ギルド対抗戦 準決勝 6
この状況すらも、あちらのブレーンの掌の上なのかと戦慄を超えてもはや恐怖を感じる。
完璧に予測しきれるのは一分先までではなかったのかとシエルに文句を言いたくなったが、あくまで完璧なのが一分先まででそれ以上先は精度が落ちていくのだろう。
的中率が下がってしまうが、可能性を考慮して大量の予測を立てておいて、それに合った対策法も用意してあるのだろう。
とにかく、今は後一発でも食らったらクリティカルでなくてもHPを削り切られてしまう。致命の一撃ではないのでストックを消費して復活できるが、その復活するまでの間に今一緒にいるノエルはキルされてしまうだろう。
彼女の瞬間大火力は必要なので、ここで彼女を落とすわけにはいかない。なのでノエルの細い腰に『クルーエルチェーン』で作った影の鎖を巻き付けて、リオンの引き金が引かれるよりも先に遠心力を使って思い切り投げ飛ばす。
「ヨミちゃん!?」
「大丈夫!」
投げ飛ばされて離れていくノエルに一言そう言い残して、銃声が鳴ると同時に影の中に落ちる。
自分以外の物質は影の中に落ちてくることはないので、やはり改めてこの魔術の回避性能と移動性能はぶっ壊れすぎだと苦笑する。
今頃、今までこの魔術で被害に遭ってきたプレイヤーたちから運営に大量の抗議メッセージでも届いているだろう。
五秒の間に移動できる距離は限られている。ここから全力で移動してもどうせシェリアに予測されているだろうし、だったらいっそ潜った場所から飛び出て、そこから得意の高速機動で距離を取りつつ遮蔽物の多いところに移動したほうがいい。
「いや、弾丸曲げてくるんだってばこの人たち」
遮蔽物に身を隠していても、通過していった弾丸が曲がって戻って来るなんて容易に想像がつく。
なんで銃弾の軌道を曲げられる魔術なんてものを作ったんだと運営に愚痴りつつ、潜っていられる限界になったので強制的に追い出される。
追い出された勢いで足が地面から浮いた状態で地面に出て、そこを狙ったかのようにリオンが残っている右手のリボルバーで側頭部を狙って銃撃する。
影の中にいても彼がどこにいるのかは影を通して見えていたので予測しておいたので、ぎゅん! と体を回転させながら七割再生が終わっている右足を補完している機械的な琥珀色のブーツで弾丸を蹴って弾く。
着地してすぐに左足も琥珀色のブーツで覆って、ブーツ形態の機能で脚力に限定して超高倍率の強化を施して、真っすぐリオンの方に向かって地面を蹴る。
ボゴォッ! という地面を粉砕する音を響かせて、殴りつけてくる風から顔を両腕で守りながら一気に接近し、せっかくだし形だけでもそれっぽくしようと昭和時代が初代の特撮ヒーローの片足跳び蹴りのポーズを取る。
「なんっ、だ……この重さ!?」
「グランドウェポン、ブリッツグライフェンブーツモードの機能をとくとご覧あれ!」
高らかに言いながら空中で体を強引に捻り、左足で回り蹴りを叩き込む。
リオンはそれを片腕で防いで受け止めようとしたが、ヨミ自身でも制御しきれないレベルで脚力に強化が入っているので、空中にいるなら自分が吹っ飛ぶ心配ないよねと手加減なしで放たれた蹴りで隣の廃墟の壁をぶち抜き、そのまま数軒の廃墟を貫通していく。
「……わお。想像以上の破壊力」
ブーツ形態を使いこなそうと練習はしていたのだが、特定の行動以外強化幅が完全に固定されているのでその辺の出力の微調整はできず、更にその倍率が半端なく高いので、バフガン積み『血濡れの殺人姫』を使いこなせているヨミでさえ、制御が難しい。
明らかにおかしいだろと思ってクロムに聞いたら、攻撃の瞬間や強む踏み込んだ時にただでさえ高い倍率がより跳ね上がり、ブーツが触れている部分から衝撃を発生させてそれを加速や破壊力にしているそうだ。
制御に失敗したら地面ですり下ろされるか壁のシミになること間違いなしのトンデモ兵器で、使いこなせないほど強いという点では確かにロマンだが流石にこれはやりすぎだと呆れたものだ。
