ギルド対抗戦 準決勝 8
シエルから伝えられていた、クルルには絶対に固有戦技を使わせてはいけないという警告。
ただでさえバルカン砲という連射速度がおかしい武器を、どれだけ弾薬を抱え込んでいるのかすっとぶっぱなし続けられるほどのリソースを有しているのに、更に回転速度を上げて弾丸魔術ランダム連射してくる固有戦技なんて使われたらたまったものじゃない。
ヨミはあくまで、シエルがヨミほどの機動力がないから恐れているのだとばかり思っていたが、勘違いも甚だしかった。
結論から言ってしまえば、本当に彼女の固有戦技『フェアデルベン』は使わせてはいけなかった。
ヴォ!! という音と共に、大量の弾丸が放たれる。その数、推定
ただでさえ頭のおかしい連射速度をしているものが、よりおかしくなってしまった。そこに弾丸魔術がひたすらランダム起動してくるのだから、ひとたまりもない。
「無理無理無理無理無理無理無理!?!?」
「やっぱ使わせないように立ち回るのがベストだったよヨミちゃん!?」
「なんなんですかこのめちゃくちゃな固有戦技!?」
『なんですぐに突っ込んで止めようとしなかったんだお前!?』
「だってどうせなら思い切りやりたいじゃん!」
『その結果がこの化け物の降臨だバカ! この瞬間、クルルさんマジで魔王って言ってもいいレベルだからな!』
表現として、弾丸が壁のように迫ってくると言うのは見かけるが、本当に壁みたいな密度で来るのはどう考えてもおかしすぎる。
ブーツ形態を解除して刀形態にしてから、速度を一切落とすことなく全力疾走しながらブレッヒェンをよく観察すると、砲身全てからマズルフラッシュが発生している。
バルカン砲の構造的にあり得ない光景にいよいよ思考を放棄しそうになるが、要するに回転数を上げた上で七つの砲身全てから同時に弾丸が放たれているのだろう。
とりあえず走り回って周囲の廃墟諸共粉微塵にさせて分かったことがある。
まず、フェアデルベンを発動させた今の状態では、反動が強烈すぎるためかその場から全く動けなくなり完全な固定砲台と化す。なので本来は、前衛やタンクがいて運用するものなのだろう。
もう一つは、反動が大きすぎるため向きを変えるには一度射撃を止めないといけないようだ。ヨミのことを最優先で排除しようとしているが、武装状態でのトップスピードを維持して疾走しているため、長くても二、三秒しか撃ってこない。その間に二千から三千発の弾丸が飛んでくるのは理不尽すぎるが。
「いつまでもヨミさんばかりを狙わせるわけにはいきません!」
殺戮の嵐がヘカテーたちから外れると、ヘカテーが真っすぐクルルに向かって走っていく。
ヨミがよくやる様に、血の鎖を飛ばして巻き付けながらの加速。まだ粗削りなところも多いが、直線的な動きは大分様になってきている。
「リオンやヨミに比べると遅いわね!」
両手斧を振りかざして首を狙ったが、驚異的な反応速度でクルルはそれを回避して、ブレッヒェンを武器に殴り飛ばす。
ヘカテーはくるりと空中で回転して地面に着地しようとするが、銃身がヘカテーの方を向こうとしたのを察知して先に鎖を飛ばして、体が小さく軽いヘカテーを自分の方に引き寄せる。
直後に千発の弾丸がヘカテーが着地しようとしたところを通過していき、その先にある廃墟が粉微塵にされる。
あんなもの、ジンのようなタンクでなければ即死必至だ。
「あ、ありがとうございます」
「無理に攻撃はしないほうがいいよ。シエル、何かいい作戦ある?」
『今のところないな。姉さんがシェリアさん見つけられればチャンスはあるけど、あの人隠れるとマジで見つからないから』
「なんか聞けば聞くほど、なんというか、あれだね」
『分かってても言うなよ』
どれだけ逃げ足が速いのかが気になって仕方ないが、今はクルルだ。
ヘカテーを左腕に抱えながら、クルルに捕捉されないように不規則な動きをしつつ全力疾走。ついでに魔力と銃弾を無駄撃ちさせるために、あえてその中に直線的で隙だらけな動きを紛れ込ませる。
クルルは誘っていると分かっているような顔をしているが、その隙にわざと乗っかってくれているようだ。余程シェリアのオペレート能力を頼りにしているらしい。
「ずっと盾の裏に引きこもっているのも嫌だからね! 俺も前に進ませてもらうよ! 『チャージシールド』!」
