ギルド対抗戦 準決勝 4

「『ブロークンムーン』!」


 アイザックに突進していったノエルが、発動させた戦技で殴りかかろうとするがバックステップで回避され、強烈な一撃が地面に叩きこまれて、いつの間に自己バフをかけたようで形容しがたい音を響かせて地面を砕いていた。

 そこから粉塵が舞い上がりノエルたちの姿がリオンから見えなくなったと判断して、彼をここから引き離そうとシエルのものとは比べ物にならない鋭さのガンカタの攻撃を掻い潜り、腰に抱き着く。


「うえ!?」

「油断禁物!」


 抱き着きながら『クルーエルチェーン』で影の鎖を作って腰に巻き付けて、ヨミのことを引き剥がそうとしていたのでぱっと離れてから横蹴りを繰り出す。

 交差させた腕で蹴りを防いだリオンは、強化魔術ガン積み状態+ブリッツグライフェンの強化を受けたヨミの蹴りで吹っ飛ばされる。


 勢いよく影の鎖が伸びていくがすぐに伸びなくさせて、ぴんと張った状態のまま鎖を両手でしっかりと掴んで、背負い投げをするように思い切り蹴り飛ばしたほうとは反対の方に向かって投げ飛ばす。

 すぐに鎖を解除した後に地面を蹴って投げ飛ばしたリオンを追いかけ、時には鎖で建物に巻き付けて立体機動する。


「うひゃ!?」


 飛ばされているリオンの勢いがなくなったので、跳躍して攻撃を仕掛けようとしたが、死角から襲撃したにもかかわらず見えているかのようにノールックで左のリボルバーを発砲してきた。

 咄嗟に血の斧を作りそれを蹴って上に跳んだので直撃はしなかったが、額にピリッとした嫌な感じがあったので直感に従って左手の剣を顔の前に置くと、ぱっと無人ビルのような建物の一室からマズルフラッシュが見えて、真っすぐ弾丸が飛翔してきた。

 その軌道を見るにヘッドショットを狙っているのは確かなのだが、つい先ほどあり得ない動きをする弾丸を見たので、ヘッドショットがブラフだと気付いて下に向かって鎖を伸ばし、廃墟の煙突に巻き付けて巻き取りながら急降下する。


「嘘でしょ!?」


 しかし弾丸は、ヨミがその行動をとることを知っていたかのように追いかけて来た。

 また軌道を変えようにももう間に合わないが、魔道弾は一度しか軌道変更できないのでこれ以上の変態軌道はないと信じて、跳んでくる弾丸を切ろうとするがしくじったら即死しそうなので大人しく血の盾を作って防ぐ。


 ガァン! という音を立てて銃弾を防いだ後、すさまじい速度で落下しているので叩き付けられたら落下ダメージで即死する。なので影に潜ってダメージを消して、トーマスの射線が切れつつ見晴らしのいいところに姿を見せる。


「ビンゴ!」

「っ、厄介だなあ!」


 影から追い出されるように飛び出したので明日屋根についていない。それを狙っていたかのようにリオンが屋根を下から突き破って飛び出してきて、右のリボルバーの銃口をぴたりと眉間に定めて来た。

