ギルド対抗戦 準決勝 5

 ひとまずリオンとトーマスを一時行動不能にしたと仮定して、生きていてまた奇襲を仕掛けてくると言う可能性を考慮しながら、ヨミはノエルの下に急ぐ。


「ヨミ! ちょっと飛ばしすぎじゃないか!?」

「ノエルのHPが結構削られてるからね! 急がないと!」

「相変わらず姉さん優先なんだな」


 何かボソッと呟くのが聞こえたが、びゅうびゅうという風を切る音で上手く聞き取れなかった。

 少し走っているとジンがノエルとは別の場所にいるのでシエルと分かれ、一人になる。このタイミングで狙われるかもしれないと構えたが特に何もなく、警戒を少しだけ緩める。


 更に走ること十数秒。離れた場所からはドゥルルルルル! という独特の銃声が聞こえて、そっちは大丈夫なのかとジンとヘカテーのHPバーを見るが、ジンがしっかりとタンクとして役割をこなしているようで、少ないHPを少しずつ削りながらもヘカテーを守っている。

 もうじきシエルもそこに到着するだろうし、自分はのえるのところに急ごうと加速する。


「やああああああああああ!! 私はヨミちゃんみたく弾丸避けできないのよおおおおおおおおおおおお!!」

「むしろ弾丸避けるおたくのマスターちゃんがおかしいと思うんだけどなあ!?」


 ノエルの大火力を知っているからか、徹底的に両手メイスの間合いに入らずに中距離からハンドガンを連射しているアイザック。

 ヨミのように避けたり弾く技能がないので、ノエルにある手段は左手に持っている琥珀の王楯だけだ。もちろんその盾もアンボルト素材で、防御性能が恐ろしく高い。


「ノエル、スイッチ!」

「ヨミちゃあああああああああああああん!!!」


 わざわざパーティーチャットでアイザックに悟られないようにしていたのにと苦笑しつつ、足元に血のハンマーを作ってそれで自分を打ち出して、ノエルと入れ替わると言うよりノエルを追い越しでアイザックに体当たりし、無理やりスイッチする。その間にノエルは回復アイテムを使ってHPを全快まで持っていく。

 電撃系の魔術を使われたので、反射的にしがみついていた腕を離してしまって、地面を転がりながら離れてしまう。


「嘘だろ!? リオンがやられたのか!?」

「うちのブレーンがやってくれたからね!」

「さっきのビル倒壊はそういうことかよ!? やっぱシエルくん先に潰しておくべきだったなあ!」


 アイザックはリオンほど近接に優れているわけではないようで、起き上がってすぐに詰めてくるのではなく後ろに下がりながら引き金を引いてくる。

 彼との距離は十メートル程度なので視線と銃口からの予測は容易で、引き金が引かれるタイミングも動体視力と予測能力で補って、引き切られる瞬間に回避し狙ってきた急所への銃弾を先に振るった両手斧で両断する。


 しかし両手斧だと重くどうしても振りが遅くなってしまうので、刀形態に変形させて軽量化して連射に対応する。

 片手で扱える武器の場合、エネルギー消費で得られる強化は短時間ではなく持続的になるので、リオンやアイザックのような連撃タイプのアタッカーを相手にするなら、刀や片手剣、ナイフのような比較的軽量武器の方が相性がいい。


「そこの女騎士ちゃんが君は弾丸斬ったり避けられるって言ってたけど、マジの話だとは思わないじゃん!?」

「弾丸避けられるのは初めてかな、お兄さん?」

「まさか! うちのサブマスターなんか目視してから避けるような変態だぞ!」


 徹底的に中距離を保ちながら、リオンほどではないが正確な射撃をするアイザック。

 こうして距離を取られ続けるのは嫌なので、自分の血を消費して周りにビー玉程度の大きさに圧縮した血球をいくつか作り、超低姿勢で地面を這うように高速移動する。


 まともに狙えるのはヨミの頭か脚のみ。アイザックも一目ですぐに狙いを限定させているのだと気付いて苦い顔をして、覚悟を決めたように前に踏み込んでくる。

 リオンのように銃そのものを鈍器として殴って来るのではなく、剣と銃が一体化したガンブレードで近距離に対応しているようだ。

 間合いを詰めたヨミが筋力の高さに物を言わせて、一撃一撃を回避せざるを得ないか防御しても姿勢を崩させる威力で繰り出す。


 回避してもそれは回避先を誘導させたため速攻で二の太刀が襲い掛かり、防御したら姿勢を崩され剣戟の檻が形成されて行く。

 ガンナーだからと侮っているわけではないが、普段からゴリゴリの前衛として前に出ているアタッカー相手に、中距離に逃げて自分の距離で戦おうとするガンナーが敵うはずがない。

 ましてや、ここにいるのはヨミだけではない。


「『ルインストライク』!」

「ほぐぉ!?」


 ヨミが猛攻を仕掛けている間に意識からそれていたノエルが、路地裏から飛び出しながら両手メイス戦技を叩き込む。

 単発重攻撃に部類されるその一撃を胴体にクリーンヒットされたアイザックは、勢いよく吹っ飛ばされて廃墟の壁に激突するどころかぶち抜いて行ってしまう。

 今のクリーンヒットで倒されてくれていれば嬉しいのだが、吹っ飛んで行った彼の一瞬だけ見えたHPバーは一割もない程度を残していた。


 そのまま姿をくらまされて回復されたら面倒だと急いで廃墟の中に飛び込み、ぐったりと壁にもたれかかっているアイザックを見つけて飛び掛かろうとして、首筋に何かが引っかかるを感じて足を止める。


