ギルド対抗戦 準決勝 7

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいい!?」

「マジでいつ弾切れすんだよおおおおおおおおおおおおおお!?」


 ヨミがリオンと戦っている間、ジンとヘカテーはクルルと相対していた。

 クルルがバルカン砲ぶっぱしてくるので戦い、と呼ぶにはあまりにも一方的な状況になっている。


 シエルから事前に、彼女の使う七砲身バルカンのユニーク武器『ブレッヒェン』は、魔力を猛烈に消費しながら回転数を爆発的に上昇させて、習得している銃弾魔術を一発ごとにランダム起動してくると言う頭がおかしくなりそうな固有戦技『固有解放ブートオリジン破滅術式フェアデルベン』を一番警戒しろと言われていた。

 なので少しでも固有戦技を使いそうなそぶりを見せた瞬間、ヘカテーが身を文字通り削りながら突進してそれを阻止しているのだが、固有戦技なしでもそもそもの回転数が高いので、それだけで弾丸が壁のように迫ってくる。

 秒間で一体何百発、下手したらそれ以上出ているのではないかと思うほど、クルルはずっと引き金を引き絞っている。


「本っ当に硬いわねあんた! いいタンクじゃない気に入ったわ!」

「そりゃどうも! こんながちがちに固めてても、うちのマスターには勝てないんだけどな!」


 幸い、亡霊の弾丸の攻撃手段は、リオンとアサシンっぽかったアイザックを除いて全員が遠距離だ。

 盾戦技に投擲を含めたあらゆる遠距離攻撃を100%カットする『シールドオヴアイアス』があるので、効果時間中はひたすら盾の裏に引きこもっていればダメージは受けないし、戦技が終了しても弾丸は物理なので物理カット率の高いこの盾のおかげでダメージは微々たるもので、人間族の特性で防御が固くガードブレイクも中々発生しない。


 それに、文字通りの弾幕を張っているが銃という武器の特性上銃弾は基本真っすぐしか飛ばない。亡霊たちのスナイパーやシエルは余裕で曲げたり、えげつない跳弾をしてくるが。

 クルルはそういう銃弾を曲げる魔術は持っていないようなので、ヘカテーがどうにかして弾幕の外側に出ることができれば、クルルはどちらかの対応にリソースを割かなければいけない。

 どれだけ個人が強くても、ヨミという複数対一を余裕でこなしてくる例外もいるが、一対多数は一の方が不利だ。


「とはいっても、この弾幕の中から抜けるにしてもあちらさんの反応速度半端ないから、ヘカテーちゃんがアイアスの外に出られないんだよな……!」

「ごめんなさい……。私にヨミさんみたいな影に潜れる魔術があったら……」

「あれはヨミちゃんだから許されてる気はするけどね! ヘカテーちゃんも十分強いから、気にしなくて大丈夫! つーかバルカンとかなら銃身に籠る熱とかどうしてんだよマジで! 冷却用の魔術でも覚えてんのか!?」


 『シールドオヴアイアス』使用中は、ジンはその場から一歩も動けない。自分ではない他人に動かしてもらっても同じで、両足が地面についていることが発動条件なのだろう。

 なのでこのまま前に詰めることもできないし、アイアスが終了しても強烈な弾幕のおかげで進むこともできない。

 相手はプロゲーマーで反応速度はヨミやシエルとほぼ同じ。仮に弾幕を抜けても、クルルがこんなバルカン一つでプロになれたとは思えないし、あれがなくても普通に戦えるのだろう。


 どうしよう、どうしたらいいと歯軋りしていると、突然クルルがはっとなって顔を上げてバルカン砲ぶっぱを止めて、その場から離れる。

 そのすぐ後に、ガンガンと音を立てながらめちゃくちゃに跳弾してきた弾丸が、路地に逃げようとしているクルルを追いかけるように急カーブを描いて飛んで行った。

 曲がって追いかけていった弾丸はクルルを追いきれずに壁にぶつかって止まってしまうが、とにかくこれで弾幕が止まった。今がチャンスだ。


「シエルくん! 助かった!」


 タンクスキルの自己回復スキルを使いながらパーティーチャットで礼を言う。


『気にしないでいいよ、ジン。それよりも遅くなってごめん、トーマスさんがまだ生きてて援護に来るの遅れた』

「さっきのビル倒壊ってやっぱ君なんだ。ヘカテーちゃんビビってたよ?」

「び、ビビッてないですっ」

『それはごめん。どうにかしてトーマスさん仕留めて来たから、ここから援護するよ』

「なんでプロ相手に……いや、君もプロだった」


 ヨミとの模擬戦で勝率三から四割を行ったり来たりなのでちょっと印象が薄いが、シエルは日本のFSPのプロゲーマーだ。むしろプロ相手に、FPSではなくMMORPGとはいえ勝率六から七割を維持し続けているヨミの方が色々とおかしい。


