ギルド対抗戦 決勝 2
予想よりも早く来たと思ったら別のギルドだったので、ポイントを稼ぐついでにアップも兼ねて一つのギルドを単独で壊滅させたヨミは、再びひらひらと舞を舞う。
舞と言っても、ヨミにはそういう知識などないのでなんとなくやっているだけだ。ちゃんとした知識のある人が見れば、でたらめで舞とすら呼べないと言われるだろう。
ではなぜ舞など行っているのか。それはヨミの付けている星月の耳飾りの効果を発揮するのに必要な動作だからだ。
星月の耳飾りは、アンブロジアズ魔導王国の騎士NPCをパーティーに入れた状態でグランドクエストを達成し、後日国王マーリンと謁見することで受け取れる選択型報酬の一つだ。
こうした特別な条件を含めた上での、高難易度クエストの達成。それで手に入れた装備品の効果は、まさに破格の一言だ。
耳飾り自体何か攻撃スキルが付いているわけでもなく、ヨミの固有スキル『
ただそのバフが非常に強力で、吸血鬼という種族との親和性がものすごく高い。
吸血鬼は夜に力を取り戻し、月が満ちていればその分だけ力が増す種族だ。特に何も自分の種族について説明がなかったので気付かなかったが、こういう種族らしい。
それで星月の耳飾りは、これを装備した状態で月灯りを浴びながら踊りを披露することで、星月ゲージが蓄積されて行き満タンになったら任意で『
HP・MPの自然回復量の増加。筋力値・魔力値への追加補正。だが真価はそれではなく、バフが発動している五分間は月魔術という魔術の使用が可能になる。
この月魔術というのが非常に強力で、夢想の雷霆に一人素でこの魔術が使えるバッファーがいるが、見た限りではひたすらバフとデバフに特化している感じだ。
自分の筋力にバフをかけて相手にデバフをかけたり、効果時間が一瞬だけだが上手く使えれば攻撃力を十倍近く跳ね上げたり、ほぼ全ての状態異常を無効化したりと、もはややりたい放題である。
支援に特化しすぎた代償なのか攻撃性能は皆無で、見た目は非常に派手な攻撃っぽい魔術も、ただノックバックを強制させるだけでダメージなどはいらないと言う仕様だ。
しかしバフが自分にも有効なので、他の魔術を習得していれば自分で自分を超強化できるらしい。
そんな月魔術を使えるようにもなる耳飾りだが、効果を発揮するのにこうしてわざわざ月の下で舞を一定時間舞わなければばならず、途中で中断したら最初からやり直しとなる。
なのでできるなら条件を揃え切ってから他ギルドが来てほしかったのだが、そう自分の都合よく行くことはない。
「……~♪」
適当に舞を舞っていると、だんだんと調子が乗ってきて気分が高揚し、自然と鼻歌が零れる。
目を閉じて耳を澄ませる。あちこちで戦っている音が聞こえるのに、それ以上に風が草花を撫でて揺らす音が心地よく聞こえる。
夜の時間帯に設定されているため、聞こえてくる鈴虫の声。何かの鳥の声。それらが幾重にも重なりあって行って、まるで合奏の中で踊っているような感覚になる。
───あぁ、なんて心地いいのだろう。踊りなんてよくわからないのに、ずっとこうして踊っていたい。
気分がどんどん高揚していき電脳世界の己の体が芯から火照り始める。そのほてりすらも心地よくて、思うがままに舞い続ける。
しばらくそうして踊り続け、いつの間にか星月ゲージが溜まり切っていつでも月下美人状態に移行できるようになったところでぴたりとやめる。
「……ご清聴、ありがとうございました」
前にリタがやったようなカーテシーを見よう見まねで、しかし恥ずかしいのでかなり控えめにする。
直後、パチパチとゆっくりと手を叩く音が聞こえる。
肘まで覆う長手袋を付けたリタの手では鳴らない。なら美琴か、あるいはフレイヤかと当たりを付けるが、拍手の聞こえる方を向いてすぐに違うと分かって警戒を最大まで引き上げる。
「実に素晴らしい舞だったよ、
そこにいたのは、男性だった。
全身を白の衣装で覆い、胴体の急所を守る軽鎧や金属ブーツ、ガントレットの最低限の防具を身に着け、腰に絢爛豪華な装飾の施された剣を差している金髪の男性。
初めて見るが、初めてではない。一番の脅威だからと、散々アワーチューブに残っているアーカイブを見返して対策を練って来た、FDO最強プレイヤーが一人。
「初めまして、麗しき吸血鬼のお姫様。私はギルド、グローリア・ブレイズのマスター、アーネスト・ノーザンフロスト。以後お見知りおきを」