雷竜の鱗盾にエフェクトをまとわせながら、それを前に構えて突進するジン。
ぎゅん! とすさまじい速度で砲身をジンに向けるとほぼ同時に秒間千発の嵐が襲い掛かる。
ヨミが来たことでスキルでHPを回復させていたが、殺戮の嵐を盾で防ぐとじわじわHPが削れて行く。
物理カット率も魔術カット率も非常に高い盾だが、あの密度での攻撃を受けるとそのカット率もかなり低いように見えてしまう。
ブレッヒェンが自分たちから外れたのを確認すると、すぐさまクルルに襲い掛かるヨミとヘカテー。
それすらも分かっていると見向きもしないで、同時の攻撃を体を少し動かすだけで回避してしまう。
ここまで完璧に避けられるということは、どこかからシェリアのドローンが見張っているということだ。
一分先を予測しきってしまうブレーンをどうにかしなければいけないとヘカテーとアイコンタクトし、こくりと頷く。
少しの間ヨミが離れて彼女にクルルのヘイトが向くことになってしまうが、そこは彼女の実力を信じる。
小学生プレイヤーでありながら、対人戦ではかなりの好成績を収めている実力者だ。任せても問題ない。
ヘカテーとジンの二人に魔王状態(仮称)のクルルを任せて、ヨミは影に潜って近くにある時計塔のてっぺんにある影から姿を現して、そこから見まわす。
こんな単純な方法で見つけられるとは思えないが、何かを探すには高いところからは定石だ。
「シエル、シェリアさんのドローンがどこにいるか分かる?」
『いくつかの目星は付いてるけど、なんとも言えない。しらみつぶしにしたところで逃げおおせるだろうし』
「ノエルはシェリアさんのドローン追いかけて行ってそれっきりだし、どこかに潜んでるギルドに追いかけられてるんじゃないかって心配になるよ」
『それは心配しすぎ。……ん? あー、ヨミ。朗報だ。多分姉さんが見つけた』
「マジ? マジだ。いや、猪突猛進の脳筋すぎない?」
離れた場所にいても分かるほど、破壊の痕跡を残していくノエルが見える。
適当に動き回っているのではなく、何かを追いかけているかのように廃墟を更に破壊している。
固有戦技はノエルのMPだと最大でも二回しか使えないので、恐らく突進系のメイス戦技と『チャージシールド』を上手いこと連携しているのだろう。
「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいい!? 何なのこの子おおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「待てええええええええええええ! 私たちの勝利の礎になってええええええええええええ!」
「ノエルの奴、何言ってんだか」
とりあえず、ずっと姿が見えずにいたシェリアを捕捉した。
長い金髪を緩くウェーブさせており、美琴とほぼ同じくらいの身長で美琴以上のナイスボディの美女だ。軍服のようなデザインのジャケットにタイトスカートという、もう見るからに非戦闘員のオペレーターといった容貌だ。
走るには不向きそうなハイヒールとタイトスカートなのに、ノエルから逃げ回れているので何かしらの逃走用のスキルを持っているのかもしれない。
あれだけ混乱状態になっていれば、流石にヨミの行動までは読めないだろう。
『ドローン、見ーつけた。
シエルのその言葉と共に、少し離れた場所から真上に向かって銃弾が放たれて、すさまじい軌道を描いてどこかに飛んでいく。
それはヨミから見て百メートルほど先にある灯台に向かっている。全く見えていないが、何もないところから染み出すように姿が見えたので光学迷彩か何かで隠れていたようだ。
すぐに刀をブーツに変形させて、鎖を灯台に向かって飛ばしながら時計塔を破壊しながら全力跳躍。直線状に進んでいってドローンに蹴りを放つが回避されてしまう。
灯台に伸ばしていた鎖を引っかけながら上に軌道を強制的に変更。血を大量に消費して十本の血の武器を形成してから、それらを使い捨ての一回限りの足場にして追いかけていく。
「残り一割もないけど……『ウェポンアウェイク・
最後の一本の血の武器の足場を破壊して灯台に足を付け、一割を切っているエネルギーを全て脚力の超強化と追撃に回すブーツ形態の全放出を使う。