「あんたたちのとこのガンナーもやるじゃない! まさかうちのトーマスがやられるなんてね!」


 路地裏に逃げ込んでいたクルルが、廃墟の屋根の上に跳び出て姿を見せながら、声を張り上げる。

 なんというか、声が一々大きいのでじゃじゃ馬お嬢様っぽさを感じてしまう。


「プロFPSゲーマーでは結構有名らしいよ、うちのブレーン」

「鬼畜ブレーンだったかしら? さっきのビル倒壊、まさかデビュー戦のものをここで再現するとは思わなかったわ」


 ふんっ、と鼻を鳴らすクルル。その間もバルカンの銃身がギュルルルルルと回っており、いつでもお前達を挽肉にできるぞと脅されており、ヘカテーが飛び出せないでいる。

 さて、どうやってこの固定砲台系ガンナーお嬢様を攻略してやろうかと頭の中で戦略を組み立てていると、少しだけ離れた場所から鎖が擦れるような音が聞こえたので、勝ちを確信する。


「……は!? リオンが!? 嘘でしょ!?」


 シエルから最も警戒すべきだと言われていたリオンが倒されたのをクルルの反応から察する。

 なんで本当にプロ相手に立ち回れるんだと頬が引き攣るが、初見で装備もスキルも揃っていない状態で、本気じゃないとはいえ赫竜王相手に戦って生き残ったり、二時間という時間制限がありながら初見で時間内に赫竜の首を落としてくるような人だ。プロ相手なんて朝飯前なのだろう。


 などと思っていると、銀色の何かが姿を捉えることすら困難な速度で通過していき、伸ばした鎖を建物に引っかけることで急旋回して更に加速して、背後からクルルを蹴り飛ばした。

 あまりの速度に蹴り飛ばされたクルルは悲鳴すら上げられず、一度強烈に地面に叩きつけられバウンドしてから朽ちている時計台に衝突して体を減り込ませる。

 今の速度でリアルと同じように物理法則が働く物理エンジンによって、加速の勢いと本人の蹴りの威力が合わさった今の攻撃を食らったら、多分ジンだったら一撃でHPが消し飛んでいたかもしれない。

 それほどまでにすさまじい勢いと威力だったし、聞いていて身の毛のよだつような音が聞こえた。


 それでもHPがレッドゾーンに突入しただけで生きているので、防御系のスキルを咄嗟に使ったのだろう。

 遅れて、激しくクルルが咳き込み始めたところで、そういえばヨミはどこに行ったのだろうと周囲を探した。



「痛たた……。今の攻撃はあまりするもんじゃないな……」


 クルルを超加速によって得た勢いと、鎖を引っかけることで強烈な遠心力を得て繰り出した蹴りで蹴り飛ばしたヨミは、蹴りのタイミングで鎖を消したのでその勢いのまま直進してしまい、建物の中に飛び込んでセルフクリティカルで唯一のストックを無駄にしてしまった。