 引き金が引かれる瞬間をしっかりと見極めて、銃声が鳴るほんの数瞬前に顔を逸らすことで回避して、ぐっと弓を引くように構えた左の剣を胸に向かって突き出す。


 リオンはそれを下から振り上げた右膝で剣の腹を蹴ることで逸らし、そこから体の捻りを加えながら回し蹴りを側頭部に向かって繰り出してくる。

 ヨミはその蹴りを体を回転させながら回避して、その勢いを乗せた左の剣で首を狙う。

 ガギッ、という音を立ててリボルバーの銃口で受け止めると言う曲芸を披露され、なんだそれはと頬を引きつらせていると引き金が引かれ、剣が弾かれる。


 弾かれた勢いを無理に殺さずにあえて地面に倒れ込み、影の中に潜って一旦逃げる。

 中距離はリオンの距離。遠距離はトーマスの距離。そして、ヨミがどのような行動をとるのかを予測して彼らに伝えるのが、指揮官シェリアの役割。


「どうにかしてシェリアさんを見つけないとな」

「残念ながらそれはさせないよ」

「なんでボクが出る場所まで予測されてんのお!?」


 シエルの言っていた、一分先まで完璧に予測してくると言うのは冗談でもなくマジだったらしい。

 一体どんな先読み能力だよと、もはや未来予知の領域に飛び込んでいるシェリアの能力に戦慄しつつ、ガンカタで猛攻を仕掛けてくるリオンを捌く。


 持っている武器がリボルバー二丁で取り回しが楽で、鈍器として使う場合ヨミの片手剣二本ほど長くはないので攻撃の出が非常に早く、そのスタイルでプロをやっているだけあって一撃一撃が鋭く重い。

 今のところ捌き切れているし、何なら合間に反撃も淹れているが下手に受け止めると腕が痺れるし、剣が弾き上げられる。捌き切れていても少しでも攻撃と防御に隙間ができると、あり得ない加速をしながらそこに無理やり攻撃をねじ込んでくる。

 間違いなくどっちかのリボルバーの固有戦技か、あるいはリオン自身の固有スキルなのは間違いない。予選初日の時にリタと戦っていなかったら、多分この加速に困惑していくらかダメージを入れられていたかもしれない。


 気合と根性と直感と先読みで、ガンカタなんて実際には存在しない格闘術なので確実に我流であるはずなのに、我流特有の雑さというべきものが感じられない流麗な攻撃を回避し受け流しいなし続ける。


「ちぃっ!」


 しかもリオンだけに集中してはいけない。射線が切れていようとも、ドローンを使ってヨミの位置を把握しているシェリアがいる以上、どこに隠れていようとも弾丸を曲げて狙撃してくるトーマスがいる。

 シエルが向かってくれているのだが、撃つたびに建物内とはいえ場所を変えているので、そうそう見つけられないだろう。

 運よく残り一つのギルドが、どっかで漁夫って来て亡霊たちを仕留めてくれないかなという淡い期待をしつつ、ぴたりと眼前で止まって狙いを定められた銃口をかち上げて、首を狙って右の剣を振るう。


 不幸中の幸いか、ブリッツグライフェンのエネルギーチャージの条件を向こうは知らず、リオンが結構本気で攻撃を仕掛けて来てくれているので、機能の一つであるエネルギーを消費しての強化の消費速度以上の速さでエネルギー多蓄積されて行っていることだ。

 もし少しでも隙があればそこを狙って行動不能にさせてから、確実に仕留めるために全放出フルバーストで消し飛ばす。

 そのためにも、厄介すぎるスナイパーをシエルにどうにかしてもらわないといけない。


「……ん?」


 左からの殴打を受け流しつつ、刀身の上に銃を滑らせながら引き金を引いてきたので顔を逸らして回避し、半端じゃない攻撃頻度を繰り出す腕を一本へし折ってやろうとして後ろに下がられたので追いかけると、ふと今トーマスがどこにいるのかを思い出す。

 彼は場所こそ割れているが、潜む場所がたくさんあるビルのような建物の中に潜んでいる。そしてそこに、シエルが向かっている。


「あー」


 知ってか知らずか、高層建物に潜んでいるトーマスに、初めての大会でビル倒壊でまとめて複数の部隊を壊滅させたシエルが向かっている。

 これは思ったよりもサクッとスナイパーを排除できるのではと期待しそうになるが、FSPのプロチームの間ではシエルのあの鮮烈すぎるデビュー戦は知られているので、対策はされているかもしれないが。


「考え事とは余裕だね!」

「うわっと!? 別に余裕ってわけじゃないよ! というか、女の子相手にはやりづらいって言ってたくせに、随分熱烈なアプローチしてくるじゃんお兄さん。そんなに熱心にダンスに誘われたら、ボクもそれに応えてあげないとね」