灯台を蹴ってへし折りながらドローンに向かって飛び出し、片足跳び蹴りで攻撃を繰り出す。やはり回避されてしまったが、超強化された脚撃の衝撃波でドローンがふらつく。
先ほど、通過していってしまったシエルの弾丸が、もう一度軌道を変えて戻ってくる。三重に展開していた魔道弾による二度目の軌道変更だ。
もちろんそれすらも避けようとしていたが、意地でもさせまいと魔術を使う。
「『ジェットファランクス』!」
落下ダメージを無効化するため影に潜る分のMPを残して、漆黒の槍の大軍を作り上げて物量で攻撃する。
すさまじい速度で放たれた槍衾がドローンを弾き飛ばし、ぼろぼろにする。それでもまだ壊れていない辺り、どれだけ硬いんだよと苦笑するが、これでシェリアの目は潰せた。
標的だったドローンが槍に弾き上げられて、ほぼ同じ場所にいたヨミに向かってシエルの弾丸が向かってくるが、最後の一回の軌道変更で鋭角に軌道を変えてドローンに吸い込まれて行き、ど真ん中を撃ち抜いて破壊する。
「やりぃ! ナイスだシエル!」
『朝飯前だな。それより、お前のそのブーツ、マジで気になるから後で貸してくんない?』
「ボクの専用装備だし、シエルのステータスじゃ装備すらできませんからダメですぅ。残念でしたぁ」
『……なんかこう、すっげぇうぜぇ。メスガキに煽られるのってこんなにウザいんだな』
「幼馴染にメスガキって言われたくなかったっす」
『じゃあやんなよ』
ごもっともだ。
かなりの高さからどんどん落下していき、タイミングを見極めて影に潜ろうと地面を見つめていたが、ドローンが破壊されて動きが止まってしまったシェリアをメイスでぶん殴って仕留めたノエルが、助走をつけてジャンプしてキャッチしてくれたのでMPが温存できた。
ヨミのことをキャッチしてくれたノエルが、地面をスライドしながら停止して下ろしてくれる。
「よく見つけたよね」
「高いところにいるかもしれないのは当たり前すぎるから、とにかく小さいお家を探し回ってたら見つけたの」
「つまりは偶然だったと。それでも功績はでかいよ。よく頑張ったね」
ちょっと背伸びをして、少し埃の付いている頭を優しく撫でる。リアルと同じで柔らかく、肌触りがいい。
「……さっきシエルにやったこと、不問にしてあげる」
「今のボクマジでファインプレーじゃん」
『姉さんヨミに甘すぎ』
「甘くたっていいじゃん。だって甘やかしたいくらい可愛いんだもん」
「そりゃどうも。よし、ヘカテーちゃんたちのところに戻ろう。クルルさんと戦ってるし」
最後の一人となってしまったクルルと戦っているヘカテーたちの元へと急ぐ。
あの回転数が上がりすぎて現実じゃ絶対に聞けないであろう銃声が止まっているので、もしかしたら決着がついているのかもしれない。
数秒でヨミが元いた場所に戻ると、右足と右腕を欠損したヘカテーとどうにかタンクスキル『ガッツ』で耐えたのかHPを1残して動けなくなっているジン、そしてMP切れを起こしたのかあるいはブレッヒェンが使い物にならなくなったのか、デザートイーグルみたいな大型ハンドガンを両手で構えたクルルがいた。
「……もう、私以外は残っていないようね」
「そうだね。残りはクルルさんだけ。ボクとしては、ここで降参してほしいんだけど」
「降参? はっ、バカにしないで頂戴。この私が、降参するわけないでしょ。あんたたち五人にキルされるまで、せめて一人でも持っていく覚悟であがいてやるわ」
もう弾丸魔術を使えるだけのMPも残されていないだろうに、闘志は未だに瞳の奥で燃えている。
この最後まであきらめない心というのも、彼女をプロゲーマーたらしめているのかもしれない。
なら、亡霊の弾丸と銀月の王座の決着は、マスター同士でやるのが礼儀だ。
もうエネルギーが残っていないので、ブリッツグライフェンを刀に変形させる。それだけで全員察してくれて、ノエルはヘカテーに駆け寄って抱え上げて距離を取る。
彼我の距離は五十メートルほど。自然回復したMPで強化魔術を使えるが、彼女はもう魔術が使えないだろうから、こちらも使わずに純粋なプレイヤースキルのみで行く。
腰を深く落として抜刀術の構えを取る。クルルも両手でしっかりとグリップを握り、引き金に指をかける。
風は吹かず、ただ無言の時間が続く。