 壁に減り込んでいる自分の体を影に潜ることで抜け出し、自滅したのを隠すようにバフも切れているので血液パックを飲んでほこりを払ってから外に出る。


「ジン、大丈夫?」

「あ、いた。大丈夫だよ、助かった」

「シエルも援護に来てるよね?」

「スナイパーとしてね。トーマスさん倒したって」

「そりゃ重畳。あの人とシェリアさんの予測能力の相性えげつないから、ここで排除できたのはでかい」

「……今なんで建物から出て来たんです?」

「勢い余って飛び込んじゃった」


 嘘は言っていない。


「あ、あんたが、ヨミね……! よくもやってくれたわね……!」

「今のあの速度で脚力強化のブーツ形態の蹴り喰らったのに生きてるってマジ?」

「多分ギリギリで防御スキルか魔術を挟み込んだんだと思うよ」

「それしかないよね。あるいはタンクスキルのガッツとか」

「あれだけガンナー特化だからガッツはないんじゃないかな」

「ごちゃごちゃ話してないで、勝負よ!」


 話し合いなどさせないと言わんばかりに、バルカン砲の引き金を引いて弾幕を張るクルル。

 ヘカテーはすぐにジンの背後に隠れて被弾しないようにして、ヨミは流石にあの濃密な弾幕の中を突っ走ることはできないので、思い切り地面を蹴って右に跳ぶ。


「うおぁ!?」

「ひゃあ!?」

「ごめん!」


 加速用の衝撃波が出るラインを超えてしまったようで、地面を粉砕する音と共にジンとヘカテーの短い悲鳴が聞こえた。

 すぐに謝りながら一歩でクルルの弾幕から右に外れて、追いかけるように銃口をこちらに向けてきたので、廃屋を破壊しながら再び跳躍して弾幕から逃れる。


 それ以上方銃身をヨミに向けるとジンとヘカテーの方に向けるのが遅くなってしまうので、離れていったヨミに鋭い睨みを利かせてから二人の方に向かってバルカン砲を戻す。

 そのタイミングで血のハンマーを作ってそれを足場にして、振り抜かれる瞬間に強く蹴って超加速。風の壁が叩きつけられて両腕で顔をガードしながら、真っすぐ銃弾のような速度でクルルに接近する。


「やっぱり来たわね!」


 待ってましたと笑みを浮かべながら引き金を引くをのやめて、銃身で殴りつけて来た。


「あっつ!?」


 それを手で受け止めようとしたが、触れた瞬間手の平にすさまじい熱さを感じて反射的に手を離してしまう。

 防御をし損ねてしまい顔面に熱せられた銃身が叩きつけられる。

 下手に堪えようとせずに殴り飛ばされて、地面を転がってからすぐに起き上がる。


 今の熱せられた銃身アタックは、ああいうガトリングのように連射する武器の宿命である、熱がこもると言う特性を利用したものだ。

 しっかりとあれも火の扱いになるようで、ただ殴られただけにしてはHPが大きく持っていかれている。


「今の反応できるんだね」

「その速度くらいならリオンも出せるわ。もっとも、あんたはバフをかけ忘れているみたいだし、それがあったら分からなかったわ」


 言われて、さっき自滅した時にバフが切れていて吸血バフ以外をやり忘れていることに気付く。

 なんで重要な局面で忘れるんだと自分でツッコミながら、よく使う血魔術のバフを重ね掛けする。


「……三対二。状況的には不利ね」

「ノエル、まだシェリアさん倒せてないんだ」

「あの子はオペレーター能力を買われてリオンが連れてきたのよ。ドローンの操作能力も飛びぬけてたから、本人はクソ雑魚だけど他で補ってプロ入りしたの。言っておくけど、本気で逃げたらリオンですら見つけられないから、多分あんたのとこの脳筋じゃ見つけられないわよ」


 本体が弱いタイプは、見つからないことを徹底することが多いので確かに見つけるのは困難かもしれない。

 しかしこっちには鬼畜ブレーン兼外道ガンナーがいる。トーマスを見つけ出してキルしたくらいなのだし、多分いそうな場所に目星をつけて爆撃でも仕掛けるだろう。


「こっちのブレーンが倒されたら、ほぼ私の負け。それまでにあんたら全員を仕留められれば私の勝ち。シンプルでいいわね」

「このあとまだ一戦控えてるから、お手柔らかに」

「嫌よ! もうこうなったらやるからには全力を出すわ! 止めないでよね、シェリア!」


 ニィっと、ヨミがよく浮かべる笑みと同質のもの。すなわち戦闘狂の笑みを浮かべるクルル。

 両手でしっかりと七砲身バルカン、ブレッヒェンを握ってその名を宣言させてしまった。


「『ウェポンアウェイク』───『固有解放ブートオリジン破滅術式フェアデルベン』!」


 ドス黒い複雑怪奇な魔法陣がブレッヒェンに現れ、吸い込まれるように消える。カタカタと、ブレッヒェンが震える。禍々しい雰囲気を纏っており、その様子はまるで、命を喰らい尽くしたいと言っているようにも見えた。

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