これで最大火力の全放出ではないと言うのだから、もし全放出を使ったらどんな威力になってしまうのだろうかと、少し怖い。
とりあえず右足が再生しきったので、制御できないブーツモードは解除して手数が欲しいので片手剣二刀流になる。
非常に今更だが、これで基本何でも使えてしまうのでせっかく手に入れたユニークの白黒の夫婦剣の出番が本格的になくなりそうだ。夜空の星剣の固有戦技がヨミとの相性がいいので、全く使わなくなるというわけではないが、そのバフを得るためだけに使うのもなんだか可哀そうだ。
このギルド対抗戦が終わったら、グランドウェポンはそれこそレイドボスやグランドクエスト関連の時に使って、それ以外では斬赫爪や白黒夫婦剣を使っていくことにする。
右足の調子を軽く確かめてから、蹴り飛ばしたリオンで開けた穴を通らずに彼の方に向かって走っていく。
今リオンは一時的に動けない状態なのか、シェリアの操作しているであろうドローンが飛んできた。それも十機ほど。
「なんでその数を一人で操作できてんですかねえ!?」
全ての小型の機関銃が搭載されており、四方八方から合計で秒間百発以上の弾丸が襲い掛かってくる。
一つ一つのドローンがかなり小さく、よく見ると何度か見かけていたあの大型ドローンの一部のようにも見えるので、あの大型ドローン自体が複数の小型ドローンが集まってできていたものなのだろう。
魔術や魔法、そしてリアルの現代技術とそれ以上のオーバーテクノロジーが混在しているこの世界。色んなロマンが詰め込まれすぎててなんて楽しいのだろうかと、降り注ぐ銀の弾丸の雨を死ぬ気で回避しながら思った。
「だああああああああああ! もう無理『シャドウダイブ』!」
持ち前の優れた動体視力に予測能力と反射神経、後は気合と根性と直感でギリギリ回避し続けていたが、だんだんドローンの包囲網が狭まってきたので限界を感じ、影に逃げる。
「マジでシェリアさんを見つけないと洒落にならん。ドローン使ってるから、高いところにいるとは限らないし、準決勝からはマップの安置収縮とかないから、このクソ広いマップからあの人一人を見つけるのは難しすぎる」
すぐに影の中から飛び出して、リオンがいるであろう方向に向かって全力疾走しながら、ぶつぶつと呟く。その間も後ろからドローンたちが追いかけてきており、連続して銃声を響かせている。
「私が、来たああああああああああああああ!」
いい加減このドローンがうざったいからどうにかしようと肩越しに振り返ると、ノエルがどこかからすっ飛んできてドローンの一体を思い切りぶん殴り、殴り飛ばされたドローンが別のドローンに当たって壊れた。
「ヨミちゃん! ここは私に任せてリオンさんを倒して!」
「それ死亡フラグ!?」
「大丈夫! ここで全部倒してから追い付くから!」
「だから死亡フラグだってば!?」
「『ウェポンアウェイク』───『
「あ、大丈夫そう」
自分で強化魔術を使ったらMPが少ないので一回だけ、強化魔術を使っていなくてもMPが少ないから二回しか使えない、彼女の専用装備シュラークゼーゲンの固有戦技が発動される。
バリバリとメイスに雷が発生して、それがメイスそのものの形になって拡大。飛んでいるドローンたちを操作しているシェリアも、ノエルのこの固有戦技は完全に初見で予想外だったのか、操作が少し乱れた。
そこに超特大メイスとかしたシュラークゼーゲンが振るわれて、次々と破壊されて行く。
一つだけ辛うじて難を逃れ、ノエルの固有戦技も終了したので急いでどこかに逃げていくが、「待てー!」と言いながら追いかけていった。
大丈夫だろうと思っていたが本当に大丈夫だったので、後は彼女が変なミスをしないことを祈って、意識が逸れているところを急襲してきたリオンの攻撃を回避する。
「まさかあんな手札があるとはね。あそこまで拡大された攻撃を初見で対処するのは難しいよ。しかもかなり速かったし」
「ノエルの筋力はボク以上だからね。ボクみたいな動きはできないから普段はセーブしてるし、走っていくにしてもほぼ直線だけど」
