ギルド対抗戦 準決勝 3

「……静かだな」

「だねー。なんか暇」

「ノエル、油断すると頭弾けるよ」

「怖い言い方しないで!?」

「でもヨミちゃんの言う通りだよ。まだ亡霊の弾丸は残ってるだろうし、変に油断するとスナイパーに頭吹っ飛ばされるよ」

「さっき戦ってたギルドの人も、負けそうになったから逃げようとしたらヘッドショットで倒されてましたもんね。どこから狙ってたんでしょう」

「あの場所からだと北西にあるあの廃ビルみたいな建物かな。もういないだろうけど」


 ギルド対抗戦本戦準決勝が始まってから三十分が経過した現在。あちこちでギルドがつぶし合っているのか、残っているギルドは三つとなった。

 ヨミたちが最初のギルドを落とすまでに三つのギルドがなくなっていたので、これもきっと転送の初期位置がギルド同士がぶつかりやすいようになっているのだろう。


 あれからヨミたちは一つのギルドと鉢合わせたので戦って倒したのだが、その際マスターと思しき女性がこのまま戦っても勝てないと判断したのか撤退しようとしていたのだが、シエルがやるような変態機動を描いて飛んできた弾丸に頭を撃ち抜かれて即死した。

 驚いたのは、そのままその弾丸がヨミの方に向かってきたことだ。それも的確に心臓を撃ち抜く軌道で。

 咄嗟に、最初の戦闘時に披露するだけして出番がなかった片手剣形態のブリッツグライフェンを盾にすることで防げたが、長距離狙撃するだけでなくワンショットツーキルも狙ってくるとは思わなかった。


「そのトーマスって人を見つけ出して仕留めないと、最後の最後にひっくり返されそうだね。スナイパーの厄介さって言うのは、うちがよく分かってるから」

「シエルは優秀なスナイパーだもんねー」

「俺はどっちかっていうとブレーン寄りのアタッカーなんだけどな」

「アタッカー寄りのブレーンの間違いじゃない?」

「私もそう思います」

「なんだっていいだろ別に」


 そんなやり取りをしながら、廃墟の多いゴーストタウンのようなマップを進む。

 ヨミたちの転送されたマップは、ワンスディアをそのままゴーストタウンにしたような風景をしている。

 建物は朽ち果てて草木で浸食され、苔があちこちを覆っている。

 シエル曰く、このマップはこの世界で最初に竜神によって滅ぼされた国、パラディース王国の王都だと言う。

 なんでそんな情報を知っているんだと突っ込みたかったが、マップを開いたら普通に『パラディース王国・王都パラディア』と書かれていたので、まさかの公式から最終決戦の舞台になるであろう場所をネタバラシをしてきた。


「こうして見ると、パラディース王国ってワンスディアみたいなファンタジーっぽさを残しながら、現代っぽさもあるんだね。SFファンタジーって言うのかな」

「言われてみればそうだね。当時世界で一番栄えていたっていうし、設定では初代国王は天から知識を授かって、それを元に国を豊かにしたってあったし、そういうこの国にとって遥か先の未来の技術が使われてたって言われても不思議じゃない」

「車も拳銃もあるしな。魔力駆動だけど」

「機械とかもあるし、パラディース王国の技術が一部他の国にも伝わっているのかもね。そういうのってロマンあるよなー」

「分かる! ボクもそういう話大好き!」


 いつになってもロマンというのは男心を揺さぶる。

 巨大ロボットも変形武器、大型兵器、オーパーツ的な感じで技術が突き抜けている一つの国と、それを滅ぼした原因。

 女の子にはなかなか理解されない男のロマン。いつになっても好きな気持ちは変わらない。だからクロムに変形武器ブリッツグライフェンを作ってもらったのだ。


「私って、そのロマンとかをよく分からないんだよね。要するに、大きくてカッコいい機械とかそういうの?」

「大きいってだけでもロマンさ、姉さん。巨大ロボットってだけでもいいけど、それが合体したり変形したりするともう……最高なんだ」

「それにレールガンみたいなでっかくて一発限りの超強力な兵器とかが搭載されているのなんて、最高なんて言葉じゃ収まらないよ。レーザービットとかもあればなお良し」

「わ、私にはよくわからないのです。それじゃあ、ああいうドローンも当てはまります?」

「ドローンか。大きさにもよる」


 ぱっとヘカテーの指さす方を見ると、どういう原理で浮いているのかは分からないが、結構大型のドローンが浮遊してレンズをこちらに向けていた。

 その下には銃身が搭載されており、銃口がばっちりとこっちを向いている。

 そうそう、ああいう武器を搭載しているドローンとかも最高だよね、という感想は心の中にしまっておいて、速攻で背中辺りに浮遊させている刃の接続パーツを飛ばして攻撃する。


「ここにきて当たるの!?」

「せっかくならせめて、最後の最後に当たりたかったなあ!?」

「なになに!?」

「敵! 亡霊さんだよ!」


 ヨミが慌てているノエルにそういうと、斜め左前方にあるビルのような高層建物の中腹辺りがチカッと光り、ほぼ同時に振るった右手の片手剣ブリッツグライフェンの刃に何かが衝突して左右に分かれていった。