「……それはそれは、光栄極まりないね。君のような美しいお嬢さんとダンスを踊れるなんてね」


 少しきざったらし過ぎたかと思いつつも顎を狙って蹴りを放ち、それをとんっと受け流されながら至近距離で銃口を向けられ、引き金が引かれる前に体を回転させながら頭を下げ、後ろ回し蹴りをリオンの右側頭部に向かって繰り出す。


「うわっ!?」

「にゃ!?」


 咄嗟にそれを外受けで防がれたが、ふわりと大きく翻ったスカートの中身がリオンの見られてしまい、お互いに顔を真っ赤にして弾けるように距離を取る。

 リオンは非常に申し訳なさそうに顔を逸らし、ヨミはぷるぷると震えながら右手でスカートの裾を抑える。


「……ごめん、だけど、そんな短いスカートであんな動きをする君が悪い」

「そ……! れは、そう、だけどっ……!」


 あれだけがっつりを彼の視界いっぱいに見せてしまえば、見えていないと嘘を吐かれても無理やり納得することなんてできない。

 これだからスカートは嫌なんだと、いい加減パンチラ対策もしなくてはいけない。この丈のスカートでも隠れるショートパンツはないだろうか。いっそのことスパッツもありかもしれない。


「……バッ!? な、なに言ってんだシェリア!? あの子どう考えても中学生かそこらだろ!?」


 パーティーチャットでシェリアに何か言われたのか、ものすごく慌てふためいているリオン。

 絶賛戦闘中なのでそれを見逃すはずもなく、瓦を踏み割りながら接近してこっちから攻撃を仕掛ける。

 こういう時、あとで羞恥心で死ぬのを覚悟してちらちらとあえて激しくスカートを翻して動揺を誘うこともできるのだが、今この戦いはきっとバトレイドの観戦エリアやアワーチューブのFDO公式チャンネルで生配信されているので、もしそれで撮影されている角度的にもろに見えていたりでもしたら、当分FDOにログインできなくなってしまう。

 なのでそういう色仕掛け的なことは完全に除外する。羞恥心で死ぬ以外に、やったことがノエルにでも知られたら後で何をされるか分からないと言うもが一番大きい。


「ちょ、この……!」

「ず、随分と動揺してるね! もしかして、ボクのことをそういう風に見てたとか!?」

「違うわ! 俺はシェリア一筋だ!」

「あら、お熱いことで」


 予想外なリオンの叫びに目をぱちくりとさせる。どうやらリオンと亡霊の弾丸のブレーンであるシェリアは、お付き合いしているらしい。プロゲーマーカップルとはなんとも、羨ましい関係だ。


『リオンさんとシェリアさん、前から仲が良すぎるって言われてたけど恋人だったんだな』

「なんでこっちの会話が聞こえてんのさ」

『今ちょっと近くにいるんだ。いやー、トーマスさん遠距離一辺倒ってわけじゃなくて近距離も普通に行けるの強いな。さすがプロ』

「お前もプロでしょーが」


 流石に自分たちのブレーンは近中遠全部できるオールマイティなのは色々反則な気がするが、そのおかげで助けられているので何も言うまい。


『それより、お前そこにいると巻き込まれんぞ。あと合わせろ』

「は? 巻き込まれる? 何、に……」


 ものすごく嫌な予感がした。

 力で無理やりリオンを上から抑え込むようにしながら視線を左斜め前方にあるビルのような建物に向けると、突然連続した爆発音が響いた。

 リオンも無視できなかったようでそちらに目を向けると、あの建物の中にある柱を計算して破壊したのか、ヨミたちの方に向かって倒れてくる。


「マジかあいつ!?」

「プロデビューの大会と同じことやろうとしてんのかよシエルくん!?」

「あ、逃がさないから! 『シャドウバインド』、『シャドウソーン』、『ブラックアウト』、『ブラックムーン』!」

「おごっ!?」


 慌てて二人そろってそこから逃げようとするが、リオンだけはその場に残してやると影魔術と暗影魔術レイヴンアークを使ってその場に縛り付ける。

 『ブラックアウト』は指定してプレイヤーの目を影で潰して光を遮り、視界を真っ黒に塗りつぶす視界阻害系の魔術だ。持続時間は十秒程度で割と初期に魔術師が覚えられる解除魔術で簡単に解除されてしまうが、激しい戦いの中でいきなり視界を潰されるとなにもできなくなるので便利であろうものだ。