がらりと、崩れかけていた廃墟が完全に倒壊する。その音が止むと同時に、ヨミが飛び出し、クルルが引き金を引く。
ドパァン! というすさまじい銃声が響き、瞬く間に五十メートルを食い潰す。的確に、ヨミの額を狙っている。
どこを狙ってくるのかは視線と銃口で分かっていたので、銃声が鳴る前に抜刀して自分と銃弾の間に刃を置き、弾丸が進む力で自らを切断させる。
刀の距離まで接近して首を狙おうとするが、流石はプロ。すぐに持っているハンドガンを放棄して、右袖の中に隠していたデリンジャーを素早く展開し、ぴたりと額に押し付けてくる。
ぐっと引き金にかかっている指に力が入るが、今度こそ避けないと決めているヨミは左手を柄から離して、右手を掴んで額から離し一発限りの弾を明後日の方向に撃たせる。
掴まれている手を離させようと抵抗するが、技も何もないステータスでの筋力の高さに物を言わせた力技一本背負いで投げて背中から地面にたたきつける。
肺の中の空気を吐き出したクルルは激しく咳き込み、動けないところに首筋にピタリと刃を触れさせる。あと少し押し込めば、首を斬ってクリティカルで即死する。
「ボクの勝ち、だよ」
「そうね。これは流石に私の負け。でも、降参はしない。ほら、さっさと首を落としなさい」
「最後まで強気ですね」
「それが私よ」
「最高のゲーマーですね」
ふっと笑みを浮かべてから、ぐっと刀形態ブリッツグライフェンをを押し込んで首を斬り、クリティカルでHPを全損させる。
これでやっと一番厄介なギルドを排除できたと安堵し、脱力せず警戒を緩めず立ち上がって構える。
「さてさてさーて、近くにいるんでしょ? 出てきたら?」
じわじわ蓄積されつつあるブリッツグライフェンのエネルギーを見ながら、声を少し張り上げる。
結構濃密な戦いだったが、亡霊の弾丸は最後のギルドではない。まだ最後に一つだけ残されている。
「……ぶっちゃけ、あんなヤバい戦い見せられた後に、消耗しているとはいえ勝てる気がしないんだけど」
そう言いながら出てくるのは、ブレストプレートや籠手などの最低限の防具しか着けていない軽戦士を筆頭に、魔術師、ガンナー、タンク、サポーター魔術師の五人。彼らが最後のギルドのようだ。
「それじゃあどうする? 降参する?」
「まさか。あんなすげえの見せられて勝てる気はしないけど、あんなすげえの見せられて燃えないわけないでしょ」
「だよね」
全員曇りのない戦意を見せながら武器を構える。
それを見て、ヨミはニィっと笑みを浮かべながら残り僅かな血を使って刀に血をまとわせて強化・補強する。
欠損を回復したヘカテーも、HPを全快させたジンも、やれやれと肩をすくめていたノエルも、いつの間にか合流していたシエルも、全員武器を構える。
「さあ、ラストバトルだ。それに相応しい熱い戦いをしようじゃないか!」
ヨミのその声を音頭に、第一ブロック最後のバトルが始まり、五分という非常に短い時間で決着が付いた。
負けるのは分かっていたが何もせずに負けるのは嫌だ。その心意気で勝負を挑み、そして挑戦者は負けた。
ヨミたちと戦った最後のギルドのプレイヤーたちは、かなり一方的にやられてしまったにも関わらず、満足げな表情で退場していったのだった。
===
近況ノートを更新しました
作者が勝手にやってる『勝手にQ&Aコーナー』
Q.クルルのブレッヒェンの固有戦技ってどんなやつ?
A.固有戦技『フェアデルベン』。元々秒間約200発とかいう化け物バルカン砲を、七つの砲身全てから同時に弾丸を放ち、かつ回転数を爆上げすることで秒間1000発以上の弾丸をぶっぱするトンデモ戦技。百発ごとに弾丸魔術がランダムで切り替わるので、ジンみたいに大量のタンクスキルや盾戦技を同時に使用して無理やり防ぐ以外ほぼ防御手段がない。MPの消費が通常の十倍になるから長時間の使用は不可能。あとその場から動けなくなるので、完全に固定砲台と化す。かつて偶然エンカした金竜王ゴルドフレイと戦った際、この固有戦技を使ってあと一歩のところまで追い詰めたことがある、マジもんの切り札。素の反動がデカすぎる上に弾丸魔術特化の固有戦技のため、筋力と魔力値両方がかなり高い数値を要求される。
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