「君でさえめちゃくちゃ速いのに、直線に限れば君より速いって恐怖でしかないんだけど」
「それが脳筋女騎士ちゃんだよ」
油断なく構えて、全放出を使ってしまった後なので三割だけ溜まっていたエネルギーを使って自分を強化する。
「俺のHPはあと少し。君は吸血鬼で、純銀製の弾丸と聖魔術をエンチャントした弾丸が弱点で、クリティカルすればストックごと削ることができる。お互いに一撃入れたらおしまい。この状況、ワクワクしない?」
「……あぁ、とってもするね。だから、全力でぶちのめしてやる」
ニィ、と三日月のような笑みを浮かべる。
リオンに残されているのは右腕一本だけ。片手であの大型リボルバーを軽々と扱えているのは賞賛ものだが、片腕だけになってしまえばバランスが狂ってしまう。
その弾丸を回避して、影に潜って一気に詰めればその後は無傷で倒せる。しかし、そんなやり方で勝ってもそこまで嬉しくはないだろう。
だから真っすぐ、回避せずに連射してくるであろう弾丸を全部見切って斬って、それで倒す。
後ろに跳躍して、百メートルほど距離を取る。リオンもヨミがしようとしていることを察したようで、追いかけてこないで右手一本でぴたりと狙いを定めてくる。
風が吹いて、ヨミの長い髪を揺らす。亡霊との戦いが始まった時と同じ。
ぴたりと止むと同時に、全力で踏み出して一歩目から最高速度に到達する。
ヨミが踏み出した瞬間に引き金が引かれ、銃声とマズルフラッシュを置き去りにして銃弾が銃口から放たれる。
超低姿勢でのダッシュではないが、この勝負に乗ってくれたのでどこを狙ったのかは分かる。
右の剣を振り上げて心臓ではなく顔の前に刃を置き、銃弾を斬る。
すかさず銃弾が放たれ、右の剣を引きながら左の剣を振るって斜めに銃弾を斬る。
銃声が一つなるたびに、その銃声が三つめ四つめと増えていくたびに、金属どうした衝突するような音の間隔が短くなる。
五発目の弾丸をギリギリで反応して斬り、残りの距離は五メートル。あと一歩強く踏み込めばヨミの勝ちだ。
「『ウェポンアウェイク』───『
ここにきて、リオンが固有戦技を開放した。何故このタイミングでと疑問に思うよりも早く、想定していたよりも速く銃弾が放たれた。
残り五メートルだと言うのを加味しても、あまりにも弾速が速すぎる。時折リオンが固有戦技を使って加速しているのは分かっていたので、それを近接戦で使われることを警戒していたのだが、まさか弾丸そのものにも加速が適応されるとは思いもしなかった。
あまりの速さに反射的に回避行動をとってしまい、ヨミは苦虫を噛み潰したように顔をしかめ、リオンはにっと笑みを浮かべた。
回避行動からそのまま攻撃動作に移り、左の片手剣で胸を突いてHPを削り切る。
ほぼ意識していなかったが心臓を破壊したようで、『DEAD END』ではなく『CRITICAL』の表示がされてHPバーが消失した。
「あとは、うちの女狐マスターにでも任せるかな」
それだけ言って、リオンはポリゴンとなって消えた。
強いプレイヤーと戦えて、それに勝てて非常に嬉しいのだが、あまり晴れやかな気分ではなかった。
「試合に勝って勝負に負けたって気分だ」
はぁ、と小さくため息を吐いてから片手剣から変形させてブーツにして、残り二割のエネルギーを使って脚力を強化して、マップに表示されている味方方角を確認してから、強く地面を蹴って衝撃波の後押しを得て超加速して、ただの跳躍で空に向かってカッ飛んでいく。
===
作者が勝手にやってる『勝手にQ&Aコーナー』
Q.リオンの固有戦技は右手のリボルバーのものなの?
A.『ゲヴァルト』『シュティーレン』がリオンのリボルバーの名前で、固有戦技はどっちにも付いてる。ユニーク武器で、この二丁は名前が違うだけで全く同じなので、右手のリボルバーか左手のリボルバーどっちか一つを持っていれば固有戦技が使える。自分が触れているものや関わっているもの(弾丸とか魔術)ものすべてが対象
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