恭しく騎士がするような例をする。直後に強烈なプレッシャーが放たれる。
「そして頂点に至るために、あなたの首を頂きます」
腰に差している剣の柄を握り、すらりと引き抜く。
思わず目を瞠り息を飲んでしまうほど美しい銀色の剣身。彼の奥の手ともいえる、現時点で恐らくだがFDO最高倍率の竜特効付きのユニーク武器、『聖剣アロンダイト』だ。
何でできているのかなんて分からないが、何でできていようが関係ない。たとえあれば
自分の弱点物質でできていたり属性がかかっていようが、クリティカルされてしまえば一撃だし、クリティカルで倒してしまえばいい。
「ちょっと待ったー!」
ヨミもブリッツグライフェンを出して、片手剣二刀流にして次々とバフをかけていこうとしたところで、落雷のような音と共に聞き覚えのある声が聞こえて来た。
アーネストと一緒に顔を向けると、そこには薙刀を右手に持って体に雷をまとわせている少女、美琴がいた。
「ヨミちゃんと決勝で戦う約束はしてたけど、アーネスト君との決着も付けるって言ったはずよ」
「それはそうだが、随分派手な登場の仕方だね?」
「こうすれば戦闘開始をキャンセルできるかなって。ま、おかげでもう一人も来ちゃったけど」
美琴が上を見上げたのでヨミも見上げると、フレイヤがなぜか空にいた。背中から翼を生やして。
見つかったと気付いたフレイヤはすいーっとゆっくりと降りてきて着地し、背中の翼を畳む。よくよく見ると本物の翼ではなく、真っ白な機械の翼だ。
「三大ギルドのマスターが勢揃いですね。いえ、もはや四大ギルドでしょうか」
「大って名乗れるほど大きなギルドじゃないですけどね」
「ですが人気は私たちと同じくらいでしょう? あなたが一般入団申請を解禁すれば、瞬く間に数百件来ると思いますよ」
「うひゃあ……。想像したくない……」
絶対頑張ったご褒美に罵ってほしいとか言ってくる類の変態とかが混じっているに違いない。あるいは、雑魚と罵りながら踏みつけてほしいと懇願してくる奴。
「てっきり、私と吸血鬼のお姫様との二人きりのダンスパーティーかと思ったのだがね。……しかし、私以外全員女の子か」
「喜びなよアーネストさん。ハーレムだよ?」
「ちょっと気にしてることをズバッと言うね? ……私だって男だし、綺麗な女の子に囲まれるのはそれなりに嬉しいけど、かといって女の子だからと手加減するようなやわじゃないよ」
「むしろ女の子だから手加減するような奴だったら、容赦なく※※※を蹴り飛ばす」
「ヨミちゃん、君は女の子なんだからそんなフィルターがかかるような下品な言葉を言っちゃいけないよ?」
「そ、そうだよヨミちゃん! せっかく清楚系な女の子なんだから!」
アーネストはひくりと頬を引きつらせながら冷や汗を垂らし、美琴は顔を真っ赤にしてしかりつけ、フレイヤはよくわかっていないようで首をかしげていた。
こういう反応をされて、どう頑張っても女の子でしかないのだなと大人しく受け入れて、『
「
ヨミが戦闘態勢に入ると、美琴も合わせて戦闘態勢に入る。背後の頭上に浮かんでいた一つ巴紋が三つに増えて、アーカイブ通りならこれで彼女自身から雷が放たれるようになる。
「『
続けてフレイヤが、背中に付けていた機械の翼をしまってから空のどこに隠していたのか、一本の巨大な柱が落下して来てそれに触れながら言の葉を紡ぎ、柱の外表が変形しながらフレイヤの体を覆って鎧になり、残った部分が白の螺旋を描くようなランスになる。
「『
両手でアロンダイトを持ったアーネストが顔の前で垂直に構えると、彼自身が眩しい光に包まれて、瞳の色が青から金色に変化する。
これで全員が完全に戦闘態勢に入り、全力状態となる。
誰かが一歩でも動いたら戦闘開始。その最初の音頭を切ったのは、真っすぐアーネストに突撃していったヨミだった。
「『ヴォーパルブラスト』!」
「『ノヴァストライク』!」
ヨミが右の剣で突進系戦技の最上位技を使い急接近し、アーネストが『ヴァーチカルフォール』の上位技でそれを迎え打ち、すさまじい金属音を撒き散らす。
それを開戦の鐘の音となり、今ここに雷神、機神、剣聖、そして魔王の四つ巴の戦いが始まった。
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