「やってることがすごくアサシンらしいね」

「これにも一瞬で気付くってマジ? 反応速度リオン以上じゃん」


 首筋に引っかかったのは、目をよく凝らさないと見えないほど細い糸、否、鋼糸だ。

 アニメや漫画などで暗殺者が好んで使っている印象のある鋼糸。まさかゲームとはいえこの目で見られる日が来るなんて思いもしなかった。

 しかも、これは鋼糸というよりも、対ヨミ特効の銀が使われているので、銀糸といったところだろう。もしこれで首を落とされていたら、一つだけ持つことが許されているストックごとキルされていた。


「できればそのまま踏み込んで、自分の突進の勢いで首を落としてほしかったな。でも、ただ設置するだけがこの武器の使い方じゃないんだぜ!」


 右腕を顔の高さまで上げてぐっと握り込むと、あの一瞬でいつ仕込んだのかヨミを囲うように設置されていたらしい糸が生物のように襲い掛かってくる。

 あっという間に回避する隙間がなくなってしまい、堪らず影に潜って抜け出してアイザックの正面に落ちている影から飛び出しながら刀を振りかざす。


「俺はここで負けるけどよ、君にとっての一番のチャンスは、俺にとっての最大の反撃チャンスなんだぜ?」


 刀を振り下ろし、深々と胴体を袈裟懸けに斬る。残っていた僅かなHPが消失して『DEAD END』の表示がされる。


「あうっ!?」


 同時に軸足にしていた右足が切断され、焼いて突き刺すような痛みが走って表情を歪めて床に倒れる。

 最後の最後にまた糸を仕込んでいたのかと舌打ちし、HPを確認すると四割も削られていた。銀で作られた糸だからってこのダメージはおかしいと思ったが、HPバーの上に表示されているバフデバフ欄に一つ、青い矢印が表示されているのが見えて、なるほどと納得する。


「銀製糸に聖水でも仕込んでたのかよあのガンナー。あるいは、聖書を媒体とした聖術でバフでもかけてたのか」


 どちらでもいいが、聖水も聖術もどちらも魔族系には強烈なダメージ、あるいはデバフをデフォルトで与えてくるものだ。

 とりあえず戦って分かったが、アイザック自身戦闘能力はそこまで高くはないが、状況を作り出したり相手の意表をついて最後に自分のチームが有利になるように持っていくのは上手いように感じた。

 あと、彼は情報収集や暗殺が得意なアサシンタイプだろう。最初の奇襲も、ヘカテーが素早く反応したので失敗していたが、もしあそこでヘカテーの反応が少しでも遅れていたらノエルを落とされていただろう。


「ヨミちゃん、大丈夫!?」

「何とか平気だよ」

「いやあああああああああああああああ!? ヨミちゃんの脚がああああああああああああああ!?」

「だ、大丈夫だってば。一分くらいすれば元通りになるから」


 廃墟の中にやってきたノエルがヨミの斬り落とされた右脚を見るなり、顔を真っ青にして飛びついてきて、左手でインベントリを操作しだす。

 それは貴重なノエルの回復薬だからとやんわり断り、自分のインベントリ内にある血液パックを一つ取り出してちゅーっと吸って飲む。やはり、リアルでノエルの血の味を知ってしまっているので、なんか物足りなさを感じてしまう。

 かといって、今日終わった後にまた血を吸わせてほしいと言うわけにも行かない。でもまたあの極上の蜜のような甘さの血を味わいたい。


 なんてことを考えていると、突然ノエルの体が弾けるようにヨミに向かって倒れ込んで来た。

 一体どうしたのだ、と疑問に思うよりも早く、ノエルが倒れ込んでくるのとほぼ同時に腹部に感じた衝撃と痛みで理解する。


「やっぱ、生きてたんだね……トーマスさん……!」


 シエルも倒し切れてはいないだろうと言っていたので頭の隅に置いていたのだが、こんな射線なんか全く通っていない場所を狙撃してくるなんて、トーマス以外に考えられない。

 幸い二人ともクリティカルは外れていたが、かなり威力の高い銃魔術を併用したのかノエルのHPがレッドゾーンまで減り、また純銀製の弾丸か聖属性付きの弾丸だったのか、急速回復してほぼ満タンだったヨミのHPも3まで削られた。

 追撃を食らうのはまずいと背中に浮遊している追加接続パーツを使って落とされた右足を一時的に補完し、壁を破壊して外に飛び出して、とにかくまずは身を潜められる場所をと視線を廻らせると、上からほんの微かにかちりと音が聞こえた。

 顔を上げると、そこには左腕を失ってしまっているがそれ以外が健在なリオンがおり、リボルバーをこちらに向けて構えていた。



===

作者が勝手にやってる『勝手にQ&Aコーナー』


Q.シェリアの使ってるドローンって何?


A.ユニ装備ではなく亡霊の弾丸の生産職もできるメンバーが作ったやつ。名前は『エアモルデン』。固有戦技はなし。ヨミちゃんは複数の小型が集まってできたと思ってるけど、実際はでっかい親機みたいなドローンにちっこい子機みたいなドローンがくっついている。状況を把握するためのカメラと援護射撃用の小型機関銃が搭載されている。攻撃力はそこまで高くない。弾丸魔術は使えないけど、シェリア本人の魔術を遠隔でドローン自体にかけることができるので、ドローンを強化すれば運動エネルギー弾みたいな感じで物理攻撃できる。

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