んで来た美琴の突きを、足元に仕込んだ影魔術シャドウアーク『シャドウソーン』を発動させることでやり過ごす。


 フレイヤのランスを力で弾き上げて彼女にたたらを踏ませたアーネストが、振り上げた剣の勢いを殺すことなく体をヨミに向けて、そのまま初動を検知させて片手剣戦技『ノヴァストライク』を使って脳天に振り下ろしてきた。

 その真垂直の振り下ろしに、ヨミは右手の剣で戦技バトルアーツ『シャープスラント』の上位技、『サベージイレイザー』で袈裟懸けに振り下ろして垂直の斬撃を切り払いながら、そのままアーネストに斬りかかる。

 戦技というシステムによって強制的に取らされる動きであるため、まだ戦技が続いているアーネストは回避することができずにヨミの斬撃を食らうが、やけに硬い手応えが返って来た。

 見れば、HPこそ減っているがもろに食らったにしてはあまりにも少ない減り。恐らく、戦いが始める前に自分に施していたバフで被ダメージ量を減らしているのだろう。


 ならば徹底的にクリティカルを狙って倒してしまえばいいだけだと、戦技直後の硬直で動けないアーネストの首を狙う。……はずだった。

 まだ動けないはずのアーネストが、アロンダイトにまとっていたエフェクトが消えた直後にまたエフェクトが発生し、右上に向かって振り上げられる。

 戦技の連射。アーネストの後ろからヨミ諸共串刺しにしようとしていたフレイヤも、影の茨を自分の雷で破壊して出て来た美琴すらも、驚いたように目を見開く。


 そんな中で唯一、ヨミは「あぁ、やっぱりそういうことか」と一人納得していた。

 ジンと再会して二度目のPvPをした時、決着を着ける瞬間に戦技が終了すると同時に別の戦技が発動して、それが決着の決め手となった。

 あれから自分であの時のことを色々と再現しようとして、何回かに一回は戦技が発動した。そしてそれは決まって、ほぼ同じ条件だった。


「戦技は、終了と初動が一致していればそこから別の戦技に繋げられる。そうでしょ?」

「へぇ、私以外にこれを知っている人がいるとはね」

「前に偶然成功して、練習してどうにか連射できるようになったよ。使い慣れてる片手剣とナイフくらいしかできないけど」

「二種類の武器で戦技連結バトルアーツコネクトが使えるあたり、君も器用だね。ますます一騎打ちがしたくなった」


 ふっと笑みを浮かべるアーネスト。金髪碧眼に高身長のイケメンがそういう笑顔を浮かべると、なんだか無性に腹が立つ。

 ヨミなんて、男時代であっても場合によっては女の子に間違われることがあったくらいだ。なのでどんな笑みを浮かべても、女子からは可愛いとしか言われなかった。


「できれば、君たち二人は手出ししてほしくないんだけど」

「しないと思う?」

「あなた方は脅威ですから、ここで潰しておきたいですね。なので、大人しくこの四つ巴の状況を受け入れてください」

「まあ、そうだよね。仕方ない。ヨミ、ちょっと強引になるけど、私と密会をしないだろうか?」

「ボクが女の子だって分かっててその言葉をチョイスしてる? あまり変な言葉回しすると、ボクのファンが数百人規模であんたを殺しに来るよ」

「……失礼、誤解を招く言い方だったようだ。謝罪しよう」


 流石のアーネストも三桁以上のプレイヤーを相手に、生還できる自信はないようだ。

 少し盛りすぎたかもしれないが、変態紳士の多いヨミのチャンネルだ。もしかしたら本当に百人規模でやってくるかもしれない。

 もしそうなったら面白そうだなと思いつつ、そんな数の暴力で一人を攻撃させてはいけないなと頭を振る。


「……へ」


 こんなくだらないことを考えていないで、この一対一対一対一の状況をどうにかしなければと言う方に思考をシフトすると、今までの比じゃないくらいの速度でアーネストが急接近してきた。

 様子見としてなのか、あるいは女の子だからなのか、この数分の間のやり取りは手加減していたのかとカウンターで足を振り上げようとしたが、ぱしっと腕を掴まれてぐいっと引っ張り上げられ、そして足元に出現した魔法陣に二人とも飲み込まれる。

 何かに強く引っ張られるような不快感に顔をしかめつつ、景色ががらりと変化したことに気付いて、それが転移魔術だったのだと理解する。

 手を掴んでいた力が緩まったので振りほどき、バックステップで距離を取る。


「これで、邪魔者はいなくなった。これなら思う存分、君との全力の一騎打ちが楽しめる」


 非常に楽しそうな笑みを浮かべながら言うアーネスト。雰囲気ががらりと変貌し、ここからが本番なのだと空気で感じ、つ……、と汗がこめかみから流れるのを感じる。

 要所要所でブリッツグライフェンのエネルギー消費を使って節約している場合じゃないなと、常時エネルギーを使った強化状態になる。

 彼ほどの実力者だ。エネルギーを溜めるために必要な強い衝撃など、いくらでもくれるだろう。


「それじゃあ、存分に戦おうか!」

「言われなくても!」


 雷神と機神から離れて仕切り直した第二ラウンド。

 魔王と剣聖のみの一騎打ちとなり、今度こそ思い切り遠慮もせずに衝突する。

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