「シエル!」

「分かってる! トーマスさんは俺に任せて、お前はクルルさんかリオンさんのどっちかを頼んだぞ!」

「了解! 死ぬなよ!」

「誰に物言ってんだよマスター! 任せとけ!」


 それだけ言ってシエルは路地に飛び込んで狙撃からの射線を切りながら、スナイパーを排除しに向かう。

 残されたヨミたちは他の四人、特に近接ガンナーのリオンと広範囲殲滅力の塊のクルルを警戒する。

 一体どこから来るのだろうかと背中合わせになって周囲を警戒していると、何かが回転するような音が聞こえて、ぞわりと背筋が震える。


「ジン、左! 防御!」

「了解! 『センチネル』、『フォートレスウォーリア』、『シールドオヴアイアス』、『シールドエンハンス』!」


 ダメージカットのタンクスキルを切ってから遠距離防御特化の盾戦技、そしてそれを強化するタンクスキルを連続使用して、攻撃に備える。

 まるでそれを待っていたと言わんばかりに、ドゥルルルルルルルル!! という独特の銃声が鼓膜を震わせて、ジンの左側にあった廃屋を粉々にしながら大量の弾丸が雨のように襲って来た。


「……っ!? ノエルお姉ちゃん、危ない!」

「へ!? きゃあ!?」


 陽炎のように姿を見せたガンブレードを持った男性がノエルに襲い掛かるが、いち早く反応したヘカテーがタックルしてノエルを押し倒して守る。

 遅れて反応したヨミが体を回転させながら横蹴りを繰り出して十メートルほど蹴り飛ばすが、ガンナー相手に何距離放しているんだと自分の行動を猛省する。

 あのガンブレード持ちは危険だと速攻で排除しに行こうとするが、ヨミの背後の建物の中から一人壁をぶち破って飛び出してきて、大型のリボルバーで殴り掛かられる。


 咄嗟に体を仰け反らせてそれを回避し、ついでにみぞおちに蹴りを一発ぶっこんでやろうと振り上げるが、リタの時と同じように挙動そのものが加速してその場から離れていく。

 ただの加速系の魔術ではないのは明白なので、両手に持っている大型のリボルバーのどちらかの固有戦技か、あるいは両方だろうと当たりを付ける。


「ちょっと! 今の奇襲で一人は落とせるはずじゃなかったの!?」


 掃射が止み、完全に廃屋が粉々になって更地になった場所に、ヨミよりは背が高いがそれでも小柄なのに、軽々とデカくてごつい七砲身バルカンを担いだ明るい金髪の女性クルルが、甲高い声で声を荒げる。


「そのはずだったんだけど、思った以上に行動と対処が早かった。多分シエルくんの仕業だろうね」

「そんでそのシエルくんはトーマスの方に向かっていると。大丈夫かあいつ」


 ガンブレードを持っている男性プレイヤーのアイザックが、ヨミに蹴られた腕をさすりながら言い、リボルバー二丁持ちの高身長の男性リオンが、先ほど狙撃してきたビルのような建物に目を向けながら苦笑する。

 できるならこのブロック最後の戦いとして幕引きと行きたかったのだが、そう上手くはいかないらしい。


「う……女の子ばかりで正直やりづらいな。あの二刀流の子なんか特に綺麗な子じゃん」

「女の子相手だと本気は出せない?」

「まさか。しっかりとやるけど、終わった後で申し訳なさが出てきそう」

「安心してよ、お兄さん。そんな申し訳なさを感じさせないくらい、思い切り戦ってやるから」


 剣を握ったまま左手で左胸に触れてぐっと押し込み、『ブラッドエンハンス』を発動。そのまま『ブラッディアーマー』と『フィジカルエンハンス』を発動させて、更に二刀流状態のブリッツグライフェンの機能で、蓄積してあるエネルギーを体に流し込んで雷の力で更に筋力を強化する。


「……クルル、トーマス、アイザック、シェリア、四人とも手を出すな。あの銀髪の子は、俺が倒す」


 一瞬だけ呆けた顔をしてから満足そうに笑みを浮かべ、一歩前に踏み出すごとに次々とバフを重ね掛けしていくのが分かる。


「ちょっと! 勝手に決めないでよ!」

「今ここであの子を抑えられるのは俺だけだ。クルルは固定砲台だからな、ブレッヒェン掃射した瞬間影に潜って後ろからサクッと行かれるだろうな」

「そ、そうはならないわよ!」

「強がりはいいから。とにかく、この子は俺が抑える。だからみんなは、他のメンバーを倒してくれ」

「へえ、一騎打ちを御所望なんだね。ボクもそのほうが嬉しいけどさ」


 彼我の距離が五メートルほどになったところでリオンが足を止め、ピンと糸を張ったような緊張が走る。

 声を荒げていたクルルも、ヘカテーがじっと獲物を狙う獰猛な獣のような眼差しで見つめた辺りで表情を引き締めてトリガーに指をかけ、アイザックはじりじりとにじり寄っているノエルから少しずつ距離を取ろうとしている。


 ひゅう、と風が吹いて僅かに砂埃を舞い上げて、ヨミの長い髪を揺らす。

 ぴたりと、風が止む。ヨミが踏み出してリオンが弾けるように右腕を上げて、引き金を引き銃声を響かせる。

 それが合図となり、ヘカテーが真っすぐクルルに向かって飛び出していき、ノエルは自分に奇襲を仕掛けてきたアイザックにむかって全力ダッシュしていった。

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