 『ブラックムーン』は消費するMPに応じて、真っ黒な月を作り上げて指定した範囲内にいる敵対プレイヤーの重力を重くする攻撃魔術だ。

 いわゆる重力操作系の魔術に当てはまり、ノエルに試してみたら地面を思い切り蹴ればどうにか抜け出せるそうだ。

 ダメージは重力を重くされて地面にたたきつけられた時と、叩きつけられた後の地面に押し付けられる圧力によって生じるので、派手な魔術が多い中ではかなり地味だ。


 そんな魔術を二つの拘束魔術を受け、うち一つはスリップダメージまで発生するので、じりじりとリオンのHPが削れて行くのが見える。

 黒い月はヨミが一定距離離れるか一定時間経つと消えるので、そこまで多くのMPを使ったわけではないのでダメージが少なくすぐに抜け出されるだろう。

 しかしそれは何もなければ。大型のドローンが急いでリオンの側に向かっていくのが見えたので、両手に持つ片手剣の柄頭を合わせて変形させ、コンパウンドボウのような弓に変えてエネルギーを消費して矢を形成して番え、ドローンに向かって射出する。

 攻撃してくることは予想済みだったようですいっと回避されるが、市街地の中をめちゃくちゃに跳弾しながら銃弾が一発飛んできたのが見えたので、合わせろってそういうことかよと内心でちょっと愚痴をこぼしつつ弾丸に向かって走り、自分に飛んできたところで弓矢形態から背中にあるパーツを寄せて斧形態にして、それで弾丸を殴る。


 ちゃんと角度を付けて殴ったので真っすぐシェリアのドローンに飛んでいくがさっと回避されるが、すぐにシエルが魔道弾を使って回避されると同時にドローンの下にあるでっぱり部分を破壊する。

 すると姿勢制御が雑になりふらふらし始めたので、グリップにあるレバーを飛び出させて引いて残っているエネルギーを使ってゲージを溜める。


「『ウェポンアウェイク・全放出フルバースト』───『雷霆ケラウノス斧撃ラブリュス』!」


 フルパワーではないがそれでも残りのエネルギー全放出の一撃だ。雷撃が地面と近くにある廃墟を破壊しながらリオンとふらふらしているドローンに向かっていく。


「こ、なくそぉ!! シェリア簡易展開インスタント使え! 略式展開フラッシュキャストぉ!」


 視界阻害の『ブラックアウト』は解除されたようで、向かっていく雷撃を視認してすぐに指示を出して、自身の正面に対魔術の結界を張る。

 すぐに結界は破壊したが、残念ながら威力を大きく削がれてしまいHPはそこまで削れなかった。が、別にそれで倒せなくてもいい。


「ばいばいリオンさん」

「ちょ、ま───」


 ヨミも余裕で巻き込まれる場所にいたが、にっこりと笑顔を浮かべてから影に潜って退避する。

 その時リオンの心からの「その魔術ズルすぎだろおおおおおおおおおおおおおおお!!!」という叫びが聞こえた。


「うん、これマジでその内ナーフ来ると思う」

「リキャスト発生すら生ぬるいくらい強いもんなそれ。影の中にいてもダメージ食らうとかになりそうだな」

「それくらいのナーフされても仕方ないよ。で、首尾は?」

「トーマスさんは仕留めきれたかどうかは分からん。シェリアさんいるし、多分逃げられてると思う。リオンさんは……倒せててほしいな。あの加速、直前にお前の拘束解除されてたら退避間に合ってるぞ」

「それはそれで、まだやりがいがあるからよし。とりあえず、一旦ノエルたちのところに行こう」


 そう言ってヨミは姿を見せた廃墟の屋根の上から飛び降りて、マップに表示されているノエルの方に向かって走っていく。

 未だに誰一人として欠けていないが、HPバーを見るとノエルとジンが結構HPを削られているので、ヨミがノエル、シエルがジンのところに向かうことにした。



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